数えずのラブ

――数えるのが苦手な米搗き三平は、やや異質なキャラですよね。

京極苦手というか、数えてるんだけど数える意味がわかんなくなっちゃう人ですよね。三平に準ずるキャラが登場する異伝というのはわりにあるんですけど、三平を前に出すと悲恋物語になってしまうので、それは違うなと。出ないヴァージョンがかすんでしまう。菊と三平のラヴストーリーじゃないですからね。その方が盛り上がるのかもしれませんが。皿屋敷としてはどうかと。

――確かに、途中まで菊と三平がメーンになるのか、菊と播磨がメーンになるのか......。

京極ヴォリュームは一緒ですからね。

――どっちに行くのかなと思って(笑)。

京極結局どっちにも行きません(笑)。三平は結構場をさらうポジションなので、セーブしましたが。まあ、何であれ「思い込みじゃないかよ」というところを、他のキャラよりわかりやすくしたんですね。もう激しく思い込むので「愛と誠」の岩清水弘みたいになった(笑)。いや、他の人もみんな思い込みなんですけどね。「自分、よくわかんないす」と思ってる菊が一番素直なんでしょうかね。でも、素直ならいいかというもんでもなくて、結局殺されちゃう、と。

――最後はハムレットみたいな(笑)。前二作は『伊右衛門』にしろ『小平次』にしろ、かなりラヴストーリー色が強かったですよね。

京極意識はしてないんですけどね。

――今回はそれほど恋愛色が強くないですね。

京極過去の二作は、岩と伊右衛門、おつかと小平次というペアだったのでわかりやすかったんでしょうが、今回は分裂していて、組み合わせが多様になるでしょう。しかも強い関係性が出来上がる前に物語が終わってしまうわけで。これは、井戸の周りを二人の男女がぐるぐる回っていて、回っているうちに分身の術を使って数が増えちゃって(笑)、いったい何人いるんだと数を数えるんだけど数え切れない、そういう話ですからね。相手が誰だかよくわからないという。恋は「予感」でしかないですね。まあ、でもリアルかどうかといえば、こっちのほうがリアルなんでしょうけど。恋愛って錯覚ですよ、とどのつまり。思い込んだ方が勝ちだし、中学生くらいならともかく、好きだ好きだ好きだで飯は喰えないわけですから(笑)。

――身も蓋もない(笑)。

京極でも、実際、人間は常時いろんなこと考えて生きてるわけだし、性格だってそんなにはっきりしたものじゃないでしょう。播磨は菊に対して何かは感じていて、菊だって同じように思っているわけですが、それは好きだとか嫌いだとかいうレベルじゃない。吉羅も「私は別に好きなんじゃないからねっ!」と言うんだけれども、そのうちアイラブユーになるんだろうなと。まあ、パッションに突き動かされる前にバイオレンスになってしまったという(笑)。

――吉羅はもう少し生きてれば良いツンデレになったのに。

京極うん、惜しかったですね。

――デレが出る前に殺されちゃって(笑)。

京極時代がちょっと早すぎです。百年早いツンデレ(笑)。で、主膳の方は、BLだと言われました(笑)。言われてみれば播磨ラブなんだなあと。まあ、ラヴストーリーとしては単純化されていないので多少わかりにくくはあるんだけれど、顕在化しないところで誰かが誰かに恋したり、ふられたりはしてるんでしょうね。ただ、ちょっと歯車が噛み合わなくて、凶暴な人が一人二人いたおかげで全員玉砕してしまった(笑)。

愛はすべてを滅ぼす(笑)。

京極そういう話です。ちょっと歯車がかめば、みんな幸せになっていたかもしれない。

――もう一回リプレイすると、うまくフラグが立つかも(笑)。

京極あ、それはそうだと思います。だから、ある意味「ヱヴァンゲリヲン」です(笑)。