時間が無いのに情報があふれた今、相手へきっちりと「伝える」ことは、なかなか難しい。
 それでも記憶に残り、好感を生むメッセージは確かに存在する。
 それがCMディレクター・浜崎慎治氏が手がける作品の数々。

 3年連続好感度1位、au「三太郎」。 家庭教師のトライ「トライさん」。 日野自動車「ヒノノニトン」。
 浜崎氏の手がけた作品を目にしたことがない、なんてひとは、サイト読者にほとんどいないのでは?

 ではなぜ彼の作るCMはたった"15秒"で想いを伝え、愛されるのか?
 そこには共感を生む仕掛け、名付けて「共感スイッチ」が隠されていた!
 
 今回その秘密を初公開した『共感スイッチ』より、"はじめに"を一部改変してご紹介。
 友達も上司も恋人も、みんな持ってる「共感スイッチ」。見つけて押せば、もっと伝わる! もっと話せる!

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<はじめに>

――「伝える」ことは難しい――

 自分の考えや想いを相手にきちんと伝えて理解してもらう。言うのは簡単ですが、実現するのはなかなか難しいものです。

 僕はテレビコマーシャル(CM)のディレクターという仕事をしています。
 CMのディレクターとは、スポンサーの要望とプランナーの考えた企画を整理してCMを作る、映画でいう「監督」のような仕事です。

 CMは見た人の印象に残り、必要な情報が伝わるものでなくてはなりません。そしてほとんどの場合、CM一本に与えられている時間は15秒。とても短い時間です。

 その短い時間で、テレビの視聴者というまったく見ず知らずの相手との間にコミュニケーションを成立させる。それだけでも十分難しいのに、情報があふれた現在、きちんと「伝える」ことはさらに困難な作業となっています。

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 でもこれはきっと、誰の日常でも同じです。

 たくさんの情報をやりとりする中、しっかりと伝えたつもりなのに実際には自分の意図が理解されていなかったり︑誤解されてしまったり、そもそも話を聞いてもらえていなかったり。そんな経験を持っている人は多いように思います。

 毎日の生活をちょっと振り返って「伝える」場面を考えてみます。

 仕事なら、営業やコンペ、説明会、発表など、誰かに「伝える」機会ばかり。たとえどんなに素晴らしい商品やサービスだろうと、その素晴らしさを相手に伝えられなければ評価を得ることはできません。

 伝える相手は社外に限らず、日常の報告・連絡・相談はもちろん、いくらすばらしい企画や提案だろうとまずは上司や関係部署に理解してもらえないかぎり実現は困難です。

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 仕事以外でも同じです。友人や好きな人とのやりとり、家族の誰かへのお願いごとなど、生きていれば「伝える」ことが重要となる場面はたくさんあります。

 はっきりしているのは、仕事だろうとプライベートだろうと「伝える」ものが大切であればあるほど︑その伝え方にみんな悩むということ。

 ストレートに伝えるか、少しひねるか。無難なほうが良いのか、ちょっとしたサプライズを加えるか。結論は先に言うべきか、最後に残すべきか......。だからこそ「伝え方」に関するノウハウ本が時代を問わずに必要とされるのかもしれません。

――時間と関心の奪い合いの中で――

 僕はこれまで15秒、もしくは30秒という時間の中で、どうやったらきちんと伝わるのか、そしてどうなると伝わらないのか、たくさんのトライアンドエラーを重ねてきました。
 ここで、これまでに手がけてきたCMをいくつかご紹介したいと思います。

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 まずはKDDI・auのCM「au三太郎」シリーズ。
 日本人なら誰もが知っている桃太郎、浦島太郎、金太郎、さらにはかぐや姫や一寸法師といったキャラクターやストーリーをモチーフにすることで、大きな反響を呼んでいます。
 同CMは3年連続でCM好感度1位(2015~17年度、CM総合研究所調べ)を獲得しました。

 次に家庭教師のトライのCM「トライさん」シリーズ。
 多くの方に親しまれてきたアニメ「アルプスの少女ハイジ」をコミカルな内容にした作品ですが、おかげさまでこちらも好評を博しています。

 そのほか、日野自動車の「ヒノノニトンシリーズ」など、CM制作にかかわってきたこの18年ほどの間に、たくさんの作品に携わってきました。

 その間、視聴者の環境は驚くほど変わりました。
 もっとも大きな変化は、家族みんなが居間に揃ってテレビだけを集中して見ているような時代ではなくなった、ということです。

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 テレビを見るときもスマートフォン片手が当たり前。
 たくさんのメディアで時間や関心を奪い合う状況で、それでもテレビCMへ注意を向けてもらい、視聴者の印象に残らなければならない。ずいぶん困難な仕事になったものだと思います。

――そして見つけた「共感スイッチ」――
 
 それを実現するため、CMディレクターの僕はここまで必死に表現方法や演出を考えてきました。失敗もたくさんしています。
 しかし試行錯誤するなか、少しだけコツが見えてきました。そのコツが「共感」です。

 「共感」があると、さまざまな感情が生まれます。

 親しみや愛着、涙がこぼれるような感動、つい笑ってしまうおもしろさ。「共感」が相手の心に何かを残す突破口を開いてくれます。よりよく「伝わる」土台となります。
 その「共感」という入り口を開くための鍵を、この本では「共感スイッチ」と呼ぶことにしました。

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 面接や営業の場のように、限られた時間でのアピール。
 絶対に想いを伝えなければならないプレゼンテーション。
 まったく違う世代や価値観を持つ相手とのやりとり。
 そのほか、大切にしたい友達や家族とのコミュニケーション。

「共感スイッチ」はあらゆる場面にあります。そのスイッチを見つけて押せば相手の懐にすんなりと入り込むことができるし、驚くくらいにコミュニケーションが円滑に回りだす。そして「伝わる」。

 逆に「共感スイッチ」を無視するとどうなるか。
 相手が話を聞く気持ちになっていないのに、伝えたいことだけを一方的に伝える。相手が白けているのに自分ばかり熱くなる。それではどんなにすばらしい内容だろうと、相手の心の中に入っていかないのではないでしょうか。
 
 この本では、僕が相手の「共感」を得るために意識している「共感スイッチ」の主な特徴と、具体的な8種について紹介をしています。
 8種の「共感スイッチ」とは、言い換えれば相手のどこかに隠れている関心の"ツボ"です。その特徴を記せば

1 おもしろスイッチ(インパクト)
2 鳥取スイッチ(ベタ)
3 次男スイッチ(バランス)
4 国立大スイッチ(共通理解)
5 教室スイッチ(記号)
6 朝ドラスイッチ(反復)
7 父親スイッチ(信頼)
8 自分スイッチ(軸)

といった感じになるでしょうか。

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「共感スイッチ」はあらゆる人や場所に存在しているし、どんな場面でも必ず有意義に働きます。
 チャンスがあれば絶対にそのスイッチを押すべきですが、そもそも、どんなにおっかない相手だろうと、面識のない人だろうと、「どこかに必ず共感スイッチが隠されている」という事実を知っているだけで、気持ちがずいぶん楽になりませんか?

 この本があなたの「伝え方」を考えるきっかけになれば幸いです。

『共感スイッチ』より

浜崎 慎治:1976年鳥取県生まれ、2002年TYO入社、13年よりフリーランス。手がけたCMにau/KDDI「三太郎」、日野自動車「ヒノノニトン」、家庭教師のトライ「教えてトライさん」トヨタ自動「TOYOTOWN」、トクホン「ハリコレ」など。ACCグランプリ、ACCベストディレクター賞、広告電通賞優秀賞、ギャラクシー賞、CM部門大賞など受賞多数。これまでに100作以上手がけた「三太郎シリーズ」はCM好感度、CM演出部門でいずれも3年連続1位(CM総合研究所調べ。2015-2017年度)。