読者のみなさま、こんにちは。ラクレ担当編集者です。

 11月10日に刊行した『23区格差』をご存知でしょうか? 「港区904万円、足立区323万円」という、若干ザワつくキャッチを配置したこともあってか、メディアからのお問い合わせ多数、某サイト上にはスレッドがたちあがり、さらに発売日翌日に重版決定と、ヒットの気配プンプン。おかげさまでこの勢いはまだ続きそうです。

 そこでこの勢いに乗じ、本の内容とあまり関係ないお話で恐縮ですが、僭越ながら「なぜ私がこの本を企画したのか」について、ここで大きめの独り言をつぶやかせていただこうと思います。

 今いちど申しますが『23区格差』の説明は少々しかありません。ですので、もし「本の情報だけを知りたい」という方は、大事なお時間を消費して落胆される前に中央公論新社のサイトに旅立っていただくか、お近くの書店さんに足を運んでいただくか(これ大切)、とにかくまた別の場をお探しくださいませ。

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「豊島区が消えるかもしれない問題」勃発
 それは昨年、2014年のある日のこと。となりに席を並べる新書部から、のちに大きな話題となる書籍が刊行されました。元総務大臣で元岩手県知事の増田寛也さん、そして日本創成会議による『地方消滅ーー東京一極集中が招く人口急減』です。

 その本では全国1800のうち、896の自治体が消滅するかもしれないという緊急事態が告げられ、そのショッキングな内容もあって瞬く間にベストセラーに。見事、新書大賞にも輝きましたので、ご存知の方も多いのではないでしょうか?

 しかし『地方消滅』によれば、オリンピック開催を前に元気のいいイメージのある東京23区にも、実は消滅が危惧される区が一つだけあるとのこと。それが豊島区でした。

 詳しくは読んでいただければと思うのですが、出産・子育て世代の女性の活力が弱く、空き家も多い豊島区は、この先消滅してもおかしくない「消滅可能性都市」であると。消滅可能性都市はその年の流行語大賞にもノミネートするなど、これまた話題のキーワードとなりました。

「へえ、そうなんだ。これは大変だ」

 などと本を閉じ、ボンヤリとパソコンに向き直した私でしたが、そこでハッと気付きます。建築中の自分の家が、何を隠そう、その豊島区にあることを!

 茨城の田舎出身で、マンションになじみの無い30代の私。「家を買うなら一戸建て!」などと、数年かけてあちこちの不動産屋さんや銀行を駆けまわり。物件が決まれば決まったで、建築事務所や部材の展示場などに足しげく通い、ようやく家を新築することになったのですが......その建築中の家の住所が、なんと消滅可能性都市・豊島区だったのです。

なぜ私は豊島区が消えると聞いて慌てたのか
 地価の高い東京だけに、狭い狭い敷地に建てている家。外資系金融機関に勤めて稼ぎまくる知り合いからは「pencil house」と呼ばれています。そのかわいいペンソーハウスが消滅可能性都市に建っているとは!!

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建築中のペンソーハウス

 埼玉県の衛星都市、池袋を構える豊島区。池袋駅は乗降客数がすごく多いし、ビックカメラもあちこちにあるし、東に西武に、西東武。消えるわけないじゃないか! 私はひどく憤慨しました。

 とは言っても、確かにご近所はお年を召した方が多いし、近くの商店街はシャッターが閉じた店舗が目立つ。そこらを飛び交うのは中国語かネコの鳴き声ばかり。そう言われればそうなのかも......などと、少しだけ落ち込んでもいたのです。

 しかし、私はどこかで疑問にも感じていました。東京は普通の自治体とは毛色が違うはず。なんせ世田谷区一区だけで、鳥取県の人口を凌駕するのです。それをほかの自治体と同じ基準で捉えるのは、果たして本当の意味で正しいのだろうか? 

 モンモンと疑問を抱いた「豊島区・愛」一色の私。そこで駆け込んだのが自治体のデータを収集し、それをもとにコンサルティングを行う23区研究所所長・池田さんのところでした。

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近所でよく見かける住民集会の様子

 たとえばわかりやすいのは診療所の数。何か体に不調があったときに駆け込む診療所の数が23区中1番なのは世田谷区でした。だからといって「やっぱり世田谷だなあ」となるのはいささか性急であり。

 先に述べたように、世田谷区より人口が少ない県は、鳥取県含めてなんと7つもあります。であれば診療所の数が多いのはあたりまえ。さらに他の区を見てみれば、江東区などは、実にその総面積の3割が無人。誰も住んでいません。まして東京は昼間人口と夜間人口に、かなり大きな偏りもあります。そう考えると、こういった指標を単純に算出・比較するのはとても難しい。

 だからこそ池田さんにご相談し、現実に沿う形でデータを丹念に調べ、つむぎ、本当の意味で23区の強さを弾き出すことにいたしました。それが今回の『23区格差』です。
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いきつけのホルモン屋さん。数字に表せない満足度も東京の魅力では

中公新書に負けるな
 同書では23区のなかで受けられる教育や子育て支援、医療といったサービスの手厚さの差はもとより、厳然と存在するのにこれまであまりフォーカスされなかった、年収・学歴・職業の格差などにも触れています。結果としてたどり着いたのは、23区にはそういった格差があってしかるべきであり、そこからパワーがこんこんと湧き出している、という事実でした。

 ではそういった視点であらためて捉えたとき、果たしてこの先、本当に豊島区は本当に消えてしまうのか? その回答はしっかりと同書に記させていただきました。

 やや公私混同なテーマでもありますし、主張が異なった結果「中公新書」VS「中公新書ラクレ」という、レーベル対決的な趣きもある同書ですが、東京、そして日本の未来を占う一冊でもあります。ぜひ書店で手にとってご覧ください。(以上、結局は宣伝で終わります)

 特別編集部 吉岡
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美しい豊島区の空でお別れいたしましょう