このところメディアで「居所不明児童」という見出しが目に付きます。間もなく厚生労働省と文部科学省が「行方不明の子どもの実態調査」の公表を予定しており、ますます注目が集まっています。 そこで、いち早くこの問題を追及してきたジャーナリスト石川結貴さんに、ポイントをまとめていただきました。(ラクレ編集部・黒田剛史)

「消えた子ども」は、年に1000人も

 居所不明児童生徒――一般には聞き慣れないこの言葉の背景にどんな問題があるか、地道な取材をもとに追ったのが『ルポ 子どもの無縁社会』だ。

 そもそも居所不明児童生徒とは、住民票を残したまま「消えてしまった」、そしてその後の所在が確認できない小中学生をいう。

 本書を上梓した2011年には1191人(本書中では速報値のため1183人となっている)だったが、その後、各地の教育委員会で調査が徹底されたこともあり、2014年には705人と報告された。

 このところ、居所不明だった子どもが遺体で発見されるという悲惨な事件が相次いでいる。一方で、具体的な対応策や消えた子どもを発見するための社会システムはほとんどないのが現状だ。居所不明問題を追ってきた私としては、今後も同様の事件がつづくだろうと懸念せざるを得ない。

行政システムの「限界」

 ではなぜこうした問題が起き、どんな理由で子どもを発見することができないのだろうか。詳細については本書をお読みいただきたいが、ここでは簡単にまとめてみよう。

 まず指摘したいのは、現行の行政システムの「限界」だ。たとえば小学校入学時には、住民登録をもとに就学案内が送られる。A市に住民票のある子どもがいたとしたら、A市の教育委員会が住民登録上の住所に「4月から〇〇小学校に入学してください」と通知する。

 だが、当の子どもがこの住所に住んでいなかったらどうなるか。どこへ行ってしまったのか、どんな事情があるのか、A市では把握できない。家庭訪問したり、児童相談所に報告する程度のことは可能だが、住民票が移されなければ子どもの行方は特定できないのだ(DV被害等の特例を除く)。

 また、「どんな理由で子どもがいなくなったのかわからない」という事情もある。事件に巻き込まれたとか、児童虐待を受けているとか、なんらかの疑いがあればともかく、親の金銭問題や精神疾患、家庭内トラブル等の個人的事情で「一時的にいない」という場合も考えられる。

 プライバシーや個人的事情を考慮すると、行政が強制的に調査、捜索に乗り出すことはむずかしい。2013年に文部科学省が公表した居所不明児童生徒に関する実態調査では、その限界が浮き彫りとなった。

 調査対象となった市町村教委のうち、子どもがいなくなった理由が「不明」と回答したのは52%、児童相談所など他機関とまったく連携しなかったケースは46%に上る。結果的に、居所不明の子どもは「消えたまま放置される」という事態に陥っているのだ。

当の子どもたちは、どこで何をしているのか?

 もう一点、強調したいのが居所不明者の「数字」についてである。前述したように、2014年には705人と報告されているが、イコール705人の子どもの所在が確認できないわけではない。

 この数字は、あくまでも2014年時点で小中学校に在籍する、いわゆる学齢期の子どもを調査したものだ。0歳から6歳までの未就学児と、義務教育期間を過ぎた子どもはカウントされていない。

居所不明児童生徒の調査が開始されたのは1961年。以来、毎年400人前後の不明者数が報告されている。過去の数字を累計すれば万単位になるわけで、当の子どもたちはいったいどこでどうしているのか、現時点では何の調査も行われていないのだ。

 『ルポ 子どもの無縁社会』では、居所不明問題をはじめとして子どもを取り巻くさまざまな「闇」を取り上げた。児童虐待、捨て子、無縁死など、その内容はどれもシビアな現実を映し出す。

 行政の限界もさることながら、もっと身近な家族や親族、地域のつながりが希薄化した今、子どもたちは容易に「無縁」に陥りかねない。おとな同士がつながりをなくすことで、子どもたちもまた周囲から孤立し、多様な支えを失ってしまう。

 少子化問題や子育て支援などが注目を集めるが、その一方にある「闇」にも関心を寄せてほしい。

『ルポ 子どもの無縁社会』は、埋もれたままの、そして声なき子どもたちの声を拾い上げている。ぜひ、たくさんの方に読んでいただきたいと思う。

石川結貴:1961年静岡県伊東市生まれ。2児の母となった90年より、家族、教育、子育てなどをテーマに取材をつづける。豊富な取材実績に基づく鋭い視点や、ありのままの現実を客観的に描き出す手法で次々と話題作を発表してきた。近年は児童虐待や子どもの現状を独自の視点で追及し、出版、講演、テレビ出演等を通じて幅広く問題提起している。ノンフィクション作品に『家族は孤独でできている』(毎日新聞社)、『モンスターマザー』(光文社/韓国・台湾で翻訳出版)、『暴走育児』(ちくま新書)、『誰か助けて~止まらない児童虐待』(リーダーズノート新書)など多数。短編小説集に『小さな花が咲いた日』(ポプラ社/平成20年高校入試問題、平成22年~23年中学入試問題採用作品)、『母と子の絆』(洋泉社)など。
公式ホームページ  http://ishikawa-yuki.com/