1500冊を超える膨大な新刊の頂点に立つのはこの本だ!

中央公論新社が主催する「新書大賞」は、1年間に刊行されたすべての新書から、その年「最高の一冊」を選ぶ賞です。
 今回で第11回を数える同賞は、第1回に福岡伸一著 『生物と無生物のあいだ』、第2回は堤未果著『ルポ 貧困大国アメリカ』、第3回は内田樹著『日本辺境論』を大賞に選出し、出版界に大きな反響を呼びました。
 今回の「新書大賞2018」では、2016年12月~2017年11月に刊行された1600点以上の新書を対象に、有識者、書店員、各社新書編集部、新聞記者など新書に造詣の深い方々86人に投票していただいた結果、前野ウルド浩太郎著『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)が 大賞に輝きました。
20位までのランキングと講評など詳細は2018年2月9日発売の『中央公論』3月号に掲載されています。

新書大賞2018 編集者座談会

(出演者)
写真右:青木 肇 あおき はじめ
講談社 学芸部
現代新書 編集長
1969年埼玉県生まれ。93年、講談社に入社。『月刊現代』、学芸図書編集部などを経て、2016年から現代新書編集長。最近の担当書籍に『米中戦争』『東芝解体』など。

写真中央:菊地 悟 きくち さとし
KADOKAWA 第四編集部
角川新書 副編集長
1980年山形県生まれ。2004年、角川書店(当時)に入社。販売部ののち書籍編集部に。現在、角川新書副編集長。最近の担当書籍に『犯罪「事前」捜査』『七〇歳の絶望』など。

写真左:並木光晴 なみき みつはる
中央公論新社
中公新書編集部 副部長
1968年千葉県生まれ。92年、中央公論社(当時)に入社。単行本、『中央公論』編集部を経て、現在、中公新書編集部。最近の担当書籍に『定年後』『酒は人の上に人を造らず』など。

聞き手:『中央公論』編集部 (座談会は新書大賞2018の集計前に行われました)

新書ブームから一〇年経って......

──新書大賞は二〇〇五年頃に起きた"第四次新書ブーム"が一つの契機となり、〇八年からスタートしました。当時は養老孟司さんの『バカの壁』(新潮新書)が四〇〇万部を超えるなどベストセラーが続出。あれから一〇年ほど経ちましたが、今の市況をどのように見ているでしょうか。

菊地 「新書」という判型が出版界に誕生して以来、戦後から何度かブームがあったようですね。確かに〇五、〇六年当時は新書が非常によく売れていて、現在はその他の判型、文庫やコミックと比べても、新書の落ち込みは大きいと思います。
一〇年前に売れていた新書というと自己啓発やビジネスもので、このジャンルの著者で言えば勝間和代さんや本田直之さんが目立っていた。タイトルに『年収1000万円の〜』と掲げられたものもいくつかあったように記憶しています。一方で、当時は自己啓発系の〝新書バブル〟だったのではないでしょうか。それが弾けた分、新書の売り上げが下がっているようにも感じています。

青木 私は長らくノンフィクションの雑誌や単行本に携わり、新書編集部に着任したのが二年ほど前で、新参者です。確かに諸先輩からは、「新書ブームが終わった」と聞きますね。一方で私には先入観がないからでしょうか、新書は企画の立て方や売り方において、まだまだやりようがあるとも感じています。単行本と比較した新書の強みは、新書コーナーとして書店に決まった置き場があることです。単行本は、売れ行きの初速が悪いとすぐに返品されてしまうので、その後に新聞に書評が載っても売り伸ばしがしにくかったりします。また単行本は単価が高い分、初版部数が少なめになる。単行本が売れにくい昨今、新書というパッケージの強みは大きいと思うのです。
企画についても同様で、例えば一七年は並木さんが担当された『応仁の乱』(呉座勇一著)がヒットしました。中公新書はほかにも『観応の擾乱』(亀田俊和著)、『定年後』(楠木新著)などヒット作を連発している。もっとも硬派な新書である中公さんが今、一番元気がいいのだから、新書に鉱脈はまだあるということではないでしょうか。

並木 一〇年ほど前の『バカの壁』や『頭がいい人、悪い人の話し方』(樋口裕一著・PHP新書)などの売れ方はすごかったですね。中公新書は、よく言えばわが道をゆく、悪く言えば当時のブームに乗ることができなかったレーベルのように思っています。確かに中公新書は歴史関連に強みがあり、オーソドックスで堅実な教養新書を作り続けてきました。そして今、少しだけヒットしているのは、たまたま時代のニーズに合っていたからなのだと思います。
最近の新書市況について言えば、一〇年前まではいわゆる〝鉄板ネタ〟があったと思うのです。歴史であれば、織田信長や坂本龍馬をテーマにすればこれくらいの部数は売れるとか、この著者に書いてもらえば間違いないとか、ある程度の見込みが立てられた。ところが近年それがなくなり、当たるテーマは何かと日々手探りしているように思います。『応仁の乱』が最たるもので、著者の呉座さんは筆力のある人なので、是非書いてもらいたいとは思っていたけれど、このテーマで四〇万部以上売れるとは想像もしなかった。明快に書いてもらえたとは思いましたが、それでも易しい内容ではありません。

菊地 そうですね。今から考えれば、一〇年ほど前は、定番の著者とテーマで確実に売れる時代でした。あるいは切り口が面白いもの、例えば会計士の山田真哉さんが身近な事例から会計学を解説した『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』(光文社新書)など、企画のインパクトで売れるのが新書というイメージでした。ところがここ三、四年はベストセラーランキングを見ても、三年連続で同じ著者の作品がランクインするということがなくなってしまっているんですよね。新書ジャンルの累計でもっとも売れたのは齋藤孝さんだと思いますが、養老孟司さん然り、池上彰さん然り、佐藤優さん然り、こうした方々に続くような書き手が、ここ一〇年の新書業界ではなかなか見当たらない。お笑い界でたけし・さんま・タモリの〝ビッグスリー〟が依然とトップでいるように、新しいスターが出にくい状況になっているようにも感じます。

『応仁の乱』はなぜ売れた?

──かつての新書には教養・学術の入門書というイメージが強かったと思うのですが、内容の幅が大きく広がりました。形態も、最近は書き下ろしばかりでなく、単行本からの二次出版も少しずつ増えています。「新書」の定義をどのようにお考えでしょう。

菊地 今のKADOKAWAには、独立した新書編集部というものがなく、各編集者が企画内容によって単行本、新書、文庫と判型を選んで作っています。しかしノンフィクションにおいて、単行本として出すべきか新書にするかはいつも迷います。また、単行本等の既刊を新書として二次出版することもここ一、二年は積極的に行っており、例えば山際淳司さんの『江夏の21球』や山本博文さんの『東大教授の「忠臣蔵」講義』など、再編集や加筆をして新書として出しています。十分に練られていない企画を出すよりは、未読の方に名著を再びアピールするほうが確実に届くことを感じています。

並木 これを単行本ではなく新書で出すのか、と驚いたのが林真理子さんの『野心のすすめ』(講談社現代新書)でした。林さんは知名度があるので、単行本が高いからといって読者の手が伸びにくいとは思えない。それなのに新書として出され、とてもよく売れましたよね。

青木 はい、当時私は別部署でしたので経緯はよくわからないのですが、あの本は林先生から信頼されている編集者が新書編集部にいたから出版できたのだと思います。

菊地 僕なりの新書の定義ですが、世の中の流れや動きにリンクする可能性があるものは、単行本より新書のほうが向いていると思っています。例えば青木さんが企画されたベストセラー『未来の年表』や、中公新書ラクレの『孤独のすすめ』(五木寛之著)。これらは人口減少、少子高齢化の日本の不安を見事に掬った企画だと思うのです。逆に『野心のすすめ』は、世の中で忘れられつつある「野心」という言葉をカウンターとしてぶつけた一冊と感じました。「話題」というのもありますね。二〇一五年はIS(イスラム国)の台頭に世界が驚き、一六年はSMAP解散に日本のお茶の間がざわめきました。そして、新書売場にはまさにそれらを反映した新刊が並びました。ニュースの解説として、世の中との接続として、新書があるように思います。

青木 各社に得意分野があるのも面白いですよね。並木さんがおっしゃるように、中公新書は歴史分野がとても強い。角川新書は藻谷浩介さんの『デフレの正体』のように、時代の変化を敏感に捉えて素早く出すのが上手です。講談社現代新書の強みがあるとすれば、未来を予測するようなもの、『未来の年表』や、『不機嫌な職場』など、これから社会がどうなるかを考えるような本が読者の支持を集めていると思います。また、一七年の現代新書は『ハプスブルク帝国』も反響を呼びましたが、西洋史のラインナップは充実しているように思います。現代新書は、そのスタートが教養新書なので、私がいる以上はジャーナリズムもやるけれど、アカデミズムを外してはいけないと思っています。不易と流行、大谷翔平選手のように二刀流でやるのが現代新書の理想です。(笑)

──それにしても『応仁の乱』は一七年の話題の一冊でした。新書大賞の対象期間としては前年のものになってしまうようですが、もう少し期間がずれていたら大賞になっていたかもしれません。『応仁の乱』のヒットをどのように分析していますか。

並木 よく聞かれるのですが、わからない、というのが正直なところで(笑)。それでは叱られてしまうので私なりに分析すると、どうやらツイッターが最初の動きだったようです。中公新書は六十、七十代の読者が多いのですが、うちとしては若い三十、四十代の読者が「これは面白い!」と反応してくれ、そこから火が付いた。新聞宣伝を打ってみようかということになり、私がコピーを書いたら、宣伝部の女性部員が言うには「真面目くさくて、つまんない」と。彼女が提案してくれたのが、「地味すぎる大乱」「知名度はバツグンなだけにかえって残念」という自虐的なコピーで、これがウケたのです。最初はツイッターなどネットから、じわじわと反響が広がっていきました。

菊地 従来は新聞やテレビなどマス広告が主流でしたが、ここ一〇年でSNSが随分と伸張しました。プロモーションも大きく変わったと思います。よく言われることですが、これだけ広告だらけの世の中になると、広告で薦められたものって今一つ食指が動かないですよね。だけどSNSで繋がっている知り合いが、何かに熱狂している。すると、「何に反応しているの?」と興味がそそられます。『応仁の乱』も、〝歴史クラスタ〟(クラスタ:「集団」を意味するマーケティング用語)の人々に見事にヒットした。その熱狂がバズって(バズる:インターネット上の「口コミ」で爆発的に取り上げられること)、広まっていったのではないでしょうか。

──新聞や雑誌では、『応仁の乱』のヒット要因を、当時の混乱した状況が今と似ているからと言われたりもしますが、それはどう思いますか。

並木 皆さんいろいろな分析をしてくださって、なるほどと思いますが、こじつけも少なくない気がしています。永遠の謎、ということにしてもらえないでしょうか。(笑)

あのヒット作の誕生秘話

──青木さんは『未来の年表』の企画者とお聞きしました。少子高齢化の日本を未来年表の上でシミュレーションしていく書籍は、ありそうでなかった。話題を呼ぶとともに一七年のベストセラーとなりました。

青木 おかげさまでテレビ、雑誌、いろいろなところで取り上げていただきました。確かに立案は私ですが、担当編集者は米沢勇基という者で、筆者の河合雅司さんと二人三脚でしっかり作り上げた功労者は彼です。
これまでも「二〇三〇年に世界はこう変わる」というように、どこかの年月で区切って、それまでに未来はどうなると予測する本は多くありました。しかし未来を時系列で、年表形式で表した本は、私の知る限りなかったので、いつかそのような企画をやりたいと漠然と思っていました。人口減少問題に造詣が深い産経新聞社論説委員の河合さんに、ある日、「未来の年表」の構想を話したのですね。そうしたら面白がって真剣に取り組んでくれました。大抵の未来予測は不確定な要素があって、「本当?」とツッコミどころが多いのですが、人口はかなり正確に予測できます。そこで人口を軸に未来を描写したのも、読者の信頼を得るためには良かったと思います。

並木 最初から売れ行きは良かったのでしょうか。

青木 ありがたいことに、割とスタートから良かったです。プロモーションに関しては成功要因が二つあって、一つは「現代ビジネス」という講談社のウェブメディアです。刊行日の前後に著者の特集やインタビューを「現代ビジネス」に載せて、認知度を上げるやり方が奏功しました。同じく『知ってはいけない』(矢部宏治著)も「現代ビジネス」での成功事例ですが、ネットでバズると数十万PVという数字で閲覧されて、発売と同時にAmazonで品薄状態になってしまうこともありました。
もう一つは新聞宣伝です。「人口」で考えると日本の未来はかなり正しく予見できるということを強調したところ、反響を呼びました。

──菊地さんはこれまたベストセラーとなったコミックエッセイ『うつヌケ』を担当されました。さすがに新書で出そうとは思いませんでしたか。

菊地 そうですね、コミックエッセイはA5判のソフトカバーが定番で書店の売場も確保されているので、単行本として考えました。著者の田中圭一さんがうつになった時、読んで救われたのが宮島賢也さんという精神科医の本で、KAWADE夢新書や中経文庫にあります。そこでそれら版元に、田中さんの推薦イラスト帯を提供し、統一感を出して展開することにしたのです。すると、『うつヌケ』から入った人が文庫や新書を読んでくれたり、その逆もあったりと、お互いにウィンウィンの関係になれた。これは自分にとっても成功体験で、厳しい出版業界、共存共栄の意識をこれまで以上に持つ必要があると思います。読者は出版社で本を選んでいるわけではない、きっかけとなる一冊を読めば、自然と次の一冊にも手が伸びるわけで、業界全体で盛り上げていかなければならないと思っています。

私が唸った二〇一七年の一冊

──二〇一七年もたくさんの新書が出ましたが、皆さんのイチオシの新書を教えてください。

菊地 新書に菊地賞があるならば(笑)、『世界一美味しい煮卵の作り方』(はらぺこグリズリー著・光文社新書)が大賞です。新書と言えば、定番たる教養新書がありますが、時代性や企画の柔軟さを表現できるのも新書です。その自由度や揺らぎこそが新書ブームを作ってきたと思うのですが、一七年の〝自由の象徴〟としては『煮卵』が優れていました。これはお手軽な一人分の分量で構成されたレシピ集で、実はタイトルにもなっている煮卵の作り方は二ページしかない。ウェブ記事のような書名や文脈を持ち込んだ点、単身者が「家呑み」することを想定した商品戦略全体が素晴らしいと思いました。
二位は『データ分析の力』(伊藤公一朗著・光文社新書)です。「ビッグデータ」ブームの現代に求められる、データリテラシーを身に付けられる良書です。中公新書の『兼好法師』(小川剛生著)も良かった。「吉田」兼好は実はいなかった、後に出自が捏造された、というインパクトある発表が新書で読めるのは、新書ジャンルの社会的意義を高めることだと思います。

並木 私の一押しは『バッタを倒しにアフリカへ』(前野ウルド浩太郎著・光文社新書)です。若手研究者がアフリカで研究と生活に奮闘する姿は読んでいて清々しいものがありました。タイトルのインパクトもさることながら、著者本人がバッタに扮したコスプレ写真のカバーは斬新の一言。担当編集者も勝負に出たのだな、と感心しました。
すでに話が出た山際淳司さんの『江夏の21球』は野球短編ばかり一二編を収録した傑作選で、「往年の名作を新書で?」とは思うものの、読んでみたらやっぱり面白かった。
あと、今売り出し中の『不死身の特攻兵』(鴻上尚史著・講談社現代新書)もお薦めです。九回の出撃から生還を果たした特攻隊員が実在して、しかもごく最近まで生きていたとは本当に驚きました。

青木 私は『ほんとうの憲法』(篠田英朗著・ちくま新書)に昨年は衝撃を受けました。新書に限らず、従来の価値観に正面から反論する、挑戦的な本が私は好きなのですが、この本はまさにそれです。日本国憲法=平和憲法という、従来当たり前とされてきた見方に異議を唱え、憲法前文に注目し、「日本国憲法=国際協調主義を重視した憲法」という新たな視座を提供したのは画期的です。
『「司馬遼太郎」で学ぶ日本史』(NHK出版新書)もすごかった。著者の磯田道史さんはテーマの選び方が抜群にうまい。誰もが一度はハマる司馬さんの歴史小説を基点に、磯田史観を加味して縦横無尽に読み解いていく斬新さに唸りました。
荻原博子さんの『投資なんか、おやめなさい』(新潮新書)はタイトルを見た瞬間、「やられた!」と思いました。自分が企画したかったけれど、頭の中でうまくまとまらなかったテーマです。巷にあふれる資産運用本の逆張りが痛快。新潮新書はタイトルがうまくて、よく嫉妬しています。(笑)

タイトルに頭を抱えて

──本を作る時にはいろいろと悩むわけですが、最後まで頭を抱えるのがタイトルです。皆さんはどのようにして決めているのでしょうか。

青木 タイトルはいつも悩みます。中公新書がとても売れているので、時々真似してストレートに短いタイトルにしようかと思うのですが、現代新書のカバーで例えば二文字のタイトルだと、見た目が今一つ収まりが悪い。中公さんではどのようにタイトルを決めているのですか。

並木 編集部全員でタイトル会議を開いて吟味しています。長めのタイトルが候補に挙がることもあります。でも、やはりストレートに『ハンナ・アーレント』といった人物名や、『応仁の乱』のように出来事、または『保守主義とは何か』のように「何か」で問うスタイルが多い。素直というか、保守的というか。これまでのスタイルを踏襲したものが多いですね。

青木 中公新書は一文字のタイトルもありましたよね。

並木 古代中国の『殷』や『周』などがあります。確かにあれはそのままに一文字でした。やはり短くて簡潔なタイトルのほうが読者の皆さんに覚えてもらいやすいと思います。しかし短いタイトルで、例えば人物名だけをタイトルに掲げて売れなかったときは、「もっと捻ったほうがよかったのだろうか」と悔やんだりもしているのです。伝統ゆえに変えにくいという苦しさもあります。

菊地 今日集まっている三社はいずれもタイトルが横書きの装丁です。一方で光文社新書は縦書きです。それこそ一〇年前の新書ブームの時には『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』など、捻りのきいた長めのタイトルが流行った時代もありました。あのスタイルだと縦書きの装丁が映えます。ほかにもPHP新書や幻冬舎新書も縦書きですね。実は、角川新書も縦書きだった時代があるのですが、最近の新書は幅広の帯が隆盛です。
これでもかと情報量を詰め込みたいのが編集者ので、幅広帯はコピーもたくさん入れられるし、写真やイラストも入る。しかし縦書きの場合、他社に合わせて帯の幅を広げてしまうと、タイトルスペースが狭まってくる。これが縦書きの難しいところです。短めのタイトルは、中公新書に代表されるように、横書きの装丁が落ち着きがよいのでしょうし。

青木 そうですね、横書きでも二行タイトルにはできますが、縦書きのほうが映える。タイトルが装丁に制約されることは大いにあるでしょう。
タイトルのうまさで感心するのは新潮新書です。『タモリ論』や『1998年の宇多田ヒカル』とか、時代を切り取るのが上手。『週刊新潮』などで培ったジャーナリスティックな視点がきいているのでしょうね。

菊地 二つとも新潮社の金寿煥さんが担当された作品なのですが、ターゲット設定に驚きました。書籍の読者年齢はどんどん高齢化していますが、これらは次のボリュームゾーンである団塊ジュニア、四十代の心に響く内容の作品です。光文社新書も気鋭の研究者を意識的に著者に選んでいることを感じますし、そういった取り組みには刺激を受けます。

出版業界の冬は長いけれど......

──新書大賞は「有識者」「書店員」「編集者・新聞記者」の皆さんに投票してもらっています。大賞開始時の編集者票は、それこそ企画は素晴らしいが埋もれているマイナーな本に投じられていたのですが、近年は「タイトルのつけ方がうまい」「売り方がうまい」と、売れている本に編集者票が集まります。出版不況が一段と厳しくなった表れでしょうか。

青木 編集者の切実な願いの表れなのでしょうかね。私は一六年のベストセラーで前回大賞に輝いた『言ってはいけない』(橘玲著・新潮新書)に投票しましたが、やはり編集者は売ってナンボのところがあります。読者に刺さるキャッチーなタイトルや、売り方、読書欲をそそる内容を必死で考え、作っていかなければなりません。現代新書の編集部員から「アンタが偉そうに言うな」と怒られそうですが、売れる本を作ってこそ渋い良書を作る余裕もできるのだと思います。

並木 新書大賞を主催しているにもかかわらず、中公新書がなかなか大賞を獲れないというジレンマもわが社は抱えていたりもします(笑)。うちは堅実なテーマが多いですが、KADOKAWAさんや新潮社さんのように挑戦していかなければならないと思っています。

菊地 冒頭で青木さんがおっしゃっていましたが、新書はまだまだやりようがあると思います。お互いに刺激しあいながら、出版業界を盛り上げていきたいですね。

(了)

中央公論3月号(2/9発売)
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歴代大賞もチェック!

新書大賞2018 ベスト5
  • バッタを倒しにアフリカへ
    前野ウルド浩太郎 光文社新書
  • 未来の年表
    河合 雅司 講談社現代新書
  • 日本の近代とは何であったか
    三谷 太一郎 岩波新書
  • ポピュリズムとは何か
    水島 治郎 中公新書
  • 定年後
    楠木 新 中公新書
新書大賞2017 ベスト5
  • 言ってはいけない
    橘 玲 新潮新書
  • 人口と日本経済
    吉川 洋 中公新書
  • 日本会議の研究
    菅野 完 扶桑社新書
  • 下り坂をそろそろと下る
    平田 オリザ 講談社現代新書
  • 応仁の乱
    呉座勇一 中公新書
新書大賞2016 ベスト5
  • 京都ぎらい
    井上章一 朝日新書
  • 生きて帰ってきた男
    小熊英二 岩波新書
  • イスラーム国の衝撃
    池内恵 文春新書
  • 多数決を疑う
    坂井豊貴 岩波新書
  • 下流老人
    藤田孝典 朝日新書
新書大賞2015 ベスト5
  • 地方消滅
    増田寛也 編 中公新書
  • 資本主義の終焉と歴史の危機
    水野和夫 集英社新書
  • ハンナ・アーレント
    矢野久美子 中公新書
  • 愛と暴力の戦後とその後
    赤坂真理 講談社現代新書
  • 最貧困女子
    鈴木大介 幻冬舎新書
新書大賞2014 ベスト5
  • 里山資本主義
    藻谷浩介・NHK広島取材班 
    角川oneテーマ21
  • 犬の伊勢参り
    仁科邦男 平凡社新書
  • ㈱貧困大国アメリカ
    堤 未果 岩波新書
  • 野心のすすめ
    林 真理子 講談社現代新書
  • 来るべき民主主義
    國分功一郎 幻冬舎新書
新書大賞2013 ベスト5
  • 社会を変えるには
    小熊英二 講談社現代新書
  • 田中角栄
    早野 透 中公新書
  • 日本近代史
    坂野潤治 ちくま新書
  • わかりあえないことから
    平田オリザ 講談社現代新書
  • 聞く力
    阿川佐和子 文春新書
新書大賞2012 ベスト5
  • ふしぎなキリスト教
    橋爪大三郎・大澤真幸 講談社現代新書
  • 昭和天皇
    古川隆久 中公新書
  • TPP亡国論
    中野剛志 集英社新書
  • 武器としての決断思考
    瀧本哲史 星海社新書
  • 女子校育ち
    辛酸なめ子 ちくまプリマー新書
新書大賞2011 ベスト5
  • 宇宙は何でできているのか
    村山 斉 幻冬舎新書
  • デフレの正体
    藻谷 浩介 角川oneテーマ21
  • 街場のメディア論
    内田 樹 光文社新書
  • 競争と公平感
    大竹 文雄 中公新書
  • 伊藤博文
    瀧井 一博 中公新書
新書大賞2010 ベスト5
  • 日本辺境論
    内田 樹 新潮新書
  • 差別と日本人
    野中広務、辛淑玉 角川oneテーマ21
  • 音楽の聴き方
    岡田暁生 中公新書
  • 戦後世界経済史
    猪木武徳 中公新書
  • ノモンハン戦争
    田中克彦 岩波新書
新書大賞2009 ベスト5
  • ルポ 貧困大国アメリカ
    堤 未果 岩波新書
  • 強欲資本主義 ウォール街の自爆
    神谷秀樹 文春新書
    できそこないの男たち
    福岡伸一 光文社新書
    電車の運転
    宇田賢吉 中公新書
新書大賞2008 ベスト5
  • 生物と無生物のあいだ
    福岡伸一 講談社現代新書
  • となりのクレーマー
    関根眞一 中公新書ラクレ
  • 1997年―世界を変えた金融危機
    竹森俊平 朝日新書

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