Interview著者インタビュー

螺旋プロジェクト第3弾である、天野純希著『もののふの国』薬丸岳著『蒼色の大地』
の発売を記念して「天野純希×薬丸岳サイン会&トークバトル!」が2019年5月24日、東京・八重洲ブックセンターにて開催されました。
螺旋プロジェクト作品の中でそれぞれ中世・近代という隣接した時代を担当し、正面から「対立」というテーマを描き切った2作品。ならばどっちがより面白い小説か、決めようじゃないか……ということで開催されたのが当イベントです。
天野さんVS薬丸さんのビブリオバトルあり、乱入者あり(?)の、前代未聞のトークショーとなりました。当日の熱い模様を、お伝えします!

担当編集者対抗ビブリオバトルで無茶ぶり発生
――さて、お二人のビブリオバトルが終わりました。決着に移る前に、各作品に一番思い入れの強い担当編集者によるビブリオバトルを行います。その総合評価で、お客様にどちらが読みたくなったかを決めていただきます。
では、まずは薬丸岳さん『蒼色の大地』を担当した中央公論新社・金森の先攻です。

金森:みなさん、韓国映画や韓国ドラマを見たことありますでしょうか? めちゃくちゃ面白いですよね。おそらく韓国の人たちは、見る人を楽しませるぞ、っていうことに特化して物語作りをしてると思うんです。そんなエンタメに目が肥えた韓国で今、薬丸さん作品が大人気なんです。
薬丸さんの著書『誓約』(幻冬舎)は韓国では単行本で23万部のベストセラー。新作が出ると、韓国の出版社から翻訳の依頼が殺到します。
一方で、今まで少年犯罪ものや社会派小説が求められていた薬丸さん。そんな著者がエンタメに極振りしたこの作品、面白くないわけがありません!

――続きまして、天野さんの『もののふの国』を担当した編集者のプレゼンなのですが......実はその編集者が先日、当社を退職してしまったんです。
天:でも、会場には観客として見に来ているみたいですね。せっかくなので参加してもらいましょうか(笑)。元・中央公論新社、現・講談社の菅さんです!
菅:(客席から立ち上がり)え、本当にやるんですか!? 何という無茶ぶり! えっと......ただ今ご紹介にあずかりました菅です。では、僭越ながらプレゼンさせていただきます。
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『もののふの国』は平安から明治までの間の時代、つまり1000年間の空白を、「海」と「山」の対立の歴史として一人で埋めるという、非常にチャレンジングな作品です。
なので私はしっかり打ち合わせの時間を取ったのですが、天野さんはあまり喋らないですし、あっさりとしかメモを取らないんです。本当にできるのかと最初は不安になりました。
でも実際に上がってきたのは、非常に緻密な原稿でした。舞台が源平合戦、南北朝、室町、本能寺の変、大塩平八郎の乱、戊辰戦争、西南戦争......と次々変わる連作短篇なのですが、同じ構造の物語がひとつもない。その緻密さから本当に海山の対立の歴史があったのではないかと、信じてしまうほどのリアリティをもった作品になりました。
これぞ歴史小説の新たな可能性を示す、天野純希の真骨頂です!
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――これにて両チームのプレゼンが終わりましたので、お客さんの投票でどちらがより読みたくなったかを決めさせていただきます。

勝者は......僅差で天野・菅チームです!(会場拍手)

天:これって、僕たちが勝負には勝ったけど、より面白そうなのは薬丸さんの作品ってことですよね?
薬:お互いWIN-WINであり、LOSE-LOSEでもある。なんだか複雑な心境です。(笑)

『蒼色の大地』は「スター・ウォーズ」?  大森兄弟はグリム兄弟?
――ここからはフリートークとして、今回執筆してみて楽しかったことと、辛かったところをそれぞれおうかがいしたいです。

天:楽しかったことは、この「螺旋」企画自体ですね。他の作家さんの作品を見ながらプロットやゲラを組み立てていくのは今までにない経験で、心から楽しめました。
辛かったのは、とにかく資料が多すぎて、部屋がどんどん狭くなっていくことでしょうか。(笑)
薬:僕が辛かったことは......全部ですね(笑)。現代が舞台ではない小説を書くことも、皆さんと話し合って作品を書くことも、何もかも初めてだったので、大変すぎて最初の方は引き受けたことを後悔するほどでした。
でも、今考えてみると、ジャンルが違う方とディスカッションできたことは楽しかったです。あとは作中に登場する架空の島や設定を考えることは新鮮で、僕にとっては「スター・ウォーズ」を書いているような気分でした。大好きな爆破シーンもたくさん書けましたし。

――「螺旋」プロジェクトの準備で印象的だったことはありますか?
薬:最初の螺旋メンバーとのプロット会議です。みなさんがすごくたくさんプロットを書いてきたのに、僕はA4のペラ1枚だけで、劣等生の気分でした。
天:僕もペラ1枚だったので一緒です! あとは大森兄弟さんがペンネームだと思っていたら、本当に兄弟だったことにびっくりしました。
薬:「兄弟の作家って珍しいですよね」という大森さんのお兄さんの発言に対して、吉田篤弘さんが「グリム兄弟がいますよ」と返していたのも印象的でした。(笑)

――最後に一言、お願いいたします。
天:螺旋プロジェクトはこれから乾ルカさん、澤田瞳子さん、大森兄弟さん、吉田篤弘さんの作品が続いて発売となります。僕たちの作品共々、よろしくお願いいたします!
薬:各作品の応募券を送って当選した人だけが参加できるシークレットイベントもあります。ぜひそこでまたお会いしましょう!