2017 06/30
編集部だより

青春のあとで

あなたは私の好きなひと
あなたの着るものが変って
いつか夏の来ているのを知った

谷川俊太郎「あなた」より冒頭部分

高校時代、合唱に青春をかけた。
十代の後半にさしかかった、みずみずしい感性の時期をどう過ごすか、ということは大切だと思う。
何に時間を費やすか、目標をどこに据えるのか、今考えるとそのふたつで言い表せてしまうような気もするのだが、私の場合はとにかく毎日放課後音楽室に行き、仲間と歌を歌っていた。
いい声はどうしたら出るのか、楽譜や歌詞の語りかけるものはなんなのか――理想の音楽、理想の演奏をずっと追い求めていた。コンクールの本番、一度きりの6分30秒のために、ひと夏をかけるのだ。

さて、先日 Ensemble Bel HommeとMu Project(ともに男声合唱団)のジョイントコンサートに足を運んだ。暖かなサウンドや小気味いい歌い回し、心地いい音圧、豊かなハーモニーなどなど、演奏面も当然のこと、たくさんの曲・作曲家・詩との出会い、あるいは再会も楽しんだ。

どの演奏も印象的だったが、特に最終ステージの委嘱初演「三つの情景」(栗原寛 歌/田中達也 作曲)は、夏の景色が目の前に現れたような驚きがあった。夏の鮮やかさをそのまま歌い上げているようでいて、夏のきらめきへの憧憬のニュアンスが含まれているような音色。
男声合唱のよさはあるけれど、男声合唱らしくない、不思議な組曲だ、と感じた。

毎日ビルに通ってデスクに向かっていると、季節を感じることも少ない。うだるような暑さ、青春をかけるほどのひたむきさを思い出した6月の日曜日であった。
今年も、夏がやってきた。(亮)