『八日目の蟬』メッセージ・コンテスト

角田光代著『八日目の蟬』(単行本・文庫)へ、多数のメッセージをお寄せ下さり、ありがとうございました。
審査の結果、以下のように各賞を決定いたしました。

応募期間

2011年1月25日~3月10日

応募総数

213作

<単行本>
1,600円(本体)

<文庫>
590円(本体)

審査員

角田光代さん
中央公論新社

写真・川上尚見

結果発表

角田光代賞 1名様

ほととぎすさん(群馬県、52歳)

その子は朝ごはんをまだ食べていないの。その一行だけを何度も何度も目で追った。私は間違っていなかった。そう思ったら、涙が溢れた。子供を持ってはじめて、私は母に愛されていなかった事を確信した。どう育てて良いのかわからなかった。というより、知らなかった。考えぬいた末、ごはんだけは一生懸命作ろう、そう決めた。以来二十余年。何があろうとごはんだけは手を抜かなかった。子供は無事巣立っていった。いつも笑っているとか、ぎゅっと抱きしめるとか、もっともっとがんばればよかった。時折押し寄せる波のような後悔の中で、出逢った一行が私に赦しを与えてくれた。感謝しています。

角田光代さんよりコメント

多くの方にご応募いただき、本当に感謝しています。ていねいに読んでくださってほんとうにありがとうございます。小説は、活字になったときからすでに、読み手の方々のものだと私は思っています。どんなふうに読んでいただいてもかまわない。読み手のものになってもらえれば、こんなにうれしいことはない。このメッセージを読んだとき、思わず落涙しました。小説は、こんなふうに読んでもらえることもあるのか。だれかの気持ちを楽にしたり、その人の何かを肯定したり、作者が思ってもいないようなところに歩いていって、だれかの肩に手をまわしたり、することがあるのか。小説は、世界を変えることも救うこともできないと、小説家になりたいと願ったときから私は思っていました。そんなことがしたいのではない、と。でも、図らずも小説は、こんなふうにだれかに寄り添うことができるのだと、私が教えられ、勇気づけられた気分です。ありがとうございました。

角田光代

商品

サイン入り文庫本、映画『八日目の蟬』ペア鑑賞券、図書カード1万円、特製グッズ

中央公論新社賞賞 5名様

牧野英里さん(神奈川県、38歳)

朝、支度が遅いと小言をあびせながら、お尻をたたくように小学生の長女を送り出す。眠くてしようがないのに夜に決まってぐずる五歳の次女。母の私と同じ布団で寝たいがための仮病をとがめ、諭した末の寝顔には涙が光る。夫は「もっと愛情を持って接しよ」と言うが違う。長女はその後、必ず満面の笑顔で手を振る。下の子は頼みもしない明日の手伝いのため、エプロンを枕元に用意している。女って、母になる準備を幼い頃からしている気がする。では母として何を? この本で答を見つけた。八日目の蟬にしてあげること。母の私が七日間なら、未知の八日目を子供達に。不完全な母をありのまま吸収したうえで、満足や不満を持たず自ら八日目を見てほしい。その光景を語る時に私はいないがそれでよい。次の世代の成長をねたまず素直に心から願う存在、それが母である。

りょうさん(東京都、41歳)

あっという間に過ぎる一日のなかで、待ち遠しいほどこないのが夕刊でした。新聞小説の長細い四角の中で、彼女は確かに生きていました。いつの間にか一緒に迷い、考え、行動し気がつけば細長い切抜きは束になり、読み終わったばかりのストーリーの続きを夢中で考えていました。次の日、夕刊を手にしては衝撃をうけ、涙し、震えました。島の空、風にたなびく素麺、薫の小さな手、おなかにタオルケットをかけて両手足を広げて眠る幼い頬。吐息まで聞こえるようにリアルに心の芯に染み入る時間。突然景色が変わって成長した薫に戸惑いながら、心が自然に溶け込んで、大人の理不尽さに振り回される幼い姿に本当の幸せは何なのか、親子とは、血のつながりとは、と、深く深く考えました。「八日目の蟬」は、私にとって特別な本です。この本に出会えて、本当に幸せです。

K Tさん(大阪府、42歳)

印象に残ったのはページをめくると「薫」の文字がやたら目につくことでした。希和子が「薫」と何度も呼び、心の中で薫を案じる度に、私の胸はギュッと締め付けられました。「薫」の呼びかけに希和子と薫の切羽詰まった濃厚な愛情が詰まっているような気がし、どうにか二人で逃げ通してと思いましたが、どう考えてもそれは無理なこと。また胸がギュッとなりました。そこでふと、私はどうなんだろう?と考えました。娘に対し、血がつながっていること、当たり前に一緒に暮らしていることに安心し、愛があるようなないような? でもまぁこんなもんかって思ってしまう。娘が成長するまでこの生活は続くであろうし、続くことを願っている。だからせめて「八日目の蟬」を読んだ後は、当たり前の安心感と表現の足りない愛情に問いかけをするつもりで娘の名をやたらに呼んでみます。当の娘はギョッとしているかもしれません。

ねむり丸姫さん(東京都、25歳)

この小説で印象的だった場面は、希和子が刑務所から出所した後に食堂でラーメンを食べる場面です。暑い夏の日に「氷」と書かれた食堂に入り、ラーメンとコーラをたのんで最後の汁まで飲んだ希和子。この場面から、たくさん傷つき、疲れはてている希和子に生命力が残っていることが分かる。人は傷ついてももう一度やり直せる、希和子さん頑張れ! と思える大好きな場面だ。がらんどうでも人は生きていけるのだという心のセリフも、きっとここから彼女は生きていけるんだと希望が持てて大好きだ。ほんの数年間、薫と過ごせた日々は希和子にとってうたかたの夢だった。幻のような温かい記憶を時々振り返りながら、力強く生きてほしい。この物語の後に、希和子さんが彼女自身を愛してくれる男性と結婚して結ばれる未来だってありえるかもしれない。人より多く傷ついた希和子さんの八日目の蟬としての人生が幸せなものであってほしい。

伊藤三恵子さん(福岡県、53歳)

作品の中で最も私の心に残った言葉は「私を引き受ける」です。人は皆自分に与えられた人生と向き合い、懸命に戦っている。自分だけでなく誰もが。他者の存在に気づき、前に進みだした恵理菜の姿に、バスの中で少し泣いてしまいました。それまで私はこの作品を特殊な女性たちと、特殊な育ち方をした子供の話として読んでいました。しかし、そうではありませんでした。希和子は私であり、恵理菜も私である。生きることの意味を教えてくれた言葉が「私を引き受ける」です。

賞品

サイン入り文庫本
映画『八日目の蟬』ペア鑑賞券
特製グッズ

入賞

○ヤマグチノリコさん(滋賀県、38歳)
○前野昭子さん(埼玉県、52歳)
○相良磨紀さん(高知県、22歳)
○藤岡律子さん(大阪府、46歳)
○阿須本隆之さん(兵庫県、35歳)
○寒川悦臣さん(香川県、53歳)
○北山美喜さん(岡山県、45歳)
○長谷川恭子さん(神奈川県、44歳)
○お梨♪さん(広島県、16歳)
○藤岡弘美さん(香川県、37歳)

○小嶋まどかさん(東京都、14歳)
○ゆきんこさん(岩手県、35歳)
○福井直美さん(滋賀県、40歳)
○ろっかくさん(福岡県、33歳)
○陸奥りんさん(栃木県、47歳)
○壽谷香織さん(大阪府、35歳)
○齋藤美保さん(福島県、42歳)
○速水峰子さん(大阪府、57歳)
○まみーさん(東京都、22歳)
○越谷征恵さん(大阪府、39歳)

賞品

サイン入り文庫本、特製グッズ