2024 12/02
著者に聞く

『里親と特別養子縁組』/林浩康インタビュー

里親や特別養子縁組に関する報道が増えたと感じないだろうか。厚生労働省は2017年に有識者による検討会が作成した「新しい社会的養育ビジョン」を公表し、家庭養育の推進に大きく舵を切った。2023年には国の子ども政策の司令塔となる「こども家庭庁」が発足。啓発事業としてシンポジウムやPR記事も増えている。制度の意義や課題について、『里親と特別養子縁組 制度と暮らし、家族のかたち』を著した林浩康さんに話を聞いた。

――林さんのご専門は?

林:児童福祉実践や制度のあり方に関心をもって取り組んできました。特に親から離れて施設、里親、養子縁組家庭で暮らす子どもたちの支援や制度のあり方について考えてきました。

――書名にある「里親」とはどういうものですか?

林:親元から離れて暮らす子どもたちを一時的な養育者の家庭に迎えて養育する児童福祉制度です。

――では「特別養子縁組」とは?

林:特別養子縁組は、生みの親の元での生活が困難である子どもに新たな親(養親)を提供する、子どもの福祉を目的とした制度です。血縁にない子どもたちを我が家に迎えて養育するという点では里親制度と同じですが、法律上親子となり、生みの親との法律上の関係を解消し、生涯を通して養親との親子関係が維持されます。養子縁組には普通養子縁組もありますが、普通養子縁組は、家名、財産、事業などの相続を目的としたものであり、成人養子がその多くを占めています。また生みの親との法律上の関係も継続します。

――今回、執筆依頼を受けて、どのように感じましたか?

林:私がこれまで取り組んできた内容を整理し、見える化を図るいいチャンスだと思いました。一方で、社会一般の方々に理解頂けるように執筆することは、大きなチャレンジだと思い、不安も感じました。

――里親家庭や養子縁組家庭の方々にずいぶん取材されたのですか?

林:社会福祉学は人を支援するための学問です。そうした意味で極めて実践的な学問です。したがって支援を必要とするあるいは支援を必要とした人たちの意向、気持ち、思いを尊重し、そうした声の積み上げによって制度の創設や修正を図る必要があると思います。また、より良い社会にするためにも、そうした方々の語りから学び、現在の制度の課題や、支援のあり方を考えることは必要不可欠なことと思います。こうした思いから、これまで私が専門とする里親や養子縁組家庭の元で暮らしてきた方々にインタビューを行ってきました。この拙著は、そうした方々の語りがあったからこそ、仕上げることができたといえます。インタビューに応じていただいた方々への感謝の念で一杯です。

――初めての新書でしたが、執筆にあたって苦労した点は?

林:一般の方々向けに執筆する難しさを再認識しました。こうした制度や実態を誰でも理解できるよう伝えることは、私にとって永遠の課題や使命のように感じられます。自身の存在意義をそこに求めることはこれまでなかったように思います。

――ところで、林さんは現在、大学の社会福祉学科で教えておいでですよね。どのような授業を?

林:勤務する大学では、児童福祉関係の科目を担当しています。授業では「子どもとは?」「家庭とは?」「支援とは?」といった根源的なテーマや、家庭内外における社会的養育支援のあり方について考える機会を提供したいと思っています。授業の中では、この拙著をはじめとした里親家庭、養子縁組家庭、施設などで暮らした経験をもつ方々へのインタビュー等を活用することで、より実感した形で理解できるようにしたいと考えています。そうした中で支援のあり方を考えるだけではなく、自身のこれまでの人生を振り返り、これからの生き方のヒントを得る機会となることも期待しています。

――大変残念ですが、里親や特別養子縁組といった制度は、まだ十分知られていないように思われます。現状をどう見ていますか?

林:居住する近隣にこうした子どもは少なく、皆無である学校も多く、子どもたちは自身の境遇を異質あるいは普通ではないと感じることもあります。諸外国の中には身近にこうした子どもたちが存在し、社会一般に知られ、自身の境遇を誇らしげに語る子どもや養親・里親がいる国もあります。日本ではこうした境遇の家族がマイノリティであるとも言え、生きづらく感じることもあるかと思います。

――今回、特に強調したい点がありましたら。

林:潜在化したマイノリティの方々の生きづらさを理解し、社会のあり方を修正することは、自分たちにとっても生きやすい社会を作ることにつながると思います。里親や養子縁組家庭への理解は、今後の社会づくりにおいても重要なテーマだと思います。

――では最後にうかがうのですが、今後の取り組みのご予定は?

林:これまで社会福祉学を専攻する学生や、研究者に向け執筆、講義、講演をしてきましたが、国民全体に向けた発信の必要性も感じています。その端緒となる拙著は、まだ不十分な面が多々あるかと思っています。今後も一般の人々に向けた発信のあり方について考え続けていきたいです。

――ありがとうございました。

林浩康(はやし・ひろやす)

日本女子大学人間社会学部教授。1961年、大阪府生まれ。北海道大学大学院教育学専攻後期博士課程修了。博士(教育学)。北星学園大学助教授、東洋大学教授などを経て現職。著書に『児童養護施策の動向と自立支援・家族支援』(中央法規出版)、『子ども虐待時代の新たな家族支援』(明石書店)、『子どもと福祉』(福村出版)など。