日本温泉気候物理医学会・温泉療法専門医である佐々木先生が、日本全国217箇所を巡って選んだ秘湯・名湯を紹介し、 好評を博している『秘湯マニアの温泉療法専門医が教える-心と体に効く温泉』。
今回同書より、「温泉の正しい入浴法10カ条」と「伝統的入浴法」をご紹介。秋の観光シーズン、温泉に入るならぜひご一読を!

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温泉の正しい入浴法10カ条

 温泉の効果は多彩だが入浴法を間違えると大きな事故にもつながりかねない。温泉の効果を無駄にしない、正しく安全な入り方を、知っておこう。

1 入浴前にかかり湯をする
 かかり湯は単に体表面の汚れを落とすだけでなく、これから入る温泉の泉質と温度に体を慣らす役割がある。かかり湯は心臓より遠い足元から始め、膝、腰、腹部、肩、と体の上の方へ向かってかけていく。

2 半身浴から全身浴へ
 一気に肩までどっぷり浸かると体全体に水圧がかかり、心臓や肺に負担がかかる(静水圧作用)。初めは横隔膜の高さ(胸よりやや下)までゆっくりと入る。「半身浴」という。その後、次第に肩まで沈めていく。ただし、高齢者や高血圧の人には半身浴の方が体への負担が少なく、安全である。

3 ほんのり汗ばんだら、いったん浴槽から出る
 汗がだらだら流れ出したり、動悸【ルビ・どうき】がしたりするほどの入浴は、のぼせ(脳血流量の増加)の原因になるので危険。うっすら汗がにじんできたら、いったん浴槽から出る。ちなみに、頭に濡れタオルをのせるのは、気化熱によって頭を冷やしてのぼせを防ぐため。

4 上がり湯はせず、皮膚に温泉成分を残す
 浴槽から出る時にシャワーを浴びていたのでは、せっかく皮膚の表面についた温泉の有効成分を洗い流してしまうことになり、保温効果をはじめ、温泉の効果は半減する。

5 湯上がり後は、体をよく拭く
 肌に水滴が残っていると、蒸発する時に体温が奪われて湯冷めをする。急に体が冷えないように、体表面の水分をよく拭き、冬はすぐに着衣すること。表面の水分を拭いても温泉の有効成分は残るのでご安心を。

6 入浴後は水分補給を十分に
 長時間入浴して汗を多量にかくと、血液の粘度が高まり、脳梗塞や心筋梗塞を起こしやすくなる。入浴後はコップ1〜2杯分の水分を摂取し、これらの予防に努める。

7 入浴は2人以上で
 高齢者の方は必ず2人以上で入浴し、気分が悪くなったり、事故を起こしたりした時の対策を講じておく。特に夜間の1人での露天風呂は避ける。

8 高温浴よりぬるめの湯
 急に熱い温泉に入ると交感神経が刺激され、血管が収縮して急激に血圧が上がるので、高血圧の人は要注意。また42℃以上の高温泉に入ると肌が紅潮し、かえって湯冷めしやすくなる。低温浴でゆっくり浸かる方が体の芯までよく温まる。

9 お酒を飲みすぎたら入らない
 アルコールは血管を拡張し、血圧を低下させる作用がある。さらに温泉に長時間浸かっていると温泉の温熱効果により血管が拡張し、一層血圧が下がり、脳貧血や不整脈が起こりやすくなる。深酒後の入浴は避ける。

10 一日の入浴は3回まで
 入浴回数は一日3回までとする。これ以上入浴すると熱疲労(のぼせ、湯あたり)を起こす原因になる。


先人の知恵が詰まった「伝統的入浴法」

日本人は、経験的に温泉が体によいことを知り、ただ浸かるだけではなく、独特の入浴法を生み出した。その一部を紹介しよう。

全身浴
比較的深い浴槽に座位で肩まで浸かる。入浴法の中では一番水圧がかかるので心臓疾患がある人は注意が必要。

半身浴(腰湯)
腰骨のやや上まで温泉に浸かる方法。全身浴に比べて水圧の負担が軽いので、体力低下時、心臓疾患がある人にもおすすめできる。

寝湯
比較的低温の浅い浴槽に横たわり、長時間(20〜30分)浸かる。リラックスできるので精神疲労、不眠、高血圧、動脈硬化などに効果が期待できる。

打たせ湯
「滝の湯」とも呼ばれ、滝のように落下する温泉に肩、首筋、腰などを打たせることで筋肉のこわばりを和らげ、肩こり、腰痛などに効果がある。筋湯温泉(大分県)が有名。

足湯
血流が悪くなりがちで冷えやすい足を湯に浸けて温めることで、温まった血液が全身を巡り、体中が温まる。全身浴ができない場合でも、手軽に体を温めることができるのがメリット。

温泉蒸気浴
温泉の蒸気を利用した入浴法で、主に3種類がある。いずれも水圧がかからないので体への負担が少ない。

①温泉蒸気函浴
温泉蒸気が噴き出す箱の中に首だけを出して入り全身を蒸す。後生掛温泉、玉川温泉(ともに秋田県)などで見られる。

②温泉蒸気室浴
温泉の蒸気が満たされた蒸し小屋や洞窟に入り全身を蒸す。気管支炎など呼吸器疾患に効く。夏油【ルビ・げとう】温泉(岩手県)、四万【ルビ・しま】温泉(群馬県)で入ることができる。

③痔蒸し
温泉の蒸気を床面から噴出させ肛門周囲を蒸す。痔疾患に効果的。酸ヶ湯温泉(青森県)名物の「まんじゅうふかし」などがある。

温泉熱気浴
温泉で熱せられた地面に横たわり全身をじんわりと温める方法。玉川温泉、新玉川温泉(ともに秋田県)の岩盤浴が有名で、玉川温泉では成分が石化した「北投石」の上にゴザなどを敷いて横になり、温まるのが特徴。「北投石」は10年に1ミリずつしか大きくならない貴重な石で、国の特別天然記念物に指定されている。

泥湯
鉱泥、泥炭など天然の泥が溶け込んだ温泉に入浴する方法。別府温泉(大分県)などが有名で、温泉成分が皮膚から吸収され、慢性リウマチ、痛風、捻挫などに効果がある。

砂湯
海岸や川岸の温泉で温められた砂の中に体を埋める方法。砂の圧力がかかって新陳代謝が高まり、発汗が促進。指宿温泉(鹿児島県)が有名で、運動器疾患、神経痛などに有効。

佐々木政一
日本温泉気候物理医学会・温泉療法専門医。1951年和歌山県生まれ。和歌山県立医科大学大学院博士課程修了。医学博士で専門は消化器外科。海南医療センター副院長を経て和歌山つくし医療・福祉センター勤務。