ホーム > 電子書籍 > 「持たざる国」からの脱却

電子書籍
「持たざる国」からの脱却

「持たざる国」からの脱却日本経済は再生しうるか

松元崇 著

〔はじめに〕 今日小学校に入る子供が、大人になって就く仕事の六五%は、現在まだ存在していない仕事だという米国労働省の研究があります。野村総研の推計(二〇一六年二月二日)では、一〇~二〇年後に、国内労働人口の四九%に当たる職業が人工知能やロボットで代替される可能性が高いということです。それは、IT革命によって激変する世界の生産構造がもたらす姿です。 現在の日本には人生の途中で転職することを良しとしない文化があります。その文化の下で、職を変わるのを支援する仕組みがほとんど整備されていないのがわが国の現状です。十数年後に六五%の人が現在まだ存在していない仕事に就くような時代には、日本はジリ貧になっていってしまいます。実は、多くの企業は、そのような事態に気が付いて対応を始めています。ところが、国や社会の対応となると誠に心もとないというのが実情です。このままでは、企業は一流でも国民生活は二流ということになりかねません。〔目 次〕 第Ⅰ部 IT革命による世界の生産構造の激変と日本 11 第1章 米国の一人勝ち 米国一人勝ちの理由 IT革命の進展による生産構造の激変 生産構造の激変に適合していた米国の経営 途上国の成長も取り込んで成長している米国 世界の成長に取り残されている日本 第2章 かつて一人勝ちだった日本 低収益に甘んじることになった日本企業 非正規社員の増加と人的資源が活用されない状況の発生 高度成長を支えたわが国の労働慣行 「ALWAYS 三丁目の夕日」の時代 IT革命による製造工程モジュール化の時代 第3章 世界の生産構造の激変に気づかなかった日本 バブル崩壊に重なった世界の生産構造の激変 人の過剰への伝統的な対応がもたらしたデフレ デフレの中で失われた企業の積極姿勢 良いデフレといった議論の中で見失われた根本的な議論 第4章 日本企業が日本に投資しなくなっている 日本企業が日本に投資しなくなって起こっていること リーマン・ショック後の円の独歩高による空洞化 伸ばせたはずの新たな雇用が失われる――科学技術立国の喪失 省力化投資、グローバルなサプライ・チェーンと雇用 日本経済の一人負けの姿 第5章 日本経済の元々の低生産性体質 ローカル経済の低生産性 低生産性でも分厚い中間層を形成してきた日本 このままでは現役世代が貧しくなっていく 第6章 世界の生産構造の激変がもたらす格差社会 米国の格差社会化 発展途上国の格差社会化 日本の格差社会化 第7章 世界の非常識の雇用働慣行の下で失われる     ワーク・ライフ・バランス ワーク・ライフ・バランスと成長 ワーク・ライフ・バランスと仕事の効率 わが国の雇用慣行は世界の非常識 高度成長期に定着したわが国の雇用慣行 新規学卒一括採用制度 女性の雇用慣行 若い男性の非正規問題 喪われるワーク・ライフ・バランス 女性やベンチャー企業のワーク・ライフ・バランス 第8章 労働市場改革に必要な北風と南風の政策 わが国の成長のために必要な労働慣行の見直し 労働市場の規制改革だけでは低生産性は改まらない 多様な働き方を当たり前にしていくということ 日本型の経営と多様な働き方 グローバルな競争で問われるチーム力 改革に必要なバランスのとれた政策 第9章 成長のための投資をしない日本        低水準の成長率を巡って好況だ不況だと一喜一憂 改革の声が高まらない理由 高齢者向けの社会保障から財源を捻出できないか 増税のほうがましだという議論 労働市場改革を行って活力を取り戻したドイツ 第10章 国の改革が進まなくても企業経営は変革していく 日本流と米国流を混合したハイブリッドな経営 米国流と日本の経営の違い ハイブリッドな経営で発展した明治の日本 第11章 明治の経済発展をもたらした人材活用――四民平等 明治の経済発展は日本人の能力の自由な発揮によるもの 多様な働き方を実現するために必要な教育 多様性から生み出されるイノベーション 多様な働き方による経済発展に向けて 第Ⅱ部 ドイツ、スウェーデン、そして日本の対応 第1章 ドイツの経済再生 欧州の病人と呼ばれていたドイツ シュレーダー改革 改革を可能にした政治状況 第2章 スウェーデンの復活 スウェーデンの復活 スウェーデンの企業経営 失業を支える積極的労働市場政策 積極的労働市場政策を支える職業訓練と社会保障 実学重視の教育 高くないスウェーデンの企業負担 スウェーデンの国際競争力 アル中の多い貧しい北の国だったスウェーデン 積極的労働市場政策の定着 一九五〇年代の激しい議論 政治の混乱と企業活動 第3章 日本の取り組み 二〇〇〇年代の二つの報告書 ?安心社会実現会議報告書(二〇〇九年六月) 経済成長戦略と一体となって実現を図るべき安心社会のビジョン 五つの安心の要にある「雇用の安心」 受益と負担の見える化 世代ごとに必要な施策 ?成長のための人的資源の活用の  今後の方向性について(二〇一三年四月) 世代ごとの働き方のイメージ 非正規労働の増加と経済低迷 多様な働き方による人的資源の活用 低生産性部門から高生産性部門への労働移動の課題 中小企業の働き方への着目 多様な働き方に対応する労働教育の必要性 多様な働き方が実現したときの姿 投資としての社会保障制度の見直し ?「幸福度に関する研究会報告――幸福度指標試案」概要 ほどほどの幸せに幸福を感じる日本人 「持たざる国からの脱却」のための議論 おわりに 237

書誌データ

  • 配信開始日2017/3/25
  • 判型中公eブックス
  • 希望小売価格704円(10%税込)