- 2017 08/09
- 著者に聞く

「公共政策大学院」など、大学まわりでよく耳にするようになってきた「公共政策学」。しかし、いったいどんなものかイメージが湧かない人も多いのでは。『入門 公共政策学』を執筆した秋吉貴雄さんに聞きました。
――公共政策学の世界に入られたきっかけを教えてください。
秋吉:私は一橋大学商学部の、今はなくなった管理工学部門の出身です。管理工学は経営の様々な問題を数学的に解いていく学問ですが、学部時代は広く「企業の意思決定」について関心を持ち、経営戦略などについて勉強していました。
ある日、指導教員の宮川公男先生に、大学院に進学するか、シンクタンクに就職するか、進路について相談したところ、「公共政策学という新しい学問があるから、やってみないか」と言われて、そんな新しい学問があるならやってみてもいいかなと……なぜ断らなかったのか、今となっては分からないですが(笑)。
商学部生だったので、政治学や行政学にはほとんど触れたことがなく、まったくの異分野からの参入でした。ただ、ちょうどそのころは、慶應で大学院をつくろうという話が出てきたり、日本でも公共政策学会をつくろうという動きが生まれたりした「立ち上げ」の時期でした。だからこそ、私のようなアウトサイダーも関われたのだと思います。
また、本の第一章でも紹介しましたように、公共政策学には、元々は管理工学の手法をもとに「政府の意思決定」を合理化するという考え方もあったので、学部のころに管理工学や意思決定論を勉強していたことは、公共政策学の世界に入るうえでも役立ちました。
一橋大学の大学院では、交通経済論のゼミに居候させてもらい、トラックや航空産業の規制緩和に関する政策決定過程の研究を始め、今に至ります。
――本の冒頭にも書かれていますが、そもそも「公共政策学ってなんですか?」と聞かれることが多いと思います。
秋吉:最近の学生さんだと、「総合政策学部」といった学部が増えたので、なんとなくイメージできる人も増えているようですね。
それでも、経済政策や教育政策に比べて「公共政策」は漠然としていて、ピンとこない人も多いと思います。まず公共政策とは、「政策問題の解決に向けた方針・具体策」のこと。そして公共政策学とは、「政策問題や公共政策を対象とした学問」であり、公共政策の改善を志向しています。
もう少し細かく見ると、「政策に対して投入する知識」と、「政策のプロセスを解明する知識」という、2つの知識を取り扱っています。前者は主に経済学的な政策分析にあたり、後者は政策の決定や行政の実施の仕組みなど政治学や行政学に近い。総合社会科学、といってもよい、広い分野を扱う学問です。
――公共政策学の入門書としては、初めての新書ですね。
秋吉:意外でしたが、そうなりましたね。これまでなかった理由は、広範囲に及ぶ内容を平易に描くのが難しかったからだと思います。
本書では、あまり細かい手法には立ち入らず、問題の発見から、政策の設計、決定、実施、評価という一連の流れを具体的な事例とともに紹介した点が特徴です。本書を読むと、公共政策学がどのような内容を研究対象としているかを把握していただけると思います。また、社会にある問題がどのように問題として認識され、政策が作られていくのか、理解する助けになるかと思います。
公共政策学というと、どうしてもいかに解決策をつくるか、という点に注目が集まりがちです。しかし、そもそも問題がどのように発見されるか、そしてどのようなフレームで捉えられ、どう定義されるのか、といった始まりの部分が重要です。
ここは経済学などでは扱いづらいところですが、この本では社会学の知見なども踏まえて、1章を割いて論じています。
こうした話は、たかがレトリックではないかと言われがちですが、レトリックが重要なのです。たとえば地域公共交通のあり方についても、特定の事業者の経営問題としてとらえられると社会の支持は広がりませんが、「地域の足をどう維持するか」ととらえれば、議論の流れが変わってくるわけです。
――今後の研究テーマを教えてください。
秋吉:先ほど挙げた公共政策学の2つの知識のうち、私は政策過程論を研究してきました。それを政策分析とどうつなぐかがテーマです。
最近は「EBPM(Evidence-based Policy Making)」といって、根拠に基づく政策決定という議論があります。ともすれば妥当なエビデンス(根拠)を出しさえすればいいとなりがちですが、そのエビデンスをいかに活用するのかという視点がなければ、実際の役には立ちません。政策分析と政策過程論に分かれがちな公共政策学の橋渡しをできればと考えています。