2018 04/11
著者に聞く

『職場のハラスメント』/大和田敢太インタビュー

電通の女性新入社員の過労自殺や、新国立競技場の現場監督の過労自殺、スポーツ界でのパワハラ、セクハラ、学校での指導死など、日々痛ましい報道が続いています。これらさまざまな職場でのハラスメントを明確に分析・類型化、ハラスメントの起こりやすい組織の特徴を明らかにし、規制や対策を提言した『職場のハラスメント』の著者である大和田敢太さんにお話をうかがいました。

――まず、ハラスメントに関心をもったきっかけを教えてください。

大和田:私の専門はフランスの労働法です。日本の労働法はもともとドイツを参考につくられていました。労働運動なども集団主義的で、個人は少し抑圧されても、団体で交渉して権利を獲得していくというスタイルだったのです。1970年代に研究者の間で、より個人主義的、リベラルなフランスの労働法も参照すべきだという意識が広まりつつありました。その時期に、フランスの労働法の研究を始めたのです。

2002年にフランスで、現在の日本で議論されている「働き方改革」のような、労働全般に関わる立法がなされました。その中にモラル・ハラスメントの規制があったのです。それに着目して「精神的ハラスメント」として専門雑誌に紹介しました。まだ、モラル・ハラスメントという考え方がなかった頃のことです。

以来、ハラスメントについて、研究や発信をおこなっています。

――本書のポイントを教えてください。

大和田:「ハラスメント」をきちんと包括的に定義づけていることです。

いままで、パワハラ(パワー・ハラスメント。職務権限など優越的な地位を利用していやがらせすること)、セクハラ(セクシャル・ハラスメント。性的な言動によるいやがらせ行為)などと分類し、それぞれの専門家が対処していた問題群を再定義し、アプローチしました。

ハラスメントを規制する社会的機運が高まっているので、ぜひ個別的な問題にとどまらせないでほしいですね。

――本書を通して、伝えたかったことはなんですか。

大和田:トラブルを隠すような社会ではダメだ、ということです。職場におけるハラスメントは決して個人や当事者間の問題ではなく、組織全体、構造上の問題なのです。しかし、このような考え方はまだ浸透しているとはいえません。

ハラスメントの被害者が訴えをおこさないと社会が改善されませんが、被害者は自分の被害をどう説明したらいいかわからない状況にあります。本書では、何がハラスメントに該当し、それをどう訴えるかまでを事例も引きつつ詳述しました。ぜひ参考にしてもらえればと思っています。

訴えに関連して、#MeToo(ミートゥー/私も。2017年10月にハリウッドの映画プロデューサー、ハーヴィー・ワインスタイン氏によるセクハラ報道を受け、同様の被害に遭った人が被害を告発する際に用いたSNS上のタグ。世界的なセクハラ告発運動につながった)など、理不尽なことは訴えていいという呼びかけが生まれているのはいいことです。これを広げていかないといけません。本書もこういった社会的合意を形成していく一助になればと願っています。

――『職場のハラスメント』をどんな人に読んでほしいですか。

大和田:働いている人、とりわけハラスメントの被害を誰にも言えずに悩んでいる人に手にとってほしいです。自分だけの問題でない、訴えていい、ということを知って気を楽にしてもらえれば、と思います。

そして、すべての人とこの問題を共有したいとも思っています。特に人事・総務関係、管理職の方には、知っておくべき基礎知識を盛り込みました。役に立つ一冊だと自負しています。

大和田敢太(おおわだ・かんた)

1949年 福井県生まれ。京都大学法学部卒業、京都大学大学院法学研究科博士課程民刑事法専攻単位取得退学、パリ第一大学、リヨン第二大学、ボルドー第四大学で客員研究員、客員教授、滋賀大学教授を経て、滋賀大学名誉教授。職場のモラル・ハラスメントをなくす会」世話人。博士(法学)。 
著書に『フランス労働法の研究』(文理閣、1995年)、『労働者代表制度と団結権保障』(信山社、2011年)、『職場のいじめと法規制』(日本評論社、2014年)。訳書に『モラル・ハラスメント 職場におけるみえない暴力』(白水社、2017年)ほか