伊坂幸太郎 シーソーモンスター

今度の伊坂幸太郎は、 家庭円満も、世界平和も 超ハードモード!

シーソーモンスター

疾走するエンターテインメント小説×2
このスピードを体感せよ!

単行本 定価 本体1600円(税別)

バブルに浮かれる昭和の日本。製薬会社に勤める北山直人は妻の宮子から、一緒に暮らす母、つまり姑の愚痴を聞かされる。よくある嫁姑問題......のはずだったが――!?

目の前の男の右手が光った。刃物だと認識するより先に、こちらの体が動く。ボクシングのコンビネーションに近い。避けたことで相手は宙を刺し、勢いあまって廊下の壁に右手をぶつけた。壁に刃物が突き刺さる。
わたしはすぐさま折り曲げた右膝で、相手の横腹を蹴った。
意識した以上に力が込もっていた理由はほかでもない。
お義母さんに怒られるじゃないの。という怒りからだった。
掃除中につけてしまった小さな柱の傷すら、義母の目は見つけ出す。わたしを攻撃できる口実を探り出す力には驚嘆するほかない。
宮子さん、この壁の傷、どういうこと? と責め詰られる気持ちになってよ。
男はしつこく体を動かし、刃物を振り回す。右足で、相手の膝関節を蹴る。
男がバランスを崩し、膝を突いた。すぐに起き上がるが、履いたままの靴が目に入り、わたしは怒り心頭、穏やかではいられない。

(「シーソーモンスター」p75)

2050年の日本。「配達人」の水戸直正は新幹線の車中で、因縁の過去を持つ青年・檜山景虎に再会する。檜山は、ある事件の捜査員として新幹線に乗っていた......

そして、スクーターに表示されるナビゲーションに従い、公園に辿り着き、池のスワンボートに乗り込んだところ、北山由衣人の立体映像が映し出された。
「私たちが管理する、安全に話をするための場所が都内にはいくつかあるんですが、そのあたりだと、その公園しかないので、申し訳ありません。しかも、そんなものに乗ってもらっちゃって」と彼はまず謝罪した。
「何なんだよ、これは」
「ただのボートに見えますが、そこなら傍受はできません。仕事上、どうしても誰かに聴かれたくない話が多いですし、街も道路も通信情報はかなり無防備になってしまいますから」
(中略)
「警察は、お二人のことを躍起になって捜しています」
「へえ、知らなかった」中尊寺が皮肉で応じる。
「都内での暴動事件の首謀者として」
 中尊寺は体を起こした。「何だよ、それは。そっちは本当に知らないぞ」
「暴動事件?」全く予想していなかった言葉に、僕も彼を見る。

(「スピンモンスター」p338)