15年春。アベノミクスの効果もあってか、日経平均株価が上昇を続けています。気が付けば、野田内閣が解散を表明した2012年11月につけていた株価、 その2倍をもゆうに超え、2万円台も視野に入ってきました。

 高値更新のニュースを前に「あのとき買っていれば......」、などとため息をつく方も多いのでは? 一方、出遅れたために痛い目にあった方なら「さっさと売っていたら......」などと考えているのでは? 

 ラクレ4月刊『いつも出遅れる人の株講座』は、その「たら」「れば」から卒業するための極意が満載。その刊行を前に、その著者である太田さんにお話をうかがいました。投資の参考にも、ぜひご一読を!

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Q:まず、太田さんご自身についてあらためて自己紹介をいただけますか。

A:わたしは1988年に証券業界に入りました。この時期はちょうどバブル崩壊直前にあたります。そのため、ずっと右肩下がりとなる難しい株式市場で、アナリストやファンド・マネジャーを務めることになりました。

 一番長く在籍したのがJPモルガンです。JPモルガンでは12年間にわたって小型株チームのヘッドとして調査・運用に携わりました。2009年からは太田忠投資評価研究所を設立して、個人投資家向けの投資講座を開催しています。


Q:証券業界でのキャリアは30年におよぶと。小型株アナリストとしては、ずっとトップアナリストだったとうかがっています。ところで、タイトルの「いつも出遅れる」という言葉がちょっと気になるのですが、これは?

A:株式投資関連の書籍だと、たいてい「儲ける!」とか「勝つ!」がお決まりだと思います。そうでなければ、投資本は売れないでしょうし(笑)。

 ただ、今回の「出遅れる」には、2つの大切な意味があります。ひとつは、相場が活況になっているにもかかわらず「買い遅れる」という意味。そしてふたつめが相場がピークアウトし、下落しているにもかかわらず「売り遅れる」という意味です。

 いつも「勝つ」といきたいところでしょうが、「買い時」「売り時」を見極められるかどうかこそが、実は個人投資家にもっとも大事なこと。ですから、そのタイミングに悩まされがちな方が必ず役立つであろう内容を、今回まとめました。


Q:今現在、基本的に日経平均株価は上昇を続けているし、「買い遅れる」人向けの本だとばかり思っていました。たしかに「売り遅れる」というのもありますよね。

A:それこそが重要なポイントです。

 アベノミクス相場で、確かに株価は上昇をしています。その後押しとなるような、NISA制度もスタートしました。デフレから脱却し、インフレの時代に移り変わるなか、株式投資を始める人も増えています。

 ただし、単純な上昇相場だけなら「バイ・アンド・ホールド」、すなわち「買ったままずっと保有する」という投資スタンスで問題ないでしょう。しかし、日本の株式市場を長い目で見れば、そんなに簡単ではありません。特に「下げ相場」が来た時の対処を間違うと......それこそ立ち直れないほどの状況に追い込まれることも、覚悟しておかねばならない。


Q:この本でもっとも読者へ訴えたかったことは何でしょう?

A:そうですね。特に知っていただきたいのは、株式市場では「常識」が通用しない、ということでしょうか。


Q:常識が通用しない?

A:はい。より具体的に言い直せば「株式市場の常識」ですが。

 「株式市場の常識」≠「社会的常識」。ですから、世間一般的な常識にとらわれて、株式市場で行動してしまうと、あまりうまくいきません。すでに投資をしたことがある方ならお分かりかもしれませんが、それこそ「なぜ」と思うようなことが、頻繁に起こるのです。

 そういった事実を知らずして、株式市場という大海に飛び込めば、すぐに飢えたサメの餌食になってしまう。投資家として無知なこと、それはすなわち「お金を失う」ということを意味します。


Q:だんだん怖くなってきました......。

A:そう感じるほうが、ずっと健全です。大抵の人は、ときに恐ろしい事態が訪れることを知らないまま、買ったり売ったりしているのです。

 本質的な怖さを知らず、無知なままで行動してしまえば、本来「やってはいけない」ことまでやってしまう。悲惨な結果に直面して初めて現実を知ることになるでしょうが、大きな損失を抱えてはリカバリーもきかないし、恐怖から、蛇ににらまれたカエルのように、身動きをとれなくなってしまう。そしてまた、「出遅れる」という悪循環を起こすのです。


Q:そのような事態を避けるにはどうすればよいでしょう?

A:優れた投資家はやっていいことだけを実行し、やってはいけないことはやりません。それは、きちんとした知識やスキルを身につけているから。

 さらに、よくよく考えれば当たり前のことなのですが、「株が上がる理由、下がる理由」をきちんと理解しています。だから、上がる理由のある株を買い、下がる理由のある株を売っている。

 ただし個人投資家には、それらを知らないまま、感覚に頼って売買している方が本当にたくさんいます。わたしからすると、危うい投資をする方が多すぎる現実に唖然とする一方、これにはやはり警鐘を鳴らしたい。などと、ここまで記事をご覧頂いた方の多くは、今「ドキッ」としているかもしれませんが(笑)


Q:本書では投資技術だけではなく、心理的なアドバイスにも多くのページを割いていますね。

A:たとえば「危険なのは"たら""れば"の心理」とか「底値で買い、高値で売ることにこだわる」はそう。あとは「含み損を"損"と考えず、含み益を"利益"と勘違い」「利益が出た株をすぐ売却し、損失を抱えた株は売らない」「下がった銘柄を"安い"、上がった銘柄を"高い"と思う」などの項目もそうかもしれません。とにかく必ず知っておいて損のない情報を、読者へアドバイスするつもりで書きました。

 誰もが陥りやすい心理状況を、冷静に眺め、修正する技量がなければ株式市場では生き残れないと思います。やることなすこと裏目に出る投資家になってはどうしようもありませんから。


Q:そういった考えはやはりご経験から生まれたのでしょうか?

A:そうですね。

 まずサラリーマン時代、すなわちアナリストやファンド・マネジャー時代は、ときに数千億円単位にもおよぶ資金を運用していました。正にプロの機関投資家たちと切磋琢磨する毎日のなかでノウハウを学びました。

 その後、独立してからはインターネットによる投資講座を開催したり、講演をするなど、個人投資家と非常に近い距離で仕事をしてきました。そこで危うい投資のあれこれを垣間見たことで、知らなければならないことと現実との乖離を、自らの身をもって理解しました。本書で書いた多くは、こうした実地の体験からきたものです。


Q:失敗した個人投資家を反面教師としていると。

A:株式投資における「失敗」とはたった一つ。それは「損失」です。
一般の人は「儲けよう、儲けよう」という気持ちが先に出ていて、自分が失敗することなど全く考えていない。しかし、それこそが最大の失敗(笑)。そういう人に限って、大損をする。

 そうならないために、適正な知識を身につけるための、事前の準備体操が本当に重要です。準備体操をきちんとしておけば、いざという時にも、とっさに行動にうつれます。そして、それができるかできないか、で明暗がはっきりと分かれる。これは断言できます。

 スキルアップを本気で考えている人はぜひ本書を読んで欲しい。そういった方が求める、目からウロコのような知識がたくさん得られると思いますよ。


*Q:中央公論新社 吉岡宏

太田忠 
1964年大阪府生まれ。関西大学文学部仏文学科卒業。 ジャーディン・フレミング証券やJPモルガン証券で中小型株のトップアナリストとし て長年活躍。 JPモルガン・アセット・マネジメントではマネジングディレクターならびにシニア ファンドマネジャーを務める。 09年太田忠投資評価研究所を設立後、個人向けに投資講座を開催。高いパフォーマン スを実現している。 著書に『株が上がっても下がってもしっかり稼ぐ投資のルール』『賢い投資家必読! 株に強くなる本88』 (いずれも日経ビジネス人文庫)など。 毎週土曜日にFM軽井沢にて『軽井沢発!太田忠の経済・金融“縦横無尽”』を全国 に向けて放送中。 http://www.ohta-research.co.jp