人生100年時代の到来は、医療費貧乏の到来でもあります。イザというとき、自分と家族を守るためにどうすべきか......。
ラクレ新刊『医療費で損しない46の方法』では、以下のような内容で社会保障活用術をわかりやすく指南していきます。

◎お金に困ったとき、どうするか
◎医療費を節約する方法あれこれ
◎被害の補償を受けよう
◎障害者と難病の制度を活用しよう
◎働き手が病気・けがをしたら
◎税金の知識で負担を減らす
◎妊娠・出産・育児・介護を支える

そこで本書より「はじめに」を公開。その時の頼れる杖として、一家に一冊のご準備を!

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 はじめに

 この本では、医療にかかるお金の負担を減らす方法をいろいろ紹介します。
 病気・けがをしたとき、障害をもったとき、妊娠・出産・子育て・家族の介護のときなどに、出費を減らすだけでなく、お金をもらえる制度についても幅広くまとめています。
 医療費の節約法と、公的給付の獲得法を中心に、知らないと損をする情報、暮らしに役立つ知識を詰め込んだ実用本です。

 病気やけがをしたとき、心配なことは何でしょうか。
 どういう病状なのか、ちゃんと治るのか、どの医療機関にかかればよいのか、自分の治療はうまくいくのか......。そういった医療の見通しや医療の内容は、もちろん気になります。
 
 それと同時に、不安が生まれるのは、お金のことです。日本では原則として全員が何らかの公的医療保険制度に加入しますが、保険料が必要だし、利用は無料ではありません。
 医療費の自己負担割合は、一般的には3割、就学前の子どもは2割、70歳以上は2割、75歳以上は1割が基本となっています(所得の比較的多い高齢者は3割)。もし、かかった医療費の総額に比例して自己負担が増えたら、大きな病気のときは大変です(実際には上限が定められているので、ある程度までに抑えられる)。
 
 また、病気やけがで働けなくなって収入が減ったとき、生活費をどうやって確保するかという現実的な課題が、のしかかってきます。

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■ある程度のしくみは整っている

 お金のことが心配になるのは当然ですが、あまり悲観的になる必要はありません。
 公的医療保険には、月あたりの自己負担の上限額を定める高額療養費制度など、経済的負担を軽くするしくみが、ある程度は整備されています。
 
 それ以外にも、障害者や難病や子どもの医療費負担を軽くする制度や、労災保険を含め、被害の補償として医療費の負担がゼロになる制度があります。
 生活費についても、公的医療保険による傷病手当金、雇用保険による産前産後休業・育児休業・介護休業の給付金、障害年金、各種の手当などがあります。
 
 それぞれの制度には、利用できる要件があり、金額的にもけっして万全の保障とは言えませんが、まずは今ある制度を活用しましょう。ほかのしくみで足りないときは、生活保護を利用すれば、最低限度の生活に必要な収入と必要な医療が保障されます。

■申請主義と縦割りがネック

 それなら安心、とはいきません。ほとんどの制度は、自分から申請や請求をしないと利用できないからです。行政や関係機関のほうで自動的に適用してくれることは、めったにありません。
 
 担当機関の職員は、出された申請の内容をチェックして、要件を満たしていれば制度を適用し、負担を減らしたり、給付を決めたりします。いわば、受け身の仕事です。積極的に対象者を探して「あなた、この制度を使えますよ」と教えてくれることは、まずありません。
 こういう方式は、「申請主義」と呼ばれます。たとえ、その人が制度を利用できる要件を満たしていても、利用できることを知らないまま申請しなければ、損をしてしまうのです。
 
 そのうえ、医療を含めた社会保障、社会福祉の制度は、たいへん複雑です。すべての制度を詳しく知っている人は、日本のどこにもいないでしょう。
 しかも、担当する機関や窓口は制度ごとに縦割り。どこが担当窓口なのか、正解にたどりつくのに苦労することがあります。そして窓口の職員は、自分の担当分野以外のことはよく知らず、ほかに利用できそう制度があっても、あまり親切に教えてくれません。
 高齢者の地域包括支援センター、障害者の基幹相談支援センター、子育て総合支援センター、生活困窮者自立支援事業のように、分野ごとの総合相談窓口は増えたのですが、分野横断の何でも相談センターという形は、まだほとんどありません。
 
 そういう状況なので、利用する側は、どういう制度があるのか、大まかな見取り図をつかんでおきたいものです。この本は、その手助けになるよう、幅広い分野を扱っています。
 といっても、自分だけでは見落としが起きがちだし、心理的にも苦しくなります。相談支援の専門職であるソーシャルワーカーをぜひ活用してください。

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■この本でお伝えすること

 さて、本の主な内容を、ざっと説明しておきましょう。
 
 第Ⅰ章は、医療にかかるお金に困ったときの対処法です。無料または低額で診療を受けられる医療機関があるのをご存じですか? 災害や失業で医療費の自己負担が減免される場合があるのを知っていますか? 高すぎる国民健康保険料を減らす方法は? 医療費や生活費に困ったときには、生活保護という手段もあります。勤労収入や年金収入があったら対象外だとか、持ち家や自動車があったら生活保護は絶対に無理だとか、誤解していませんか?
 
 第Ⅱ章では、余分な費用を払わず、医療費を節約する方法をお伝えします。納得のいかない差額ベッド代や保険外の費用を請求されたらどうするか? 払いすぎた医療費を取り戻せる高額療養費の制度はどういうものか? 治療用装具の代金、緊急受診の交通費、海外の医療費などに公的医療保険が使えるのを知っていますか?
 
 第Ⅲ章は、被害救済の制度です。出産時の事故に備えた保険、くすりの副作用やワクチンによる健康被害の補償、肝炎ウイルス感染の救済などを説明します。アスベストによる被害も大きな課題で、肺がんはアスベストが原因で起きることもあります。
 
 第Ⅳ章では、障害者と難病の制度を取り上げます。障害者というと、限られた人たちのように思う人が少なくないのですが、病気が原因でも、状態によっては障害と認定されます。障害者手帳、医療費の軽減、障害福祉サービスを使えることもあるし、障害年金を受け取れるかもしれません。難病と子どもの慢性の病気には、医療費の助成があります。
 
 第Ⅴ章は、労働者が病気やけがをしたときのサポートです。自分のミスによって職場でけがをしたときでも、会社から帰る途中のけがでも、労災保険を請求できることを理解していますか? 仕事と関係ない病気やけがでも、会社を休んで給与が出なかったら、傷病手当金をもらえるのはご存じですか? 病気やけがで勤めを辞めるとき、退職日に出勤したら、その後の傷病手当金をもらえなくなるって、知っていますか?
 
 第Ⅵ章は、税金の話です。医療関係の本に、なぜ税金が登場するのか。医療費控除のほか、障害者控除というしくみもあります。それらを利用して課税対象所得が減れば、税金だけでなく、医療・介護・福祉の自己負担が減るかもしれません。また、老齢年金以外の公的給付や蓄えで暮らしている人は、課税されなくても収入を申告することに意味があります。
 
 第Ⅶ章では、妊娠・出産・育児・介護を支える制度や事業を紹介します。産前産後休業・育児休業・介護休業の期間は、雇用保険から給付金を受け取れることはご存じですか? 学校の活動や通学中に子どもがけがをしたとき、学校災害共済から給付金が出ることは頭に入っていますか? 子どもの虫歯などの治療を低所得世帯なら無料で受けられる「学校病」の制度は知っていますか?
 
 なお、民間の各種保険は、この本では扱いません。必要なら民間保険も考えてよいのですが、それを検討する前提として、まずは公的制度に何があるかを理解しておきましょう。

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■利用する側の視点で

 この本は、患者・家族をはじめ、一般の方々を念頭に置いて、制度を利用する側の視点から書いています。そのため、文章はなるべく専門用語を減らし、わかりやすい表現にしてあります。ときには、くだけすぎた言い回しがあるでしょうし、筆者の個人的な意見が顔を出すこともありますが、スパイスと思ってご容赦ください。
 
 「46の方法」というタイトルは、各章の下にある「節」の合計数です。細かく見ていくと、100余りのしくみを紹介しています。どういうときに、どうすれば利用できるのか、大事な制度は、実用につながるレベルまで説明したつもりです。
 したがって、一般の方々だけでなく、ソーシャルワーカーをはじめとする福祉関係者や、医療関係者、行政関係者にも、有用な内容になっているはずです。
 
 制度の内容は、2018年11月時点のものです。給付金額は毎年変わるものが多く、制度そのものも、ときどき変わるので、注意してください。
 多くの方々の医療や生活のサポートに、この1冊が少しでも役立てば幸いです。

原 昌平:読売新聞大阪本社編集委員、精神保健福祉士。1959年生まれ。1982年京都大学理学部卒業、読売新聞大阪本社に入社。京都支局、社会部、科学部デスクを経て、2010年から編集委員。1996年以降、医療と社会保障を中心に取材する。社会福祉学修士。ファイナンシャルプランナー。大阪府立大学・立命館大学客員研究員。