「就活前に読んでおきたかった!」と好評の『女子と就活』。刊行後に、「女性活用」が政策課題としてクローズアップされるなど、ますます「女子界」のライフスタイル事情は激変中です。そこで、共著者の白河桃子さんと常見陽平さんが、もう一回本気で「就・妊・婚」について話し合ってみました。
 前回は「『働きたい/働きたくない』ということにかかわらず、もう働かなければいけない」という時代の到来を再確認。二人の話はさらにリアルな「究極のムリゲー」の実態へと......

女子の一般職は「最強」なのか?――就職・転職のイマ
常見:

 今まさに一般職と総合職、それぞれの「可能性」と「限界」に女子学生は気づくべきだと思います。白河さんと『女子と就活』を書いているときに、二人でまったく結論が出なかったのが、まさに「女子は総合職と一般職のどちらを選ぶべきか」という論点でした。

白河:

 そうですね。それだけは本当に結論が出ません。

常見:

 無理やり答えを出そうとすると、とても暗い「一般職最強説」にしかならないという話になりましたね。
 白河さんと、総合職で就職する割合が多い女子大で一緒に講演する機会があったのですが、聞きに来てくれた1、2年生はやはり「一般職か総合職か」で悩んでいました。

白河:

 結局、女子大生にとってはそこが大きな問題でみんな悩むところですよね。

常見:

 現実を直視すれば、今の段階では女子大生に一般職を薦めたいところですが、「一般職最高だから、女子はみんなそれで!」という社会もおかしいと、私はジレンマを感じています。 

白河:

 「一般職最強説」を唱えるとすると、パイがこれから少なくなることは目に見えているので、一般職狙いをした結果、就職できない子が出てくるのも怖いです。

常見:

 なるほど。
 一方で少し粗い言い方になりますが、「大企業だけではなく中堅・中小企業に目を向けなさい」や「一般職だけでなく、輝く総合職女性に目を向けなさい」と言われても、結局は「人の心は数字が決める」側面があるのも事実だと思います。
 この4、5、6月にさまざまな大学のキャリアセンターをまわって、情報交換をしているのですが、どうやら中堅以上の大学は求人が戻ってきているようです。あくまでも予測値ではありますが、リクルートワークス研究所の調査によると、大卒求人倍率は2015年度卒が1.61倍で、去年の1.28倍よりも求人倍率が戻っていることが数値の上でも明らかになっています。

白河:

 現役の大学生も実感しているようで、私の研究会のある大学の学生によると、5月の連休後、リクルートスーツを着ている人は学内にはいなかったみたいですよ。

常見:

 倫理憲章が建前上あっても、今年は各企業が前倒しで内定を出したなと。頑張っていた学生、早くから動き出していた学生はいくつも内定を得ていた印象です。
 女子学生百数十人しかいない、ある中堅大学の女性教授の話によれば、どれだけ「旦那だけでは無理! ずっと働け! 食いっぱぐれないために働け!」と言って就職意識を高めようとしても、メガバンクの一般職にガンガン就職が決まっていった4年生を見た、3年生以下の学生にはピンとこないそうです。
 つまり「大手の一般職こそ最強」で、「結婚後に専業主婦」という空気がすごい勢いで戻ってきたということですよね。

白河:

 でも専業主婦になれるのは、「大手銀行内で結婚した場合だけ」ではないかと思います。

常見:

 彼女たちがイメージしているのは、順調に社内結婚をすることでしょうね。

白河:

 私は今や一般職もまずい状況にあると思っています。なぜなら一般職の女性がもし離婚したら、貧困まではいかないけれども、かなり経済的に厳しい状況に置かれます。一般職というのは、勤続年数が長くなってもなかなか給料が上がりませんから。

常見:

 「お給料問題」で言えば、深刻化していることが一つあります。
 人材紹介会社の人の多くは「35歳転職限界説」が崩壊してきていると言います。そもそも「35歳転職限界説」はそれくらいの年齢になると、転職後の新しい組織に合わせられないという考えから唱えられていたものです。
 しかし現在は給料が低下していることを背景に、本人に順応できるだけの柔軟さがあれば、転職者は仕事ができるので、人材市場では「お買い得」ということになる。そのため、採用は中堅の転職者が多くなっているのが実情ですね。
 そしてそのしわ寄せが、直接はバッティングしないですが、一部の第二新卒に来ています。

白河:

 なるほど。ではそんな中、新卒者はどうすればいいのでしょうか。

常見:

 相対的に「新卒」というカードが持つ価値は上がっていると思います。
 新卒から「会社にもぐりこめる」のは、学生にとって、とても価値のあること。今の時代、新卒入社で働くというと、苦労しそうで忌避されがちだけれども、特に上位大学の学生にとっての価値は明らかに上昇していると思います。

「一般職最強説」を唱えるなら――No離職No離婚Goodハズバンド
白河:

 一般職最強説を唱えるとするなら、「仕事を辞めない」という条件付きですね。「専業主婦になりたい!」が目標ではダメです。

常見:

 もう一つ条件を付け加えると、結婚して出産したら「離婚しないこと」ですかね。

白河:

 確かにそうです。私はずっと「普通の働き方とはなんだろう」という取材を続けているのですが、そこで気づいたのは「女性はみんな働き方に満足していない」ということでした。

常見:

 女性たちは、仕事のどういうところに満足していないのですか?

白河:

 子供を産んでからの働き方です。
 産む前ならば、ハードに働くことも、ゆるゆると働くことも選択可能なのですが、子供ができた後は同じようには絶対に働けません。
 日本の会社は、時間制限のある人に対して、昔と比べて「居場所」はできましたが、まだまだ対応できているとは言い難いのが現状です。2009年に「時短制度」が制定されて、正規のフルタイム労働に結婚後も女性が留まりやすくなりました。そうして、「産む×働く」は実現できるようになりましたが、それにプラス「活躍する」という環境はまだ整っていません。
 今の会社の枠組みでは、活躍することをめざしている女性と、そこまでの意気込みはないが、総合職に名を連ねている女性は精神的に辛いと思います。なぜなら「会社の仕事は尊く、最も優先しないといけない」という会社人としての考えと「子育ては母親が誰にも頼らず、誰にも迷惑かけずにしなければいけない」という母親としての考えが、一人の頭の中に同居してせめぎ合っているからです。
 「起業と子育て」をテーマにしたセミナーに参加したとき、会場には小さい子供を連れたお母さんがたくさんいました。大企業で働いている方が多かったのですが、彼女たちが「どうしても起業したい」という思いを持っていたか、というとそうではなかったのです。
 それでも真剣に起業した人たちの話を聞いている姿を見て、今の働き方に満足していないことを強く感じました。「もっと子供と過ごしたい」「今の仕事の時間帯ではなく働きたい」または「もっとバリバリ働きたい」というような、いろいろな思いがせめぎ合っているのがワーキングマザーなのです。

常見:

 そのお母さん方は「自分は今の働き方に満足していない」ということに気づいているという点で敏感だと思います。

白河:

 子供が小さい間は苦しくて、「続けようか、辞めようか」と日々葛藤している方がほとんどです。

常見:

 「働く×産む×育てる」に「活躍する」が重なると、今の日本では「究極のムリゲー」となるわけですね。

白河:

 そうです、女性たちに「究極のムリゲー」をさせようとしているのが現状です。
 一方で、メガバンクの郊外の支店に勤める一般職女性を取材したら、本当に「幸せ」そうでした。その方は平日五時まで働き、帰って家事と子育てをするという生活をしているそうです。
 けっこう高給取りの旦那はいい人で、平日は手伝えないけれども、週末はゴルフではなく子育てをしてくれる。取材していて、あまりにも幸せそうすぎて、「うわぁー」と叫びそうになりました。(笑)
 キャリアに野心がないと、女はこんなにも幸せなのかと思いました。しかもその方は、自分のお金もある程度あるし、郊外に家も持っていました。

常見:

 住宅ローンで家を買うというのは、昭和型と言われますが、平成でそういうことができるのは、やはり家計に余裕があるから。でも昭和と大きく違うのは、旦那が子育てをしてくれることです。

白河:

 しかし旦那が子育てを手伝ってくれるのは、まだまだ限られたラッキーなケース。一般職の女性が幸せである条件は「働き続けられる」ことと「旦那が良い人」ということ、それに尽きますね。旦那が悪い人だったら、その後の家庭生活が大変ですから、「良い人と結婚できるか」ですべてが決まります。
 でもこれは運任せの部分が多いですが(笑)。

常見:

 「良い旦那と結婚」すれば女は幸せということですね。「身も蓋もない」結論ですが、現実です(笑)。

改めて問いなおす「イクメン」――「白旗を揚げた」フランスの男たち
常見:

 今や誰もが知るようになった「イクメン」という言葉ですが、社会学の立場から「イクメン」批判が出てきたりもしています。今のままで男性に子育てをさせようとすると、単純に「労働強化」、つまり仕事の総量は減らされないまま、子育てという「労働」が課されることになるという批判です。

白河:

 批判の趣旨は分かります。必死に働いて、帰って家事も育児もこなすということは、これまで会社に残って働き続けているお母さんたちが、まさにやってきたことだということは言いたいですね。

常見:

 なるほど、確かにそうですね。

白河:

 私自身は「イクメン」というスタイルが広まっていくことは良いことだと思います。女性がいくら意識を変えて働こうとも、それは限界まできていると感じますし。
 婚活についての仕事をしてきたころから一貫して、私は「男性の悪口」は言わないようにしてきました。なぜなら悪いことを言っても、人は動かない、社会は変わらないからです。なるべくポジティブな言葉で、実際に人の意識を変えて、行動してもらいたいと考えてきました。でも最近になって、やはり男性はそろそろ変わって欲しいなと。

常見:

 なんで男性は変われないんでしょうね。社会学の視点で考えれば、変わらないことには何か理由があって、それが実は極めて合理的な形式であったり、背後には強固な構造があるのではないかと考えてしまいます。

白河:

 意識を変えるための方法論として、「すでにそこの段階を越えた進んだ社会をみる」という方法がありますよね。
 たとえばフランス社会はどうでしょうか。フランスへ取材で行ったり、フランス人男性と結婚した方の話を聞いたりすると、彼らは明確に「白旗を揚げて」います。男の沽券をなくした代わりに、彼らはすごくラクをしていて、楽しそうに見えました。女性が管理職で男性はフリーターをしている組み合わせなどもあり、それでも素敵なところに住んでいたりします。
 彼らは決して「女性化」したわけではないので、「専業主夫」というわけではありません。「男の権威」はなくても、男として「セクシー」なのです。デートすることも、女性をほめることも、子育てを一緒にすることも、その「魅力」で女性を繋ぎとめているように見えました。

常見:

 我が家も旦那が「男の魅力」で家庭を円満にするスタイルですよ(笑)。

(以下、次回へ続く)

この記事の続きは、近日掲載予定です。お楽しみに!
なお、対談の音源が『陽平天国の乱』http://www.radiodays.jp/artist/show/700の46回~48回にアップされています。ぜひご視聴ください。

白河桃子:少子化ジャーナリスト、作家。東京生まれ。相模女子大客員教授、経産省「女性が輝く社会の在り方研究会」委員。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。齊藤英和氏(国立成育医療研究センター不妊診療科医長)とともに、東大、慶応、早稲田などに「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座」をボランティア出張授業。講演、テレビ出演多数。最新刊「『産む』と『働く』の教科書」

常見陽平:人材コンサルタント。1974年生まれ。北海道出身。一橋大学商学部卒業後、(株)リクルート入社。玩具メーカーに転じ、新卒採用を担当。その後フリーに。千葉商科大学などで非常勤講師を務める。『僕たちはガンダムのジムである』『「できる人」という幻想』『普通に働け』など就活、キャリア関連の著書多数。