作家の雨宮処凛さんが、上野千鶴子さんとの対談本『世代の痛み』についてご紹介くださいました。
雨宮さんのメッセージにぜひ触れてみてください。
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「絶滅危惧種」
この2、3年、同世代の人と話していると、そんな言葉を耳にするようになった。
それは自らを称する言葉で、「子孫・種を残せない」という理由から使われている。
「うちらどうせ、絶滅危惧種だからさ」という感じでだ。
そんな私は75年生まれの独り身、子なしの42歳。社会に出る時期とバブル崩壊後の不況が重なったことから、「就職氷河期世代」「貧乏くじ世代」「非正規第一世代」「ロストジェネレーション」などと嬉しくない名前ばかりがつけられている。
そんな私たちが成人を迎える頃から40代を迎える今までが、結果的に「失われた20年」と重なった。20歳から40歳までを「失われる」とどうなるか。私の周りには、大卒時と就職氷河期が重なり、「景気が良くなって正社員になるまで」の腰掛けのつもりで始めたバイトや派遣生活から抜け出せず、20歳の時とずーっと同じ時給で働き続ける40代の貧困層が多くいる。住みかは学生の頃と同じ六畳一間。加齢とともに仕事の条件は悪くなるばかりで体力も落ちていく。経済的な問題から恋愛も遠ざかり、結婚、子育てなどは「SF」のような遠い異星レベルの話。が、働き続けられていたり、学生時代と同じアパートを維持できているのはまだラッキーな方で、中には自殺したりホームレス化したり、長年の不安定・貧困・使い捨て労働の生活からうつなどになって働けなくなり、生活保護を受けている人もいる。
そんな40代前半は団塊ジュニアである。数が多いことから、この世代が出産適齢期を迎える90年代、00年代にはベビーブームが起きるのでは、なんてことも言われていた。しかし、この時期の日本では雇用破壊の嵐が吹き荒れ、非正規化やリストラが進む中、平均年収172万円の非正規層の多くが貧困生活を強いられ、一方で正社員の労働もブラック化していった。その結果、ベビーブームが起きるどころか少子高齢化は深刻化したという次第である。
そんな団塊ジュニアの多くは、団塊世代の親が当たり前に手にしていたものをすべて手にしていない。終身雇用と年功賃金を前提とした正社員の椅子、結婚、出産、子どもを持つこと、ローンを組んで買った家、老後の年金、老後に頼れる可能性のある子どもなどなどだ。
思えば、団塊世代の人生は、右肩上がりの経済成長とともにあった。しかし、団塊ジュニアは社会に出たその瞬間から、経済の停滞の中にいる。「一億総中流」という言葉は既に死語となり、この社会は「頑張れば報われる」社会から、とうの昔に「どんなに頑張っても一定数は絶対に報われない社会」となったのに、団塊世代の親にはそれが実感としてなかなか理解できない。だからこそ、時に深刻な対立が親子間で起きてしまう。それは、成長とともにあった「昭和」と、停滞と低成長の「平成」の闘いだ。
そんなこんなについて、団塊世代である上野千鶴子さんと存分に語り合った本が出た。『世代の痛み――団塊ジュニアから団塊への質問状』
というタイトルだ。
ここまで書いてきたようなことだけでなく、団塊世代全員が75歳以上になる2025年問題や、もはや「老いる」ことさえできないかもしれない「団塊ジュニアのこの先」などついても語った。低賃金ゆえ実家を出られない団塊ジュニアや、親の年金でなんとか暮らす団塊ジュニアの姿などは私にとってありふれた光景だ。今後、彼ら彼女らは、自らが経済的自立を果たす前に、「親の介護」という問題に直面する可能性がある。その時、どうやって共倒れを防げばいいのか。そんなことについても語った。
ぜひ、一緒に考えてほしい。そして何ができるか、オープンに議論していきたいと思っている。政策の対象として忘れられ、日本の労働市場から取り残されてしまった団塊ジュニアの「生き延びるモデル」を作ることは、若い世代を救うことに必ず繋がると思うから。
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雨宮処凛
1975年北海道生まれ。作家・活動家。反貧困ネットワーク世話人。2000年に自伝的エッセイ『生き地獄天国』でデビュー。以来、「生きづらさ」や格差・貧困問題に取り組む。著書に『生きさせろ! 難民化する若者たち』(JCJ賞〈日本ジャーナリスト会議賞〉受賞)、『一億総貧困時代』など多数。