2018 01/09
私の好きな中公新書3冊

同時代史を捉える/斉藤淳

服部正也『ルワンダ中央銀行総裁日記』
飯尾潤『日本の統治構造 官僚内閣制から議院内閣制へ』
日本再建イニシアティブ『民主党政権 失敗の検証 日本政治は何を活かすか』

自分の知的遍歴の中で、数多くの中公新書を読み影響を受けたが、特に印象深い三冊を紹介したい。テーマは異なるかもしれないが、日本の同時代史を捉える書物という点で共通している。

『ルワンダ中央銀行総裁日記』は、昭和の日本について世相や時代認識を含め鮮明に思い出させてくれる本だ。その昭和の最後の数年、高校生だった頃、初めて本書を手にした。高度成長期のただ中に、独立から間もないルワンダへの赴任経験を元に書かれ、安定成長期にさしかかる頃に出版された。自分が知的に最も急速に成長していた時期に読んだ中公新書という意味でも思い出深い。現代では不適切な言葉遣いも含め、当時の時代認識と国際関係の中で、経済を成長させつつあった日本人が、国際社会にどのような心構えで貢献していくか、等身大の自分の言葉で語っているところに、本書の価値がある。

平成は、選挙制度改革を端緒に統治機構改革のあり方を見直した時代であった。経済成長が鈍化した中、民主主義のあり方を見直し、挑戦し、混乱を乗り越えて明るい出口を示しているように見えたのが『日本の統治構造』である。自民党長期政権の中で官僚機構と癒合した統治のあり方から、選挙での政権選択により政策を選び実施していく体制への移行をモデルとして提示している。民主党への政権交代は同書の出版から2年後に起こったが、よい意味で近未来のあるべき姿を描ききっているところに本書の特長がある。

残念なことに、そのあるべき姿は必ずしも望まれた形で実現はしなかった。自分自身、人生の一時期に政治に関わった人間の一人として、民主党政権がなぜ失敗したか、深刻な反省とともに『民主党政権 失敗の検証』をひもといた。当事者へのインタビューも含め、現在完了進行形の検証として一読を勧める。一方で短命政権に終わった最大の原因と考えられるマクロ経済政策、特に金融政策の失敗と無理解について触れられていないもどかしさを感じさせる。

斉藤淳(さいとう・じゅん)

1969年生まれ。英語塾「J Prep斉藤塾」代表。上智大学外国語学部英語学科卒業、イェール大学大学院博士課程修了(Ph.D. 政治学)。元イェール大学助教授、元衆議院議員。著書に『自民党長期政権の政治経済学』(勁草書房、第54回日経・経済図書文化賞、第2回政策分析ネットワーク賞本賞受賞)、『世界の非ネイティブ・エリートがやっている英語勉強法』(中経出版)、『10歳から身につく問い、考え、表現する力』(NHK出版)、『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』(ダイヤモンド社)がある。