2018 01/29
私の好きな中公新書3冊

人生の一部である中公新書/finalvent(ファイナルベント)

河合隼雄『無意識の構造』
野崎昭弘『詭弁論理学』
岡田英弘『倭国 東アジア世界の中で』

いかにも宣伝を買って出るようで気恥ずかしいのだが、読書が生きがいとも言える自分にとって、昨今の中公新書の「名著、刷新!」と銘打つ改版ほど嬉しいことはない。その本が、自分の人生の一部であったことが「きちんと」確認できるからだ。

『無意識の構造』の改版が2017年5月に刊行されたことを知ったときは思わず声を上げた。感激である。その年、60歳になった私は、16歳の自分をまざまざと思い出した。1974年が明けた1月、NHKの教育テレビで河合隼雄の「無意識の構造」という市民大学講座が始まった。月曜日と水曜日の週二回、朝の6時半から7時。私は全24回を欠かさず見た。当時フロイトに興味を持っていた私は、ユング心理学にも関心を移していた。河合先生は、ただテレビ画面に講師がひとり向かうのでは味気ないということで、女子学生を数人スタジオに招き、サロンの会話のように話された。ユング心理学の基本講義でありながら、ところどころ先生の微妙なためらいとユーモア、そして人生の後期の課題というテーマが心に残った。3年後、講義が本書になる。待ちわびていた。一生読む本となった。

同じく改版が出た『詭弁論理学』にも高校時代の思い出が詰まっている。理系的志向でユーモアもある同級生と一緒に読んでいた。パズル的な思考が楽しかったのだ。後日譚がある。私はひょんなことで国際基督教大学に進学し、野崎昭弘先生の授業を受講する機会を得た。野崎先生は、本書から伺えるユーモアは当然、その深い学識と米語はもとより仏語もこなす語学力も備えていて驚嘆した。本書は人生というものの不思議なパズルの象徴にもなった。

『倭国』は改版が出ていない。ならないかもしれないという懸念もある。論争的な書籍なのだ。それでいて、本書は普通に東アジアの古代史の文脈で淡々と議論を進めていく。日本もまた他のユーラシア大陸の民族国家と同様、世界史の中で生まれた普通の国家だとわかる。本書を読んだのは20代後半。もっと学びたい、直接学びたいと思った社会人の私は、岡田先生が当時持っていた市民講座を受講した。学ぶことの楽しさをいつも中公新書は教えてくれた。

finalvent(ファイナルベント)

ブロガー。1958年生まれ。国際基督教大学卒業、同大学院教育専攻科必須課程取得退学。情報技術分野のテクニカルライターの仕事をする傍ら、2003年からブログ『極東ブログ』運営。finalvent名の著書として、難病経験や沖縄移住生活、四人の子育て、学習などについて触れた『考える生き方』(ダイヤモンド社)がある。