社長からのメッセージ

 これをご覧になっている皆さんは、就職先として出版業界、とりわけ中央公論新社に関心を持っていただいている方だと思います。関心を持っていただいて、ありがとうございます。

 さて、皆さんは中央公論新社にどのようなイメージをお持ちでしょうか。「中公新書」や雑誌『中央公論』など硬派の出版物を思い浮かべる人もいれば、雑誌『婦人公論』による俳優やタレントのインタビューを連想する人もいるかもしれません。いろいろなイメージがあるのは当たり前ですが、最近始めた様々な取り組みをご存知でしょうか。

 一つは、絵本・児童書分野への進出です。「子どもの頃から文字・活字に親しんでほしい」と読売新聞社との共催で始めた第1回の「書店員が選ぶ絵本新人賞」には561作品の応募があり、全国の書店員408人の投票で大賞に輝いた『はるさんと1000本のさくら』(ただのぶこ作)を2023年11月に刊行しました。76歳の新人絵本作家の誕生を書店員の皆さまに応援していただき、発売前に重版がかかりました。絵本新人賞とは別に、2022年8月に刊行した『もうじきたべられるぼく』(はせがわゆうじ作)は未来屋書店の「未来屋えほん大賞」を受賞、15刷6万2000部まで版を重ねています。

 もう一つは、『婦人公論』とWEBメディア「婦人公論.jp」との相乗効果を狙った「婦人公論ff倶楽部」の創設です。22年1月から月刊誌としてリニューアルした『婦人公論』は、雑誌不況と言われる中で月刊化前の130%前後の部数を維持し、定期購読者は1万人を突破しています。ff倶楽部に会員登録していただくことで、読者像を明確に把握して誌面づくりに役立てるとともに、著者などが登場する会員限定イベントなどを通じて編集部と読者の交流を図っていこうと考えています。さらに、550万のIDを抱える読売新聞グループの「yomiuri ONE」と連携させることで、新たなビジネスの創出も目指します。

 中央公論新社は1886(明治19)年創業の老舗出版社で、明治、大正、昭和、平成、令和の時代を生き抜いてきました。困難な時代にあっても「良書路線」を貫いて来たのが、私たちの誇りです。同時に、それは新たな挑戦の歴史でもありました。社名にもなっている『中央公論』は1887(明治20)年創刊で、総合雑誌の草分けですし、『婦人公論』は大正デモクラシーの最中、1916(大正5)年創刊で、女性の自立を早くから掲げてメッセージを送り続けてきました。1962年(昭和37)に刊行を始めた「中公新書」は岩波新書、講談社現代新書と合わせて「御三家」と呼ばれる存在になりました。

 「良書路線」という伝統は堅持しながら、果敢に新たな挑戦を進め、50年後、100年後にも輝いている出版社になる。それが、私たち中央公論新社の目指す未来です。中央公論新社には、書籍や雑誌への熱い想いを抱いた人たちが多く集まっています。

 そんな熱い想いは、必ず読者にも届きます。2023年を振り返れば、23年2月に刊行された『安倍晋三回顧録』(安倍晋三ほか著)は電子版も含めて累計27万部を記録し、国内メディアばかりでなく、海外メディアでも大きく取り上げられました。

 「中公新書」では、『日本史を暴く』(磯田道史著)が累計30万部の大ヒットとなり、トーハン、日販、楽天ブックスの新書ランキングで1位を獲得しました。『言語の本質』(今井むつみ/秋田喜美著)はYouTubeやSNSで取り上げられるなど社会現象になり、新書大賞も受賞しました。さらに、『田中耕太郎』(牧原出著)が読売・吉野作造賞、『諜報国家ロシア』が山本七平賞をそれぞれ受賞しています。一方、「中公選書」でも『戦争とデータ』(五十嵐元道著)が大佛次郎論壇賞、『大才子 小津久足』(菱岡憲司著)がサントリー学芸賞をそれぞれ受賞しました。

 文芸書も負けてはいません。『チャンバラ』(佐藤賢一著)が中央公論文芸賞、『夜の道標』(芹沢央著)が日本推理作家協会賞、『猛き朝日』(天野純希著)が野村胡堂文学賞をそれぞれ受賞していますし、『黄色い家』(川上未映子著)は王様のブランチBOOK大賞に加え、読売文学賞とダブル受賞に輝きました。

 私は新聞記者、中でも経済記者を長年やっていて、バブル崩壊後の金融危機をつぶさに取材し、どんな金融機関が生き残り、どんな金融機関が潰れていったのかを観てきました。金融危機という非常時に、メディアが果たすべき責務を考えさせられる日々でした。

 2014年に『中央公論』編集長となり、増田寛也さん(現・日本郵政社長)が座長を務めた「日本創成会議」と連携して、「消滅する市町村 523全リスト」に始まる地方消滅キャンペーンを手掛けました。一連のキャンペーンによる問題提起は、『中央公論』だけの力ではないにしても「地方創生大臣」の創設に結び付き、雑誌というメディアの力が世の中を動かすことを体験しました。これらのキャンペーンは、「中公新書」から『地方消滅』『地方消滅 創生戦略篇』『東京消滅―介護破綻と地方移住』として刊行されています。

 熱い想いは必ず読者に届き、世の中を変える力さえ持ち得る――。出版業界を目指す皆さんに、私から贈りたいメッセージです。書籍や雑誌が好きなら、知的好奇心が旺盛なら、新しいことに挑戦したいなら、ぜひ中央公論新社の扉を叩いてください。書籍や雑誌への熱い想いを秘めた皆さんと出会える日を、私たちは楽しみに待っています。