記者「こういう記者会見をするという行為自体が、すごく『リクルートOBっぽい』と言われてしまうと思うんですよ!」
そんな、鋭いツッコミが入った、(新書業界としては)異例の発売前記者会見。
「若き老害」常見陽平氏と、大学の同級生でもありサークルも同じだった、盟友・中川淳一郎氏とのかけあいの様子をダイジェストでお伝えします。
*構成 中公新書ラクレ 黒田
- ……で、常見はリクルート、好きなの嫌いなの?
- 常見:
元リク(リクルート出身者)って辞めることを「卒業」って言葉を使うじゃないですか。僕あれ気持ち悪くて、絶対「退職」って言うことにしているんですよ。この本にも書きましたが、「卒業」というわりには「卒業試験受けたのかよ」「単位取ったのかよ」と。せいぜい「中退」と言ったほうがいい。
- 中川:
あるいは「除名」かなんかだよな。
- 常見:
「除名」もたまにいますね。ところで、中川さんを含めて、博報堂OBはみんな結構輝かしいですよね。
- 中川:
オレは輝かしくないけど(笑)。みんな会社が嫌で辞めたわけじゃない感じだよね。……で。結局、お前はリクルート好きなの、嫌いなの?
- 常見:
その前に、あなたはリクルートが好きなの?
- 中川:
オレは「どうでもいい」と思っている。
- 常見:
えっと、その心とは?
- 中川:
リクナビにいじめられた経験がないから。
- 常見:
そう、僕らは就活の時にリクナビがなかった世代なんですよね(注・中川氏は1973年、常見氏は1974年生まれ)。
- 中川:
あと、SUUMO(リクルートの不動産ポータルサイト)を使わないで、近くの不動産屋のほうが便利だし、とか。
- 常見:
それはリクルートを肯定していそうでdisってませんか。
- 中川:
いや~、だってわからないんだもん。何のサービスをやっているんだか。
- 常見:
それ、一つの答えかも! 「すべての人生が、すばらしい」とリクルートのCMは言うけれど、本当にすばらしいサービスがリクルートにはあるのかないのか、実はわからない。
同社の課題は、生活者が“常時接続”しているサービスが少ないこと。家を買うのは二~三回、車は多い人で五年に一回、結婚は一~二回、新卒就活は一回、転職で二~三回……。実は生活者はあんまりリクルートのサービスと接点がないんですよね。例外は『R25』と『HotPepper』、たまに出張だなんだで使う『じゃらんnet』くらい。
- 合コンで最高な女子は“リク女”とNTT女子が第1位!? じゃあ第3位は?
- 常見:
ところで中川さんは、ご出身の博報堂関係者で嫌いな人はただ一人だけだそうです。僕はリクルート関係者で嫌いな人が7割。でもその7割も、あの会社でなく別の場所で出会っていたら、嫌いになっていなかったかもしれない。
リクルートを揶揄して、あるいは自虐的に「利狂人」「理狂人」という言い方があるんですが、その「利益に狂う」「理屈に狂う」姿勢、あまりにも合理的にすぎるところが嫌われてしまうのでしょうね。
- 中川:
オレね、むかし良い会社の見分け方って、合コン相手が良いかどうかで判定したの。で、リクルート女子はNTTコミュニケーションズ女子と並んで最高クラスでした。NTTは上品で、リクルートは女っぽくなくていいんですよね。「中川さん、あんた仕事どうなのよっ」「それ。面白そうね!」みたいなノリで。ちなみに第3位は創価学会。
- 常見:
すごい反応に困りましたけど(笑)。合コンって、たまに年収自慢してくる男がいるじゃないですか。たいていリクルート女子のほうが稼いでいるんですよね~。30歳になる前に年収1000万円稼げますからね。
- 中川:
さあ、みんなリクルートに就職だ!!!
- 常見:
……って、そんな安易な結論になるんですか?
- 金かテクノロジーか
- 常見:
それで、『ウェブはバカと暇人のもの』を書いたネットの論客である中川さんにすごい真面目な話を聞きたいのですが、ネットの時代というのはある意味ユーザーが主役の時代じゃないですか。そんな時代に顧客企業に課金して儲けているリクルートって、どう評価していますか?
- 中川:
思い出すのは、クーポンの共同購入サイトがいくつか出たとき。リクルートの「ポンパレ」(2010年~)がすごい資本力でぜんぶ駆逐したんですよね。なんだかやりすぎじゃないの……という気がしていた。今は、いいものは勝手に選ばれるという時代ですね。
- 常見:
そう、解決する手段は金かテクノロジーかになっている。リクルートはグループ全体で約2万5千人いるんですよ。そこに約1500人エンジニアがいる。
- 中川:
すごいね。で、あらためて聞くけど、リクルート嫌いなの? 怨念から生まれたの? この本は。
- 常見:
最初は怨念です。リクルートの人たちって「自分の市場価値を上げろ」とか言うじゃないですか。そのわりに、昔の査定で僕を評価するんですよ。『日経ビジネス』の巻頭インタビューや、日経や朝日の論壇コーナーに出てもね。そういう閉じた感じが嫌だった。
- 中川:
さあ、これは怨念が詰まっている本だぞ~。
- リクルートの「朝日新聞」をめざします
- 常見:
ちょっと、そこはフォローさせて下さい。怨念というよりは「愛と怒り」が詰まっている感じです。今のリクルートは、いわば「経営の教科書」みたいな会社、理想的な会社になりました。峰岸真澄社長はかなりシステマチックなマネジメントを導入しています。グローバル化、ITで攻めている。ところが、それは攻めているのか、飲み込まれているのか。
峰岸さんはもともとは『ゼクシィ』の編集長や事業部長だった頃に頭角を現したのですが、その頃は生活者重視を唱えていた。詳細にマーケティングデータを取って生活者に向き合っていたのに、今はそれが感じられません。最終章で僕はかなりの紙幅を割いて、いまの経営陣を批判しています。
『リクルートという幻想』を書きつつも、この本も新たな“リクルートという幻想”をふりまくんだろうと思います。というのは、各時代で働いている社員は移り変わるわけで。
ただ、むかし創業者の江副浩正さんは社内報『かもめ』を「リクルートの朝日新聞」と言っていたように、前向きな批判をする風土があったんですよ。本書で、僕もそういう意味での前向きな批判をしたかったのです。賛否両論があることは覚悟のうえで、著者生命を賭けた本だと自負しています。
- 中川:
常見、よくやった! いい会見だった。
- 常見:
お互い大人になりましたね。でも、まさかゴミ箱を頭から被されるとは思わなかったなあ。(“ゴミ箱チャレンジ”は動画http://youtu.be/dTechP9oaJMにてご笑覧を)
お互いの健闘をたたえ合い、ガッチリ握手
ファイティングポーズで、闘う姿勢満々の常見氏
(後記)
冒頭の記者さんのツッコミに対して、常見氏が即興で一気にまくしたてた答えはこれ。
「ご安心下さい、リクルート出身者で本の発売前に記者会見を開いた人はいないはずです。リクルートっぽいのは、こんなやり方です! まずリクルート出身者が経営している飲食店を貸しきりにしてパーティーにするんです。会費六千円で、じつはお店に支払うのは4500円なんですけど、その余ったお金でスタッフに還元するのと、著書の代金が含まれているんです。その著書も紀伊國屋書店で買って、売上げデータを上げるんですッ。これが、リクルート出身者のやり方ダァッ!」
常見陽平氏:評論家・人材コンサルタント。1974年生まれ。北海道出身。一橋大学商学部卒。同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。新卒でリクルート入社。玩具メーカーに転じ、新卒採用を担当。その後フリーに。千葉商科大学などで非常勤講師を務め、2015年4月より同大学国際教養学部専任講師に就任予定。リクルートでは、通信サービスの事業部を4年、『とらばーゆ』編集部に1年、トヨタ自動車との合弁会社オージェイティー・ソリューションズで2年、じゃらんnet編集部に1年半在籍。『僕たちはガンダムのジムである』『「できる人」という幻想』『普通に働け』など就活、キャリア関連の著書多数。
中川淳一郎氏:ライター、編集者、PRプランナー。1973年生まれ。東京都立川市出身。一橋大学商学部卒業後、博報堂CC局で企業のPR業務を担当。2001年に退社し、しばらく無職となったあとフリーライターになり、その後『テレビブロス』のフリー編集者に。企業のPR活動、ライター、雑誌編集などを経て『NEWSポストセブン』など様々な、ネットニュースサイトの編集者となる。主な著書に、当時主流だったネット礼賛主義を真っ向から否定しベストセラーとなった『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『夢、死ね!』などがある。割りと頻繁に物議を醸す、歯に衣着せぬ物言いに定評がある。口癖は「うんこ食ってろ!」。ビール党で、水以上の頻度でサッポロ黒ラベルを飲む。Twitter:@unkotaberuno