もぐら新章 青嵐第二一回
第1章
6(続き)
調理室の窓が開いた。
「湯沢! 何やってんだ!」
木内は窓から飛び出してきた。靴は履いている。
「やめろ!」
後ろから腕を巻いて、湯沢を引き離す。
湯沢は肩で息を継ぎながら、足元に目をやった。
飯嶋はぐったりと横たわっていた。顔は地面に伏せがちに傾き、周りには血だまりができ、血液で固まった土の球が転がっていた。
木内は屈んで、飯嶋の首筋に手を当てた。鼻先にも指をかざしてみる。
「息してねえ......」
胸元に手を入れてみる。鼓動も感じない。
木内は立ち上がりざま、湯沢の胸ぐらをつかんだ。
「おまえ、何殺してんだよ! バカじゃねえのか!」
激しく揺さぶる。
「火をつけるだけじゃねえか! 殺せなんて言われてねえぞ!」
さらに揺さぶる。
湯沢は放心状態で揺れていたが、みるみる眉間に険しい皺が立ってきた。
木内の両手首を握る。
「死んじまったもんはしょうがねえだろうが!」
木内を突き飛ばした。
木内はよろけて、尻もちをついた。傍らに、原形を留めない飯嶋の顔があり、思わず身がすくんだ。
手に血が付いた。あわてて、ズボンで拭う。赤黒い血がべっとりと布に付いた。後退りして、立ち上がる。
「もう、付き合いきれねえ......。俺は抜けるぜ」
背を向け、駆け出そうとする。
湯沢は襟首をつかんだ。木内はよたよたと後退した。
そのまま足をかけて、引き倒す。木内はまた尻もちをついた。したたかに尾てい骨を打ち、顔を歪める。
「何すんだ!」
木内はすぐに立ち上がり、湯沢を睨みつけた。湯沢は睨み返し、鼻先が付くほど、顔を近づけた。
「抜けらんねーぞ。逃げたら、てめーが殺したことにしてやる」
「ふざけんな。今から、サツにタレこんでもいいんだぜ」
「できるのか? あのバイク野郎が黙っちゃいねえぞ」
「ムショに入っちまえば、追ってこれねえ。人殺しと一緒くたにされるのはごめんだ」
「なんだと、こら!」
湯沢の怒鳴り声が響く。
「誰だ?」
唐突に声をかけられ、二人はびくっとして動きを止めた。
Synopsisあらすじ
最強のトラブルシューター「もぐら」こと影野竜司の死から十年余。生前の父を知らぬ息子・竜星は沖縄で高校生になっていた。
竜司のかつての戦友・楢山とともに、沖縄の暴力団組織「座間味組」や、沖縄の開発利権を狙う東京の「波島組」との戦闘を乗り越えた竜星だったが、親友の安達真昌とともに己の生きる道を模索していた。(もぐら新章『血脈』『波濤』)
そして今、沖縄随一の歓楽街に、不意の真空状態が生じていた。松山・前島エリアに根を張っていた座間味組は解散し、そのシマを手中に収めようとした波島組も壊滅状態。その空隙を狙うように、城間尚亮が、那覇の半グレたちの畏怖の対象だった渡久地巌の名を担ぎ出して、動き出したのであった……。
Profile著者紹介
1964年兵庫県生まれ。文芸誌編集などを経て、小説家へ転向。「もぐら」シリーズ(小社刊)が110万部を突破した。他の著書に「リンクス」シリーズ、「D1」シリーズ、「ACT」シリーズ、「警視庁公安0課 カミカゼ」シリーズ、『コンダクター』『リターン』『AIO民間刑務所』などがある。
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