2017 06/15
都市の「政治学的想像力」

(第7回)政権交代のゆくえ!?

論戦が繰り広げられるブリティッシュコロンビア州議会議事堂。ブリティッシュコロンビア州の州都は最大都市バンクーバーではなく、ビクトリアに置かれています。

前回掲載したように、カナダのブリティッシュコロンビア州では、5月初旬に州議会選挙が行われました。選挙は大接戦で、その結果は議席87のうち、自由党(Today's BC Liberals:Liberal)が43議席、新民主党(New Democratic Party:NDP)が41議席、緑の党(Green Party)が3議席になりました。Liberalは過半数にあと1議席足りません。しかし、僅差でNDPがLiberalを上回っている選挙区があり、不在者投票の集計によってはLiberalが逆転して過半数を得る可能性も残されていました。

そのような流動的な状況でも、次の政権に向けた準備は進んでいました。Liberalは過半数に届かないものの第1党であり、またきわめて僅差ですが(最終的には796672対795106)で一般投票でも最も得票した政党であったために、少数政権(Minority Government)として再出発することが見込まれていました。ブリティッシュコロンビア州の「副総督」(Lieutenant Governor)もLiberalのリーダーである現職の首相(クリスティ・クラーク氏)に政権の継続を依頼したという報道もありました。

なお、「副総督」とは、英連邦の一員であるカナダにおいて、国王(=イギリス国王)の名代として任命される元首である「総督」の、各州における代理です。基本的に名誉職ですが、今回のように選挙で具体的な勝者が見えにくい場合に、中立的な存在として政治的な動きが求められることもあります。なかなか次の政権が発足しない場合には、選挙のやり直しを最終的に決める役割も担うとか。

さて、Liberalが少数政権を樹立するのかと思いきや、水面下ではNDPと緑の党が連立交渉を行っていたようです。5月末になるとNDPのリーダーであるジョン・ホーガン氏が、緑の党との協定を樹立して4年間政権の座に就くと公式に発表しました。まだ閣僚が発表されているわけではないですが、連立というよりは緑の党が閣外協力で、NDPが少数政権を運営するようです。これは、過半数を得る政党がない中で、3議席しか持たない緑の党がすさまじい"Balance of Power"を発揮したということになります。もちろん、これほど議席の少ない政党がキングメーカーになってよいのか、という批判もあるようですが。

NDPと緑の党は、協力するにあたっていくつかの取り決めを結んでいます。その中でも興味深いのは、州議会選挙の選挙制度改革です。両党、特に17%程度の得票を得ながら3議席(3%程度)しか持たない緑の党は、比例代表制の導入を主張していて、選挙区の設定によりますが、もし比例代表制が導入されると緑の党は大きく議席を増やすと予想されます。前回も書いたように、カナダでは連邦の政党と州の政党がお互いに独立していますが、伝統的に小選挙区制を中心に行われてきたカナダの選挙で比例代表制が導入されると、連邦の政党にも影響があるかもしれません。

少なからぬ影響が予想される政党も大変ですが、さらに大変なのはブリティッシュコロンビア州の有権者でしょう。連邦議会の選挙では通常の小選挙区制で、州議会議員選挙では比例代表制、そしてバンクーバーなど市レベルでは、市長と議会の二元代表制であり、しかも議会では完全連記制の選挙制度(例えば10議席に対して、有権者がひとり10票を持って投票する制度)です。有権者は、連邦・州・都市のそれぞれで、自分の投じた一票がどのような効果をもたらしうるか想像しながら投票することが求められることになるわけです。それぞれのレベルで、望ましい選択ができる可能性も開かれるでしょうが、判断するコストは確実に上がりそうです。

砂原庸介(すなはら・ようすけ)

1978年大阪府生まれ。2001年東京大学教養学部総合社会科学科卒業。日本学術振興会特別研究員、大阪市立大学准教授などを経て、神戸大学法学部准教授。博士(学術)。専門は政治学、行政学、地方自治。著書に『地方政府の民主主義』(有斐閣)、『大阪―大都市は国家を超えるか』(中公新書)、『民主主義の条件』(東洋経済新報社)、共著に『政治学の第一歩』(有斐閣ストゥディア)などがある。