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第二回

 『ベスト珍書』のヒットを祝って集まった若き編集者たち。話題はさらに彼らをとりまく現実へと迫っていきます。一方で『ベスト珍書』に選出された100冊の珍書の中で、さらにそのベストはどれか、編集者目線で選びだしました。みなさんのベスト・オブ・ベスト珍書とは一致しているでしょうか? 必見の第二回です!

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ハ「しかし著者側に立ってみてわかったことがたくさんありました。まず、Yさんからの赤字の量。誤字がどうとかではなく、このほうが読みやすくなるからこっちに入れ替えたいとか、接続詞はこっちのほうがいい、というような指摘。これには感動しました」

Y「これは中央公論新社の風土であったり、前任者から引き継いだスタンスもありますね。前任のTは元校閲部でしたし」

T「いやいや、それも編集者としての務めのひとつだと思いますよ」

ハ「そう考えると、自分はそこまでやっていなかったかもしれないなと。もちろん事実関係の正誤は厳しくチェックするんですけど。ここは真似したいところですね」

Y「ただ、普通の本に比べて手間をかけたのは確かで。エログロの本とかだと、どうしてもエッジの効いた表現が多くなるし、取り扱った著者さんや出版社さんの気分をあまりに害してもいけないし。でも力を注いだぶん、結果的に良い本になったと思います」

ハ「そうそう。著者と編集者とでのやりとりの間に、方針とか方向性にズレが出てきて。暗礁に乗り上げて、世に出ないまま終わる・・・なんて本、実はけっこうあるじゃないですか。どうしても人である以上、波長があるし、相性もあるから」

T「そうですよね、突然電話口で著者さんからガガーッと言われたこととか、トラウマです...」

Y「しかも、いま『うちの会社から出した方がいい』と断言しにくい現実もあるじゃないですか。出版社も多いし、特徴も薄まってきているし」

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K「WEBで載せられそうなお話が減ってきましたね(笑)。ええっと、印税はどんな使い道を考えてます?」

ハ「うーんと・・・貯金、ですかねえ」

一同「爆笑」

T「その見た目で貯金(笑)」

K「珍書に全部つぎ込むとか言って欲しかった(笑)」

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印税は「貯金」と断言するハマザキカク氏。残念ながらその表情には一片の迷いも見られない

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Y「普通、会社に帰属しながら別の会社と活動をすると、いろいろ面倒がありますが、社会評論社さんはお聞きする限り、そのあたり自由なんですよね。よくハマザキさんと話すけれど、大きな出版社の方が良い面もあれば、小回りのきく会社の方が良い点もたくさんあるなって」

ハ「うちなんかそもそも企画会議が無いんですよ。入社した頃はあったので、『こんな本があれば良いな』って、バンバン企画を作りまくっていたんだけど。それこそ内容は完全な妄想で

一同「笑」

ハ「ただ毎回、会議の場で20冊分くらいの妄想を延々と演説してたら、聞いている人たちがげんなりしてきて。社長が『これからは企画の段階でなく、来月こういう内容の本がでます、ってところまで進んでから説明してくれればいいよ』って言い出してからは事後報告パターンに変更」

Y「ルールが変わっちゃったんだ(笑)」

T「本ができあがってからリジェクトされるとか無いんですか?」

ハ「今のところ無いね。自分が関わってからは、それまでガチガチの学術書をメインに出していた出版社なのに、ヴィレッジヴァンガードとかからも注文が沢山来る様になって。『お、次何出すの?』とか社内の人も楽しみにしてくれている。そして若手の自分がそういった本を出す、っていうこと自体、社長も『若い編集者が元気で頑張っている! 良いことだ!』って(笑」

K「そんな会社、いま無いと思うなあ。それ、絶対幸せだよ」

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Y「話は戻って『ベスト珍書』で。この本で一番ヤバイ本ってどれだと思いますか?」

ハ「まあ、これですよね」

一同「やっぱり、それですよねえ」

   *"これ""それ"については『ベスト珍書』片手にご想像下さい

K「シビレますよね。やっぱり編集者だとね」

Y「ハマザキさんすら『やっぱり外しましょうか』って言ってたくらいだから」

ハ「ちょっとね、本だけではなくその裏に潜む闇が見えちゃっているのが何とも」

K「書影、タイトル、カバー、オビ、デザイン、全てがヤバイ。それってスゴイですよ」

Y「僕、途中まで読みましたけどね。受け付けなくなるんですよ、生理的に。この本のスゴさは出版業界に近い人ほど分かると思う」

K「中身を見ると、まんま素材を流し込んでいるんですよね。だから時系列を前から順に、というような前提すら整理されてない」

T「怖い・・・。近影とか、プロフィール無しで顔写真だけ!」

Y「ただ他にも同じくらいヤバイものはありますよね。たとえばこちらの本。これについては何巻も続いているのが、ヤバさ具合を増してて。巻を重ねる事に著者さんもどんどんお年を召してきているので、誰も止められなくなっている感じがまた」

K「これもやばいなあ。この2冊が『ベスト・オブ・ベスト珍書』ですかねえ」

ハ「やっぱり編集者の視点は違うなあ。世間の評判を聞いていると、医学系とか写真集とか、見た目のインパクトが大きい本に票が集まっているようです。個人的には押し花に使っていた新聞紙から、失われていた戦前・戦中の沖縄の歴史を読み解いた本とか大好きですね。でもまだまだ自分が見いだせていない珍書が眠っていると思うんですよ。だからパート2を・・・

☆彼らの話は終わらない!

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みなさんのベスト・オブ・ベスト珍書はどの本でしたか? 前線に立つ彼らが考えるベスト珍書と同じだったでしょうか。生み出すべきは、読み継がれる本か、売れる本か、作りたい本なのか(それとも珍書なのか)。若き編集者たちは今日も悩み続けています。彼らの明日はどっちだ!?

ラクレ編集部 吉岡宏


『ベスト珍書』著者、ハマザキカク。本名、濱崎誉史朗(はまざき・よしろう)。フィリピン、チュニジア、 イギリスなどで育つ。現在、社会評論社に編集者として勤務。 執筆以外の組版からカバーデザイン、校閲など本作りに関わるプロセス 全てを一人で行っている。変わった企画を次々に生み出し、各地の書店で、 『Cool Ja本』や『松マルクス本舗』など自身がプロデュースした 本のフェアが開催されるなど「珍書プロデューサー」として世に知られる。 随時、Twitterで珍書速報を流しており、『本の雑誌』にて 「新刊めったくたガイド」を担当。主な担当書籍に『世界飛び地大全』 『いんちきおもちゃ大図鑑』『完全自殺マニア』『エロ語呂世界史年号』 『ニセドイツ1・2・3』など。