2016 10/20
私の好きな中公新書3冊

ジャンルの幹となる本/武田砂鉄

野矢茂樹『入門!論理学』
宇田賢吉『電車の運転 運転士が語る鉄道のしくみ』
本田良一『ルポ 生活保護 貧困をなくす新たな取り組み』

書店の新書売場が雑然としているように、新書を押し込めるだけ押し込んだ我が家の新書棚も雑然としている。棚から抽出した3冊のジャンルも当然バラバラで雑然としている。

日頃、なかなか素直ではない文章を書き連ねている身は、時折、『入門!論理学』の第2章「『否定』というのは、実は とてもむずかしい」にすがる。矛盾律や背理法の入り組んだ否定を軽やかにこなしてやろうと自分の原稿に戻るのだが、そうはうまくいかない。

『電車の運転』は丁寧な解説が続くが、早さと安全のどちらを求めるのかという問いが通底している。定刻発車を強いる民度が見え隠れするのも興味深い。

『ルポ 生活保護』は、数値から冷静にひもとく貧困大国の現実。ビックリマークの多さを競い合うような"貧困モノ"にはない、今そこにある困難に丁寧なまなざしを向けていく。

中公新書といえば硬質なイメージだが、書棚を眺めていると、硬質というよりジャンルの幹となる本が多い。その幹を3冊選んでみた。

武田砂鉄(たけだ・さてつ)

1982年東京都生まれ。ライター。著書に『紋切型社会』(朝日出版社)、『芸能人寛容論』(青弓社)がある。『週刊SPA!』、cakes(ケイクス)など紙およびウェブ媒体での連載多数。