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編集長コラム

第16回/ぐるぐる回る「要不要」

 みなさんはゴールデンウイークをいかがお過ごしになられましたか。私は、何処にも出かけず、20年間すんだ「鳥かご」のようなボロマンションを出て、すこしばかり広い、かつ古〜いマンションに引っ越しました。

 引っ越しを前日に控え、いまにも崩れそうな段ボールがリビングに積み上がるにつれて、家族の間に険悪な空気が漂いました。息子二人は、「これもいらん」とばかりに、パッパッと捨てていきます。私も、貴重な取材メモや写真を思い切って捨てました。この20年間、取り出して使うことは一度もなかったのですから、今後もないと割り切りました。
 半日もたてばみんなつかれて、ほとほと引っ越しが嫌になってきました。早く、終わってビールが飲みたい。息子たちは、理由を見つけて近くのマクドナルドに逃げていきました。

 3日間、ほとんどしゃべらず黙々と作業を続けたのは妻ひとりでした。20年間、押入の奥深く眠っていた昔の資料や本や服を取り出しては眺めて、ニンマリ。そして新しい段ボールにせっせと詰め替えていくのです。その不思議な作業に思わず、
「ねぇ、使わない資料や服はこの機会に捨てたらどうかな」
「いや、ちゃんと使うから捨てられない」
「だって、この20年間、一度も出してないよ」
「これから使うの。収納場所がたくさんできるから、これからは使う機会が増えてくる」
「その資料は学生時代のでしょ。そのドレスは20年前の演劇部のじゃないか。第一、入らないだろ」
「入る。フィットネスに通うから入る。あなた、ごちゃごちゃうるさいわよ」
 驚いたことに、途中から手伝いに来てくれた義母までが、私が捨てようとすると、「ダメダメ、それは捨てちゃいけません。あ〜、なんでもかんでも捨てようとして……。なに考えてんだか。ほんと来て良かった」
 そういって「捨てる段ボール」に詰めた荷物をほどいて、取り出し始めました。義母に怒るわけにもいかず私は、「いや〜、てっきりいらないかと。すみません、すみません」と、なんだかスッキリしないまま「捨てるもの」から「使うもの段ボール箱」に移し替えたのでした。

 「捨てる」のは、なぜむずかしいのでしょうか。
 それはきっと、生きてきた思い出や、そのときの時間や小さな達成感まで捨ててしまう気分になるからでしょうね。つまり、自分の人生のなにがしかを、捨てる。だから難しいのでしょう。捨てる勇気を振り絞るには、残したい本当に大切なものがわかってなければなりません。
 自民党政権を倒した細川護煕元首相(日本新党)が議員の職を捨てるとき、引用したのが、細川家に嫁いだ細川ガラシアの辞世の句でした。
「散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ」
 元首相は政権を投げ出しましたが、細川ガラシアの最期は見事でした。
 彼女が命を捨てて、守ろうとしたものは何だったのでしょうか。いまわのきわに出会った新しい自分とは、宗教のベールの向こうでどのような表情で立ち現れたのでしょうか。その正体を知りたいものです。

 今回特集は、「捨てて始まる、新しい私」です。

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