12月新刊『肩書き捨てたら地獄だった - 挫折した元官僚が教える「頼れない」時代の働き方』の著者、宇佐美典也さん。
 
 現在は経営者であるとともに、テレビ番組でのコメンテーターなど、活躍の場を広げていますが、もともとは東大卒のキャリア官僚。いわゆるエリートでした。ブログや書籍『30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと』(ダイヤモンド社)を通じ、給与や官僚生活を公開したことを覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

 しかし「自由」や「起業」という甘い言葉に誘われるがままに経済産業省を退職後、仕事もお金も、そして仲間もない地獄へとなすすべもなく 転落。預金口座には『残金2万円』しかない状況へと追い込まれていきます。

 なぜ組織を離れ、個人で生きる道を選んだ途端、地獄に落ちてしまったのか? そこには「終身雇用」という幻想にまだ囚われている、 私たち現役世代の哀しい姿が見え隠れしています。

 新刊では、その ドン底からの生還体験、そして這い上がる過程で出会った、 「力強く生き抜く人々」から学んだヒントや経産省での経験を 生かし、未来の働き方・生き方を提言していきます。

 あまり大きな声で言わないけど、まもなくやってくる、国にも会社にも頼れない時代。その到来を前に、私たちは今日からどんな働き方・生き方を選ぶべきなのか?

 以下に宇佐美さんが手がけている『宇佐美典也のブログ』から、紹介記事を一部抜粋・修正の上で転載させて頂きます。書店店頭で手に取る前に、ぜひご一読を!

中公新書ラクレ編集部 吉岡 宏

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 12月に2年ぶりの新刊を出版します。

 タイトルは表題の通り「肩書き捨てたら地獄だった 」となかなか過激なものになっておりますが、これは私の経験上の嘘偽りない真実の言葉でございまして、安易に独立や起業を奨励する気風にもの申す意味もこめてこのようなタイトルにいたしました。

 久しぶりの本ということで、どのような内容にするのか迷ったのですが、私自身のキャリアの独自性は「官僚」というある種の組織・権威社会の頂点から、「ニート」に近いような一切の肩書きの無い社会から隔絶したドン底に落ちた、という両極端を味わったというところにあると考えておりまして、「肩書き」と「セルフブランド」というものにフィーチャーした内容になっております。

 具体的には、前半部分で私が「経済産業省の官僚」という肩書きを失ってから何とか生計を立てるようになるまでの体験談と考えたことをまとめ、後半部分では「普通の団塊ジュニア世代のサラリーマンは今後どのように働いて、生き抜いていくべきなのか」ということを論じております。

 改めて経済産業省をやめてから(2012年9月退職:最後の一ヶ月半はほとんど仕事をしなかったので実質7月退職)の2年半を簡単に振り返るに、やはり一番辛かったのは始めの半年で、何をしても上手く行かず、金も減り、人の縁も剥がれ、プライドもずたずたとなり、なす術も無く沈み込んでいで行く中で周りの人からもの凄い勢いで見捨てられていきました。

 官僚時代私に「よろしくお願いします」と頭を下げていた方々が、一転、「お前は本当にどうしようもない奴だな〜」と今度は蔑むような目で私を見るのはM気質の薄弱な私に取ってはなかなか辛いものでありました。

 温室お坊ちゃんで高学歴育ちの私に取ってはやや大げさなものの「地獄」と呼ぶにふさわしいものであったと感じます・・・。いや悪いのは周りではなく、無能な私の方なのですがね。

 そんなわけで独立後半年は今振り返ってもトラウマとなるようなことばかりだったのですが、なんとか官僚時代のご縁に泣きつく形で下請けの仕事をいただき飯を食いつなぐことができました。

 併せてあてもなく放浪して色々な人と出会ってどのように生き抜くか試行錯誤する中で、たまたまブログやtwitterやメルマガの伝てで出会った方々のご縁から(多少の戦略もありましたが)再エネ業界に足を踏み入れることになりました。

 その後、人の情けに甘える形でしばらくおまんまを食わせていただき、今年に入り色々な人のご指導をいただきながら仲間と再エネの電源開発の会社を立ち上げ、ようやくまとまった売上が見えて来たという現状です。

 一時期はキャバクラ嬢のコンサルなどという半ばヒモのような仕事までしていたのですが、その辺の経緯やそこから這い上がってくるまでの道筋も含め本にまとめております。

 後半部分では「組織への忠誠と身分の保障、そして定年後の年金生活」という考え方に基づく団塊の世代型のキャリアモデルの持続可能性や、それに対極する「フリーエージェント」という働きの可能性を論じております。

 官僚時代は現状の社会保障の枠組みが崩れかけていることで、私は団塊ジュニア以下の世代の将来を非情に悲観的に捉えていたのですが、木下斉氏なり、高木新平氏なり、家入一真氏なり、といった現代の旗手の方々に会ううちに考え方は変わってきておりまして「経済環境が違うのだから無理に親の世代の働き方のモデルに自分たちを当てはめて、勝手に悲観的になることはないのだな」と考えるようになって来ております。

 一応ジャンルで言えばこの本は「自己啓発本」というものに属するのかもしれませんが、実際にドン底をなめ、這い上がって来た人間が書いたという意味で、イケイケ一辺等風味のものとは異なる面白みのあるものとなっていると思います。

 一方で色んな議論をつまみ食いしており、まとまりが悪い、というところも自分ながら感じるのですが、ただ人生というものはそもそもそんなまとまりが良いものではないので、これはこれで等身大なのではとも思っております。

 ということで、いつか起業なり独立なりの形で脱サラを考えている人達には、間違いなく800円くらいの価値がある本だと思いますし、また将来への漠然とした不安というものを覚えている方にも働き方について色々考える材料が盛りだくさんになっていると思います。ご一読いただければ幸いです。

ではでは今回はこの辺で。

宇佐美典也

1981年、東京都生まれ。東京大学経済学部を経て経済産業省。企業立地促進政策、農商工連携政策、技術関連法制を担当したのち、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)にて電機・IT分野の国家プロジェクトの立案などに携わる。
在職中に「三十路の官僚ブログ」で自身の給料や官僚生活を赤裸々に公開して話題に。退職後、「30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと」(ダイヤモンド社)出版。
「世界へ飛び出せ」とあおる空気に、「それより力強く生きる、目の前のおじさん・おばさんにこそ学べ」と説いた「アンチグローバルマッチョ宣言」などがブレイクし、2012年BLOGOS AWARD新人賞を受賞。現在、株式会社トリリオン・クリエイションの代表取締役を勤めながら、テレビのコメンテーターなどへと活躍の幅を広げている。