社長からのメッセージ

これをご覧になっている皆さんは、就職先として出版業界、とりわけ中央公論新社に関心を持っていただいている方だと思います。関心を持っていただいて、ありがとうございます。
さて、2024年は中央公論新社にとって記念すべき年となりました。中央公論新社が1886(明治19)年創業の老舗出版社で、明治、大正、昭和、平成、令和の時代を生き抜いてきたことは、ご存じの方も多いと思います。困難な時代にあっても「良書路線」を貫いて来たのが私たちの誇りですが、2024年はそれを裏付けるような論壇賞や文学賞の受賞ラッシュに沸いたのです。
例えば社会・人文学系で権威のあるサントリー学芸賞は例年、4部門8作品が選ばれますが、2024年は中央公論新社から『ジェンダー格差』(中公新書、牧野百恵著)や『日本の小説の翻訳にまつわる特異な問題』(中公選書、片岡真伊著)など4作品が選ばれました。1社が一度に4作品も受賞したのは初めてです。関連会社の中央公論美術出版からも『移ろう前衛』(呉孟晋著)が選ばれているので、中央公論グループが8作品中5作品を占めたことになります。ほかにも、『黄色い家』(川上未映子著)が読売文学賞、『新興国は世界を変えるか』(中公新書、恒川恵市著)が読売吉野作造賞を受賞するなど、14作品が受賞しました。編集者が著者の皆さまとコミュニケーションを取りながら、積み上げた努力の賜物です。
もっとも、中央公論新社はただ「良書路線」を守っていたわけではありません。同時に、新たな挑戦を繰り返し進化し続けてきました。社名にもなっている『中央公論』は1887(明治20)年創刊で、総合雑誌の草分けですし、『婦人公論』は大正デモクラシーの最中、1916(大正5)年創刊で、女性の自立を早くから掲げてメッセージを送り続けてきました。
最近では、2022年からの絵本・児童書分野への本格進出がそうです。「子どもの頃から文字・活字に親しんでほしい」と読売新聞社との共催で始めた「書店員が選ぶ絵本新人賞」は、2回目の2024年も422作品の応募があり、全国の書店員406人の投票で『ライオンのくにのねずみ』(さかとくみ雪作)が大賞に輝きました。2024年11月の刊行でしたが、早くも紀伊国屋書店が過去1年間に出版された新刊絵本・児童書の中でお薦めの10冊を選ぶ「キノベス!キッズ2025」の第8位にランクインしました。
絵本新人賞とは別に、2022年8月に刊行した『もうじきたべられるぼく』(はせがわゆうじ作)は未来屋書店の「未来屋えほん大賞」を受賞しており、テーマソングをリリースするなどのプロモーションを重ねた結果、ロングランで売れ続けて27万部に達しています。
また、『婦人公論』で培った編集力やレイアウト力、キャスティング力を強みに、2023年8月に始動したクリエイティブスタジオ「婦人公論 女性の生き方研究所」は、クライアントから新聞広告原稿の作成を依頼されるなど、雑誌以外の需要も取り込んでいます。2024年10月からはBS11とコラボレーションし、健康・美容・ファッション・お金などをテーマにしたミニ番組「婦人公論 女性の生き方研究所」を月1回放映し、人気を集めています。女性誌は数多くありますが、テレビ番組を放映しているケースはほとんどありません。『婦人公論』が女性たちから絶大な支持を受けていればこそ、実現したものです。
「良書路線」という伝統は堅持しながら、果敢に新たな挑戦を進め、50年後、100年後にも輝いている「進化し続ける老舗出版社」になる。それが、私たち中央公論新社の目指す未来です。中央公論新社には、書籍や雑誌への熱い想いを抱いた人たちが多く集まっています。
私は新聞記者、中でも経済記者を長年やっていて、バブル崩壊後の金融危機をつぶさに取材し、どんな金融機関が生き残り、どんな金融機関が潰れていったのかを観てきました。金融危機という非常時に、メディアが果たすべき責務を考えさせられる日々でした。
2014年に『中央公論』編集長となり、増田寛也さん(現・日本郵政社長)が座長を務めた「日本創成会議」と連携して、「消滅する市町村 523全リスト」に始まる地方消滅キャンペーンを手掛けました。一連のキャンペーンによる問題提起は、『中央公論』だけの力ではないにしても「地方創生大臣」の創設に結び付き、雑誌というメディアの力が世の中を動かすことを体験しました。これらのキャンペーンは、「中公新書」から『地方消滅』『地方消滅 創生戦略篇』『東京消滅―介護破綻と地方移住』として刊行されています。
それから10年を経た2024年は、「日本創成会議」の後継組織「人口戦略会議」と連携して、10年後の検証となる「最新版 消滅する市町村 744全リスト」を『中央公論』6月号に掲載し、11月には中公新書『地方消滅2』を刊行、この問題に引き続き取り組む姿勢を鮮明にしました。いずれも売れ行きは好調で、政府が新たに打ち出した政策「地方創生2.0」にも影響を及ぼしています。
熱い想いは必ず読者に届き、世の中を変える力さえ持ち得る――。出版業界を目指す皆さんに、私から贈りたいメッセージです。書籍や雑誌が好きなら、知的好奇心が旺盛なら、新しいことに挑戦したいなら、ぜひ中央公論新社の扉を叩いてください。書籍や雑誌への熱い想いを秘めた皆さんと出会える日を、私たちは楽しみに待っています。
