皿屋敷について
お菊は、「四谷怪談」のお岩と並んで知られる「女ゆうれい」。
岡本綺堂による戯曲「番町皿屋敷」で有名になった皿屋敷伝説は、
実は全国に伝わっています。
バリエーションは多々ありますが、
十枚揃いの家宝の一枚を割った罪で惨殺された「菊」という名の女中が、
投げ込まれた屋敷の井戸の縁に夜な夜な化けて出て、
「一枚、二枚......」と九枚まで皿を数え、「一枚足りない」と恨めしげに呟く......
という怪談を、なんとなく知っている方は少なくないでしょう。
『数えずの井戸』も、それらの伝承と同様、
彼女が井戸端で皿を数えるようになるまでを描いています。
静謐で流麗な筆致で綴られる、
これまでの、どの皿屋敷伝説とも違う「真実」とは――
ものがたりに呑まれ、おはなしに溺れる愉悦を、
どうぞ、心ゆくまでご堪能ください。
登場人物相関図
登場人物相関図
登場人物チャート
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人目が気になる。褒め殺されてもいい。がっかりされるのはイヤ。
ある意味一番まっとうなタイプです。
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欲しいものは何が何でも手に入れたい、激しい性格。
非常にクレバーですが、ちょっと執着が強すぎるようです。
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気にくわないヤツは殴ればいいじゃん、という豪快さん。
思い通りにいかないとキレてしまうことも。
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自分の境遇に疑問を抱かず、満足しているタイプ。
普段は温厚ですが、ピュアなだけに暴走すると大変かも。
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なんだかいろいろと諦めているタイプ。
心優しく実力もあるのですが、面倒なことから逃げ出しがちです。
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考えすぎて身動きが取れないでいるのを「鈍い」と見られがち。
天然でもあり、意外と同性に妬まれるタイプ。
チャートの分析結果は『数えずの井戸』本文のキャラクター描写に則したもので、
実際のあなたの性格とは異なる場合があります。
著者インタビュー
京極夏彦『数えずの井戸』を語る
2010年1月15日、中央公論新社にて。聞き手=石田汗太
京極夏彦(きょうごく なつひこ)
- 1963年生まれ。
- 1994年『姑獲鳥の夏』で講談社よりデビュー。
- 1996年『魍魎の匣』で第49回日本推理作家協会賞(長編部門)、
- 1997年『嗤う伊右衛門』で第25回泉鏡花文学賞、
- 2003年『覘き小平次』で第16回山本周五郎賞、
- 2004年『後巷説百物語』で第130回直木賞を受賞。
公式ホームページ「大極宮」
http://www.osawa-office.co.jp/
京極夏彦『数えずの井戸』を語る
- 上毛新聞/2008年2月6日~2009年3月3日
- 京都新聞夕刊/2008年2月19日~2009年6月6日
- 岐阜新聞夕刊/2008年2月25日~2009年6月11日
- 北日本新聞/2008年8月11日~2009年9月7日
- 岩手日報/2008年9月10日~2010年1月13日
- 紀伊民報/2008年10月9日~2010年1月8日
*本作「数えずの井戸」は、上毛新聞はじめ地方新聞6紙で連載されました。 書籍化にあたって構成を変更し、修正を加えました。
関連書籍
シリーズ既刊
嗤う伊右衛門京極夏彦 著
生まれてこのかた笑ったこともない生真面目な浪人、伊右衛門。疱瘡を病み顔崩れても凛として正しさを失わない女、岩――四谷怪談は今、極限の愛の物語へと昇華する! (単行本、C★NOVELS、文庫)
覘き小平次京極夏彦 著
死んだように生きる幽霊役者と、生きながら死を望む女。押入襖の隙からの目筋と嫌悪とで繋がる夫婦――。山東京伝の名作「復讐奇談安積沼」の小幡小平次が、新たな姿を得て甦る。(単行本、C★NOVELS)
巷説百物語シリーズ 裁かれぬ悪を嵌めるは闇の罠、御行の又市一味が仕掛ける妖怪からくり!
巷説百物語 京極夏彦 著
山猫に魅入られた花嫁、隠居を訪ねる狸侍、夜ごと辻に現れる女の腐乱死体......江戸の闇から妖怪どもが立ち現れ、現世と幽境の狭間に弔い鈴の音が響く。御行の又市、ノベルス版に登場。(C★NOVELS)
続巷説百物語京極夏彦 著
打ち首にしても三度首が繋がって生き返る悪党、行き合うと命を落とすという七人みさき。怪異の裏に人世の悪がある――人心を巧みに弄して物怪を現出せしめる御行の又市が裁かれぬ悪を裁く!(C★NOVELS)
後巷説百物語京極夏彦 著
維新から十年、町並みも世情も変わりゆくなか、いまだ江戸が残る「九十九庵」。主である一白翁は、かつて怪異譚を集めて諸国を巡ったという。若者に乞われて老爺がかたる、怪しく、悲しい昔話とは。(C★NOVELS)
前巷説百物語京極夏彦 著
根岸町の損料商〝ゑんま屋〟に流れ着いた若き小悪党・小股潜りの又市。口は悪いがお人好し、直ぐに熱くなる青二才の双六売りが、御行装束に身を包み、闇の世界に身を投ずるまでの物語。(C★NOVELS)
書店員さんコメント
登場人物たちの人間味もさることながら、新しい解釈でのお菊の心情に飲み込まれた。わたしたちの知らない皿屋敷の物語がここにある。本当にすごい作品だった!
オリオン書房ノルテ店 高橋さん
怪異は漠然としているがゆえに恐怖を醸し、ひとびとに伝わるもの。
京極さんの凄いところは、怪談の根にじわじわと迫りつつ、人間の九割九分の愚かしさから一分の尊さを掬い上げ、怪談のもつ「怖がらせるだけではない魅力」を教えてくれる点にあると思っております。
ときわ書房本店 宇田川さん
約800ページという本の厚さは、京極夏彦の世界に浸っていられる時間の長さを表しています。本の重さは、期待感を増やさせます。2100円という金額は何度でもこの世界に戻ってきて楽しめる証。読み捨てられる本とは違います。
文信堂書店長岡店 實山さん
静かに、静かに物語の世界へ足を踏み入れる。それぞれの気持ちに近づこうとすると、するりと逃げられ、離れようとすると追ってくる。少しずつ2人の感情がからみ合い、囚われていく気がしてくる。いつの間にか、この世界から抜け出せない。それは決して不快ではなく、むしろ心地良いのだ。
あまりにも有名なこの話が、京極夏彦の手によって新しく生まれた!これはもう、今年必読の書でしょう。
紀伊國屋書店宇都宮店 髙野さん
普段から「何か面白い本ない?」というお客様に対して、"心に何かひっかかりを残す本"をおすすめしたいと思っています。楽しかっただけでなく、そのあと何かの折りにふと考えこんでしまうような......。最後まで読まないうちに、この小説がそうなることを予感しました。
水嶋書房くずは駅店 和田さん
人の個性は十人十色なんだなぁとつくづく思いました。ただ、切ない。とにかく切ない。愛と哀しみにみちた京極流怪談的群像劇。ヒロインの菊がたまらなく愛おしい。彼女の健気さ、純粋さだけでも一読の価値あり!
ブックデポ書楽 中村さん
最後の4行に感動しました...やられた。ちょっと京極先生の作品から離れていたのですが、やっぱ好きだなあ、この読後感。
ブックストア談 浜松町店 金田さん
独特の文章で、読んでいるあいだは湿度を感じるような錯覚がありました。最近のスラング的な文章の言い回しとは対極的で、格調高くて美しい文体。お客様に、こういう本も読んでみてほしいと思いました。
TSUTAYA丸亀郡家店 岡部さん
日常から生み出される狂気。そして悪意が殺意に変わる瞬間......真に怖いものは化物なんかじゃなくて、生身の人間かもしれない。追い詰められ後戻りのできない心理的恐怖を、どうぞ心ゆくまでお楽しみください。
三省堂書店成城店 内田さん
一体この世に足りているものなどあるのでしょうか? すべてのものに対して何かしら足りていないと感じる播磨と、自分自身が足りていないと解かっている菊。人は皆、播磨か菊であるのでしょう。
フタバ図書TERA南砂町店 谷口さん
播磨が三千世界の欠落を見つけた庭はぞくぞくするほどきれいでした。目を逸らしたくても奈落を見つめる播磨に釘づけになりました。先生の文章にはお化けそのものが出る表現はないのに、どうしてこんなに怖くて美しいのでしょうか。
紀伊國屋書店佐賀店 松本さん
嗚呼、せつなし。
『嗤う伊右衛門』を読んだとき、なんて物哀しい、けれどなんて一途で美しい怪談だろうと思った。私の中では史上最強の"恋愛"小説で、それは今でも揺るがない。漫画もDVDも買った。結末を暗記してしまっているくせに、ラストでは必ず号泣する。
だが、不動の地位を築いてきたそれ同等、下手をすればトップの座を交代するのではないかと思えるほどに、せつなく、儚く、ストイックで美しい物語が誕生してしまった。『数えずの井戸』――やはり京極怪談は最「狂」の恋愛小説だと痛感させられる1作である。
中目黒ブックセンター 佐藤さん
子供の頃からなぜか番町皿屋敷の話が好きだった。ドラマになれば食い入るように見たし、落語の皿屋敷などは、そらで演れた。なぜ自分はこの話にそれほど惹かれるのだろうと不思議に思ってきたが――。
ページをめくるたびに欠けていたものが満ちていく。ああそうか、だから僕はこの話が好きなのかと、めくる度にわかった。こんなに深い意味を持った話だったのかと驚いた。深い余韻を残す最後の一行に、子供の頃の僕が微笑んだような気がした。
文教堂三軒茶屋店 中川さん