腰痛、肩こり、膝の痛み。
 
 あなたが成人でこれらのどれにも悩んでいない、ということであれば、それは大変に幸福。そのことを心から喜ぶべきでしょう。なぜなら、この三つのいずれかに悩む人を合計すると、日本だけで数千万人に達すると言われているから。

 人はなぜ体を痛めてしまうのでしょうか? その理由の一つとして、日々の暮らしのなかで要求される、偏った動きや姿勢にあることは間違いないでしょう。しかしこれほどまでたくさんの人が苦しんでいる、ということを考えると、原因はそれだけでなく、そもそもの人体の構造・仕組みであったり、ここまでの進化の過程などにも秘密がありそうです。

 そこで、その全方位からの根治を目指して刊行したのが『腰・肩・ひざは「ねじって」治す』。そのため、著者も二人。

 一人は「体」の権威、ヨガスクール校長でウエイトリフティングの世界チャンピオン、山内英雄先生。もう一人は「進化」の権威、動物生態学者で、『親指はなぜ太いのか―直立二足歩行の起原に迫る』(中公新書)などの著書をお持ちの島泰三先生。

 人類がたどった400万年間で、いまだ解消していない痛みの謎。それを解き明かすべく立ち上がったお二人に、刊行の経緯などを聞きました。

*聞き手 ラクレ編集部 吉岡

ラクレ:

 さて、お二人考案の「リセット・トレーニング」がついに一冊にまとまりました。本を目の前にしてご感想はいかがですか?

山内
 イラストが良いよね! なかなか写真や言葉で伝えづらいところも、イラストにしたことで断然わかりやすくなった。説明も一言で済むし、自己紹介も「これを読んで」と渡せば済む! とても楽になりました(笑)。


 まだ発売したばかりなのでなんとも言えませんが、周辺の方の反応を聞く限り、やはり悩んでいる人が相当数いるようで、みんなとりあえず「買う」と。弁護士で医学博士である友人までも、「いつ出るんですか!一刻も早く欲しい!」と(笑)

ラクレ:

そもそも、なぜお二人によるご執筆になったのでしょうか?

山内
 自身が講師を務めるヨガや、世界チャンピオンになったウエイトリフティングを通じ、自分や人の体と向き合ってきたため、体がどういった性質を持ち、どうすると壊れ、そして治るかを、実際に見て、試す機会に恵まれてきました。それで得た解決法が「ねじる」だったのです。

 たとえば「たたく」というのは一方向にしか力を加えられない。しかしねじることで、いろいろなところにつながっている筋肉を、本来あるべき姿に戻すことができる。そして、その際には「支点」を作れば、ぐっと効果があがる。それがリセット・トレーニングのポイントなのです。

 しかし、私自身が感覚的にわかったとしても、体のことを言語化して、他の人に伝えるのはとても難しい。そこで動物生態学者で、生物の体の構造に詳しく、話せないはずの動物とですら会話ができる(笑)島君に解説をお願いしたのです。


 体が固まった場合、そのコリをほぐそうと人は無意識に体を動かします。寝返りなんかは分かりやすい例でしょう。体がトラブルを抱えたとき、どう対応すべきか、確かにかつての人類は知っていた。しかし長い歴史のなかで、残念ながらその多くを忘れてしまっている。
 
 たとえばオランウータンの雄は、けんかをすると必ず相手の金的を狙う(笑)。これは痛い、というだけではなく、子孫を残させないという決定的な弱点を知っているから。
 
 そういった決定的な体のポイント。ほとんどの人は忘れてしまったけれども、それを引き出すことが出来る、いわば体に関する「天才」。その一人がここにいる山内さんだった。天性とも言えるその感覚を、世に残すことは意義があることだと考え、解説をさせてもらいました。

右が山内先生で、左が島先生。お話をうかがっている間にも施術!

ラクレ:

 なるほど。確かにお二人に力を合わせて頂いたおかげで、この本を通じ、実は「体というものは、自分である程度までコントロール出来るもの」ということを、私も身をもって理解しました。

山内
 たとえば座ったままで首を右にぐっと回してみてください。これ以上回らないと言うところで右目をつぶる。そうするとさらに首が回るのがお分かりになるでしょう。声が出ないときに、実はのどの上を直接さすってマッサージすれば、ずっと声が出るようになる。

 どれもほんの少しのポイント。ただ、それをみんな知らないだけなのです。 


 知り合いの女の子が結婚式直前に、緊張のためか「胸が苦しい」と訴えていたことがあって。山内さんはその場にはいなかったのですが、胸を開く、呼吸を楽にする方法を伝授してもらっていたので、それを私の妻経由で、新婦さんに施術してあげました。すると式の後「あの体操をしてもらえなかったら、きっと式の最中に倒れていました。本当にありがとうございました」と感謝されて。
 
 実はそこで施術した方法というのも、まったく難しいものではないのですが、知ると知らないとでは生きていく上で、それこそ雲泥の差となってしまう。今回の「リセット・トレーニング」は、自分で自分の体をメンテナンスする方法を取り上げましたが、次作は「リセット・整体」として、二人でできる、たとえば旦那さんが奥さんに、お孫さんがおじいちゃんに、できる整体法などをまとめられれば、なんて思っているんですよ。

これが胸を開く体操です。後ろから支えながら腕を回す! ぐるぐるぐる・・・

ラクレ:

 今回の本で伝えたかったことをひと言で言うならばいかがでしょう?

山内
 私たちは体のコントロールはとにかく自分で出来る、ということを伝えたいと思ってこの本を書きました。紹介した方法も、誰でもできて簡単、しかも効果が出るものを厳選して、もったいぶらずに載せた(笑)。そのため他の本に比べるとずいぶん濃い内容になっているはずです。


 今の医療を考えたとき、あまりに知識偏重となってしまい、目の前に実際に痛む体があったとき、どう対処すればいいのか、専門家ですら考える余地が無くなっている。それはそれで非常に大きな問題だと思っているわけですが……

 ともかくこの本を手に取ったみなさん、その体の中にある納得出来るもの。どこをどうすればより動くようになり、痛みが取れるのか。それをきちんと理解してもらうきっかけに、この本がなれば、などと思って書きました。

ラクレ:

 最後にみなさんへのメッセージをお願いします。

山内
 ご要望があれば、この本を名刺代わりにどこへでも行って、リセット・トレーニングを広めたいなと。さっきまで動かなかった体が動き、痛みが取れる。これはお金をどれだけ積んでも、得がたい対価のはず。

 今度アメリカにも講義に行きますが、スクールでは予約を受けにくくなっているので、この本を読んで効果を感じ、興味を持たれることがあれば、数名集まるなどして声をかけて頂けると幸いです。


 本を書き終えた側から、まだまだ探求は続いています。視力回復法や便秘改善、効果的な肩たたき法……。7冊ぶんくらいの構想はあるのですが、一方で動物生態学者としての本業もありますので(笑)。それらはいずれ公表できればな、などと思っております。

 ぜひこの本を通じ、自分の体を自分で変えられる、その感動を味わってください。それはあなたの人生をずっと強くしてくれるはずです。

「ほら!水牛みたいな肩!」二人の探求は続きます・・・

山内 英雄(やまうち・ひでお)
1944年、山口県下関市生まれ。下関西高等学校、 早稲田大学商学部卒業。ジャパン・ヨガ・カレッジ学長。マスターズ・ウェイト・リフティング世界選手権優勝 (2010年、56キログラム級)。自身で運営する学校での講義、および国内外の 障碍者施設などにおいて独自で開発した 「リセット・トレーニング」に基づいた施術ボランティアを おこなっている。著書に『アート・オブ・ヨガ』(全2巻、レベル)、『完璧なポーズのためのJ‐YOGA Basic』(レベル)。

島 泰三(しま・たいぞう)
1946年、山口県下関市生まれ。下関西高等学校、 東京大学理学部人類学科卒業。東京大学理学部大学院を経て、 78年に(財)日本野生生物研究センターを設立し、ニホンザルを はじめ野生動物の研究をおこなう。その後、房総自然博物館館長、雑誌『にほんざる』編集長、 天然記念物ニホンザルの生息地保護管理調査団(高宕山、臥牛山) 主任調査員、国際協力事業団マダガスカル国派遣専門家 (霊長類学指導)等を経て、現在、NGO日本アイアイファンド代表。主な著書に『どくとるアイアイと謎の島マダガスカル』(八月書館)、『親指はなぜ太いのか』(中公新書)、『はだかの起原』(木楽舎)、『サルの社会とヒトの社会』(大修館書店)、『孫の力』(中公新書)、『日本水族館紀行』(木楽舎、共著)など多数。