「就活前に読んでおきたかった」と好評の『女子と就活』。刊行後に、「女性活用」が政策課題としてクローズアップされるなど、ますます「女子界」のライフスタイル事情は激変中です。
 そこで、共著者の白河桃子さんと常見陽平さんが、もう一回本気で「就・妊・婚」について話し合ってみました!

女性の登る三つの「山」――どの「山」とも無関係ではいられない
常見:

 白河さんは「女性が登る三つの山」があり、それは「就・妊・婚」だというお話をよくされますよね。これらの「就=就職」、「妊=妊娠」、「婚=結婚・子育て」、というのは担当省庁も違い、学校で教えられる時の授業も別々ですね。

 大学などで教えていると、これらの「山」の重要性に対する認識の弱い「気づいていない女子学生」が多くいるように感じてしまうのですが、彼女たちは幸せな人生を送ることができるのでしょうか?

白河:

 私の印象では、今の女子学生はみんな「マジメ」で「いい子」です。就職しようという意識もあり、勉強も疎かにはせずに取り組んでいるし、加えて上位校の学生ならばジェンダーも学んでいる。それでも彼女たちのほとんどが、自分の人生において実際に三つの「山」が連続して待ち構えているということがイメージできていません。

 「就職することは大切なんだ!」や「結婚は人生でも重要な選択だから慎重にしないと!」というように一つ一つの「山」に関する意識はあるけれども、「三つの山が繋がっている」という認識は欠けていると思います。

常見:

 そんな「気づいていない女子学生」を気づかせることが、まさに白河さんのお仕事ですよね。

白河:

 そうなんです。そして三つの山を考えるための認識は、できるだけ早く持った方がいいですよね。高校の進路選択は結婚・妊娠に繋がっていると思っています(白河桃子・斉藤英和著 『「産む」と「働く」の教科書』講談社を参照)。

 今のアラサーの女性を見ていると、彼女たちはキャリアや結婚・妊娠については先が見えず、その中でキャリアに邁進しているようにも迷っているようにも思えます。認識が甘かったことを後になって後悔するのは、やはりもったいないと感じますね。

常見:

 ネットが普及して、これだけ情報は溢れるほどあるのに、自分に必要な情報・知識を獲得できていないのは、もったいないですね。

大学の「強さ」とは何か――新興・高就職率大学論を問い直す
常見:

 最近は「大学を選ぶこと」の重要性について考えています。「就職に強い」と言われている大学や、偏差値が低く、歴史はないが「お得な」大学をメディアは煽っていますね。でもこれは何も新しい話ではなくて、僕が高校生だった15年~20年前から「偏差値だけに囚われない大学選びをしよう!」という話はありました。

 私が感じているのは、「就職に強い」大学や「お得」な大学に行くことと、いわゆる「名門校」に行くことで、その後の人生はどう変わるのかという内実は、ちゃんと問われていないということです。

 もちろん根強い「偏差値一辺倒」の価値観のカウンターとして、メディアが煽っている言説にも一理あることは認めざるを得ません。またネットスラングで「Fラン」大学と呼ばれる大学にはすごい面もあり、世間から良い評価をされていなくとも、生徒を実際に集めているし、入学した学生たちを4年間で鍛え上げて、就職させています。

白河:

 しっかりと教育がなされて、次のステップへと生徒を送りだしているのはすばらしいですね。

常見:

 そういった大学は日本の産業構造に合っていて、学生たちはサービス業中心に就職しています。しかしそういう新興の「就職に強い」とされる大学がもてはやされる一方で、私はそれだけで「大学の強さ」は語れないとも思っています。

 たとえばどんな時代でも、慶應は「強い大学」ですよね。なぜでしょうか。慶應大学はボンボンもいて貧乏もいるというピンキリの大学で、バブル期には「低能未熟大学」なんて冗談もありましたね。白河さん、慶應出身でしたね(笑)。

白河:

 (笑)。確かに勉強していませんでした。

常見:

 「慶應がなぜ強いか?」と問われれば、やはり卒業後も活用できる人脈や優秀な教員による高い教育水準、日本中のどこでもわかってもらえる認知度の高さなどが答えになると思います。

 短期的な就職率のような「数値」では、在学中に「どのような広い世界が見えてくるか」や卒業後に「どれほど豊富な選択肢があるか」という大学の価値を知ることはできません。どの大学を選べば、その先にどんな進路があるのかということについては、もっと大学には情報開示をしてもらいたいと思っています。

女性に身近な問題としての「貧困」――未来は貧しい「おひとりさま」?
白河:

 女子の場合は、大学進学に関して「二極化」が進んでいます。「大学は就職のためだけに行くわけではない」という論理は、やはり上位の大学への進学者の話です。それ以下の学力の女子高生は、「ある分野で手に職が付き、資格ももらえ、卒業すれば一生食いっぱぐれることのない仕事につける」大学がもし仮に存在すれば、みんな行きたいというのが本音でしょう。

常見:

 確かに、「食いっぱぐれない」の優先順位が高い人は行くでしょうね。

白河:

 実は、大学進学を考える上で、「いかに食いっぱぐれないか」ということはとても重要な項目になっています。

 今ボランティアで高校や大学で行っている講演があるのですが、最近のそういった講演での目的は「女性の貧困」防止です。

 今の若い人たちを見ていると、日本は少子化ですが、幸いにも個々人の女性たちは「子供は産みたい」と思ってくれています。つまり多くの人に結婚願望はあると考えてよいと思います。

 しかし一方で、かつて「結婚をして子供を産んだ」65歳以上の女性の「二人に一人」が貧困に陥っているのが日本の現状です。彼女たちは統計上では97%が結婚していた世代なので、結婚はしていたけれども、離別・死別で突然「貧困」へと転落していった人々なのです。夫は死んだ後の家族の分まで稼いでなかったこと、ほとんどの妻は子育ての後にパートでしか働けない、「自活」できなかったことを考えれば、戦後の専業主婦モデルが失敗だということは明確です。

常見:

 つまり離別・死別で貧しい「おひとりさま」が即完成してしまうのが、日本の現状だということですね。白河さんが力強く「自活女子」を推奨されているのも納得です。

 地方では、老老介護、認認介護が行われているということが報道されていますよね。 

女は寿退社できるから楽? 男に負けないように働かないといけない?
白河:

 もはや「女の子は結婚したら働かなくていい」時代ではないのに、やはり根深い「誤解」があります。年配の大学の先生では「まぁ女の子は就職できなくても、結婚すればいいかぁ」という感じで、就職の決まっていない女子大生の就活指導をせず放置するタイプの人も多くみられます。

 一方で高偏差値の女子大では「男に負けるな!」と輝かしいキャリアを目指すように就活指導をしています。でもこのどちらのケースも現実を捉えそこなった指導だと思います。

常見:

 そうですね。この二、三年で女子界も大きく変わりましたけど、女性が働くことへの誤認はまだ残っていますね。白河さんのおっしゃった通り、「男性に勝る意識の高い女性モデル」と「ユルふわモデル」しかなく、ちょうどいいモデルが存在していませんよね。

白河:

 経済界の人々は「女性活用」なんてことを言っておられますが、未だに「働きたい女性が働き、働かない人もいる」というゆるい認識をされています。でも現実は「働きたい/働きたくない」ということにかかわらず、もう働かなければいけないのです。今の日本に必要なのは、「普通の女性」が普通に結婚・普通に出産・普通に子育てできるモデルです。

 また結婚・出産を経て、今働いて子育てしている40代の女性たちは、喩えるとするならば「キャリアウーマン界のイチロー」です。ワーキングマザーの例として、そんな人ばっかり見せられても困りますよね。男性でも「イチローになる!」という意気込みで会社に入りませんよね。

常見:

 到底マネすることのできないモデルばかり提示されているわけですね。

白河:

 女性が働く環境の整備もまだまだですが、やはり根深いのは働くことに関する「思想」の違いですね。「働くこと=尊い」という金科玉条を掲げる「会社教・仕事教」が蔓延していていますね。「会社教・仕事教」というと男性の考え方のようなイメージですが、昔にキャリアを築いた女性たちは男の三倍働き、半分以上「男性化」して「会社教」に順応した人たちなのです。

 そんな人たちが考える「尊い仕事」像と、これからの人がやっていかなければいけない「当たり前の仕事」像はまったく違うものなのです。

常見:

 そこで可視化されるのは、「仕事」「会社」そしてその前段階としての「大学」といった言葉で、みんなが連想するイメージが違うということですね。「仕事」という言葉のイメージの「多義性」にこれからは目を向けていかなければいけませんね。

「働くこと」は選択項目ではない――切れ目なく細々働き続けよう!
白河:

 限定正社員の話などが話題で、これから社員のタイプは分かれていくことになると思いますが、女性は「働き方を選ぶ」ことが何よりも大切だと思います。もし「選ぶ」ことが難しくとも、「切れ目なく細々働くこと」が自分の身を守るために必要だと思います。

 NPO法人「3keys」(3Keys http://3keys.jp/)によると、「女性は子供を産んだら10人に1人、離婚すれば2人に1人が貧困に陥る」という統計があるそうです。また他の子供関係のNPOの方は、子供の7人に1人は「貧困」状態にあるとおっしゃっていました。ここでいう「貧困」は生活保護の受給が必要であるということではなく、「学習支援を受けなければならない」という意味です。またシングルマザーの方々は6割が子連れ離婚であるにもかかわらず、その内の8割の方が養育費を受け取っていないというデータがあります。母子家庭は62%が相対的貧困率を切っているので、女性は決して働き続けることを手放してはいけないのです。

常見:

 「就活だ!」「妊活だ!」というけれども、そもそも「生活」が大切だということですね。

白河:

 女子大で教えるとき、よく「働くことは何ですか?」という質問をします。でも「当たり前です」という解答をするのは、1クラスに1人か2人しかいません。「当たり前です」と答えた彼女たちがなぜそのような認識を持てているかというと、お母さんがずっと働いていたり、お母さんが離婚またはお父さんの病気で働き手が交替していたり、奨学金をもらっていたり、経済的に立ちいかないから離婚できないという愚痴をずっとお母さんから聞かされて育ったりしてきたといった理由からです。

 「どういう働き方したらいいか」や「理想の仕事とは何か」という問題設定よりも、「どうしたら働けるか」や「どうすれば食いっぱぐれないか」というように考えているから、軸がはっきりしていて就職活動においてもブレがありませんね。「当たり前」だからこそ、「じゃあ、どうしたら自分の価値が一番生きるのか?」「自分もやりがいがあり社会に貢献するには?」というさらに上のレベルのことも、地に足がついて考えられるのです。

(以下、次回に続く)

この記事の続きは、近日掲載予定です。お楽しみに!
なお、対談の音源が『陽平天国の乱』http://www.radiodays.jp/artist/show/700の46回~48回にアップされています。ぜひご視聴ください。

白河桃子:少子化ジャーナリスト、作家。東京生まれ。相模女子大客員教授、経産省「女性が輝く社会の在り方研究会」委員。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。齊藤英和氏(国立成育医療研究センター不妊診療科医長)とともに、東大、慶応、早稲田などに「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座」をボランティア出張授業。講演、テレビ出演多数。最新刊「『産む』と『働く』の教科書」

常見陽平:人材コンサルタント。1974年生まれ。北海道出身。一橋大学商学部卒業後、(株)リクルート入社。玩具メーカーに転じ、新卒採用を担当。その後フリーに。千葉商科大学などで非常勤講師を務める。『僕たちはガンダムのジムである』『「できる人」という幻想』『普通に働け』など就活、キャリア関連の著書多数。