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編集後記

2017年7月号【編集長から】

<報道も科学もファクトが重要だ>

肺に入れても害のないフロンガスが冷蔵庫から消えたのに、金属やカーボンの塊である飛行機が飛ぶのを禁止されていない理由は、人類に科学があるからでしょう。五感では把握しかねる事実を教える科学と、そこから合理的な結論を導く知性があって、現代文明は成り立っているのでしょう。

ところがそこに政治や党派性が絡むと、「事実」も「知性」も失われかねないというのが、今月号の二大特集を流れる通奏低音です。

マケドニアのルポは衝撃的でした。大学生らが小遣い稼ぎのためにネットでついた嘘が、米大統領選の投票行動を歪めました。そうして誕生した新大統領は、政権批判のニュースを「フェイク」のレッテルを貼ることで封じ込めようとしています。

豊洲の移転議論では、「知性」が後景に追いやられました。

安全かどうかの判断を脇に置いて安心について議論すれば、五感で騒ぐ井戸端会議と同じです。政治が説得責任を放棄して、とにかく不安をゼロにと叫べば、やがて飛行機だって飛べなくなるでしょう。

私たちメディアも反省する必要がありそうです。既存メディアへの不信はフェイクニュースを生む一因となっているようですし、科学を飛び越して不安を煽りたてる報道が冷静な議論を妨げてはいないかと懸念する声も聞きます。党派性を離れた科学の目は、メディアにも必要だと、自戒を込めて思います。

<中央公論デジタル・ダイジェスト>
バックナンバーの特集を電子化しました。

                          編集長 斎藤孝光

2017年6月号【編集長から】

<暴走する北朝鮮、迷走する韓国>

北朝鮮はミサイル挑発をやめようとせず、韓国は長い政治空白の末ににようやく新大統領が決まったばかりです。朝鮮半島情勢はどう動くのか、多角的に考えました。北の挑発に対し、トランプ米政権は実力行使も辞さずとヒートアップしています。最悪のシナリオはどうなるのか。陸海空の自衛隊幹部OBによるシミュレーション鼎談では、第三次世界大戦に発展する懸念もあるといいます。悪夢を避けるためにはどうすべきなのでしょうか。

一方で、平岩俊司氏と川島真氏は対談で、米朝が手を握るシナリオにも警鐘を鳴らしています。米東海岸にさえ届かなければ北朝鮮の核保有を認めるという合意ができてしまうと、日韓だけが北の核に怯えることになるというのです。このほか、飢えや困窮で弱体化し、金正恩体制を揺るがしかねない北朝鮮軍の内情を石丸次郎氏が報告します。

韓国関連では、文在寅氏の外交アドバイザー・金基正氏が木村幹教授と対談。文氏の政策スタンスを説明しています。朴前大統領への名誉棄損事件で被告となり、無罪となった加藤達也元産経新聞ソウル支局長は、法廷闘争の間に体験した「国民感情法」に揺れる司法・検察当局の右往左往ぶりを鋭く描写。サムスン電子やロッテなどの財閥の苦境を松崎隆司氏が現地からルポしています。


<生涯現役社会をどう生きていくか>

生涯現役社会はすぐそこまで迫っています。人手不足社会が到来し、年金支給はやがて65歳からとなり、高齢で働くニーズが、社会的にも個人のライフサイクルの上でも高まっているのです。

では、どんな仕事があるのでしょうか。

特集では、「生涯現役社会の理想と現実」と題して、清家篤氏と松本すみこ氏が対談。樋田敦子氏が「こんなにある!65歳からの働き方ファイル」とのテーマで、会社顧問やボランティア、起業など様々な選択肢をルポします。

高齢者の定義を75歳以上として一石を投じた日本老年医学会の大内尉義前理事長は、その科学的な根拠を説明してくれました。

2017年5月号【編集長から】

<あいまいな日本の憲法>

「阿吽の呼吸」や「以心伝心」で通じる日本的なあいまいさが、憲法にも潜んでいると思い知らされた気がしました。

5月3日に施行70年を迎える日本国憲法。その最大の特徴を東京大学社会科学研究所准教授のケネス・盛・マッケルウェイン氏は「短いこと」と喝破します。5月号の特集「憲法の将来」の寄稿論文「日本国憲法の特異な構造が改憲を必要としてこなかった」はとても刺激的です。氏によれば、現存する世界約200の憲法典の中で、日本国憲法は短い方から3番目。それゆえに具体的な記述に乏しく、詳細は下位の法律に委ねています。例えば選挙制度一つとっても、憲法に定めがない日本は公職選挙法を54回も改正しています。そうやって、憲法に触れることなく、70年に及ぶ社会情勢の変化に対応してきたというのです。

要は、憲法は「ちゃんとやれ」というだけ。「ちゃんと」の中身は政治家や官僚が社会情勢を見ながら「阿吽の呼吸」「以心伝心」で決めてきたとも言えます。けれどもそれは、小さな変化には融通無碍でも、大きな変化には心許ないのではないでしょうか。危急の際、「戦力の不保持」や「交戦権の否認」(九条)と「幸福追求権」(十三条)のどっちをより先に「ちゃんとする」べきか、憲法は何も語ってくれません。下位法に委ね過ぎれば、権力に縛りをかけるという憲法の役割を果たせなくならないかと氏は心配します。

特集では自民、公明、民進、維新の論客が憲法改正について意見を戦わせましたが、司会を務めた田原総一朗氏はこの中で、議論を先送りしてきた政治の怠慢を厳しく指摘しました。座談会では一同が問題意識を共有し、民進党・細野豪志氏は憲法改正案を発表しました。議論の呼び水になることを期待します。

70歳を迎えた憲法。「以心伝心」もさすがに時間切れではないでしょうか。特集が「あいまいな日本」の危うさを考えるきっかけになればと思います。

<ポピュリズムは民主主義を破壊するのか>

もう一つの特集は、ポピュリズムです。著書「ポピュリズムとは何か」(中央公論新社刊)で、現代のポピュリズムは反デモクラシーとは言えないと指摘した千葉大学教授の水島治郎氏が、北海道大学教授の遠藤乾氏と対談します。

水島氏はオランダ、遠藤氏はEUを中心とした欧州と、専門分野が重なる両氏。情報と分析は冴え渡りますが、ポピュリズムの見方には違いも出ました。

2017年の欧州は選挙の年です。4月に始まる仏大統領選では、ポピュリスト政党から有力候補がでています。ポピュリズムはデモクラシーを脅かす害悪なのか、一定の役割を果たす存在なのか。それをいかに位置づけ、どう扱っていくべきか。じっくり読んでいただきたい対談です。

このほかにも、佐藤信氏、稲葉振一郎氏、谷口将紀氏がポピュリズムについて深い論考を寄稿しています。ポピュリズムの現状、問題点、将来が一冊でわかる特集です。

                              編集長 斎藤孝光
                   (★ツイッターで発信中です @chukoedi)

2017年4月号【編集長から】

<歴史力で乱世を生き抜く>

現在が第二次大戦前に似ているという説があります。

英フィナンシャル・タイムズ紙は今年の初めに「欧州にファシズムの波が押し寄せ、第二次世界大戦が勃発した当初、孤立主義だった米国が傍観した歴史が頭をよぎる」と論じています。「アメリカファースト」を公言し、一国主義に回帰したように映るトランプ新大統領の誕生に、不幸な歴史の記憶を重ねたのです。

第一次大戦こそ回顧されるべきという識者もいます。

新興国の米、ロシア、独、日本が台頭する一方、世界平和を担保していた大英帝国の覇権が失われた過程が、パックス・アメリカーナが揺らぐ現在と同じ道筋のように見えるというのです。

今回の特集のきっかけは、小社刊「応仁の乱」(中公新書)の予想を超える売れ行きにありました。利害得失が複雑で、だれも主導権を握れないままずるずると続いた泥沼の戦いです。英雄不在の「地味」な史実に関心が高まる理由は、専門家らが歴史に、今に通じる「相似形」を探す動機と深いところでつながっているのでしょう。

特集では、著者の国際日本文化研究センター助教・呉座勇一氏と政治学者で慶応大教授の細谷雄一氏が「英雄なき時代の混沌に立ち向かう」のテーマで対談します。二人が一致したのは、第一次世界大戦と「応仁の乱」の不思議な相似。時空を超えた歴史の共通項を解き明かします。

中国の拡張主義、ロシアと欧州の緊張、中東の混乱、核の挑発を続ける北朝鮮、世界を覆うポピュリズム・・・。国際情勢が混迷の度を深め、先行きを濃い霧が覆っています。日本を取り巻く状況も楽観できるものではないようです。歴史を学ぶのはそれ自体楽しいものですが、いまは趣味と実益を兼ねて向き合える稀な時期といえるのかもしれません。幸か不幸か。

<東京がスラム化する??>

もう一つの特集は、都市の空き家問題です。

土地神話はとっくに崩壊したはずなのに、日本銀行の統計では、2016年の不動産融資は過去最高額に達し、いまだに首都圏にはマンションが建ち続けています。一方で全国の空き家率は住宅総数の13・5%にも達しています。こんなことがいつまでも続くのでしょうか。

しかも、空き家問題は地方の問題ではないのです。

東京、大阪、神奈川、愛知の空き家数の合計は、全国総数の約3割を占めています。確かに大都市の空家率はまだ低い。しかし母数が大きいので、数で言えば大都市に集中し、郊外から中心部に向かって、じわじわと不気味な空洞が広がっているのです。

ある調査では、2033年には、日本の空家率は地域全体がスラム化する水準の30%を超えるという結果が出ています。地域全体がゴーストタウン化し、治安が維持できず、防災力も失われていく。大都市にまで「限界集落」が現れるのです。

特集ではこうした恐怖の近未来シナリオを徹底分析しました。藻谷浩介氏の論文「お台場の超高級マンションが『負け組み』になる日」のほか、「老いる家 崩れる街」の著者で東洋大教授の野澤千絵氏が規制緩和が生んだ住宅バブルを検証。不動産問題の第一人者・オラガ総研代表の牧野知弘氏が、「こんな時代の住まいの選び方」と題して、安易な住宅購入に警鐘を鳴らします。ジャーナリストの菊池正憲氏は、先行事例ともいうべき昭和の人気マンション団地「高島平」の今をルポします。

                              編集長 斎藤孝光
                   (★ツイッターで発信中です@chukoedi)

2017年3月号【編集長から】

<ふるさと納税の本末転倒>

テレビCMも流れるほど人気の「ふるさと納税」。都市で働く地方出身者が、住んでいる自治体に納める地方税の一部を、寄付の形で地方に還元するというのが、本来の精神でした。過疎などで苦しむ自治体に「恩返し」をする制度だったはずなのです。

ところが国が指定した過疎自治体の中に、「ふるさと納税」による収支が「赤字」になるケースがあることがわかりました。人気の理由である豪華な「返礼品」競争から距離を置いたところ、寄付が集まらないばかりか、地元住民が他の自治体に寄付を多く行ってしまったのです。

こうした自治体の中には、財源を奪われるくらいならと、「返礼品」競争に参入したところもありますが、今度は返戻品にお金がかかり、苦しんでいます。結局、返礼品を供給する地元の事業者と「ふるさと納税」をした人が得をし、トータルではその分を全国の自治体がかぶっていることになります。

2015年度、「ふるさと納税」で最大の「黒字」を出したのは、宮崎・都城市の42億円でした。最大の「赤字」は横浜市の28億円。その差は70億です。3月号の特集は全1741自治体の収支勘定全リストを掲載しました。みなさんが住んでいる自治体やふるさとの自治体の収支も載ってます。

また、「ふるさと納税」推進派の石破茂前地方創生相と、廃止派の片山善博早稲田大学教授、損する自治体の首長として田中良杉並区長が制度のあるべき姿について激論を交わしています。ジャーナリストの葉上太郎氏は、過疎自治体なのに「赤字」となった北海道富良野市と函館市をルポ。返戻金競争の最前線から制度の矛盾を指摘します。

片山教授は、東京都区部などの金持ち自治体が本気で返礼品競争に参入したら、地方自治体はむしろ税収を奪われることになりかねないと「予言」しています。「ふるさと納税」がいつの間にか「都心納税」にならないために、制度の見直しが求められているといえそうです。

<新書大賞2017>
書店員さんや出版社、識者による投票で前年の「ベスト・オブ・新書」を決める新書大賞。10年目の2017年は橘玲さんの『言ってはいけない』(新潮新書)に決まりました。
中央公論3月号で特集しています。

2位は吉川洋教授の『人口と日本経済』(中公新書)、3位は菅野完氏の『日本会議の研究』(扶桑社新書)でした。

特集では、20位までのランキングと投票に応じていただいた方々のコメントを掲載。10年目の節目を祝って、2008年以降10年間の「私的ベスト3」もお尋ねしています。永江朗さんと渡邊十絲子は、最新の新書事情を巡って対談してくださいました。
新書ファンは必読です。

編集長 斎藤孝光
(★ツイッターで発信中です@chukoedi)

2017年2月号【編集長から】

<国立大学の地盤低下 湯川博士なら何という>

1949年に日本初のノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士は53年、京都大学基礎物理学研究所の初代所長に就任しました。学外の研究者が参加する日本初の共同利用研究所でしたが、前例がないため予算がつかないケースが多く、金策には苦労したようです。

当時の京大総長は滝川事件で知られる法学者の滝川幸辰氏。学外研究者に旅費を支給しない方針に湯川博士は、「法学者に研究のことがわかるか、法律が国をつぶす」と激怒し、学外研究者を非常勤講師に任じる方便で乗り切ったと、博士を追悼した雑誌(『自然』一九八一年一一月増刊号)にあります。ある年の瀬には本屋の丸善から未払いの書籍代を払うようねじ込まれました。直談判をヒヤヒヤしながら隣室で聞いていた同僚の耳に「湯川先生の声が聞え、首を吊りますよと響いた。この一声に丸善は退散した」(同号)。

半世紀が経った2004年度、国立大学は独立行政法人となりました。それから12年、研究機関としての地盤低下が進んでいます。若手研究者は非正規ばかりとなり、職員の論文数は減り、東大や京大の国際ランキングは低下しています。なぜでしょう。

研究費が足りないわけではありません。

独法化以降、国は大学運営の基礎的経費である「運営費交付金」を毎年1%ずつ減らす一方で、審査を通った有望な研究に資金をつける「競争的資金」を大幅に増やしています。国全体で見れば研究費予算は増え、成果が期待できる分野に資源配分する制度は整ったといってもいいのです。

国立大学が直面したのは厳しい資金獲得競争です。「競争的資金」を満足に獲得できないと、「運営費交付金」の分だけ予算が減るからです。もっとも競争ですから、勝者と敗者が生まれるのはある程度仕方ないのかも知れません。

最大の問題は、「競争的資金」を多く獲得した大学が、それに見合う成果を挙げていないことでしょう。「勝者なき競争」にこそ、事態の深刻さがあるのです。

特集では、五神真・東大総長、里見進・東北大総長やノーベル賞を受賞した梶田教授が、現状と問題点を指摘。内閣府、財務省の当事者も登場。阪大・大竹文雄教授は文系のあるべき姿を提言しています。

日本の科学技術を下支えしてきた国立大学が研究力を低下させれば、技術立国・日本の姿を変えてしまうことにもなりかねません。文字通り「首をかけて」予算を確保した泉下の湯川博士がこれを知ったら、どう思うでしょうか。義憤にかられるか。情けなさを嘆くか。まさか、「ここで首を吊れ」とは言わないでしょうが・・・。

<脳卒中死亡率 地域格差は最大2・5倍>

もう一つの特集は、年間11万人もの命を奪っている脳卒中(脳梗塞や脳内出血などの脳血管疾患)です。特に寒い朝には、血圧が上がって発症するケースが多く、注意が必要です。発症したら直ちに病院に行き適切な処置をしないと、命に関わったり後遺症が残ったり。まさに一刻一秒を争います。

つまり近所に医療体制が整っているかどうかが生死を分けます。患者の搬送体制、受け入れ医療機関までのアクセス時間、医療機関の設備や医師の技量が、文字通り致命的に重要なのです。一命を取り留めたとしても、リハビリ医の質が予後に大きく影響します。

では、地域による死亡格差はどの程度あるのでしょうか。

埴岡健一・国際医療福祉大学大学院教授は、全国344の「2次医療圏」ごとに、年齢構成などを補正した後の脳卒中の死亡率(標準化死亡比)を割り出しました。今回の特集はこの全リストを掲載しています。脳卒中に関して、2次医療圏ごとの死亡率が明らかになるのは初めてです。

驚くべきことに、死亡率の地域格差は男女とも最大約2・5倍に達しています。男性でいえば、全国を100として示す死亡率は、最低の大阪府豊能(池田市、箕面市及び周辺部)が67・2なのに対し、最高の岩手県宮古(宮古市及び周辺部)では167・9なのです。

死亡率は塩分摂取が多い東北などで概して高くなっています。しかし、東京・西多摩地区や栃木、茨城などにも大変に高い地域があります。また、同じ都道府県内でも、地域によって格差が生じています。

例えば福井県の男性死亡率は、都道府県単位では低い方から5位と優良ですが、2次医療圏で比較すると、丹南(鯖江市、越前市及び周辺部)の79・5に対し、隣接する奥越(大野市、勝山市)が128・9と1・6倍も格差がありました。

こうした格差がどこから生じるのかは専門的な分析が必要です。今回の特集では、医療ジャーナリストの福島安紀氏が「東北だけじゃない!なぜ、西多摩、茨城、栃木は死亡率が高いのか」の中で、その原因を探っています。

編集長 斎藤孝光
(★ツイッターで発信中です@chukoedi)

2017年1月号【編集長から】

<現実を踏まえ、時代と切り結ぶ>

お陰さまで本誌は創刊一三〇年を迎えました。現存する国内の雑誌では最長寿とされています。古きが故に貴いとは申しませんが、消長の激しいメディアの世界で、総合月刊誌という形態を維持したまま、他のどの雑誌よりも長く続いていることは、編集部が密かに誇りとするところです。

名は体を表すのたとえ通り、草創期の名編集長・滝田樗陰は吉野作造を育て、大正デモクラシーにも大きな影響を与えましたが、革命思想のような急進的な思想からは距離を置き、自由主義より左に傾くことはなかったと社史は伝えます。二代目社長の嶋中雄作は昭和四年一月号の「中央公論の本領に関する宣言」で「わが中央公論それ自身は右派でもなければ左派でもない(略)未だ其の何れにも属せず私かに去就に迷うて居る一層多くの大衆の存在を先づ念頭に置かざるを得ぬ」と述べています。

私たちはこのDNAを引き継ぎ、極論を排して、時代と切り結び、世の中を先導する議論を生み出していきたいと願っています。世界を不確実性が覆う今、近現代を見続けた本誌の役割はより重くなったと感じています。まだまだ老け込んでいるわけには参りません。

記念号となる今号は、論壇を特集しました。それは論壇誌の存在を問うことと同じですから、内心穏やかならざる面がありましたが、叱咤激励を多く頂戴し、勇気付けられました。一層の努力をお約束しようと思います。

創刊からこの間、戦争や震災、当局の弾圧、編集上のトラブルや他メディアの勃興などで、存亡の窮地に陥ったことは一度ではありません。一三〇年を永らえることができたのは、ひとえに本誌の価値を認め、ご支援くださった多くの読者のおかげです。この場を借りて、心からの感謝を表したいと思います。

 編集長・齋藤孝光

2016年12月号【編集長から】

<「人口減ペシミズム」に陥るな/夢の「長寿物質」臨床研究始まる>

人口減少と経済成長の関係を正面から問い直した新書「人口と日本経済」(小社刊)
が売れています。今回の特集はその著者、吉川洋立正大教授をはじめとした人口問題の専門家や加藤一億総活躍担当大臣にお話をうかがいました。
お届けしたいメッセージは「人口減だからといって、過度に悲観することはない」ということです。ポイントはイノベーションによる生産性の向上。吉川教授は、大人用オムツを例にとりながら、シルバー市場が広がる日本にこそ、イノベーションの種は多く転がっていると説きます。経済協力開発機構(OECD)の村上由美子東京センター長は、スキルの高い中高年がいることが、日本経済の強みと訴えます。

お二人とも、人口減が成長に有利と主張しているわけではありません。目の前にシルバー市場が広がり、良質な働き手がいる中で、過度なペシミズムは不必要なばかりか、成長の足を引っ張り、有害でもあるというのです。

2年半前、小誌は「消滅可能性都市」の特集を組んで、人口減への警鐘を鳴らしました。このまま行けば、全自治体の半数に当たる896市区町村が将来、消滅する可能性があるという内容でした。
その衝撃は大きく、これを機に、地方創生や子育て支援などの人口減少対策が大きな政策課題として一般に認識されるようになったと自負しています。一方で、将来を悲観する度合いが強まった地域・自治体もあったと聞きます。

どんな逆境にもどこかに希望があることを、英語で「すべての雲には銀の裏地がある
(Every cloud has a silver lining)」といいます。日本にとっての「シルバーライニング」が雲間からのぞく日を待ちたいと思います。
その「シルバーライニング」の一つになるかも知れません。

マウスの実験で高い老化抑制効果が認められたニコチンアミド・モノヌクレオチド(NMN)の人体への効果を検証する世界初の臨床研究が、慶應大学で始まりました。10月
28日に米科学誌で実験結果を公表したワシントン大学の今井眞一郎教授が率いる共同研究です。今井教授はロングインタビューの中で、1年以内に効果を確認したいと意欲的です。

NMNはなぜ老化を抑制するの?老化抑制以外の効果はあるの?副作用は?実用化・大量生産に向けた取り組みは?。夢の「長寿物質」についてたっぷりと聞いています。

さて、ストレスも長寿の大敵ですね。12月号では、ストレスとうまく付き合う方法も特集しました。アドラー心理学、マインドフルネスなど実践的なノウハウも紹介しています。

(編集長・齋藤孝光)

2016年11月号【編集長から】

<他誌では読めないノーベル賞・大隅教授のスペシャル対談/五木さんが見たミック・
ジャガー>

ビッグニュースが飛び込んできました。大隅良典・東工大栄誉教授のノーベル生理学・
医学賞単独受賞です。
11月号では、一躍時の人となった大隅教授が、同じ細胞学者で、歌人としても著名な京
都大学名誉教授、永田和宏氏と対談しています。
受賞対象となった「オートファジー」を世界で初めて肉眼で観察した時の感動、細胞の
分解という着手当時は日が当たっていなかったテーマを研究対象に選んだ理由、科学す
ることの喜びや研究に成果主義を持ち込む弊害などをたっぷりと語っています。科学の
本質に迫る対談です。

もう一つの目玉は、五木寛之さんの新連載「一期一会の人びと」。五木さんと世界のレ
ジェンドたちの交流録で、初回の今回はミック・ジャガーを取り上げます。
ほとんど予備知識がないまま、ぶっつけ本番同然に対談に望んだ五木さんですが、その
言葉はミックの心の襞に届いたようです。
紙の上に再現される細かい会話のやり取りから、ミックの人柄や息遣いまでが伝わって
きます。
五木さんにしか書けない、まさに珠玉のエッセイです。

メーンの特集は中国の「次の一手」を占いました。
「交渉とは、血を流さない、武器を使わない“戦争”である。知識と知恵と精神力を使
って利益を勝ち取る行為である。この三つの要素は交渉開始から終了までを通じ、勝敗
に決定的役割を果たしている」。

中国の国有企業が作ったとされる「対外技術導入の手引」の邦訳版を読んだことがあり
ます。その一節を引用しました。
交渉を共通の利益を見出す作業ではなく、勝負事と見做す本音が透けて見え、彼我の考
え方の差を思い知らされます。「手引き」には日系企業との商談の成功例も複数掲載さ
れ、溜息がでました。

オランダ・ハーグの仲裁裁判所に南シナ海の領有権を全否定された中国の習国家主席で
すが、ホストを務めたG20では、譲歩することなく、国際的な批判の合唱を抑え込みま
した。尖閣周辺に漁船や公船を大量に集中させる一方、アメリカとは環境問題で手を握
るなど硬軟を使い分けました。中国流の「強さ」が際立った局面かもしれません。

一方で、「弱さ」も露呈しています。

党内での権力闘争はまだ続きそうですし、民主派への弾圧を強めている内政も波乱含み
です。経済は減速しています。香港の反中運動は・・・?
政治学者、陸海空自衛隊OB、中国経済の専門家や新聞記者が多角的に論じています。

(編集長・齋藤孝光)

2016年10月号【編集長から】

<このままでは、親不孝者が得をする社会になる>

ラジオから緊急ニュースが流れてきました。「高速道路を一台の車が逆走しています。運転中の方はご注意ください」。高齢のドライバーが大声で叫びました。「何いってんだ。一台どころじゃないぞ」。

イギリスのジョークです。15年ほど前に知って、気に入っていたのですが、だんだん笑い事ではなくなってきました。現実が冗談を超えるかもしれないのです。

2025年、日本の認知症患者数は香港の人口に匹敵する700万人に達すると推計されています。世界のアスリートが東京五輪に終結してわずか五年後のことです。そのころには、高速道路の逆走車は文字通り「一台どころではない」かもしれません。

今月号の特集は、認知症患者が加害者となった時の家族の責任のあり方に焦点を当てました。今は詐欺などの被害者になる事例が問題視されるケースの方が多いのでしょう。しかし、認知症患者が引き起こす事件や事故は確実に増えています。

象徴的だったのは、認知症患者が徘徊中に列車にはねられた事故を巡り、JRが家族を相手に起こした裁判です。今年3月の最高裁判決は、家族の監督責任を認めるかどうかは、患者の面倒を見ていた程度による--などという初の判断基準を示しました。これでは、熱心に介護すればするほど、責任が重くなりかねません。

特集の中で法律家や介護施設の運営者は、判決が家族や介護施設のモラルに与える影響を軽視できないと指摘しています。責任を回避するために、介護を放棄したり、家屋や施設内に患者を閉じ込めておくケースが増えるというのです。

誰もがなりうる認知症患者を、放置したり閉じ込めたりする社会でいいわけがありません。時間切れになる前に、議論を尽くすべきだと思います。

(編集長・齋藤孝光)

2016年9月号【編集長から】

月刊誌の編集作業は発売月(9月号だと8月)の前月に行います。この7月は
<海外>
3日 バングラディッシュで、日本人7人を含む多数が犠牲になったテロ発生
12日 オランダ・ハーグの仲裁裁判所が、南シナ海の中国主権を認めない判決を示す
14日 仏ニースのテロで80人を超える死者発生
15〜16日 トルコで軍部がクーデターを起こすも失敗

<国内>
12日 永六輔さんなくなる
11日 参院選で与党大勝
15日 天皇陛下が生前退位の意向をお持ちと報道される
26日 相模原市の知的障がい者福祉施設で、入所者19人が刺殺される
31日 東京都知事選で小池百合子氏が当選

と大きなニュースが目白押しでした。

このほかにも、米大統領選で民主、共和両党の候補が決まり、安倍総理が28兆円規模の経済対策を発表し、日銀は追加緩和に踏み切っています。政治、経済、国際関係とも激動した月といっていいでしょう。

そんなこともあって、通常は2本の特集を4本に増やしました。

その中でも大きく扱ったのは、天皇陛下に関連したニュースです。

天皇陛下は皇太子時代に、昭和天皇の名代として英エリザベス女王の戴冠式に参列されています。対日講和条約が発効した翌年の1953年6月2日。陛下は19歳、女王は27歳でした。

陛下にとっては平和の尊さが身に染みる外遊だったのだと思います。
「戦争により荒廃した国土から訪れた者として、訪問した多くの国の人々が豊かに生活していることに胸をつかれ、そのことが深く心に残りました」。
2012年の女王即位60周年祝賀行事にあわせて、こんな思い出を披瀝されています。

この祝賀行事に参加した国家代表のうち、59年前の戴冠式にも参列したのは、天皇陛
下と当時18歳だったベルギーの国王アルベール二世の2人だけです。
アルベール二世は2013年に退位しています。女王陛下はいまも公務を超人的にこなされていますが、今年卒寿(90歳)を迎えました。

年月は誰にも平等です。特集が少子・高齢化時代を前提とした新しい皇室のあり方を考える材料になればと思います。 (編集長・齋藤孝光)

2016年8月号【編集長から】

 8月号は「世界を蝕むポピュリズムと排外主義」「日本人横綱は誕生するか」の2つの特集をメーンにしています。前者は英国のEU離脱とドナルド・トランプ氏の米大統領選共和党候補確定を受けたものです。

 「民主主義は最悪の政治形態と言われている。これまで試みられたそれ以外のすべての政治形態を除いては」とは、ウィンストン・チャーチルの名言です。民主主義の優秀さを逆説的に強調した1947年11月の議会演説です。

 それから69年後、英国民は、欧州各国が主権を譲り合って共栄するという世界史的な試み(EU)から自主退場しました。米国民は、移民排斥などの過激な主張を掲げるドナルド・トランプ氏を共和党の大統領候補に確定しました。いずれも民主主義の手続きに則った正当な国民の意思です。

 世界大戦の傷がまだ生々しい時期にチャーチルがいった民主主義の「最悪」な側面とは、「ポピュリズム(大衆迎合主義)と排外主義」の暴走でしょう。民主主義のリーダーを任じてきた英米がその「震源地」となり、他国にも燎原の火のように広がっています。民主主義に批判的な、あるいは権威主義的な国の指導者たちは、含み笑いをしているかも知れません。歴史の分岐点は後からわかるものです。当分この問題から目が離せません。

 日本人横綱が誕生したのは18年前の若乃花が最後です。ずいぶん時間が経ちました。国技が海外勢に席巻されるのは忍びないですね。国内勢には頑張って欲しい。ただ、相撲ファンの間に外国人排除の合唱は起きていません。それが当たり前、と思えることは、いま、とても大切な感覚だと思います。

 この号から編集長をしています。齋藤孝光と申します。よろしくお願いいたします。

2016年7月号【編集長から】

 こんにちは。中央公論編集長の安部順一です。

 参院選が7月10日の投票日へ向け、事実上スタートしました。今回の参院選の隠れたテーマは「シルバー民主主義」ではないでしょうか。この言葉が人口に膾炙するようになったのは、ここ数年のことです。高齢者の投票率は高いのに若者は低いため、人口構成以上に高齢者の声が政策に反映されやすくなり、「年金など高齢者向け給付は手厚く、負担は少なく」になっているとされます。

 本当にそうなのか、そうだとすれば、これからの民主主義はどうあるべきなのか。若者の声をより反映させようと「18歳選挙権」が導入される参院選を前に、特集「シルバー民主主義に耐えられるか」で考えます。折しも、安倍首相は消費税増税を2019年10月まで2年半延期することを表明しました。この判断は、シルバー民主主義というよりも、景気の現状分析が大きく影響しているようですが、結果として、社会保障財源が足りなくなる可能性もあります。猪木武徳さんの「世代間対立はデモクラシーの宿命である」、28歳佐藤信さんと30歳原田謙介さんの対談「若者が投票に行かないこれだけのワケ」をはじめ、様々な角度からシルバー民主主義を分析します。関連して、五木寛之さんの特別インタビュー「『嫌老社会』の一つ先に『多死』の時代が訪れる」も必読です。

 ドラマ離れが指摘されるなか、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)の快進撃が続いています。特集「『朝ドラ』ブームを読み解く」は、宇野常寛さんの「なぜ『朝ドラ』人気は復活したのか?」を軸に、「あさが来た」に出演した波瑠さん、近藤正臣さん、そして脚本を書いた大森美香さん、NHKドラマ番組部長の遠藤理史さんに登場いただき、「朝ドラ」ブームを体系的に考えます。

 ちょっとしたクイズを。囲碁七冠の井山裕太さんと将棋の羽生善治さんの囲碁・将棋頂上対談「七冠を背負う重圧と解放感」。一つの局面を見たときに、羽生さんはどれぐらい候補の手を考えるでしょう? 井山さんはどうでしょう? 答えは、本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

 最後に。私事ですが、この号で編集長を離れることになりました。この2年余、「総合論壇誌だからできること」を考え、様々な切り口の企画に取り組んできましたが、『中央公論』の挑戦はまだ続きます。今後もよろしくお願いします。

2016年6月号【編集長から】

 こんにちは。中央公論編集長の安部順一です。

 今月号は、ちょっとしたクイズから始めましょう。大阪市120.1、東京都区東部(墨田区・江東区・江戸川区)114.8に対して、東京都区西部(新宿区・中野区・杉並区)88.0、千葉市89.7。何の数字なのか、わかりますか?

 正確には「標準化死亡比」と言いますが、男性のがんによる全国平均の死亡率を100とした場合の各地域の死亡率です。100を上回るほど死亡率が高く、下回るほど低いことを示します。大阪市は全国平均より20%高く、東京都区西部は12%低いわけで、その差は32ポイントにも上ります。特集「『がん死亡』衝撃の地域格差」は、格差の要因に迫ります。地方と大都市なら医療水準の問題かもしれませんが、いずれも大都市。見えてきたのは、喫煙や飲酒など生活習慣、がん検診を受診しているかなど健康意識の差ですが、遠景には所得格差の問題も見え隠れする今日的課題で、解決は容易ではありません。全国344の2次医療圏別の全リスト、胃、大腸、肝、肺の部位別ワースト30付きです。


 東芝の不適切会計、シャープの身売り、そして三菱自動車の燃費偽装と、大手企業で経営の失敗が相次いでいます。特集「失敗の研究──東芝、シャープは他人事ではない」は、様々な角度から、その背景を探ります。サントリーホールディングス社長・新浪剛史さんの「名著『失敗の本質』のどこがビジネスに役立つのか」、元財務次官・勝栄二郎さんと読売新聞特別編集委員・橋本五郎さんの対談「空気が時代を支配する 責任を問えない日本の構造」、早稲田大学ビジネススクール准教授・入山章栄さんの「日本企業が失敗を活かせないのはなぜか」など、読み応えも十分です。

 熊本地震では多くの方が被害に遭われ、今なお避難生活を送られている方もいます。心よりお見舞い申し上げます。それにしても、活断層の怖さを改めて感じさせられました。保存版「地震発生確率の高い活断層はこの34だ!」は、危ない活断層を地図付き、地震発生確率付きでまとめました。自宅や実家の周囲はどうなっているのかを本誌で確認して、「イザ」というときに備えていただければと思います。本誌は、一部のネット書店でも購入できます。

2016年5月号【編集長から】

 こんにちは。中央公論編集長の安部順一です。

 新年度が始まりました。旅立ちの季節でもあります。大学や社会に、異動や転居で、それぞれ新たな一歩を踏み出した方もいらっしゃることでしょう。今月号は、そんな節目に読んでいただきたい2つの特集をお届けします。1つは「ニッポンの実力」、もう1つは「永久保存版・佐藤優が選ぶ知的ビジネスパーソンのための中公新書・文庫113冊」です。

バブル崩壊とその後のデフレによる「失われた20年」で、私たちはすっかり自身を喪失し、悲観論者になってしまったように思います。例えば、アベノミクス。当初の物価上昇率目標を達成できていないのは確かですが、2016年春闘では多くの企業で3年連続のベースアップ(ベア)が決まりました。それまでの10数年、一切ベアが行われなかった企業が多いことを考えれば、大きな成果であるはずですが、多くのメディアは「ベア、前年実績下回る」と伝え、悲観論を増幅します。「ニッポンの実力」は、そんなに日本は酷い状況なのかと、冷静に見つめ直すのが狙いです。国際競争力27位、民主主義指標23位などと厳しい評価も並びますが、一方で新国富指標は2位です。重要なのは、それらの指標から何をなすべきかを考え、四半期ベースの短期的思考にとらわれずに、「日本的経営」の長期的視野で道を切り拓いていくことではないでしょうか。

 「113冊」は、佐藤優さんの全面的な協力で実現しました。この場を借りて、改めて厚く御礼申し上げます。タイトルこそ「中公新書・文庫」ですが、もちろん各社の書籍も紹介されています。「書店には溢れるほど新刊本が並び、ますます玉石混淆の傾向に拍車がかかる。しかし今回選んだ本は、どれも読むことに意味のある本ばかりだ。『カネを返せ!』と言われるような本は1冊もないことを保証する」と佐藤さんが言い切る本を、新たな生活を始めるにあたって、1冊でも2冊でも手にとっていただければ幸いです。

 最後にちょっとしたクイズを。連載「グループサウンズ革命」。タイガースの楽曲を多く手掛けたすぎやまこういちさんが自ら最高傑作というのは、どの曲でしょう。答えは、本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2016年4月号【編集長から】

 こんにちは。中央公論編集長の安部順一です。

 「人工知能が囲碁プロ破る」「人工知能 東ロボくん 東大入学へ前進」など、最近は新聞やテレビで「人工知能(AI)」に関するニュースをよく見かけるようになりました。読売新聞(東京本社版)で検索すると、2015年は128件で、2014年の46件の2.8倍。今年はすでに42件(3月5日現在)ですから、AI時代は着実に近づいているようです。もっとも、例えばAIによってクルマの自動運転が実現すれば、運転手という仕事はいらなくなるわけで、不安になる人もいるかもしれません。

今月号の特集「人工知能(AI)は仕事を奪うのか」は、公認会計士も公務員も失職しかねないという野村総合研究所の試算をもとにした「なくなる仕事100、なくならない仕事100」を軸に、人工知能(AI)の未来を探ります。日英のAI研究の第1人者、松尾豊さん、マイケル・オズボーンさんがそれぞれAIの未来を予測するほか、冨山和彦さんがAIで加速する産業再編、八代嘉美さんが人間と人工知能を語るなど、読み応えのあるラインナップです。

 東日本大震災から5年がたちました。「被災地域 3県知事、34市町村長アンケート」からは、復興が思うように進まぬ苛立ちが伝わってきます。特集「被災地が映し出す日本の歪み」は、人口減少が進む日本で復興はどうあるべきか、地方創生は何を学ぶべきかを考えます。小泉進次郎さんと林修さん、南郷市兵さんの座談会「福島の子どもたちへ」では、担当編集者も思わず涙ぐみました。

 最後にちょっとしたクイズを。ルポ「ギリシャ→ドイツ2000キロ、春香クリスティーンが難民ルートを行く」。1回目はギリシャ・レスボス島が舞台ですが、「難民が押し寄せるエーゲ海の美しい島」の海岸に、大量に放置されているものは何でしょう。答えは、本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2016年3月号【編集長から】

 こんにちは。中央公論編集長の安部順一です。

 日韓関係に影を落としてきた慰安婦問題での両国政府の合意は、「戦後70年」「日韓基本条約50年」の昨年を締め括るにふさわしいニュースでした。もっとも、両国内の受け止めは対照的で、日本の世論調査では「評価する」が多いのに対し、韓国では「評価しない」が多数。年明けからの韓国内の状況をみても、「最終的かつ不可逆的に解決」までの道のりの遠さを思わずにはいられません。

 特集「韓国豹変の深層」は、急転直下の合意がなぜできたのか、韓国に焦点を当てて探ります。北朝鮮の「水爆」と称する実験、長距離弾道ミサイルの発射など、北朝鮮情勢の不透明さもありますが、特集から見えてくるのは、米国と中国、G2時代の東アジアの地政学です。景気後退が世界経済を揺るがすほどの経済パワーを持った中国が、南シナ海などで膨張主義を隠さない中、中国と経済関係を保ちつつ、米国との安全保障をどう構築すべきか。韓国のみならず、日本にとっても大きな課題です。

 有識者や各社新書編集部、書店員などが選ぶ「新書大賞2016」は、井上章一さんの『京都ぎらい』に決まりました。おめでとうございます。今月号では、ベスト20までの結果を発表するとともに、44ページを割いて昨年の新書を振り返ります。中でも注目は、池内紀、小熊英二、中島岳志の各氏ら目利き28人が選んだ「私のオススメ新書」。それぞれに短評が付いており、「へぇ、この人が」の発見が詰まっています。

 最後にちょっとしたクイズを。高齢者専門の人材派遣会社「高齢社」創立者・最高顧問の上田研二さんに聞く「定年後も働き続けるために必要なこと」で、働き続けるための5つの心得が示されています。第1は「あいさつは自分から、派遣先企業の立場になって、△△社員のつもりで」ですが、△△にあてはまる言葉は何でしょう。答えは、今月号の特集「一億総『下流老人』社会」で。一部のネット書店でも購入できます。

2016年2月号【編集長から】

 あけましておめでとうございます。中央公論編集長の安部順一です。おかげさまで、本誌は今年、創刊130年目(第130巻)を迎えました。明治20(1887)年以来の永きにわたり雑誌を出し続けることができたのも、読者の皆さまのお支えがあればこそで、心より御礼申し上げます。

 記念すべき年の2月号では、2つのスクープをお届けします。
1つは、馳浩・文部科学大臣のインタビューで、大学改革について「国公私立大学の枠を越えた統廃合も視野」と述べ、少子化の中で、国立大学と私立大学の統合ができるような環境整備を進めていくことを明らかにしています。
もう1つは、1月7日の読売新聞朝刊でも紹介されましたが、大正デモクラシーを代表する政治学者の吉野作造が東京帝国大学で行った政治史の講義ノートが見つかったという話です。経済学者で後に東京大学総長となった矢内原忠雄らが筆記したノートで、五百旗頭薫、伏見岳人、宇野重規の3氏による座談会「見えてきた新しい吉野作造」で、その今日的意味合いを探りました。

 特集は「国立大学文系不要論を斬る」。猪木武徳、竹内洋、佐和隆光ら各氏が論考を寄せていますが、目玉は、34ページを割いて掲載した「55国立大学学長アンケート」。雑誌をめぐる環境は大変厳しいものがありますが、今年は新聞やテレビ、ネットでは真似のできない「雑誌ならでは」の誌面作りを徹底追求していこうと考えており、その第1弾です。速報性の高い他のメディアに比べ、月刊誌はじっくりと読み、考えていただくメディアです。雑誌の機動力や豊富なページ数を生かし、そのための情報を手厚く発信していきます。

 最後にちょっとしたクイズを。NHK連続テレビ小説「あさが来た」のモデルとなった広岡浅子は、京都の三井一族の家に生まれ、大阪で両替商「加島屋」を営む広岡家に嫁ぎましたが、文政8(1825)年の大阪長者番付だと、加島屋はどのくらいの豪商だったでしょう? 答えは、今月号の特集「今こそ明治の実業家に学ぶ」の「豪商・財閥のお屋敷を訪ねて」(竹内正浩)で。一部のネット書店でも購入できます。

2016年1月号【編集長から】

こんにちは、中央公論編集長の安部順一です。

 パリ同時多発テロは、無差別の大量殺人を狙った点で、2015年1月の風刺週刊紙『シャルリー・エブド』本社襲撃事件に比べても衝撃的でした。その後も、組織的ではないものの、世界各地でテロとみられる事件が起きています。緊急特集「パリ同時多発テロの真相」では、山内昌之さんと佐藤優さんの対談に加え、パリ政治学院教授のジャンピエール・フィリユさん、中東調査会上席研究員の高岡豊さんの中東専門家が、背景を徹底分析します。
 株価の割に、景気回復の実感がない。そう思っている人も多いと思います。人々の期待に働き掛けるアベノミクスは、期待が萎めば失速しかねず、まさに正念場。「新・3本の矢」登場の背景には、そんな政府の危機感があります。特集「崖っぷちのアベノミクス」では、甘利明・経済再生担当大臣、小林喜光・経済同友会代表幹事、The Wall Street Journal東京支局長らが、景気回復を本物にするにはどうすべきか論じます。

 弊社は2016年、創業130周年を迎えます。その歴史の中でも、100年前の大正5(1916)年1月は大きな節目でした。大正デモクラシーの理論的支柱となる吉野作造が「民本主義」(democracy)を説いた論文「憲政の本義を説いてその有終の美を済すの途を論ず」が『中央公論』1月号に掲載され、女性の社会参加を促そうと『婦人公論』が創刊されたからです。
 今月号には、その論文を全文復刻して計102ページの「特別付録」として付け、本誌で苅部直さんに解題をお願いしました。2016年夏の参院選から、選挙権年齢が「20歳以上」から「18歳以上」に引き下げられ、70年ぶりに選挙権が拡大されます。わが国では今や、投票率の低迷が課題ですが、民主主義を支えるそれぞれの「1票」の重みを考えていただくきっかけになれば幸いです。

 最後にちょっとしたクイズを。特集「2016年、これが流行る!」。『dancyu』編集長の江部拓弥さんが「新店ラッシュの中、2016年の注目」として挙げたのは、どんな店でしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2015年12月号【編集長から】

 こんにちは、中央公論編集長の安部順一です。

 2400万人が視聴したテレビ討論会って、想像できますか? 2016年米大統領選挙へ向けて、本格的な論戦の火ぶたが切られた8月の共和党指名候補者討論会の話です。NFL(National Football League)の優勝決定戦、スーパーボウル並みで、オバマとクリントンが対決した2008年の民主党討論会の2倍以上にもなります。理由は明らか。世論調査で一時独走した不動産王による「トランプ現象」です。「泡沫で、いずれ消える」との見方は有力ですが、泡沫が3ヵ月もトップを守ったことも、政治経験のない著名候補者がこれほど出馬したこともありません。特集「アメリカの鬱屈」は、阿川尚之さんと猪木武徳さん、久保文明さんによる鼎談、森本あんりさんと中山俊宏さんの対談などによって、1年後に迫った大統領選を通じ、米国社会の深層に迫ります。

 先月、うれしいニュースが舞い込んできました。

 日本人2人のノーベル賞受賞、ラグビーW杯での日本代表の活躍。「研究者、経営者、教育者、社会的リーダー ノーベル賞受賞、大村智博士の四つの顔」は、大村さんのノーベル賞受賞を3年前から予言していた科学ジャーナリスト、馬場錬成さんだけが知っている大村さんの素顔が明かされます。「ラグビー日本代表 躍進の秘密」はエディー・ジョーンズ・ヘッドコーチを招いたラグビー日本代表ゼネラル・マネージャー(GM)、岩渕健輔さんが「世界で勝つ」ために何をしたのかを語ります。

 最後にちょっとしたクイズを。特集「『疑似科学』と科学のあいだ」。法政大学教授の左巻健男さんと小説家の川端裕人さんの対談で、小学校の道徳授業などで使われているとして問題視されている「人の言葉がわかる水」って、どのような話でしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2015年11月号【編集長から】

 こんにちは、中央公論編集長の安部順一です。

 アップル創業者スティーブ・ジョブズの影響もあってか、最近の京都や鎌倉では座禅を組みに来る外国人旅行者が増えているそうです。中曽根首相や安倍首相ら歴代首相も座禅好きで知られます。今月号の特集「禅(ZEN)で克つ」は、外国人までを魅了する「禅」に迫ります。中曽根首相や安倍首相も通った全生庵住職の平井正修さんと御厨貴さんの対談、幼い頃から禅になじんでいた元首相の細川護煕さんのインタビューなど盛り沢山の内容です。

 皆さんはコンビニを週にどれくらい利用されていますか?

 校了の3〜4日間はほぼ徹夜状態の続く私たち編集者は、コンビニにズッポリはまっていますが、コンビニが住民票の発行など行政サービスも担う中で、コンビニは今や、買い物だけでなく、生活に欠かせないインフラとなっているようです。だとすれば、コンビニが近くにないと大変、「難民」になっていまいます。特集「コンビニ依存社会ニッポン」は、三井住友トラスト基礎研究所の協力を得て、そんな実態にメスを入れます。全国1896市区町村の「コンビニ難民度」リスト付きです。

先月号から「文字を大きく、読みやすく」誌面を刷新しました。新誌面の感想をぜひお寄せください。今、定期購読をお申し込みの方には、読売日本交響楽団のクラシックコンサート・ペアチケットや「中央公論」「婦人公論」の創刊号復刻版が当たる「定期購読キャンペーン」も実施中です。

 最後にちょっとしたクイズを。柔道の世界選手権で日本女子初の金メダルに輝いた山口香さんと陸上400メートル障害の世界選手権で銅メダルを獲得した為末大さんの対談「われらオリンピアン、2020年への野望」。山口さんが「世界中で日本にしかない」と激賞する競技会とは何でしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2015年10月号【編集長から】

こんにちは、中央公論編集長の安部順一です。

 今月はまず、誌面刷新のお知らせです。10月号から「文字を大きく、読みやすく」誌面を刷新しました。パソコンやスマホを毎日何時間も使う方が増え、老眼鏡世代ばかりでなく、若い世代でも目の疲れを訴える方が増えている実情を踏まえたものです。本誌が文字を大きくするのは、2003年1月号以来、約12年ぶりです。目次をはじめ、誌面デザインもすっきりとさせました。図表も見やすくし、「わかりやすい」「役に立つ」を目指します。新誌面の感想をぜひお寄せください。今、定期購読をお申し込みの方には、読売日本交響楽団のクラシックコンサート・ペアチケットや「中央公論」「婦人公論」の創刊号復刻版が当たる「定期購読キャンペーン」も実施中です。

 さて、8月下旬の上海株急落に伴う世界同時株安、9月3日の「抗日戦争勝利70年」の記念式典と軍事パレードと、中国関係のニュースがひっきりなしです。中国は何を考え、どこへ行こうとしているのか、今月号の特集「習近平の実力」は、その最高指導者に焦点を当てました。就任当初は凡庸とも評されていましたが、今や「毛沢東の再来」に。その力の源泉を探ります。

 猛暑だったこの夏、昼下がりのビールが恋しくなりました。だから、というわけではありませんが、呑んべえたちのために特集「旨い酒が飲みたい!」をお届けします。東海林さだおさんと椎名誠さんのほろ酔い対談などのほか、酒場詩人・吉田類さんの連載「酒は人の上に人を造らず」もスタート。新連載では、鹿島茂さんの「宝塚をつくった男・小林一三――人口学的発想の経営術」も注目です。

 最後にちょっとしたクイズを。「NEOニッポン列島改造論――『子どもが育つ街』のつくり方」。島根県江津市の小学校では、子育て支援のための特別授業があります。“先生”役を務めるのはだれでしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2015年9月号【編集長から】

 こんにちは、中央公論編集長の安部順一です。

 それにしても、暑いですね。信号待ちをしているだけで、汗が噴き出ます。汗をぬぐいながら、70年前の夏もこんなに暑かったのだろうかと思いを馳せます。今夏の「中央公論」は、160ページに及ぶ総力特集「戦後70年 日本を問い直す」で、当時を知る各界の重鎮の証言を中心に、若い世代に発言も求め、この70年の平和と繁栄を考えました。

 日野原重明さん103歳とドナルド・キーンさん93歳の対談「ようこそキーンさん、平和の話をしましょう」をはじめ、8.15以降も戦闘の続いた満州と占守島(シュムシュトウ)の記憶をたどる宝田明さんと浅田次郎さんの対談「玉音放送で終わらなかった戦争」、50歳もの年齢差のある五木寛之さんと古市憲寿さんの対談「世代間対立が生み出す『嫌老社会』」、山崎正和さんと福嶋亮大さんの対談「戦後復興を世界文明史の中で捉える」など、様々な角度から、世代を超えて、この70年の日本を問う対談・鼎談やエッセイが満載です。

 8.15を前に、安倍首相の戦後70年談話が注目されています。中曽根康弘元首相が「侵略的戦争だった」と言明した特別インタビュー「国家、戦争、侵略、靖国を語る」は、保守の重鎮の発言だけに重みがあります。首相談話の有識者懇談会で座長代理を務めた北岡伸一さんの「侵略と植民地支配について日本がとるべき姿勢」、大沢保昭さんと江川紹子さんの対談「歴史認識――対立を克服する途はあるのか」など、歴史認識を問う論考にも注目ください。

 最後にちょっとしたクイズを。佐藤優さんの中公新書ラクレ「ケンカの流儀」番外編として行われた、池上彰さんと佐藤さんの対談「反知性主義が暴走する『いま』を生き抜くために」。池上さんにとって人生最大の修羅場は「NHK記者として警視庁捜査1課、3課を担当していた約2年間」だったそうですが、何があったのでしょうか? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2015年8月号【編集長から】

こんにちは、中央公論編集長の安部順一です。

 先月号の緊急特集「2025年 東京圏介護破綻」で取り上げた日本創成会議の増田リポート第2弾が、特に地方で波紋を広げています。リポートは1都3県の連携強化など4つの処方箋を提言したのですが、4番目の「地方移住」が「東京の身勝手」などと反発を招いているようです。一方、介護難民が溢れると指摘された東京圏の危機感はさほど見られません。そこで、今月号の特集は「地方移住は『姥捨て山』か」です。「都知事、介護難民をどうしますか」と増田寛也さんが舛添要一・東京都知事に迫るほか、藻谷浩介さんが「目覚めよ! 東京圏の市民」と叱ります。また、緊急アンケート「移住おすすめ地域」全国41市長の本音は、地方の期待と戸惑いを浮き彫りにしています。

 もう1つの特集「終活 人生の幕引きを考える」では、最近話題となっている生前契約、墓じまい、遺産相続などを具体的に解説するとともに、鎌田実、山折哲雄、荻野アンナ、小山明子、下重暁子、佐々淳行、保坂正康、竹内政明の各氏らがそれぞれの死生観を明かしています。

 また、2002年に「対日関係の新思考」が日中両国で大反響を呼んだ馬立誠さん(『人民日報』元論説委員)が、中国に「寛容」を求めた新論文「中日の和解なくして東アジアの安寧はない」の全文を独占掲載。さらに、山内昌之さんと佐藤優さんの対談による新連載「ラディカル・ポリティクス〜いま世界で何が起きているか」は、まず「世界で噴き出すナショナリズムの深層」に迫ります。

 最後にちょっとしたクイズを。坂村健さんの「コンピュータは人類を超えるか」。技術の進歩により、自らを意識的に改良できる知能システムがいつか生まれ、人類中心の歴史は終わるとしていますが、引き返し不能のその日を何と呼ぶのでしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2015年7月号【編集長から】

 こんにちは、中央公論編集長の安部順一です。

 先週の新聞各紙1面には、「2025年の東京圏 介護施設13万人分不足」「地方移住を提言」などと、日本創成会議の提言をめぐる報道があふれました。「地方消滅」に続く増田リポート第2弾です。「地方消滅」を追いかけてきた本誌は、もちろん7月号で緊急特集を組み、42ページを割いて大展開しています。

団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となった2025年、東京圏で介護施設への入居が必要な高齢者は47万人に上るが、うち13万人は施設に入れずに「介護難民」になる可能性が高いとする増田リポート第2弾を全文掲載。さらに、「詳細リスト・『介護難民』があふれる地域」「移住するならどこか 全国41おすすめ地域」「詳細リスト・全国344地域別 医療・介護余力」など、様々なデータも付けました。わずか10年後の話です。では、どうすればいいのか。読者の皆様とともに、本誌は考えていきます。

1966年6月29日。ビートルズが日本にやって来ました。「シリーズ・戦後70年 日本を問い直す」は特集「ビートルズがやって来た!」。片岡義男、湯川れい子、井坂洋子、東儀秀樹、林望、林芳正、ピーコ、茂木健一郎の各氏があの当時に戻って、ビートルズに対する様々な想いを明かします。

 ドイツ・エルマウで開催中のG7サミット(先進7ヵ国首脳会議)では、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)への対応などが協議されています。日本も6月末をメドに対応を決めるようですが、特集「米中 経済覇権争いのゆくえ」は、岩井克人、伊藤隆敏、榊原英資、瀬口清之、クリスチャン・カリルの各氏らが、AIIBを徹底解剖し、日本の進路を示します。

 最後にちょっとしたクイズを。日本銀行総裁の黒田東彦さんのエッセイ「素顔のエコノミストたち・アイビーリーガー交友録《中》」。黒田さんがノーベル経済学賞の有力候補にも挙げられていると指摘した日本の経済学者はだれでしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2015年6月号【編集長から】

 こんにちは、中央公論編集長の安部順一です。

 書店を覗くと、ピケティの「21世紀の資本」ブームは早くも冷めた感がありますが、どっこい「格差本」は今も人気のようです。ただ、格差の要因を金銭面ばかりに求めた本も少なくありません。

 特集「教育格差の正体」では、子どもたちの学力格差など教育格差がなぜ生じているのか、尾木直樹さんらの専門家に多角的に分析してもらいました。お茶の水女子大学の耳塚寛明教授、大阪大学の吉川徹教授らの分析で浮かび上がるのは、確かに親の所得は重要な要因ではあるものの、親の子どもの教育に対する熱意、社会の子どもへのかかわり方も極めて重要であることです。では、格差を縮めるには、どうすればいいのか。本誌を手に考えていただければ幸いです。

 今月号から、珍しい方のエッセイを3回にわたって掲載させていただくことになりました。日本銀行の黒田東彦総裁の「素顔のエコノミストたち」です。ローレンス・サマーズやジョセフ・スティグリッツ、ジェフリー・サックスなど、ノーベル経済学賞受賞者も含めたエコノミストたちとの交遊録からは、黒田総裁の経済哲学が読み取れるかもしれません。

 さて、ロシアで5月9日に開催される「対ドイツ戦勝70年」記念式典に、中国の習近平主席が出席するなど、中露の急接近が目立っています。特集「中露急接近で何が起きるか」では、フランシス・フクヤマ、中西寛、兵頭慎治、横手慎二、久保文明、川島真の各氏が、その企図と真意を読み解きます。

 最後にちょっとしたクイズを。泉麻人さんと山田五郎さんの対談「アラカン世代、バブルへGO!」。1970年代に思春期を送った人には懐かしい話が満載ですが、山田さんがパチンコの景品ですべてそろえたものとは何でしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2015年5月号【編集長から】

 こんにちは、中央公論編集長の安部順一です。

 先日、桜を観に京都へ行ってきました。醍醐寺から蹴上インクライン(傾斜鉄道)、京都御所、祇園白川、八坂神社・円山公園と回りながら、桜がなぜかくも日本人の心をとらえるのか、改めて考えました。今月号の特集「さまよう宗教心〜現代日本人は何を求めているのか」は、そんな私たちの精神世界を様々な角度から探ります。

玄侑宗久さん×中沢新一さん、鏡リュウジさん×若松英輔さんの対談に加え、田中恆清・神社本庁総長、矢澤澄道・「月刊住職」編集長などが、震災後の宗教の状況からパワースポットブームまで語り尽くします。

空前の原油安が続いています。新興国の経済低迷で、供給過剰になっているのが要因のようですが、なぜOPECは減産に踏み切らないのか、米国のシェール革命はどうなったのか、原油安で困る国はないのか、特集「原油安の地政学」では、田中直毅・国際公共政策研究センター理事長、田中伸男・前IEA事務局長らが、産油国間の政治的な思惑を読み解いていきます。

さて、1978年4月4日って、何の日かわかりますか? キャンディーズの解散コンサートが後楽園球場で行われた日なのです。というわけで、シリーズ戦後70年は特集「アイドルが輝いていた頃」。篠山紀信さんの「“激写”する僕も一緒に時代を駈けぬけてきた」に始まって、嵐山光三郎、泉麻人、内田樹、ねじめ正一、橋本治、村松友視、四方田犬彦の各氏ら25人の「私の好きなアイドル」など、盛りだくさんにあの頃を振り返ります。篠山さんが撮った山口百恵、松田聖子らのグラビアも付いています。

 最後にちょっとしたクイズを。月村了衛さんと春日太一さんの異色対談「本物の時代劇がなくなって、日本は駄目になった」。テレビ時代劇の「鬼平犯科帳」や「水戸黄門」は、毎回脚本家も演出家も違うのに、なぜ全話が同じテイストを保てるのでしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2015年4月号【編集長から】


 こんにちは、中央公論編集長の安部順一です。

 フランスの経済学者、トマ・ピケティの「21世紀の資本」が、米国に続いて日本でも大きな反響を呼んでいます。「アベノミクスは格差拡大をもたらす」。国会でも野党が声高に批判を繰り返します。しかし、ピケティの指摘は、本当にそのまま日本にも当てはまるのでしょうか。今月号の特集「ピケティの罠〜日本で米国流格差を論じる愚」は、そんな疑問からスタートしました。

来日したピケティは、日本の所得上位10%の得た収入が国民所得に占めるシェアが40%近くまで上昇していることを指摘し、日本の格差拡大に警鐘を鳴らしました。それでは、日本の所得上位10%って、どれくらいの年収なのでしょうか。ピケティのデータ収集を日本で唯一手伝った森口千晶さんが、大竹文雄さんとの対談で明かしてくれました。答えは「年収580万円以上」。「そんなに低いの?」と驚いた方も多いのではないでしょうか。ちなみに、米国の上位10%は「年収1335万円以上」(1ドル=119円換算)。こうした実態をどうみるのか。猪木武徳、竹森俊平、原田泰らの各氏が様々な視点を示し、最後にピケティが「みなさんの疑問に答えましょう」で解説します。ビジネスマン必読です。

さて、年初から世界を揺るがす「イスラム国」。そして、20年前に日本を震撼させた地下鉄サリン事件。ともに、「国家」を名乗ったテロ集団ですが、「『イスラム国』拡散するテロ」(池内恵×中山俊宏×細谷雄一、宮家邦彦×高岡豊)と、特集「オウムと漂流する若者〜地下鉄サリン事件から20年」(森達也×武田徹、田原総一朗×古市憲寿、宮台真司)では、これらの相似も含めて、「イスラム国」とオウムの本質に迫っています。

 最後にちょっとしたクイズを。村松友視さんと唯川恵さんの対談「“和”の嗜みが生き続ける金沢の不思議」。金沢で蒲焼きというと、何を食べるでしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2015年3月号【編集長から】

 こんにちは、中央公論編集長の安部順一です。

 仏週刊誌「シャルリ・エブド」襲撃事件、イスラム教過激派組織「イスラム国」による日本人殺害事件と、2015年は血なまぐさいテロで幕を開けました。もはや日本も無関係ではいられません。

今月号は「イスラム過激派テロと日本」で、宮家邦彦さんと佐藤優さんが緊急対談しました。中東調査会の高岡豊さんの「西側メディアが増幅させた」との指摘も見逃せません。

 特集「習近平路線は成功するのか 巨大市場中国の急所」は、「新常態」「反腐敗」など習近平政権が進める改革に焦点を当てました。不動産バブル崩壊の懸念、広がる格差など課題山積なうえに、日中首脳会談が実現しても、依然ぎくしゃくする日中関係。中国はどこへ進むのか、日本はどう向き合えばいいのか、柯隆、津上俊哉、加茂具樹、阿古智子の各氏ら中国通が分析します。経済同友会副代表幹事の藤森義明さんと日中産学官交流機構特別研究員の田中修さんによる対談「曲がり角を迎えた中国市場」も必読です。

 さて、1人あたりの医療費が地域によって違うのをご存知ですか。最高の高知県は62.5万円で、最低の千葉県(40.1万円)に比べ、22.4万円も多く医療費を使っています。経済財政諮問会議民間議員でサントリーホールディングス社長、新浪剛史さんの「驚愕の都道府県別リスト 医療費の地域間格差に切り込め」は、詳細なリストをもとに、その実態を明かし、どうすべきか提言しています。

 3月号恒例の「新書大賞」。8回目となる今回は、弊誌が発信源となった増田寛也編著「地方消滅」(中公新書)が大賞に輝きました。20位までのランキングと得点はもちろん、竹内洋さんら目利き29人による新書評も見物です。

 最後にちょっとしたクイズを。長田暁二さんの連載「唄う戦後70年史」が今回取り上げた美空ひばり、江利チエミ、雪村いづみの三人娘。3人の共通点は何でしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2015年2月号【編集長から】

 あけましておめでとうございます。中央公論編集長の安部順一です。編集部員一同、今年も日々研鑽を重ね、ジャーナリスティックな論壇誌をお届けしていきたいと考えていますので、よろしくお引き立てをお願いいたします。

 今月号の特集は、「脱『地方消滅』 成功例に学べ」です。政府は昨年末、地方創生の「長期ビジョン」と2020年までの目標を示した「総合戦略」を決定しました。各自治体には2015年度中に「地方版総合戦略」を作るよう求めていますが、自治体が独自に戦略を立てるのは容易ではありません。そこで、この問題に火をつけた日本創成会議座長の増田寛也さん監修の下、一定の成果を収めていて、他の自治体にも参考となる6市町(高松市、ニセコ町、鯖江市、磐梯町、神山町、真庭市)を取り上げました。冨山和彦さんの処方箋も必読です。

もう一つの特集は「大学国際化の虚実」です。「グローバル人材」「スーパーグローバル大学」のかけ声の中、大学の国際化がどうなっているのか、京都大学総長の山極壽一さん、早稲田大学教授の吉田文さんらが様々な角度から分析します。東大に合格者を多く出している開成中学・高校と渋谷教育学園中学・高校の校長対談で「海外進学も選択肢に」と語られているのも衝撃的です。

 さて、69歳の内縁の妻が90歳を過ぎた夫を殺害し、遺産をかすめ取ろうと狙う様を描いた小説『後妻業』が、京都連続不審死事件と酷似していて話題になっています。『後妻業』の作家、黒川博行さんとノンフィクション作家の森功さんの特別対談「あなたの死を願う後妻業の恐怖」は、その闇に迫ります。

 新連載「経済人の書棚」は、3人の経済人が交代で執筆しますが、トップバッターはシャネル社長のリシャール・コラスさんです。

 最後にちょっとしたクイズを。人と防災未来センター長、河田恵昭さんの「災害X時間前にすべきこと」。米国ではハリケーン上陸何時間前に避難勧告が出されるのでしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2015年1月号【編集長から】

 こんにちは。中央公論編集長の安部順一です。

 総選挙さなかの発売となった今月号の特集は、「アベノミクス総選挙! 2015年を読む」です。総選挙の焦点である政治のあり方を街鳥聡史さん、アベノミクスを早川英男さん、外交を宮家邦彦さんが読み解くほか、米国、欧州、アジアの情勢から認知症、マグロ・ウナギ、家族まで、さまざまなテーマについて専門家が2015年はどうなるかを分析します。

 2015年は戦後70年の節目の年です。本誌でもシリーズ「戦後70年 日本を問い直す」を始めます。第1回は特集「私たちはどう変わったのか」で、山崎正和さん、猪木武徳さんがそれぞれ、戦後70年を総括します。また、世代の異なる竹内洋さん、佐藤卓己さん、佐藤信さんがそれぞれ5本の論考を選び、それをもとにした鼎談「論壇は何を論じてきたか」もお見逃しなく。

 さて、文豪・谷崎潤一郎と、「細雪」のモデルとなった妻・松子、その妹・重子との間で交わされた未公開書簡が見つかり、「谷崎 情愛の288通 『細雪』モデル 妻・松子らとの書簡」(読売新聞)などとメディアで話題を呼びましたが、千葉俊二さんの「文豪谷崎潤一郎と松子・重子姉妹の奇妙な恋愛劇」は、中でも重要な6書簡の全文を掲載するとともに、恋愛劇の真相に迫ります。

 また、宮城谷昌光さんの新連載小説「呉漢」、宇野常寛さんの「テレビドラマが時代を映す」、結城豊弘さんの「この役者ええやん!」、長田暁二さんの「唄う戦後70年史」、さらに経営者インタビュー「THE LEADER〜戦略を語る」など、新連載も続々登場します。

 最後にちょっとしたクイズを。「追悼・高倉健」で、健さんが「ご遺族に迷惑をかけるわけにはいきません。この映画は断念します」と言って、幻となった映画があったことを、横尾忠則さんが明かしています。だれをテーマにした映画だったのでしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2014年12月号【編集長から】

 こんにちは。中央公論編集長の安部順一です。

 「あなたの雇用、明日はあるか」との特集を組んだのは、2012年12月号でした。それから、わずか2年。一転して、「人手不足」の時代に入ったそうです。

もっとも、底流には労働力人口の減少があって、このままだと経済成長を阻害しかねないと言われると、喜んでばかりはいられません。特集「雇用激変」は、そんな雇用の実相に迫り、雇用改革のあり方を考えます。

塩崎恭久・厚生労働大臣、古賀伸明・連合会長のインタビューに加え、「労働者不足が経済を制約し始めている」「40〜50代社員を待つ厳しい現実」などの論評、ルポ「相次ぐ『正社員化』の実態」、人事担当者覆面座談会「人事部は“働かないオジサン”をこう見ている」まで、内容も盛りだくさんです。

 もう一つの特集「国家融解ーー連鎖する独立運動の深層」では、EU域内でスコットランド(イギリス)から、カタルーニャ(スペイン)、フランデレン(ベルギー)などへと広がる独立運動について、何が起きているのか、猪木武徳さん、遠藤乾さん、細谷雄一さんらが分析します。

 さて、食欲の秋です。シリーズ「人生後半戦」のテーマは、「あなたは“粗食”で幸せですか」。週に1回はステーキという、92歳のドナルド・キーンさん、肉中心の食生活という、みのもんたさんらの話を読むと、ふだんは魚料理派のあなたも、何となく肉料理を食べたい気分になるかも知れません。

 最後にちょっとしたクイズを。新連載「東京七福神巡り」。第1回は江戸東京で最も古い七福神が登場しますが、どこでしょう? 楠木建さんの「スキルを伸ばしても『経営者』にはなれない」。経営者に求められる資質とはスキルでなくて何でしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2014年11月号【編集長から】

こんにちは。中央公論編集長の安部順一です。

 メディアはどうあるべきか、深く考えさせられた夏でした。朝日新聞が一連の慰安婦報道の一部を取り消し、福島第一原発事故を巡る「吉田調書」を撤回した問題です。特集「メディアと国益 朝日問題から考える」では、自戒を込めてこの問題を考えます。

朝日の慰安婦報道検証第三者委員会の委員となった北岡伸一さん、田原総一朗さん、委員会が意見を聞くとしている木村幹さんのほか、竹内洋さん、朝日出身の早野透さんらの論考をぜひお読みください。

もちろん、政府にとっての国益と各メディアが考える国益は、必ずしも一致するわけではありません。田原さんが指摘されているように、「ジャーナリズムは国家権力の監視者」であり、メディアが容赦ない政府批判を浴びせることもあるでしょう。ただ、今回は「誤報」が国益を損なったわけで、その点は峻別して考えていかなければなりません。

 「菅官房長官が語る 安倍政権、次の一手」では、政権のキーマンが地方創生から日中・日韓関係、そして霞ヶ関の掌握術まで語り尽くします。もう一つのお薦めは、米共和党、民主党の安全保障問題の重鎮であるアーミテージ・キャンベル共同声明「アジアにおける抑止力を強化する」。中国と北朝鮮を抑止戦略の対象とし、「グレー・ゾーン」への理解を示すなど、オバマ外交の枠を超えて、米国の安保戦略が転換点にあることが実感できます。

 さて、読書の秋です。特集「教養人の書棚」、「谷崎潤一郎賞の50年」を読みながら、秋の夜長を過ごしては如何でしょう。

 最後にちょっとしたクイズを。竹下景子さんと田良島哲さんの対談「この秋、上野で国宝三昧 時空を超えた祈りに耳を傾ける」。竹下さんが「忘れられない思い出がある」と話す「縄文の女神」って、どんな国宝でしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2014年10月号【編集長から】

 こんにちは。中央公論編集長の安部順一です。

 9月3日の内閣改造で、安倍政権の支持率が再び上向き始めました。さらに、拉致交渉でも月内には幾ばくかの進展がありそうです。いわば、安倍政権に上昇気流というわけですが、一方で目立つのは野党のふがいなさです。そこで、今月号の特集はズバリ、「今、野党を問う」です。

もっとも、米戦略国際問題研究所(CSIS)のマイケル・グリーンさんによれば、野党という立場の厳しさはどの国も同じようで、星浩、橋本五郎両氏の対談では「絶望するな!」とエールも。そうした中、野党再編の旗手と目されてきた民主党前幹事長、細野豪志さんの「わが民主党改革宣言」の波紋はいかに。

 もう一つの特集「拉致カードを切る北朝鮮の“窮状”」では、「謎の日本人」に焦点を当てた石丸次郎さんのルポが興味津々です。また、STAP細胞事件をなぜか思い出す特集「『文系』『理系』の埋まらぬ溝」は、福岡伸一、大竹文雄、永田和宏、隠岐さや香ら各氏の切れ味鋭い分析に注目ください。

 さて、カラーページから始まる「五十代男性のここが気になる!」は、本誌初登場の壇蜜さんと酒井順子さんの対談です。私も、これは同席せねばと勢い込みましたが、開始10分で「該当者がいると話しにくい」と女性編集者から退場勧告。結局、対談内容はゲラで知ったのでした。

 最後にちょっとしたクイズを。藤森徹さんの「こんな社長が会社をつぶす!」。社長タイプ別の倒産確率ランキングでワースト1位は「計数面不得手」ですが、2位は何でしょう? 岡田斗司夫さんの「そしてヤンキーもオタクもマイルドになった」。オタクは専門知識を生かしてクリエイターになりましたが、ヤンキーは何になったでしょう? 答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2014年9月号【編集長から】

 こんにちは。中央公論編集長の安部順一です。

 猛暑の8月を迎えました。8月というと、まずは「夏休み」を連想する人が多いかも知れませんが、一方で、月遅れのお盆、終戦記念日と続く「鎮魂」のときでもあります。「終活戦線異状あり」「敗戦日本に希望を灯した昭和の歌」の二つの特集には、そんな思いを込めました。

「終活戦線」では、葬式、墓、相続など終活ブームの背景を探るとともに、日本人の死生観の変化を考えます。養老孟司、島田裕巳、小椋佳、佐藤愛子、澤地久枝、田原総一朗、横尾忠則、毒蝮三太夫ら各氏の「終活」論に注目ください。「昭和の歌」は、焼け跡・闇市の時代に戻って、ペギー葉山、有馬稲子、小林亜星、保阪正康ら各氏と一緒に口ずさみます。

 もう一つの特集「対中韓情報戦 日本反撃のとき」は、「河野談話」の検証を機に、情報戦をどう制するかを考えました。検証メンバーでもある秦郁彦さんが「検証から見えてきた慰安婦問題」を執筆しているほか、ワシントンからケント・カルダーさん、外相経験者として町村信孝さんらが語ります。

 さて、締め切り間際に、「マレーシア機撃墜」の悲報が飛び込んで来ました。「親露派暴走」の背景、経済制裁の行方、民間航空会社の危機管理など、様々な角度からの緊急分析をお届けします。

 最後にちょっとしたクイズを。仙谷由人さんの「原発と自然エネルギーへの大胆な投資で快適生活、経済成長を」。仙谷さんはある政治家の「原発・即ゼロ論」を運動論として切り捨てます。この政治家はだれでしょう。山田五郎さんの「嗜好品を楽しめない社会に、未来はない」。山田さんが特に強調したい嗜好品は何でしょう。答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2014年8月号【編集長から】

 こんにちは。中央公論編集長の安部順一です。

 「大学教授って、何者?」と考えたことはありませんか。今月号の特集「生き残る大学教授」は、特別な資格もなく、「あの人が?」と思う人が突然なってしまうこともある大学教授の実態に迫りました。

東大総長の濱田純一さん、元阪大総長の鷲田清一さんらが大学改革との関連で語れば、関西大学東京センター長の竹内洋さん、関西学院大学教授の櫻田大造さんは昔と今では何が違うのか分析します。漫画家から学長になった竹宮惠子さんの体験談もお見逃しなく。

 中国の南シナ海進出、ロシアのクリミア編入と、今年は中露の領土拡張の動きが目立ちます。もう一つの特集「中露の膨張主義」は、これが帝国主義の再来なのかどうか、気鋭の専門家が分析しました。中でも、京大教授の中西寛さんの「帝国主義の幻影を追う国と恐れる国」は、現在の微妙な状況を言い当てています。特集とは別立てにしていますが、「ロシアメディアはウクライナをどう報道したか」は、ロシアのメディア操作の実態を赤裸々に明かします。

 さて、相撲ファンには、デーモン閣下とやくみつるさんの「どすこい対談・いつまでも語り尽くせない わしらの相撲愛」。読んでおけば、名古屋場所を何倍も楽しめることでしょう。W杯は残念な結果に終わりましたが、宇都宮徹壱さんの現地ルポでは、何が起きていたのか、舞台裏が明らかになります。

 最後にちょっとしたクイズを。「人口急減社会」に警鐘を鳴らす増田寛也さんらの「消滅市町村にならないための6のモデル」。秋田県で唯一消滅可能性市町村とならなかった自治体はどこでしょう。「『21世紀の資本論』が米国で読まれる理由」。この経済学書は米国で大変売れているのですが、アマゾンでは何位になったでしょう。答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2014年7月号 【編集長から】

 こんにちは。中央公論編集長の安部順一です。

 今月号の最大のお奨めは、復興大臣政務官の小泉進次郎さんが登場する緊急鼎談「人口急減社会への処方箋」です。先月号の緊急特集「消滅する市町村523 全リスト」は大きな反響を呼びましたが、今、何をすべきか、小泉さんと元総務大臣の増田寛也さん、宮城県女川町長の須田善明さんが話し合いました。

巻頭のカラーページを含めて計16ページの鼎談では、小泉さんが「現代版参勤交代」などを提案しており、ワンフレーズだけではない、小泉さんの「政治家力」も垣間見えます。ルポ「消える町・生き残る町を歩く」は、処方箋作りの具体的なヒントがいっぱいです。

 ビジネスマンなら、特集「外国人社長が来る!」が必読です。後継に初めての外国人社長を決断した武田薬品工業社長の長谷川閑史さんが「私が彼を選んだわけ」を、逆に、初の外国人COOとなったタカラトミーのハロルド・メイさんが「外国人経営者がぶつかる壁」を語ります。匿名座談会「日本の常識は通じない」では、外国人上司に仕える「誇り」と「悲哀」がにじみます。

 そういえば、まもなくW杯の開幕です。テレビ観戦の合間に、文化人類学者の今福龍太さんの「サッカーの哲学は街路に溢れだす」、慶応大学教授の海老塚修さんの「ビジネスの場としてのW杯」はいかがでしょう。艶っぽい話なら、「追悼・渡辺淳一」。作家の林真理子さんが「先生の教えてくれた『大人の世界』」を語り、作家の小池真理子さん、藤田宜永さんは夫婦対談で秘話を明かします。

 最後にちょっとしたクイズを。科学技術社会論研究者の佐倉統さんの「原発と鼻血とお化け」。何の論評でしょう。答えは本誌で。一部のネット書店でも購入できます。

2014年6月号 編集部より

 初めまして。今月号から編集長を務めます安部順一です。これからは、このホームページで毎号、編集長お奨めの記事をご紹介していきたいと思います。

 さて、5月9日の朝刊では、新聞各紙が1面で「2040年には、全国半数の自治体で若年女性が半減してしまう」という日本創成会議・人口減少問題検討分科会の推計を報じました。実はこの話、本誌6月号の特ダネで、「緊急特集・消滅する市町村523 全リスト」として、座長を務めた元総務大臣の増田寛也さんの提言のほか、詳細な市町村リストを掲載しています。ぜひ、皆様のお住まいの町、故郷の町の2040年の姿を見てください。

 同じ日の朝刊には、これも新聞各紙が1面で、STAP細胞の論文不正問題で、理化学研究所が小保方晴子ユニットリーダーの不服申し立てを退け、関係者の処分の検討に入ったと報じました。東大大学院情報学環教授の佐倉統さん、サイエンスライターの片瀬久美子さん、京都大学iPS細胞研究所特定准教授の八代嘉美さんによる座談会「STAP細胞事件の真相」は、この問題に迫ります。

 集団的自衛権の憲法解釈見直しなどを検討してきた政府の有識者会議「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会(安保法制懇)」の報告書は、5月中旬に出される見通しですが、安保法制懇の座長代理の北岡伸一さんは「安保法制懇報告書の意義」を一足先に論じます。やはり安保法制懇メンバーである防衛大学校名誉教授の佐瀬昌盛さん、自民党幹事長の石破茂さんらの論評は、集団的自衛権をどう考えるかの道しるべとなるでしょう。

 堅い話に飽きたら、「人生後半戦9――孫と向き合う」をどうぞ。作家の筒井康隆さん、詩人の谷川俊太郎さんと孫でスタイリストの谷川夢佳さん、落語家の柳家花緑さん、女優の中川安奈さんらの話を楽しんでください。

 最後にちょっとしたクイズを。ノンフィクション作家の工藤美代子さんらが執筆した「タニマチが政治家を殺す」。この政治家は誰でしょう。日銀総裁の黒田東彦さんの「ある経済学者に捧ぐ」。この経済学者は誰でしょう。答えは本誌で。

中央公論編集長 安部順一

編集後記 14年5月号

★圧倒的な力を背景に、他国領内の一部地域を占領、併合。支持率が八〇%を超え、“帝国主義的”振る舞いを続けるプーチン大統領の首に誰も鈴をつけられないのが国際社会の現状です。

ロシア同様、強権政治で国内外を睥睨する中国はこの状況をどう見ているか。特集では共産党一党独裁体制の行く末に焦点を当てました。
★今月号が編集長をつとめる最後の号となりました。いま改めて思うのは、およそ百三十年にわたり受け継がれてきたのは「中央公論」という看板だけではない、ということです。論壇誌としての自負をもちつつも、常に新しい知見を求め、変化を厭わない編集姿勢、とでも言えばいいでしょうか。自らの正しさを居丈高に訴えるだけでは人の心を動かすことはできません。ストレートな主張だけでなく、あえて異なる意見を載せたり、専門分野が違う人の見立てを聞いたりする。そんな複眼思考こそが雑誌の真骨頂であり、存在意義でもあります。中央公論社での“修業時代”にそれを学びました。
★校了中にページ不足が発覚したかと思えば、発売直後に抗議や批判を受ける――。数々のトラブルを乗り越えられたのは、チームとして仕事をしていたからこそ。三年間仲間に恵まれ、後ろ髪ひかれる思いもなくはないですが、異動は宮仕えの常です。★最後になりましたが、本誌を支えてくださる読者の皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。
中央公論編集長 木佐貫治彦

編集後記 14年4月号

★「平安楽土」を連載中だった作家の山本兼一さんが二月十三日にお亡くなりになりました。昨年秋にいただいた葉書には、「若き青年官僚を主人公として、国家とは何かという大問題に愚直に迫ってみるつもりです」とありました。

少しばかり資料収集をお手伝いした御縁もあり、私自身、毎月の原稿をとても楽しみにしていました。絶筆となった今月号の第六回は、亡くなる直前まで、酸素マスクをつけながら執筆されたと聞きます。山本さん、この先、どのような物語を展開させようとお考えだったのですか。心よりご冥福をお祈りいたします。★生殖医療はどこまで許されるか。倫理、法、生まれてくる子どもの福祉など、多面的な見方が必要です。技術の進歩といかに向き合うべきか、考えてみました。(木佐貫)

★九〇年代初め、入社したての僕は不思議に思っていた。「なんでウチの会社はこんな地味な学者の著作集を出しているのだ?」。地味な、と思ったのが井筒俊彦であり、森銑三だった。ベクトルは違えど、不世出の巨人たち。無知とは恐ろしきものかな。比べるのも烏滸がましいが、同じ頃、哲学やイスラーム学を志し、井筒を読む有望な青年たちがいたのである。今回、あらためて驚いたのは井筒の文章が実に平易であること。書いてあるのは難しいことだったりするが、難しく書いてあるわけではない。叡知の扉は開かれている。あとは敲くだけ。(吉田)

編集後記 14年3月号

★去年の大晦日。話題の紅白も観ず、古いカセットテープを引っ張り出し、大瀧詠一氏を独り追悼。ナイアガラ色に染まった身体で床に入ると、先に寝ていた子どもの様子がおかしい。

全身を掻きむしり、咳が止まらず、顔が真っ赤。さては、寝る前に食べた年越しそばでアレルギーを起こしたか。幸い、救急診療を受けるころには症状も軽くなり、一安心。薬を処方され病院を出ると、年が変わっていた。あきれた患者家族と一緒に新年を迎える羽目になった皆様、ただただ感謝しております。★党の希望役職アンケートに「苦労する仕事」と書き、農林部会長に起用された齋藤健氏。議員会館で久しぶりにお会いし、実際の様子を伺うと……希望は十分に叶ったようでした。(木佐貫)

★今年で7回目となる新書大賞。2013年発売の新書一覧リストを作る作業から始まったが、膨大な量に頭がクラリ。1700冊はゆうに超える。月100点以上が出ているわけだ。★開票すると、結果として大賞作品に票が集まったものの、二位以下は分散傾向が著しく、最後までどうなるかわからなかった。得点を獲得しても、上位20に含まれない作品が大量に生まれていた。それだけ多様なニーズに応える本が出ていると前向きに捉えるべきなのか。★永江朗さん、宮崎哲弥さんの対談では、昨年の新書全体を総括しています。結果だけでなく、こちらもぜひご一読ください。(杉本)

編集後記 14年2月号

★二〇一三年の「今年の漢字」に選ばれたのは「輪」でした。年末、部員たちに「今年の自分を漢字一字で表したら」と聞くと、返ってきた答えは「惑」「転」「拍」「変」「違」。

「拍」とか「違」って、一体何があったんだ?★当編集部の一年を表す漢字は。本当は「賑」「活」と言いたいところですが、他部署から、あれはただの「騒」「喧」だとクレームがつきそうなので、全くの別路線から「抗」に決定。理由は……ご想像にお任せします。★特集で大学と評価の関係を取り上げましたが、我々もやはり一番気になるのは、読者の皆様からの評価。本年もご愛顧のほど、よろしくお願い申し上げます。(木佐貫)

★大学の「ぬるま湯体質」を改善しようと文科省が大学評価や教員の業績評価を義務付けたが、いずれもいまひとつ奏功せず。「学内全体を見渡そうとする管理職がいないから無理がある」とは関係者。ふむ。★来年度から欧米の世界大学ランキング一〇〇位内に入るよう国が支援。お隣中国が自ら大学ランキングを作り世界的権威にまで押し上げたのに比べ、欧米列強のランキングに頑張って入りましょうとは、なんとも受動的で日本らしい。★今月は特集「大学の悲鳴」。煮ても焼いても食えない「聖域(サンクチュアリ)」の改革を考えてみました。(中西)

編集後記 14年1月号

★門脇神父と加賀先生の対談のために上智大学を訪れたのは11月半ば。創立百周年を迎え、またザビエルウイークを控え、活気に満ちたキャンパスの一角に、その静謐な空間はあった。クルトゥルハイム聖堂。

玄関脇にはイエズス会創設者のイグナチオ・デ・ロヨラ、第28代総長ペドロ・アルペの像。明治期に建てられたこの「文化の館」で、教皇フランシスコの言葉について、お二方から懇切丁寧な解説を伺う。門外漢がどこまで理解できたか心許ないが、些事に追われてばかりの我が身を省みる時間となったのはたしかだ。★今月号から少し模様替え。時評の執筆陣が代わり、我々の大先輩である村松友視氏の新連載「金沢の不思議」も始まりました。ご期待ください。(木佐貫)

★某月某日。初めての坐禅。最初は、肩胛骨を開いたり、骨盤を動かしたりして体をほぐす。整体やヨガなどにも詳しい藤田一照さんの話は具体的で、それだけでも得した気分に。ゆっくり体をほぐした後でいよいよ坐禅開始。緊張感はなく、あっという間に30分が過ぎる。あまりに気持ちよかったせいで途中で意識が遠のいてしまったのはココだけの話。近所だったらぜひまた行きたいところです。(安倍)

編集後記 13年12月号

★「昭和三十四年九月二十六日、この日潮岬西方より紀伊半島に上陸した……いわゆる伊勢湾台風がこれである」。山口百恵主演のテレビドラマ「赤い運命」の冒頭ナレーション。

画面に映る暴風雨と凄まじい被害もさることながら、これがきっかけで子どもが取り違えられる、という設定に何とも言えぬ恐怖を感じたものだ。『そして父になる』『もうひとりの息子』は、この「取り違え」をテーマにした日仏の映画だが、それぞれ六歳、十八歳の子どもたちの「その後」が気になって仕方がない。★地方出身の東京在住者にとっての“生みの親”も“育ての親”も、やがてはどちらも消滅するであろうという巻頭特集のシミュレーション。人口減少の本当の恐ろしさを知りました。(木佐貫)

★午前八時、某ホテルのレストランでM先生と朝食を兼ねた打ち合わせ。駅からタクシーで駆けつけるも、五分遅刻。正午、会社にI先生来る。捜し物が見つからず、五分待たせる。仕事も酣の午後八時、中一の娘から電話がかかる。「おなかすいたよ」。しまった。今日は夕食当番だった。なぜ手帳に書いていないんだ。脱兎のごとく走り出すも、二時間遅刻。東京の職住不近接はたしかに子育てに向かない。出生率低下もむべなるかな。それはさておき、小学校以来ずっとこんな人生。世を儚んでいてもいいくらいだ。むろん迷惑を蒙っているのはいつも自分以外の誰かなのだが。(吉田)

編集後記 13年11月号

★この一ヵ月、めまぐるしい展開を見せたシリア情勢。アメリカの軍事介入が遠のき、化学兵器管理で合意すれば平和が訪れるわけではもちろんない。死者が一〇万人を超えたと言われる内戦はいまも続いている。

座談会「アメリカが『世界の警察官』をやめた日」をぜひお読みください。★座談会出席者のひとり、池内恵氏は著書『イスラーム世界の論じ方』の中で、「日本には『拝外』と『排外』の両極の間を激しく振り子のように揺れる習性があるのではないだろうか」と書いています。それがまさに当てはまるのが「英語」。畏怖、憧憬、諦観、軽侮……さまざまな感情が湧き起こり、適度な距離感で付き合うことができないのはなぜなのか、特集を組んで考えてみました。(木佐貫)

★あなたのために、駅前に留学したり、「聞き流すだけでうまくいく魔法のCD」も買ってみた。お金も使ったし、時間も費やした。なのにちっともうまくいかない。もう嫌だ。声も聞きたくない。人の誠意を踏みにじって、なんて酷い奴だろう。私の時間返してよ!サヨナラ! ★というわけで、日本人の英語に対する感情は、成就しなかった片思いに似ている気がします。これまでもこれからも英語と無関係な人生を送る人はいるはずですが、それでもなぜか堂々と「英語なんていらない」と断言できない。この「片思い」がいつか成就するのか、解き放たれる日は来るのでしょうか。(杉本)

編集後記 13年10月号

★夏になると、会社地下の冷房の効いた資料室に足を運ぶ回数が増える。涼を取るのはもちろん、もう一つのお目当ては本誌のバックナンバー。創刊からのすべての号が揃っている。

★八月は特に、昭和初期から十九年に廃業させられるまでの時期を選び、立ち読みをする。今月の北岡論文にあるように、当局に批判的な論考がしだいに消えていくさまがよくわかる。一方で、座談会に出てきた軍人の横柄な言いぶりをそのまま活字にするなど、これは編集者のささやかな抵抗ではないか、と思われる部分も見つかる。思想統制の時代に雑誌を守り続けた先人たちに思いを馳せていると、いつのまにか身体が芯まで冷え切っている。扉を開け、平成の現実の編集部に戻っていく。(木佐貫)

★午後三時の編集部。次号の企画検討に口角泡を飛ばしていたはずが、ひょんなことからご当地キャラクター「ふなっしー」に話が移る。この梨の妖精、船橋市非公認ながら、知名度は抜群。公認キャラには真似できそうにない破天荒な言動が人気の秘密か。★本誌にもそんな気骨あるマスコットがほしいね。チュウと言えば鼠じゃありきたりだし。昔、九州のほうに「中央公論」という喫茶店があったらしいよ……。そんな軽口を皆が切り上げようとしたとき、「いっそ僕が着ぐるみを着て」と意味深に呟く声。我が部の「よっしー」が、ひとりPR活動を始める日も近い。もちろん非公認で。(打田)

編集後記 13年9月号

★先月号の橋本治さんの「マンション管理組合理事長騒動記」には、多くの方から「身につまされる話だった」との感想をいただいた。七月に連日報道された山口県周南市の事件も、その発端は「近所付き合い」だったようだ。

無縁や孤立が問題視されているが、人が集まるところには、トラブルの芽も生まれる。互助精神に満ち溢れ、人間関係は濃密、しかしながらプライバシーも尊重される、そんなコミュニティは稀だろう。★「隣は何をする人ぞ」では、関係が良くなるはずもない。ということで、隣国・中国の実像を知るための特集を組みました。★SFからタブーまで、二時間にわたり文学談義が展開された筒井、綿矢両氏の“五十歳差”対談もぜひお読みください。(木佐貫)

★「日本でいわれているほど中国経済は弱くないと、中国で仕事をする駐在員は口をそろえる」。広州の吉田健一記者に指摘され驚く。日本の読者が「こうあってほしい」という願望に応じ、私達は同じような切り口で情報を拡大再生産しているだけなのか。★今月は特集「中国の『実力』」。中国大陸で奮闘する人々の声などを集め、実像に迫ろうと努めたつもり。中でも「レーダー照射は中国軍の“成長痛”」と泰然と構える元陸自幹部山口昇氏の分析は興味深い。三月にお聞きした時から必ず字にしたいと思っていた。日々の報道とはまるで異なる中国軍の素顔が垣間見える。(中西)

編集後記 13年8月号

★「風が吹いた」とは、ある政党が選挙で予想外の大量議席を得たときに使われるフレーズだが、先の衆院選では自民党に風は吹かずとも、逆風をくらった民主党が大惨敗、いまだ党勢回復ならず。

「台風の目」だった維新の会はオウンゴール。どうやら参院選は無風か。波風が立つとすれば選挙後の政権与党内、と見立てて特集を組みました。★平地でも時速六〇キロに達する自転車レースで選手が受ける風圧は強烈。チームは先頭を順番に交代し、消耗を最小限に抑えながらレースを進める。当編集部でも、トップを引っ張る選手は毎号入れ替わる。重責を担った褒美は、私のすぐ後の編集後記。そんなのちっともうれしくない、と部員からの風当たりは強くなる一方です。(木佐貫)

 過ぐる一日、某所にて催されし西洋音楽演奏会に余もワイオリンもて参加す。演目といへばバツハ、ハイドンなど、大家中の大家の作許りなれば、疎かにはやり過ごし難し。勤勉なる面面に交じれば責任の重きを感じざるべからず。人前にて演奏するは十余年振りなれば、果たして思ふさまならず、朋輩らの足手纏いとなる虞れあり。知らぬ
顔を装ひしが搏動早まり緊張極に達す。さりながら、いざ舞台に上りて一音を奏づるや、昔取りし杵柄とはかくあらん、自然と身体躍動す。恰も幼時に覚えし泳法を忘れざるが如し。とはいへ、聞く者が如何に思ひしかは思惟の限りにあらず。(吉田)

編集後記 13年7月号

★座談会の直前、出席者の某氏と野球談義。「調子がいいならいいで、いつ急落するかと心配なのが、我々とアベノミクスの共通点ですねぇ」。

毎年シーズンオフのたびに勃発する「お家騒動」、期待はずれの助っ人たち、そして大一番での勝負弱さ。そんなこんなで“失われた二一年”さえも経験したタテジマ党の辞書に「順風満帆」の文字はなく、「いつまで持つのか?」と、不安ばかりがいや増す。哀しい習性である。★橋下徹氏の慰安婦発言は、中韓のみならず米国までも刺激し、「安全運転」に徹していた安倍政権にもいっそう厳しい目が向けられることに。憲法、靖国――総理の真意はどこにあるか。歴史認識問題を扱った日中韓教科書比較とあわせてお読み下さい。(木佐貫)

★大幅に議席が動く昨今の選挙結果をみていると、九六条改正によって簡単に憲法が変わりかねないと懸念。総選挙のたびに各党が憲法改正を公約にしたりして。不見識な政党が議席を占めることもあるだろう。なんて有権者の不安を田原総一朗さんが代弁。安倍首相インタビュー、ぜひご一読を。★葉上太郎氏の新刊『瓦礫にあらず』は被災者の心のひだを誠実に丁寧に描き出した一冊。ノンフィクションの難しい時代にあっても筆致極めて抑え目の人である。「もう少し筆が滑らないと市場で受けませんよ」などとからかえば激怒。もう一時間は止まらない。そうこなくっちゃ。ほくそ笑む。(中西)

編集後記 13年6月号

一勝三敗一分。苦戦とみるか、善戦とみるか。人間対コンピュータ、将棋「電王戦」の第二ラウンドが行われた。作家の大崎善生さんは、そばで観戦していてコンピュータの手に感動したとすれば、それは演算の領域を超えているのではないか、と述べた上で、「この熱戦を通じて間違いなく心を動かされている自分がいる」と書いた。

将棋にもコンピュータにもコンピュータ将棋にも疎い私だが、対局後の精も根も尽き果てた棋士の姿には心が動いた。電王戦に先鞭をつけた米長さん、そしてあの大山さんなら何と言っただろうか。★伊藤隆氏「史料と私の近代史」と、ねじめ正一氏の小説「六月の認知の母にキッスされ」が始まりました。ともに今後の展開が楽しみです。(木佐貫)

★平日昼間、見知らぬ町でバスに駆け乗った。私以外、車中は杖か手押し車を携えた方ばかり。長寿社会を実感するのはこういう時だ。先を急ぐ私としては、停留所ごとにゆっくり動く老々男女が、正直もどかしい。約束の時間は迫る、お年寄りはなかなか降りない。しかも隣のおじいさんが大きなくしゃみをし、驚いた私は素っ頓狂な声を上げてしまった。みんなが笑った。身を隠すようにして降りる私に、一番前に座っていたおばあさんが飴を渡す。★歩きながら、九十を越した祖母の呟きを思い出していた。「年上の人がいないって心細いことよ」。うん、わかる。きっと、そうだろうな。(打田)

編集後記 13年5月号

★三月から四月にかけては人事の季節です。当編集部でも選手交代が行われます。★私自身、この編集部は三度目の配属です。それぞれ異動直後に「ソ連邦崩壊」「9・11」「3・11」が起こり、のっけからフル稼働。

おかげで“異動ボケ”を経験したことはありません。★考えてみると、東西対立が終わり、「争点あれど、対立軸なし」の状況で、ずっとこの雑誌に関わってきたわけです。いまだに「おたくの雑誌はリベラルだね」「ちょっと右寄り?」などと言われますが、特集「保守とリベラル」は、我々自身が古い図式を引きずったまま物事を見てはいないか、問い直すいい機会となりました。★佐藤優氏と若松英輔氏の新連載が今月から始まりました。ぜひお読みください。(木佐貫)

★後藤さんの名ノンフィクションをたどる旅は最終回。「よもやま話」「雑談」の語が頻出するとおり書き手に会って当時の話を聞いているのが大きな特徴。ノンフィクションの作法で書かれたノンフィクション案内と言うべきか。取材の多くに同行し、気安く会うには尻込みしてしまう大ベテランの謦咳に接したことはまさに役得。次号では完結記念対談を予定。ご期待ください。★代わって若松さんの新連載。「私のイエスは、『教会』には留まらない」の一節に心震える。引用するフランシスコ会聖書も買って準備万端、そこに思わぬ異動の辞令が。三年五か月、著者と読者の皆様に感謝。(小野)

編集後記 13年4月号

★新幹線を新神戸で降り、東日本大震災の復興について伺うために、五百旗頭真先生を訪ねる。その道は途中から、一八年前に歩いた道と重なる。ひどい砂塵でマスク無しでは歩けなかったな。全員無事です ××公園にいます、との走り書きが倒壊した家に貼られていた――。

少し早めに着いたので、一九九七年一月に掲載した牧秀一氏「震災『よろず相談室』の二年間」に目を通す。そこに書かれた一文。「震災前の寂しい人々を見捨てた、金と物量だけの社会や街に戻すんやない。…震災から何かを学ばなあかんで」。★阪神・淡路大震災の経験は随所に生かされた。が、“阪神”では三人だった行方不明者が“東日本”では、いまだ二千数百人という重い現実。大川小学校の真相究明は進むのだろうか。(木佐貫)

★京橋界隈は再開発ラッシュである。銀座と日本橋と東京駅に囲まれて控えめな主張をしていた建物群に次々とシートがかかり、新しく生まれ変わっていく。
 あゝ、家が建つ家が建つ 僕の家ではないけれど
 空は曇ってはなぐもり  風のすこしく荒い日に
                  (中原中也「はるかぜ」)
 行きつけなどとは言えない、一方的に親しんでいた店が閉まっていく。寿司屋、焼肉屋、喫茶店……。なかでも寂しいのは鰻屋だ。新しいビルに入るのは三年半後だという。でも、何の変哲もない、あの小さな座敷はなくなってしまうのだ。(吉田)

編集後記 13年3月号

★小学校低学年の頃、放課後はいつも上級生に交じって遊んでいた。たいていは近所の空き地での野球。しかし貧打鈍足の下級生を、どちらのチームも引き取りたがらない。

そこで下された裁断は「万年キャッチャー」。打撃機会は無くとも、肩身の狭い思いをすることなく参加できる「超法規的措置」に感謝。たまに生意気にも一塁へ牽制球を試み、みごと暴投、怒られたりもしたが。★子どものほうがルールを柔軟に捉え、うまく使いこなすのかもしれない。年をとるにつれ、融通が利かなくなるということか。自分たちで作る、変更する、認めさせる、という意識が希薄では、ルールメイク競争で他国に敵うはずもない。TPP、憲法改正は我々にとっていい試金石になる。(木佐貫)

★現職国会議員の連絡先、所属政党、略歴などが一覧できる『国会要覧』なる手引がある。選挙等のたび改訂版が出るが、以前は毎回買い替えたりはしなかった。★そうもいかなくなったのは〇五年から。選挙のたびに顔ぶれが大幅に入れ替わるから、買い替えざるをえない。出版不況の昨今だが、『国会要覧』は小選挙区とポピュリズムのおかげで好調か。★今月は「今度の自民党は本物か」。与野党ともに重鎮がいなくなり、老害は薄まったが二世の若害は注目点かも。★弊誌で連載した浅田次郎さんの小説『一路』が二月二十五日に刊行されます。笑えて泣ける作品です。ぜひご一読を。(中西)

編集後記 13年2月号

★対談や座談会の数日後に速記会社から分厚い速記録が送られてくる。それに朱を入れ、あるいは原稿用紙に一からまとめ直し、出席者のお宅に届け、もしくは速達で送り、内容をチェックしてもらう。

パソコンやボイスレコーダーはもちろん、ワープロも宅配便もバイク便もほとんど使われていなかった二〇年以上前の話。★今は校了間際の突発的事態にも「年末進行」の師走の選挙にも対応できるようになった。どこかの党のように「準備期間が足りず」なんて言い訳は通用しない。★昨年は選挙の年だったが、日米韓はいずれも前回より盛り上がりに欠けたといわれる。しかしそれは有権者も政治家も現実の厳しさを知ったからだと考えれば、決して悲観することはない。(木佐貫)

★恒例の大学特集。ある学生の「英語も勉強も大学入学のときが一番できた(今はダメ)」という話が頭に引っかかっていたのと、昨夏、インターンシップで小誌編集部に来た学生が「大学に入ると馬鹿になる!」という企画を出してくれたことが今回のテーマを考えるきっかけに。★主張にも乱暴なやり方にも賛成できないが、大学の「数」について問題提起した文部科学大臣はあえなく落選。「教育を、取り戻す。」と謳いつつ、大学についてはほとんど何も言っていないに等しい党が大勝。「大学は票にならない」どころか、避けたほうがよい話題なのかも、と少々皮肉な気分に。(小野)

編集後記 13年1月号

★エネルギー小国なのも、財政状況が悪いのも、自由貿易に活路を見出すしかないのも、自明のこと。

であれば、そんなに広くはない幅の中で、現実的な選択肢がいくつかある、そうあってほしいものだが、現在の多党乱立は果たして選択肢の充実につながっているか。メニューがどれだけ豊富でも、実際に食べられるものでなければ意味はない。★昭和の歌の魅力をじっくり語ってくださったのは、元ディレクターの長田曉二さん。一曲一曲、丁寧に歌詞の意味を説明してくださり、プロの見方を教わりました。読者の皆さんの、とっておきの「一曲」は何でしょうか。★今年最後の発行となりました。来年も引き続きよろしくお願い致します。(木佐貫)

★病棟の廊下を曲がった先で、知らない大きな男のひとが子どものように泣きじゃくっていた。なぜ幼い私が、一人その場面に出くわしたのか、もう覚えていない。「妻を送る」をテーマに皆さんの話を聞きながら、“あの日の男のひと”が甦る。★宗教特集でも、「死者との絆」に思いをいたす声を多く聞いた。死に別れた悲しみから抜けきれない、というのとは少し違う。現在を見つめながら、「ここにいない人」との絆を保つ――それは生きた人のみならず、生きる人をも慰める言葉に響いた。(打田)

編集後記 12年12月号

★治安や失業率はそれほど悪くない。年金、生活保護も今のところは機能している。「心地よさ」に浸りながらも、しかし人々は満足せず、大きな「変革」を求める。

「少しずつ実現されている微調整を正しく認めてそれを慶ぶこと」(山崎正和氏)は難しい。★早坂隆氏「鎮魂の旅」のテーマはモンゴル抑留。極限状態に置かれた俘虜たちは、ただ一片のパン、一時の休息を追い求め、それ以外の感情を停止させる。胡桃沢耕史『黒パン俘虜記』には、食物を譲り合えばどちらかが死ぬ、共に生き残るためにわざと別々の収容所に入った親子の話が出てくる。★ヒトは環境によって、いかようにも変わる。それは強さなのか、はたまた弱さなのか。(木佐貫)

★午前四時。中央通りで車をとめる。「市ヶ谷の大日本印刷を経由して吉祥寺方面へお願いします」。すると、運転手が静かな低い声で呟いた。「金曜日と同じですね」。三日前と同じ時間、同じ運転手。「わたくし、一八年間に同じ方を三度乗せたことはありますが、わずか三日とは」。かくして印刷所に校了紙を届けた後、道順を説明することなく、意識を失ったまま家まで帰り着く。ドアを開けて、運転手は静かな低い声で囁いた。「もうお目にかかることはないかと思いますが、お気をつけて」。(吉田)

編集後記 12年11月号

★ここしばらく、リーダー論がにぎやかだ。必要な資質は決断力だ、いや協調性だ、と。しかし政治でもビジネスでも、リーダー自身の個性や人格以上に、大事を成し遂げるための適材適所を実行できるか否かが、もっとも重要なポイントではないか。

人を見る目、つまりは「人事」である。★「組織の成果は、誰を採用し、誰を解雇し、誰を異動させ、誰を昇進させるかという人事によって決まる」と言ったのはP・ドラッカー。では具体的には、どんな人事が良くて、どんな人事が拙いのか。特集を組んでみました。★九月号の「今月の一枚」で取り上げたヤンキース・イチローが絶好調。大リーグという組織のなかでの「人事異動」が、良い刺激をもたらしたとも言える?(木佐貫)

★日本なんて徹底的に破壊し作りかえろ――という米国内の厳しい世論に抗い、戦後日本の再建に尽力したのは米国の大物政治家スティムソン。一方、今の日本の政治家が自国を叩き潰すと叫んで集票しようとするのはなんとも皮肉。★昨今の研究により、日本が開戦に踏み切ったのは独裁や暴走の結果ではなく、権力が脆弱だったからとされるが、鼎談「民主主義の限界」で細谷雄一氏が指摘するとおり、戦争の総括が歪んでいるから日本はリーダーを叩き潰すことばかりに夢中になってきた。「知らずしらず戦前と同じ轍を走っていることに早く気づけ」とは至言。自戒を込めて噛みしめる。(中西)

編集後記 12年10月号

★李明博の竹島上陸に、香港の活動家たちの尖閣上陸。日本を舐めきったかのような動きに憤るも、五輪ではあるまいしナショナリズムを煽り合っても仕方がない。「短兵急な強硬論では意味がない」(鈴木美勝氏)のである。

★休日にたまたま足を運んだのが、「日中国交正常化四〇周年記念」と冠のついた恐竜博。羽毛恐竜ユティランヌスやズケンティランヌスなど初見の全身化石・骨格もよかったが、超大陸パンゲアの分裂以降、恐竜が各地で多様化していく様がわかる展示に満足。★こうした文化交流が隣国への悪感情を和らげる側面は多少はあるだろう。しかしそれは、相手が歴史的事実を無視し、暴君(tyrannus)のごとき、浅慮な振る舞いをしない限りにおいてだ。(木佐貫)

★インタビューや対談というものは、事前にどれほど準備しても当日は全然違った話題になることも少なくない。というより、予定どおりだったためしがない。私が頭のなかでひねり出した展開そのままだったら記事として面白くないことはわかっているが。今月で言えばまず石原知事インタビューがそうだった。のっけから「俺は教育に関心ねえんだよ」。本気か冗談か不明だが、都の教育改革について聞くつもりだったのに調子が狂ってしまった。連載対談を二十年続ける阿川佐和子さんでもインタビューは苦手というのだから、経験を積めばいいわけでもなさそう。さてどうするか。(小野)

編集後記 12年9月号

★二月に天皇陛下の心臓手術を執刀した天野篤先生と、アントニオ猪木さんの"異種格闘対談"。猪木ワールドにどっぷり浸ったあとの締めはもちろん「一、二、三、ダァー」。

プレセントされた赤いマフラーを首に巻き破顔する天野先生の姿に、失礼ながら、「ヒーローの前では誰でも子どもになってしまうのか!」。★猪木さんはブラジルにいたころ、円盤投げで名を馳せ、それがきっかけで力道山にスカウトされたという。自伝によると、ご本人もブラジル代表としてオリンピックに出場したいと思ったことがあるそうだ。★オリンピックといえば、やはりマラソン。1908年ドランドの悲劇、48年ガイイの急失速、ロンドンでは今回も、ゴール前で何かが起きるのだろうか。(木佐貫)

★生来図々しいから政治家を前に緊張した記憶はほとんどない。が、かつて中曽根康弘元首相を取材した時はガチガチに緊張した。イマドキの政治家とは背負う歴史が違うからか。★今の日本の政治家が小粒なのはなぜか、という問いに、氏は戦争でも経験しなければ本気で国を思わないのかもしれないという趣旨のことを述べた。重い言葉である。★今月は特集「政治家は『塾』で育つのか」。氏のご指摘はあまりに正しいけれど、そうも言ってはいられない。私たちは私たちの"在庫"からよりマシな政治家を育て選ぶしかないのだから。あっという間に消費されない政治家育成法を考えた。(中西)

編集後記 12年8月号

★小学四年のとき祖父が亡くなり、遺品整理についていった。大人たちが忙しく立ち働くなか、せしめた戦利品は顕微鏡と少しの本。そのうちの一冊が、中央公論社との最初の接点となった。

ビニールカバーのかかった中公新書の『ゾルゲ事件』。内容はチンプンカンプンでも「大人の世界」を垣間見た気になれた。★ゾルゲや、ル・カレ原作の映画『裏切りのサーカス』で描かれるようなスパイはいなくても、"合法的に"重要情報を収集し、本国に流す人間が今の日本には数多く存在するという。詳細は特集でどうぞ。★「探訪 名ノンフィクション」の柳原和子さんとは私も浅からぬ縁が。後藤さんの〈過剰さ〉という表現、よくわかります。愛すべき過剰さを備えた人でした。(木佐貫)

★夜、自転車を駅から家へと漕いでいく。年季の入った自転車は、ぎーこぎーこと音を出す。一〇分の道程。ふと、「微笑もて正義を為せ」という言葉が頭をよぎる。確かにそうだ。「正義」という言葉には、額に青筋を立てる雰囲気がある。はて、何に出てきた言葉だったのか。次の日の夜、自転車を漕ぎながら考える。「正義漢」は頼りがいがあるけれど、時に鬱陶しい。自分を省みても、「我こそは」と思い込んだ言動は、ああ、思い出したくないことばかり。そして次の日の夜、自転車を漕ぎながら、ふと思いつく。あれは太宰治の『正義と微笑』だ。ぎーこぎーこと音が鳴る。(吉田)

編集後記 12年7月号

★新入幕の佐藤山が、師でもある古豪御厨川を突き押しで土俵際まで追い詰める。御厨川は、いなし、はたき、張り手を見舞い、三十七歳下の佐藤山を翻弄。大相撲となったこの一番の行方は。

★両者の中間に位置する世代からすると、双方が語る理屈と実感からほぼ等距離にいる感じで、どちらか一方に軍配を上げる気にはなれない。今月号の特集「財政破綻国家にしたのは誰か」の師弟対談は年齢や立場によって読後感が違ってくるはず。ぜひ感想をお寄せください。「取り直しの一番」を求める声が多ければ、また土俵に上がっていただきます。★五月は東京スカイツリー(634m)、竹内洋岳氏の快挙(8167m)、金環日食(?)と、“高さ”に魅了された月でした。(木佐貫)

★日本一高い構造物は言うまでもなく東京スカイツリーだが、日本一高いビルが横浜ランドマークタワーということは案外知られていない(再来年開業の「あべのハルカス」が抜くらしいが)。かつて霞が関ビルやサンシャイン60は超高層ビルの代名詞となったが、日本一高いビルが何かということ自体、関心を惹かなくなったのはいつのことだろう。★毎月時評を寄せていただいている大竹文雄先生に、今月は対談をお願いした。お相手の江口允崇さんは本誌昨年八月号以来、二度目の登場。財政破綻や消費税について私自身がわからないこと、疑問に感じていることを議論していただいた。(小野)

編集後記 12年6月号

★国の代表として、無様な姿は見せられない。ときには正攻法で渡り合い、ときにはブラフをかけ、相手を揺さぶる。一瞬の油断が命取りになる。決断力、判断力、胆力、体力……メンバー全員に高いスキルが要求される。休日に観戦した七人制ラグビー「セブンズ」の話である。

★一人のプレイヤーにかかる重圧は一五人制の比ではない。スキを見せずにスキを衝く、観る者を飽きさせない試合の連続だった。★一人にかかる重圧、責任の重さが尋常でないといえば、究極は国益をかけた交渉の場であろう。「セブンズ」と違い、勝ちさえすればいいわけではないところも難しい。今号では、誰もが逃れることのできない会議を、政治的駆け引きの観点から取り上げました。(木佐貫)

★キヤノングローバル戦略研究所の宮家邦彦氏によれば、イランの核開発が引き金となり周辺諸国は一斉に核武装に走り出す。NPT体制なんてもはや古典に? とめどない核拡散が幕をあける。今月は特集「核をめぐる新パワーゲーム」。危うい日本の立ち位置をぜひご確認ください。★ところで同特集のため安全保障担当の首相補佐官に取材を申し込んでいた。ご本人は即快諾。ところが官邸から「許可できぬ」と突然連絡が。鳩山イラン訪問が関係していることは間違いない。★普天間空転をはじめ鳩山氏には有権者として迷惑をこうむったが、今回は実に直接的に被害を受けた気がする。(中西)

編集後記 12年5月号

★今の日本政治を語る上で、避けて通れないのが橋下徹という存在。「ハシズム」と批判されたり、「改革者」と持ち上げられたり。戦争、罰、服従などのメタファーを駆使し、「直面型、攻撃型のスタイルで勇猛果敢に不正をただすイメージを作り上げ」るのが彼の特徴だと、東照二氏は指摘する。

★人間心理に通じた有名な独裁者が国民に向かって、「諸君に幸せを約束する」ではなく、「闘いと危険と死を約束する」と言い、その結果「全国民が彼の足下に身を投げ出すのである」と七〇年前に書いたのは、かのG・オーウェル。★橋下氏の姿に何を見、何を感じるか、そこには我々自身の願望や不満、苛立ちが映し出される。その意味では、やはり気になる人物である。(木佐貫)

★「四月ばか」という。日本でこの日を意識する人がどれくらいいるかは知らないけれど、私のように待ち構え過ぎると「騙されて大笑い!」の機会はあらかじめ失われてしまう。★先日、久々の知人に「ヤギは元気?」と問われた。まるで思い当たらない。聞けば十年前の春、私が「無駄紙処理のためヤギを飼っている」と言ったとか。あぁ、“その日”だったんだ。★高校の友人たちには、始業式前日に流した「新クラス情報」を今もって責められ、クラス替えが人生の一大事だった頃を思い出す。★洒落た嘘をつくのは難しく、また、素敵な嘘に酔うには純な心持が足りないようで。(打田)

編集後記 12年4月号

★ある出来事が人にどれだけのストレスを与えるかを示す「ストレス点数表」なるものがある。「配偶者の死」「離婚」などが上位に来るのは当然だが、「単身赴任」「引っ越し」といった、住環境の変化も大きな負荷要因になるという。

葉上太郎氏のルポは、生きるために逃げたのに結果として命を早く落とすことになった福島県川内村の高齢者の話を取り上げた。とはいえ、放射線リスクと避難リスクを比較して、自己責任で行動せよ、というのは酷な話。「ジャーナリズムが専門家の主張を読み解いて伝えていく必要がある」(川端裕人氏)はずだが、この一年、それができていたかどうか。★今月号から表紙が変わりました。感想をお寄せいただけるとうれしいです。(木佐貫)

★太郎の上にも次郎の上にも何とやら、時間は誰の上にも過ぎてゆく。半年ぶりに会った母親を見て、「さすがに老けたな」と感慨にひたりつつ、一応言葉を呑み込んだのに、それを知らずか母親は、「あんたも老けたね」とポツリ。思ったことをすべて言葉にするのは相変わらずで、母子がよく似た証拠だが、月日の流れが示すのは母親の皺と息子の額の広がりだけではない。隣にいる孫だって大きくなっているのだ。もちろん、年を重ねることに不満はない。でも、年を重ねてわかったことは、たとえば佐分利信のような、渋い大人になる日が来ないということで、それがさみしい。(吉田)

編集後記 12年3月号

★核をめぐるイランとイスラエルの対立の先鋭化は、金融危機と並んで国際社会の大きな脅威となっているが、実は、この両国に共通するのがサイバー攻撃を“経験”していることである。

イランでは二〇一〇年、コンピューターウイルス「スタックスネット」がUSBメモリを介して原子力施設内に侵入、ウラン濃縮装置を誤作動させ、深刻な影響を与えた。イスラエルは〇七年にシリアの核疑惑施設を爆撃した際、直前にサイバー攻撃で防空レーダーを無力化させたといわれている。★敵の特定が難しく、武力行使を伴わないサイバー戦争の場合、日米同盟はどう機能するのか。憲法九条はそのような事態を想定していたのか。安全保障という概念自体が揺さぶられている。(木佐貫)

★『ハーバード白熱教室』を見たときは衝撃だった。勉強不足を恥じることなく告白すると、哲学なるものが国をまとめるための実学であると初めて理解したからだ。★今月は「“迷惑施設”のゆくえ」。煽情的なタイトルで恐縮だが、狙いはただ一つ。自治を担いうる主体の権利と責任について真正面から問うてみたかった。★被災地が困り果てる放射能汚染瓦礫の受け入れすらただ拒絶するだけの人々がいて、一方には民意にすぐにひれ伏す政権基盤の弱い与党がいる。共同体を成立させるためには自前で引き受けなければならないものがある。民主主義の可能性と限界について考えた。(中西)

編集後記 12年2月号

★十二月十日皆既月食の夜、望遠レンズをつけたカメラをかつぎ、家のまわりをうろついた。驚いたのは、こちらが恥ずかしくなるほど立派な装備で「その瞬間」を待ちかまえる愛好家の多かったこと。

★なぜ月食は起こるのか。満月と新月と月食の違いは。どうして皆既月食中の月は赤く見えるのか。さて答えられますか。簡単なようでいて、人に説明するのは難しいですね。★3・11以降、原発や放射性物質の話題が引きもきらないが、みな、どこまで理解して語っているのか。「文系だから」などといって逃げていないか。自戒を込めて、改めて考える。★浮つかない言論を目指し、今年も編集を続けていきたいと思います。写真は、五月二十一日の金環食で再挑戦です。(木佐貫)

★十二月に入って、リクルートスーツに身を包んだ大学三年生をよく見かけるようになった。近ごろは就職活動を「シューカツ」と略すらしいが、どうにも馴染めなくて、青木先生と吉見先生の対談でも、編集者の特権を生かして「就活」とカギカッコをつけさせていただいた。珍奇な略語に抵抗感があるのは仕事柄か、年齢のせいか。★二〇一一年もさまざまな本に出会えたが、若松さんの『井筒俊彦』と『神秘の夜の旅』はとりわけ印象深かった。一冊の本をゆっくりなめるように読む楽しみを教えられた気がする。そうすると新年も「積ん読」が増えていく一方だろうけれども。(小野)

編集後記 12年1月号

★業界の慣行で、いま手にされているのは年内発売でも「新年号」。新たにふたつの連載が、今月よりスタートしました。★小誌1976年7月号「アメリカの虎の尾を踏んだ田中角栄」でジャーナリストとして本格デビューした田原総一朗氏。

田原氏といえばテレビの人、といったイメージが強いですが、文筆に賭ける意欲にもまったく衰えはありません。自らが「人生最後にして最大のテーマ」という「天皇」に挑みます。★その静かな筆致と、取材対象者への温かな眼差しで多くのファンを持つ後藤正治氏は、いまも色褪せない「名ノンフィクション」を探訪します。ノンフィクション作家が、先達の残した数々の傑作をどう読み解いていくのか。どうぞご期待下さい。(木佐貫)

★1年前の正月、2011年がこんな年になるとは誰も予想しなかった。その意味では2012年の世界情勢を展望するのも無謀かもしれないが、先を見据えることで、かえって現在の課題が見えるのではないか。……ということを「2030年の日本経済」特集のときにも書いていた。2013年の正月には少しは成長しているのかどうか。★堂場瞬一先生の連作短篇は今月で終わり。もちろんその記念というわけではありませんが、特集にもご寄稿いただきました。ちなみに、語り口調ですがインタビューではありません。毎回、力強い挿絵を寄せてくださった管野研一さんともども感謝。(小野)

編集後記 11年12月号

★ディスカバリーチャンネルの「サバイバルゲーム」が面白い。元英軍特殊部隊のベア・グリルスが、砂漠、極北、湿地帯など、過酷な環境下でいかに生き延び、脱出するかを実践する番組だ。食料調達、野営地探し、外敵から身を守る術など、感心しながら観つづけるうちにもうシーズン6。

★サバイバルに強い人と弱い人の差はどこにあるか。『奇跡の生還を科学する』によれば、コップの水を見て「まだ半分ある」と思うのではなく、「蛇口はどこか?」と考える人のほうが見込みがあるという。★巻頭特集では六人の方に、この世界を生き延びるための「蛇口」を探していただいた。(木佐貫)

★雑誌編集部の一ヵ月は、ゲラのある十日間とゲラのない二十日間とに分けられる。進め方の問題はさておき、ゲラのない最初の十日間は、可能性の大きさにうっとりし、続く十日間は、迷いと焦りと不安に覆われる。原稿を無事にいただいてゲラにすれば、あとはゴールへ向かうのみ。時間は少ししかない。あれ、道はなぜか急坂だ。――速く確実に走る方法を探しあぐねて、同じことを何度か繰り返す。ふと気がつけば秋の空。原稿の依頼文は、いつしか「来年の二月号で」となっている。(吉田)

編集後記 11年11月号

★今月は野田“どじょう”政権をめぐる対談、座談会の連続だったが、その合間に行われたのが、“泥沼流”米長邦雄元名人と梅田望夫氏とのコンピュータ将棋対談。頂点を極めたのちに引退しながら、再び自らを鍛え直し、強敵に挑戦しようとするところは、まるで『ロッキー・ザ・ファイナル』。

“さわやか”な決意表明だった。★史上最年長で名人位を獲得する前、親子ほども歳の違う若手棋士に対して「先生」と呼びかけて教えを請うたというのは有名な話だが、最強コンピュータを倒すための準備も怠りないようだ。対局当日は、初手から目が離せない。★今月号で、「哲学する渡り鳥」太田と「愛妻日記」井之上が編集部からひとまず離れることになりました。(木佐貫)

★「ねえ、もし俺が就職できなかったらどうする?」。もう一〇年も前になる。就職活動も中盤に差し掛かり、それなりに煮え湯を飲まされていた初夏のこと。彼女はニッコリ微笑んで、私の背中をポンポンと二度叩いた。★「ねえ、今度『中央公論』編集部から異動になるんだけどどう思う?」。久々の晩酌に付き合ってくれた妻はニッコリ微笑んで、私の背中をポンポンと二度叩いた。★時は流れ、環境が変わる。あることの意味が明らかになることもあるし、分からなくなることもある。★ふいに携帯電話が震えた。画面を覗き込み、私達は声を失う。この後の話は、いつかどこかで。(井之上)

編集後記 11年10月号

★最近、よく耳にするのが「脱」という言葉。脱官僚に脱小沢、そして目下の一番人気は脱原発。★この「脱」はなかなかの曲者で、「賛成か反対かというレベルの議論をしたいわけではありません」とでも言いたげ。

そして安易な定義づけも許さない。だからときには、即時撤廃派も、数十年かけて少しずつ減らしていきましょう派も「脱原発陣営」にまとめられたりするので驚く。“大連立”を組んで「現状維持派」を徹底的に少数派に追い込むのには効果があるのだろうが。★山本七平はかつてこう書いた。〈「開発と環境保全」という「中庸」をいかにして求めるか。要請されるのは、常に(他の問題でも)「歯切れの悪い」回答である〉。やはり聞こえのいい言葉には注意したい」。(木佐貫)

★「一つの世界というものは所詮一つの夢にすぎないかも知れない」――本誌一九六五年一月号に掲載された入江昭氏の「近代日本外交の遺産」は、冒頭で前年の東京オリンピックのスローガン「世界は一つ」に言及して、その夢かもしれないことが実現されるために必要なこととは何かを問いかけていました。現在、日米安保ないし両国の同盟関係について、必ずしも活発な議論がなされているとは言えませんが、この二国間関係が世界の中で果たしている役割を見据えるとともに、たとえ「一つの世界」が夢だとしても、その夢の存在すら忘れてしまうことのないようにありたいものです。(吉田)

編集後記 11年9月号

★東京タワーの展望台に、真下が覗けるガラスの床がある。その上に乗ることを断固拒否した友人はしかし、地下鉄の駅では進入する電車に背を向け、ホームの端ギリギリに立ったまま悠然とおしゃべりに興じていた。

★彼を笑うことはできない。ガラス床が割れる可能性はほぼゼロだが、飛び跳ねても得るものは少ない。高所恐怖症ならなおさらだ。一方、日常に潜むリスクはある程度大きくても、いつしか慣れてしまう。そこがリスク論の難しいところでもある。★「放射線リスク」徹底討論は、「御用学者」「情弱」といった、今流行のレッテル貼りとは無縁の、語り口は穏やかながら熱気に満ちたものだった。三時間を超える議論のすべてをお伝えできないのが残念です。(木佐貫)

★東日本大震災で亡くなられた方々の言葉を少しでも多く収集し、記録できたら……。そんな思いで五月上旬から被災地を訪ね歩いた。「こんな時に非常識だ!」と怒鳴られることを覚悟していた。ところが、実際はまるで違っていた。★我が子が、親が、孫が、確かにこの地に生きた証を残したい――というご遺族の思いに突き動かされ、カメラを片手に夢中で集めた一六人の記録がここにある。★大きな喪失感に苦しみ、それでもなお前を向いて歩き出そうする人々に伴走できるなら、これ以上の仕事なんてない。一人でも多くの読者に共感してほしいと願ってやまない。(中西)

編集後記 11年8月号

★かつては、会合などでノーネクタイだと、「すみません、こんな格好で」と恐縮したものだが、今夏は様子が違う。ネクタイをしているほうが、「暑苦しくて、すみません」と謝らないといけない雰囲気だ。クールビズは結構だが、節電より、皆が“涼しげな”服装をすることが目的になってしまっている感じがしないでもない。

★菅おろし、政権しがみつきと「手段」ばかりに忙しいのが永田町。もっとも、政権交代自体が、目的より手段ありきだったわけで、すべてはその延長線上で起きているとも言えようか。★防災マニュアルが「生き延びる」という目的からかけ離れていたために多くの児童が亡くなった大川小学校。菊地正憲氏のルポが提示する問題は、深く重い。(木佐貫)

★二十年前の一九九一年には、「失われた二十年」が続くことはもちろん、阪神・淡路大震災も東日本大震災も想像できませんでした。その意味では、二十年後の日本経済を考えるのはナンセンスという批判もあるはずです。けれども、極端な想定を置くことでかえって本質が見える面もあるのではないでしょうか。堂目さんの「市場、経済成長、政府は手段であって目的ではない」、本文にはありませんが、神門さんの「現在世代の開き直りに対応し、将来世代のために存在するのが政策」といった指摘は、先を見据えてこそ直近の課題にも適切に取り組めることを教えてくれます。(小野)

編集後記 11年7月号

★五月の連休に家電量販店に出かけた。アイリンクだの動作保証だの、慣れない言葉と格闘したあげく、ようやく商品数点の購入を決定。さて御会計、というときの店員の言葉が「少し値引きさせてもらいましたから」。

★しまった! 飯島勲氏の本に、販売員が上司やオーナーに連絡をとるまで底値は来ないから値切り続けろ、とあったではないか。値引き交渉もせず、相手に“負けて”もらうとは、関西人の風上にも置けない。★国益とプライドを懸けた対外交渉は、もちろん「しまった」では済まされない。震災前の懸案は先送りされただけで何も解決しておらず、日本を取り巻く環境の厳しさは変わらない。いまこそ外に目を向けるべき、との思いで「交渉力」を特集しました。(木佐貫)

★吉野作造について型どおりのイメージしか持っていなかった私は、橋川文三『昭和維新試論』の記述に瞠目させられた。同書では、昭和維新の始まりに位置づけられる一九二一年の安田善次郎暗殺事件が解説され、その思想的意味を鋭敏に捉えた同時代人・吉野の「朝日平吾論」が高く評価されている。★『中央公論』誌上で健筆を振るい、顧問格となり、『朝日新聞』で論説委員を務め、『明治文化全集』の完結に漕ぎつけた吉野の姿が大きく見える。このジャーナリスト感覚に優れた、大正デモクラシーの旗手を中心に据えた近代ジャーナリズム史、出版文化史が現れないものだろうか。(太田)

編集後記 11年6月号

★一九九五年、阪神・淡路大震災の約二ヵ月後に東京で地下鉄サリン事件が発生。二〇〇四年、新潟県中越地震の約二ヵ月後にスマトラ島沖でマグニチュード九・一の地震が発生。そのころから震災報道は激減し、世間の関心も薄れていった。

★頻発する余震、原発事故処理の長期化、エネルギー不足への不安もあって、今回の東日本大震災が一気に風化することは考えにくいが、今の世の中、「ニュース」は次々と更新されていくのが常だ。であるならば、いわゆる「遅いメディア」だからこそ、できることがあるのではないか。今月号に限らず、次号以降もそうした思いを持って、企画を立てていきたい。★今月から編集長を務めることになりました。よろしくお願いいたします。(木佐貫)

★団塊世代ならばいざ知らず、その後に生まれたバラけた世代となれば、集団生活を得意とする人は、めっきり少なくなるのでは。しがらみを断ち切り、勝手気ままに生きてきた現代人にとって、居留守も使えない生活環境は結構しんどいかもしれない。自宅を売り払って入った終の棲家で人間関係がこじれれば、大食堂も大浴場も地獄。地域社会から逃れてきたツケを最晩年に払わせられるかしら……。そんなことをつらつら考えながら、有料老人ホームを訪ねた。永久に一人で自宅にいられるはずもない。契約と注意点、必要な心構え、覚悟、備えとは何か。この道の達人にきいた。(中西)

編集長コラム 11年5月号

★ピーターの法則をご存知でしょうか。「階層社会では、すべての人は昇進を続け各々の無能レベルに到達する。やがて、あらゆるポストは職責を果たせない無能な人間によって占められる。仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行われている」。

★3・11の後ほど日本が無能社会であると実感したことはありません。テレビに映るのは、逃げ腰の優良企業トップ、危機対応より政局に心が傾く政治家、外国の口車に乗って政府批判をする周辺業界。原発事故から姿が見えなかった要人も。一方、いま日本を支えているのは現場に踏みとどまって奮闘中の人々。特に福島原発で作業している方々の自己犠牲が破局から救っているのです。★まさに敗戦の風景。戦後復興再現が叫ばれていますが一つ大条件が違います。8・15では政官財のトップはすべてパージされ三等重役と呼ばれた若手が奇跡を起こしました。これから長期停滞の戦犯たちをパージする必要が。今度こそ自力再建のため日本人は勇を奮わねばなりません。★この雑誌を預かって丁度七年。これを期に編集部を去ります。後任は木佐貫治彦です。引き続き御愛顧をお願いします。私はといえば、いずれ別な場所でお会いすることに。お名残惜しゅうはございますが最後に古い革命歌のリフレインをひとくさり。“Aux armes, citoyens,Formez vos bataillons,Marchons, marchons,Qu'un sang impur, Abreuve nos sillons. ”(間宮)

編集長コラム 11年4月号

★とある韓国のジャーナリストとの会話。「日本の政治、ほんとに情けないことになってきたねー。国民は怒ってないの?」「そりゃ怒ってるよ。この数年ころころ首相が代わるけど何一つ問題を解決できない」「だったらデモをすればいいじゃん」「えっ?」「韓国だったらすぐ街頭抗議行動だよ。外から見ると日本人は全く怒っていない」「……」

★政治的意思表明は法によって定められた投票行動で、と、お上品ぶっているのは今や日本ぐらい。米国では茶会運動がオバマ政権をガタガタにし、欧州では超緊縮財政に国民の怒りが爆発。中国ですら政府を批判できない鬱憤を反日にぶつけてきます。さらにアラブ世界では怒れる若者の命懸けの抗議行動が長期独裁政権をドミノ倒しに。世界はいきなり政治の季節を迎えました。★そもそも日本は幕末以降、政治闘争は直接行動で、という国柄。戦後も国会を一三万人が囲んだ六〇年安保をはじめ、さまざまな紛争がありました。しかしそれもこの四〇年ほどはさっぱり。アラブの騒乱は人口急増に伴う失業中もしくは失業予備軍の若者の増加が背景にあるとのこと。社会の老化は反政府運動にも表れるのでしょうか。★「今の幕府も諸侯も最早酔人なれば扶持の術なし。草莽崛起の人を望む外頼なし」。吉田松陰の過激はあの時代の社会的な閉塞から生まれました。今「やがて燎原の火の如く……」と思っているのは私だけではないはずですが。(間宮)

編集長コラム 11年3月号

★十九世紀に入って、突然思い出したかのようにヘディン、スタインなど数多くの探検家が雪崩をうって東西両トルキスタン、アフガニスタン、さらにはチベットへと入り込んでいきました。時、まさに「グレートゲーム」の時代。ユーラシア大陸の南岸北辺をそれぞれ支配していた大英帝国とロシア帝国が、その広大な中間地帯を巡って行った争奪戦。学術探検だけではなく、情報活動、調略、戦略、政略の限りを尽くした外交戦が繰り広げられました。

★他人事ではありません。初期こそ焦点はアフガニスタンでしたが最終局面は極東。当時、列強の最大の「中核的利益」であった中国大陸を巡り英露が対峙。大英帝国が近代化日本を取り込み、半世紀を掛けて育て上げ、ロシアとの代理戦争に勝利させたことで、一旦、チェックメイトとなります。グレートパワーによる壮大な世界再編ゲーム。我が国はその駒の一つとなって生き残りました。★二十一世紀に入り、欧米が経済的に退潮する一方で、十九世紀に彼らの餌食となった中印が新興大国として急台頭するに及んで世界は再々編期に入ったよう。かつてと同じように大国も新興国も好奇心と野心をむき出しにして新世界に飛び込もうとしています。さて我が国、お上は相変わらずコップの中の嵐、国は泰平の睡りの中。前回の夜明け前も最初はそうだったといいますが、今回は屍山血河を乗り越えて天を回す気力が残っているか不安になります。(間宮)

編集長コラム 11年2月号

★「産業革命の結果生じた新たな諸条件はこの利点をしばらくの間いっそう助長した。このような状況が自由貿易政策の採用に導き、関税や航海法の廃止に至らしめたのである。……重商主義政策の終焉は、自由と平等の不可避的論理によって、自ら選択する自由を自治植民地に与えることになった」(G・M・トレヴェリアン)。

★製造業による経済発展→自由主義経済の選択→特権層から産業資本家と従業員層への権力移転→民主化の進展。十九世紀イギリスのこのメカニズムは、世界史の法則と思われてました。しかし専制が変わらぬ中国のように、必ず、というものではなさそう。権力が単なる利権製造マシーンとなって新たな特権層を形成するからです。成長が止まった途端、問題は顕在化。★今号で田中直毅氏が解説した今の日本の状況。このところ政権を代えても代えても国民は納得しません。巨大な保護規制分野が残る限り政治は日本の未来を食い潰す寄生虫と知っています。★かつて内閣総理大臣とかいう肩書きの田舎者が、我が故郷、大阪に「日本の痰壺」という美称を贈ってくれました。確かに今の停滞ぶりは何を言われてもしょうがないのですが、しかし四世紀にわたって日本の牽引車であったこの自由競争の町を、さらに言えば、この半世紀、無敵だった日本の競争力を、この体たらくにしたのは誰か。先の美称、すべての永田町関係者に熨斗をつけてお返ししたいと思います。(間宮)

編集長コラム 11年1月号

★大阪府高槻市の私が通った小学校から一キロメートルほど北西に、三好山もしくは城山と地元で呼ぶ小山があります。戦国期、ここに芥川城という畿内でも有数の規模の城が築かれていました。最も有名な城主は、信長の入京以前、畿内の覇者であった三好長慶。今号の特集で登場頂いた今谷明氏の著書によると、長慶が将軍・管領を京から追放し、幕府権力を排除し、近国九ヵ国を支配した天文二十二(一五五三)年から永禄元(一五五八)年の間、この地は実質的に日本最大の権力の中心でした。

★などとは、つゆ知らぬ小学生にとって我が故郷は、農村と新興住宅地が相半ばする何の変哲もない都市郊外の風景、戦国など欠けらも感じませんでした。でも、このような土地は、実は日本中あちこちにあったのでは。言うまでもなく、平安時代の末期以降維新まで、日本の歴史は様々な形の地方権力が離合集散を繰り返す分権的な世界。そこにあるのは、常に中央から何らかの形で自立を志向する力学。★権謀術数の限りを尽くす苛烈な闘争は同時代だとすれば堪りませんが、しかし、そこには自由な発想をもつダイナミックな人物が多く登場します。戦国史だけでなく幕末史もそうですが、歴史特集を組むたびに昔と今では日本人の規格が違うように思えてなりません。もしこれが「自立」の産物だとしたら現代の我が国の人的貧困は中央集権によるもの。この停滞は歴史的な水準となります。(間宮)

編集長コラム 10年12月号

★「こんな偽善と詐術は、アメリカの占領と共に終わるだろう、と考えていた私はずいぶん甘かった。おどろくべきことには、日本人は自ら進んで、それを自分の体質とすることを選んだのである。政治も、経済も、社会も、文化ですら」(一九七〇年、三島由紀夫「果たし得ていない約束」より)

★久方ぶりに溌剌というものに接しました。今号に登場した中国の著名ブロガー安替氏。何という行動力、自己主張に楽天性。少々自信過剰。中国の政治状況は彼らネットの住人に好ましいものではないですが、社会の混沌と激動こそが活力を与えているとしか考えられません。自由な精神で世界に立っています。★そこで我が日本。現政権の隅々に至るまでの勘違いや傲慢だけが卑小の象徴ではありません。「政治も、経済も、社会も、文化ですら」その場しのぎと責任転嫁。誰も他者に頼り切り、挑戦や意志などは今やどこにもなし。三島とは全く違う意味で「偽善と詐術」に満ちています。★何故こうなったのか、ずっと謎だったのが今回、大久保潤氏の沖縄補助金中毒の記事を読んで氷解です。自らの生きる術をお上のカネに依存した途端、人は自立を忘れ、シャブ中のように堕落します。この点、沖縄は日本の縮図。戦後日本をタカリの巣窟に堕落させたのは、三島が指弾する戦後民主主義ではなく、天皇制軍国日本を支え、戦後も綿々継続された我が國体、一九四〇年体制であることは明確です。(間宮)

編集長コラム 10年11月号

★魯迅に「『フェアプレイ』にはまだ早い」というエッセイがあります。「水に落ちた犬に三種類あり。いずれも打つべきものなり」という物騒な内容です。革命派と軍閥の確執の中、政敵に対し欧米流のフェアプレイは無意味であるという論旨。中国社会が欧米市民社会とはルールが異なることを骨身にしみていたのです。

★中国の闘争体質は、その当時と大きく変わっていません。その国に対し我が政権は尖閣騒動で何とも拙劣な外交敗戦。強硬姿勢をとられると逮捕した船長を検察に責任を押しつけて釈放。それも問題ですが、もっとあきれたのは釈放時に事態収拾の同意を取り付けていなかったこと。カードはすべて相手方。恐らく伝統に則り徹底して叩きのめしに来るでしょう。★「日本政治は、いったいどこが間違っているのだろう?/まず挙げられるのは、政治家の資質の低さ……政府は、まさに自らの無能と無成果によって、国民の信頼を失った」(ジェフ・キングストン)。しかし、この数年間で国民がダメ出しした政治家たちの顔をよく見てください。誰かに似ていませんか。そう、あなたです。彼らは鏡に映ったあなたの似姿なのです。民主主義の選挙で選ばれる以上、政治家は国民の望む形にすり寄っていきます。今の政治に絶望するなら、まず国民が自らを変えるしかありません。市民社会を機能させるということもまた、個々の人々に、不断の自己闘争を強いるものなのです。 (間宮)

編集長コラム 10年10月号

★「義を為すは毀を避け誉に就くに非ず」(墨子)。最近、なぜか「正義」が大ブームです。某国の超エリート大学で行われている正義を考える講義の風景をテレビ放送したところ、それを見た我が国民までが白熱したとのこと。この不安定な世に倫理を求める気持ちは分からないでもないです。しかし欧米人が正義を口にするとなにやら胡散臭く感じるのは私だけでしょうか。正義の戦争、正義の法廷……。どれも現実にろくでもない結果に終わった出来事を思い出させます。

★なぜピンと来ないか考えてみました。そもそも近代以前、古典の中で我々が親しんできた「義」とは、外から「正」しいか否かという評価を受ける性質のものではありません。孟子は義を「羞悪の心」と言いましたが、あくまでも内発的な行動原理であり、極めて個人的な徳目です。世間一般の基準による正しさとは相容れない、むしろひねくれ者の矜持です。それを将来のパワーエリートたちがこぞって社会や最大多数の正しさの中にはめ込もうとする姿は何やら背筋が寒くなります。★「幸福なるかな、義のために責められたる者。天國はその人のものなり。我がために、人汝らを罵り、また責め、詐りて各様の悪しきことを言うときは、汝ら幸福なり。喜び喜べ、天にて汝らの報いは大なり。汝らより前にありし預言者たちも、斯く責めたりき」。人が義人として生きることは、現代では流行らないのかもしれません。(間宮)

編集長コラム 10年9月号

★哨戒艦撃沈に対し日本海で米韓軍事演習。毎度の事ながら北朝鮮の乱暴行為のお陰で東アジアはまた緊張です。聞くところによると、権力の世襲を強行するための環境作りという意図が、一連の瀬戸際戦術の裏にはあるとか。迷惑な話ではありますが、日本だって世襲政治の国、傍から見れば似たようなものです。

★そういえば半島で緊張が高まるとテレビニュースで北の将軍様のお姿と軍事パレードやマスゲームが映し出されますが、それを見るたびに、今年、目出度く後期高齢者になった母は「かわいそうに」とつぶやきます。「私が子どもの頃の日本とそっくり」。ちなみに母は、幼稚園の時に叩き込まれた「紀元二六〇〇年」のマスゲームをいまだに踊ることができます。★冷戦期に外交のリアリズムを説いた永井陽之助や若泉敬は、それこそ生涯をかけて日本が「愚者の楽園」に堕ちぬよう警鐘を鳴らしました。しかし歴史を読み返すたびに、昭和の戦争につっこむ前から日本は上も下も、すでに愚かであった事に気付きます。★その後、一体何が変わったというのでしょう。あの頃と同様、選挙で選んだ自分たちの政府を維持していくことすらできなくなっています。そもそも日本人は戦後、富以外に自らの力で獲得したものがあるのでしょうか。この二〇年、どうしていいか分からず、なし崩しに没落を続けています。結局、衆愚は誰かが振り付けてくれるのを待つしかないのもしれません。(間宮)

編集長コラム 10年8月号

★文久三年(一八六三年)八月十八日の政変、蛤御門の変、四ヵ国艦隊下関攻撃に敗れ、幕府の第一次長州征討に屈した長州藩は、高杉晋作のクーデターの後、一気に軍制を改革。攘夷派のくせに西洋式を導入し、ミニエー式ライフル銃を揃え、挙藩体制を整え、慶應二年(一八六六年)の第二次長州征討で旧式の幕府軍を打ち破ります。ご存じ幕末回天史の名場面。徳川慶喜は、あわててフランスの援助を受けて軍制近代化に着手しますが、幕府歩兵の主力は江戸市中で集められた人足。結局、旗本・御家人など幕府の主体は変革することができず瓦解を迎えます。

★敗北しても、そこから学び自己を変えることのできるものは次の勝者になり得ます。そういえばサッカー・ワールドカップの日本代表、開幕直前まで不振が続き、岡田監督も協会も日本中からボコボコに叩かれていましたが、ギリギリの段階でこれまでのスタイルを捨て選手を入れ替え戦術を変え、本大会では奇跡の快進撃。ファンは手のひらを返し自分が勝ったかのように浮かれ回りました。★日本人にもV字回復をやってのける力が残っていることを示してくれました。一方、日本全体を見わたすと政治も経済も、あちこちで負けっぱなし。それでも一向に自分から変わろうとせず、その場にへたり込んでいます。okachan sorryなどとつぶやいている暇があったら我が身を振り返って何を変えられるか考えるべきと反省しきりです。(間宮)

編集長コラム 10年7月号

★仕事上の研究のため、というのは嘘で、単に流行ものに弱いため、早速、iPadを手に入れて試してみました。うーん、インターネットやスマートフォンを最初に使った時ほどのインパンクは感じませんねぇ。これで革命が起こると、わが出版業界は上を下への大騒ぎですが、ほんまかいなというのが実感です。まあ、新しい商売でも考えてみるかといったところです。

★もちろん、安閑としているわけではありません。雑誌にとってみれば、すでにインターネット検索エンジンの登場こそが大革命でした。それこそ身の振り方を考えなければならない状況に。ネットと携帯により、すでにメディア・シフトは起きてしまっています。★グーテンベルク以来というのはいくら何でも大袈裟ですが、明治維新程度のインパクトはありそうです。新時代の到来と西洋活版印刷の導入で、全く新しい言論の可能性が生まれました。かく言う弊誌も明治中葉、西本願寺が、新時代に合わせ僧侶の飲酒を反省しようと始めた雑誌。三転四転して今の姿に。★あらゆる可能性が試されて、何がどう生き残るか分からない時代。これを瓦解とみるかフロンティアとみるかは各人の自由です。ちなみに中央公論編集部も遅ればせながら他社をまねてtwitterのアカウントを開設しました。@chukoediです。わたしが一方的にぼやき続けています。開設以来約一ヵ月。漂いながらもなんとかまだ消えずに残っています。(間宮)

編集長コラム 10年6月号

★だいぶ前になりますが、沖縄で地元の方に、一九七〇年のコザ暴動の話を聞いたことがあります。当時、米兵の犯罪が頻発。しかし、米軍による軍法裁判で軽微な罪にしか問われず、住民の不満がたまっていました。そこへ基地の町コザで米兵による交通事故。「MPが犯人を隠そうとしたのが引き金。一気に火がついた。返還も間近だし、もうやってやれということで米軍ナンバーの車だけねらい打ちでつぶして回った」。

★「沖縄問題」としてくくると、その原因は解きようのないくらい複雑に絡み合った根を持っています。が、沖縄県民の感情という側面からは、一点に集約できると思います。要するに頭越し。本来なら自分たちの主権や権利に関わることを無視されることへの反発です。人間誰でも主権を踏みにじられれば感情の制御ができなくなります。沖縄は長い間この「無視」を強いられました。暴動の話をしてくれた人も、二〇〇四年の沖縄国際大ヘリコプター墜落事件について、落ちたことより、民間地なのに米軍が地元関係者を現場に近寄らせなかったことに激怒していました。★普天間問題への反発も知事らのコメントを見ると、とどのつまり鳩山政権による「頭越し」が原因。「沖縄県民の気持ちを重視」といいながら、やっていることは地元無視。沖縄に久方ぶりに熱い季節がやってきました。もう、簡単に収拾はつかないでしょう。歴史を画するような愚行となりそうです。(間宮)

編集長コラム 10年5月号

★「君たちは働く者の額にこのイバラの冠をかぶせることはできない。君たちは人類を金の十字架にかけることはできない」。一八九六年、アメリカ大統領選の民主党大会で、候補となったウィリアム・ジェニングズ・ブライアンが行った有名な「金の十字架」演説です。

うち続くデフレの原因を金本位制と断罪し、銀本位併用制への移行を訴えたもの。十九世紀の最後の四半世紀、金本位制採用国は、通貨供給を依存した金の産出が止まったため深刻なデフレの中。結局、新たな金山が発見されるまで続きました。★まるで現在のどこかの国とそっくり。今、我々の十字架となっているのは日銀かグローバリズムか諸説ありますが、根本は四半世紀も続く円高。昨今の中国の振る舞いを見ていると、言いなりにホイホイ為替調整に応じてきたことがアホに見えてなりません。しかし、アメリカ依存の国であるという国是がある以上、かの国の国内経済事情にリンクして自らの身の伸び縮みを甘受するしかないのです。★とどのつまり、何であれ「依存」は身を縛る十字架になるという教訓。これは国のみならず個人も同じ。畏き辺りにおかせられましても事情は下々と同じとのこと。ただ自分の個人史を振り返ってみると、自立とは不安定で寒々としたものでした。しかし、この過程をくぐらないと人生を自分のものにできません。果たして、国にとってこの過程はどういう風景をみせるのでしょうか。(間宮)

編集長コラム 10年4月号

★先日、会社から帰宅の途中、外堀通りから東京駅の方角を眺めたとき、そのスカイラインのあまりの変貌に改めて呆然となりました。大阪生まれの私が初めて東京に降り立ったのが三十数年前の東京駅。

その時、丸の内口の風景にあったのは、丸ビル、銀行協会、日本工業倶楽部、国鉄本社など、戦災を生き残った低く古めかしい、しかし風格をもった建物群。東京駅舎や皇居の森と併せ、首都の品格を感じさせました。★その後、バブル期でも微動だにしなかったこの風景が、この一〇年であっという間にキラキラ輝く高層ビル群に。一方、私が勤める八重洲側は昔ながらの雑居ビルの群れのまま。日本中に拡がった格差を象徴しているようで情けないですが、思わず自分が差をつけられた側にいて飛躍していった連中が踏みつぶした古き良きものを懐かしんでいる構図に気が付きました。人生の終わりが近づきヤキが回ったのでしょう。★過去の風格ある街並みも、それ以前の風景を踏みつぶして成立したものです。近代日本はそうやってのし上がりました。天に伸び続けるスカイラインはまさにヴァンダルの王冠。
国境無き資本主義の時代では、過去や既存に一切拘泥しない精神のみが未来を切り開き、振り向き立ち止まるものは敗者となります。ちなみに私が物思いにふけった場所は約一五〇年前、坂本龍馬が剣術修行を行った桶町千葉道場があったあたり。もちろん、今は影も形もありません。(間宮)

編集長コラム 10年3月号

★初代司法卿となった江藤新平は、急進的な近代化論者でしかも西欧型司法制度の原理主義的な推進者でした。ために自らも発足したばかりの明治政権の中にありながら、薩長出身の権力者の汚職・不正事件を執拗に摘発し続けます。が、まもなく征韓論政争に破れ下野に追い込まれ佐賀の乱で処刑されます。急転直下の破滅の理由は、融通の利かない性格や激しい政治的姿勢が大久保利通ら権力中枢の敵意を招いたためと、個人的な要因に帰着させる議論が専らです。

★でもどうでしょう。権力と司法当局の対立という構図は、今、私たちの目の前にある風景と全く同じ。そう考えると問題は江藤司法卿の性格ではなく、この国の政治風土に。権力は腐敗するのではなく私的流用されています。今回の政治資金スキャンダルだけでなく政権交代後のごたごたを見ると、権力をお持ちの方々は公も私も違法も適法も超越した世界観をお持ちであることがよくわかります。★これが日本社会に蔓延した文化であることは、誰もが実感するところ。自分たちの社会や組織が合目的ではなく、まま、私的な理由で運営されていることを知っています。そのことは頻繁に強い苛立ちを生みますが体質は変わらず、やがてあきらめと停滞が広がります。今回のスキャンダルは、かつての疑獄事件ほど世間の興奮を呼んでいないのでは。そこに日本国民の深いあきらめを感じます。これが没落国の気分なのでしょうか。(間宮)

編集長コラム 10年2月号

★ミュージカル『エビータ』で有名なエバ・ペロンの夫、フアン・ペロンは一九四六年、アルゼンチンの国力の歴史的な頂点で大統領に上り詰めました。第二次世界大戦で局外中立を保ち、両陣営に食料、特に牛肉を売りまくったアルゼンチンはこの当時、世界の最富裕国の一つでした。

しかし政治は典型的な南米レベル。軍を背景にのし上がったペロンはポプリスモ(ポピュリズム)政策で、貧困労働者階層の歓心を得ますが、バラマキの結果、外貨を使い果たし放漫財政だけが残ります。その後はお定まりのコース、経済危機→政情不安→クーデター→ポプリスモ→経済危機の繰り返し。八〇年代にハイパーインフレ、二〇〇一年に対外債務不履行を引き起こし文字通りの国家破綻の憂き目にあいます。★このあと国際金融界でアルゼンチンの次と衆目の一致する国がありました。そう我が日本です。二〇年前、世界的な経済大国の地位にあった日本も今は見る影もなし。この間、政治崩壊は止まらず、継続的な経済政策は全くなし。むしろバラマキが常道に。★いかなる富をも前近代的な政治システムは食いつぶす、がアルゼンチンの教訓。日本ではようやく自民党を政権から引きずりおろしましたが、その後に来たのは、全く統一性のない政策と恫喝幹事長。さらに首相の脱税を検察。法の支配すら貫徹していません。この姿は、欧米の近代社会と中南米の「族長」のどちらに近いでしょうか。(間宮)

編集長コラム 10年1月号

★「明治元年の五月、上野に大戦争が始まって、その前後は江戸市中の芝居も寄席も見世物も料理茶屋も皆休んでしまって、八百八町は真の闇、何が何やらわからないほどの混乱なれども、私はその戦争の日も塾の課業を罷めない。……日本国中いやしくも書を読んでいるところはただ慶應義塾ばかりという有様で、……。『この塾のあらん限り大日本は世界の文明国である、世間に頓着するな』と申して、大勢の少年を励ましたことがあります」(『福翁自伝』)。

福沢諭吉らしい痩せ我慢ですが、近代日本の時代精神は、このような気分だったと思います。★似たようなエピソードはその後も日本中にあふれていました。一昔前、小林虎三郎の「米百俵」がブームになったことがありましたが、困窮し、その日に食うものまで事欠く状況でも目の前の米を教育という将来に使う、この話への共感は年を経ても人々の中に生きています。★「います」と現在形で書きましたが、最近の日本を見ると過去形に直した方がいいかもしれません。あまりにも長期に続く経済低迷と財政の破綻。科学技術立国のかけ声とは逆に、科学技術予算があっけなくとカットされそうです。前に進むことだけで生きてきた国にとって、先端技術開発の意味は説明するまでもありません。代わりにカネを渡すだけの手当に予算が回るそうです。痩せ我慢せず米百俵をためらいもなく食べてしまう国にどんな未来があるのでしょうか。(間宮)

編集長コラム 09年12月号

陸奥宗光は、東学党の乱から日清戦争、三国干渉に至る外交の内幕を回想録に残しています。「……滔々たる世上の徒と共にその是非得失を弁論争議するは素より余が志に非ず。しかれども政府がかかる非常の時に際会して非常の事を断行するに方り、深く内外の形勢に斟酌し遠く将来の利害を較量し、審議精慮いやしくも施為を試み得らるべき計策は一としてこれを試みざるなく、遂に危機一髪の間に処し、時艱を匡救し国安民利を保持するの道ここに存すと自信し、以てこれを断行するに至りたる事由は、余またこれを湮晦に付するを得ざるなり」(『蹇蹇録』)。

ここにあるのは世論や世評とはかけ離れて国益のみを追求する透徹したリアリズムです。★さて昨今の日本、鳩山政権になっていきなり日米関係が緊迫です。何であれ確固たる政策目標があるものと信じたいですが、閣僚発言の迷走を見ていると、国内政治も日米同盟も、と何が最優先かまだ何も決まっていないとしか思えません。陸奥は「他策なかりしを信ぜんと欲す」と三国干渉を受諾します。これに比べると多策はおよそ政治には見えません。★そもそも責任ある立場の人間は「……も……も」という態度をとるべきではありません。プライオリティーを決める能力がないと分かれば、ビジネスの世界なら取引の相手とされず、極道の世界なら手を突っ込まれてガタガタにいわされてしまいます。さてアメリカはそのどちらでしょうか。(間宮)

編集長コラム 09年11月号

★一九二九年、浜口雄幸内閣の大蔵大臣に就任した井上準之助は、懸案であった金本位制への復帰を断行します。これは旧平価解禁と呼ばれる円高政策で、竹森俊平氏によると、大正バブルの清算という通説とは異なり、国際決済銀行理事国入りの条件となっていたことが最大の理由。国際金融秩序の主役入りを狙ったものでした。しかし、バブル後の長期低迷に折からの世界恐慌もあって結果は裏目、日本は大不況に転落、浜口は三〇年に狙撃され、井上も三二年に暗殺されます。

★さて今の日本、新政権の閣僚は円高肯定発言を繰り返しています。国際経済界では好評ですがリーマンショックからまだ一年。八〇年前と本当に違うといえるのでしょうか。★三一年に犬養毅内閣の大蔵大臣として事態の収拾にあたった高橋是清は、金輸出再禁止つまり円安政策、さらに国債日銀引き受けと積極財政によって世界で最も早く不況から抜け出します。しかし積極財政といっても使う対象がなければ始まりません。このときは満州事変でした。高橋は「いやだいやだ」と思いながら、ほかに手段がないので軍需拡大に突き進みます。のちに経済が立ち直り、インフレの兆候も現れてくると、引き締めに入り軍事予算削減を図りますが、その結果、三六年の二・二六事件で高橋は暗殺されます。右に行っても左に行っても隘路。政策に携わる人の発言は、このことを自覚したうえでのものであることを期待します。(間宮)

編集長コラム 09年10月号

★バブル崩壊後の経済危機の中、決定的な政策を延々と行えないでいた自民党政権を、経済学者のポール・クルーグマンは「自由民主党は、自由主義でもなければ民主的でもない。まして政党ですらない」と皮肉りました。ヴォルテールの「神聖ローマ帝国は、神聖でもなければローマ的でもない。まして帝国ですらない」のひねりですが、統一的な主義主張があるわけでもなく、政策も全体を見た上での合理性や必要性ではなくて個々の利害の集積からしか決めれない組織を政党と呼ぶべきか確かに疑問でした。

★日本政治の再編成は、ちょうどバブル崩壊の影響が顕在化した九二年ごろから始まり、翌九三年には細川政権の成立で、一旦、五五年体制の終焉にまで漕ぎ着けます。ところが、それから自民党は夏の甲子園ばりの驚異的な粘りを見せて今回の選挙まで政権与党として生き残ってしまいます。そのお陰で日本は、経済が限りなく破滅に近い状態に陥り、グローバル化にもポスト冷戦にも乗り遅れ、明らかな没落の中に。★事ここに至って、ようやく日本人は自民党を見限りました。しかし、これで問題が片づいたわけではありません。代わりに選んだ組織が政党である保証が、まだどこにもないからです。もし自民党のカーボンコピーであったら、日本の没落は、もう歴史的なレベルでリカバーが難しくなります。自分が選んだものが何か、有権者は注意深く観察を続ける必要があります。(間宮)

編集長コラム 09年9月号

★「孟子謂高子曰、山徑之蹊間、介然用之而成路、爲不用、則茅塞之矣」。バラク・オバマが米中戦略経済対話のスピーチで引用した孟子の一節。アメリカ大統領に自国の古典を使ってご機嫌取りをされて協調を求められることなど、少なくとも日本に対してはありません。中国の勃興と言うべきか、アメリカの凋落と言うべきか、この数ヵ月の両国の力関係の激変には目を見張るものがあります。

★しかし、そこはアメリカ。ちゃんとワサビも利かせています。原典ではこれに「今茅塞子之心矣」と続きます。言外に、現在の中国の国際協調姿勢を批判しているともとれます。何より、わざわざ「孟子」を選んでいること。「民爲貴、社稷次之、君爲輕」の思想家です。「共産党をもって天と為す」中国に含むところがありそうです。★かく言う日本は、孟子とは、もっとそりが合いません。聖徳太子のように「和を以て貴と為す」と誤魔化したり、吉田松陰のように「此義を辨ぜずして此章を讀まば、毛唐人の口眞似して……國體を忘却するに至る。惧るべきの甚だしき也」と天皇中心主義の立場で反発したり、ともかくこの革命思想を受容することができませんでした。しかし、この天性の保守国家にも何十年かぶりに権力の遷座が。「諸侯危社稷、則變置、犠牲既成、粢盛既、祭祀以時、然而旱乾水溢、則變置社稷」。どんなに背を向けていても今度は孟子的現象を目の当たりにできそうです。(間宮)

編集長コラム 09年8月号

★私が生まれ育った淀川の上流域、大阪・京都府境近辺は、徳川幕府瓦解の舞台でした。野口武彦さんの著作に詳しいですが、鳥羽・伏見の軍事衝突で後退した途端、まだ戦線を維持していたにかかわらず譜代の淀藩が城門を閉ざし準譜代の津藩が対岸の山崎から橋本の旧幕軍陣地を砲撃するなど寝返りが相次ぎ、結局、将軍までが逃走。淀川堤、西国街道は敗兵であふれたといいます。これがわが故郷の「夜明け前」です。

★長期安定政権の結果、硬直化した体制では、ペリー来航以降の事態に全く対応できず、信望を失い「反幕」を時代の潮流にしてしまいました。そういえば現代の長期安定政権党も同じような目に。政権にとってマイナスとなるのが分かっていながら次々と自分の党を叩く人々が続出です。★「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する」(J・アクトン)に倣うと「長期安定権力は長期安定的に腐敗する」ことになります。自民党政権は決して腐敗政権ではありませんが、しかし、あまりに長期になれ合いが続いたため日本の権力機構は明らかに堕落。小泉政権以降、自民党ですら自民党政治を批判し続けないと支持を得られません。ただ、選挙で極端な結果が出たとして、それで決着でしょうか。倒幕後の新政府は、中央集権、近代化という体制転換ビジョンを持っていましたが今の日本にそんなものはありません。長期安定腐敗に決着がつくまで日本の夜明けは遠そうです。(間宮)

編集長コラム 09年7月号

★ちょうど一五〇年前の一八五九年七月一日、旧暦の安政六年六月二日、日本は二世紀以上続いた鎖国を終え、横浜港を開港しました。現在にまで続く近代化の第一歩、と地元ではにぎやかにイベントを行っていますが、一五〇年前の日本はこんな祝祭ムードとは正反対でした。

世は攘夷の叫びで沸騰中。横浜周辺でも生麦事件、井土ヶ谷事件と外国人殺害の現場が残っていますが、これ以外にも、米国領事館通訳殺害事件、英国公使館襲撃事件、果ては、薩英戦争、長州藩の下関外国船砲撃に四ヵ国による報復とテロと戦争の連続。中でも長州藩は体制不安を起こすために確信犯的に暴走。いまの世ならば間違いなく「テロ国家」指定です。★東アジアでは一五〇年後の今もテロ国家が健在。ミサイル発射、核実験、挑発発言と近年になく北朝鮮のテンションが高いのは、体制不安を対外強硬路線で乗り切るためのよう。幕末の日本は一つ間違えば国を失うかもしれない帝国主義世界の中で、攘夷熱を体制転換に結びつけることで未来をひらきました。今は国際協調の中、少々乱暴をはたらいても大目に見てもらえるのは確か。しかし維れ新たにする目的のない強硬路線に未来はあるのでしょうか。彼の国の猛が神州の元気なのか、亡国の沙汰なのか、じきに分かることでしょう。★ちなみに今号から表紙を変えました。攘夷とは何の関係もありません。どう変わっていくか、お楽しみにしてください。(間宮)

編集長コラム 09年6月号

★「いわば霊魂のアウシュビッツともいうべき遺跡で、いまだ死んではいない人々の大量虐殺の墳墓と名づけてよいのかもしれない」(訳・伊藤哲)。四月十九日、七十八歳で逝去した英国の作家、J・G・バラードが一九六四年に発表した『終着の浜辺』の一節。水爆実験場となったエニウェトック島を、妻と六歳の息子を交通事故で失った主人公が、いずれ第三次世界大戦が起こるという確信の下、幻影を見、死者と語らい、そして破滅を受容しながら徘徊するという小説。

この時期、人類にとって終末とは手の届くところにあるリアルでした。★と過去形を使いましたが核の脅威は現在でも変わりません。にも拘わらず今の日本のこの能天気。核保有国の実験ミサイルが頭上を越えたというのに「けしからん」というだけで、国としてこの先、どうしたいのか何も見えません。★この点、さすがなのがアメリカ。北のミサイル発射の五時間後、オバマ大統領はプラハでの演説で、究極的に核廃絶を目指すと発言。思いつきではないようです。昨年一月、あるベテラン記者を囲む会合で話題になったのですが、米外交の大物たちが米紙に、もはや核拡散の防止にはstatus quoではなく全廃の追求しかないという提言を共同掲載。ここに来て一気に浮上しました。その間、日本では「けしからん」だけ。対等な同盟とかけ声は立派ですが、唯一の核使用国と唯一の核被害国のもつリアリティと構想力の差はいかんともし難いようです。(間宮)

編集長コラム 09年5月号

★一五、六年前のこと。今回、不正献金事件で逮捕された西松建設の元社長、国沢幹雄氏にかなり頻繁に取材したことがあります。当時、彼は財務担当常務。ゼネコン汚職騒動の中、内部関係者としてはかなりフランクに業界の実態を教えてくれました。もちろん違法行為については口をつぐんでいましたが、準大手、中堅のゼネコンが公共工事で生きていくための政・官・業の村のしがらみについて「しょうがないんだよねぇー」と恬淡と語っていたことが印象に残っています。

★考えてみれば、あのころ強烈に叩かれていた金丸金脈が直近まで生き残っていたことに。与野党の非難の応酬が続いていますが、国民の目は政治全体に対し冷たくなっているよう。これだけのスキャンダルが起きても与野党どちらかに国民の支持が極端にシフトしようとしません。★権力のインナーサークルが利益機会を独占するこの体制をクローニーキャピタリズムと呼びます。開発独裁、官僚権威主義などとともに開発途上国のシステム。経済的には日本は七〇年代初めまで開発途上国でしたが、政治はまだその体制が続いていることに。この期に及んでも永田町では政権交代とか政界再編とかを主張していますが国民はまともに受け取ってはいません。この十数年「政治改革」が謳われてきましたが、その結果がいまの各党への支持率。このことが意味するものは何か。国民の政治不信は、途上国型体制の変換まで解消しないのではと、思えてなりません。(間宮)

編集長コラム 09年4月号

★「交通至便の世の中に文明の事物を聞見せざるに非ざれども、耳目の聞見は以て心を動かすに足らずして、その古風旧慣に恋々するの情は百千年の古に異ならず、……一より十に至るまで外見の虚飾のみを事として、その実際に於ては真理原則の知見なきのみか、道徳さえ地を払うて残刻不廉恥を極め、なお傲然として自省の念なき者の如し」。福沢諭吉の筆になると言われる「脱亜論」の清国・朝鮮批判。読み直すと今の日本を表しているように思えてなりません。

★地に堕ちたとしかいいようのない政治の醜態。長い間、とめどがありません。日本の指導層は決定的に堕落しています。なぜこんな事に。世の批評は過去は立派で今それが忘れられた、という内容ばかり。でも本当はその立派な過去に「恋々」としていることが問題。立派だった政治家、立派だった政党や官庁。だれも過去の成功者の後継・係累というだけでは立派ではありえません。が、日本中が過去を固定化しようとしています。★真のエリートとは闘技場の中からしか生まれません。しかもその闘いは日々惟れ新たなものです。この点、悲しいかな中国と日本の関係は完全に「脱亜論」の時代と逆転しました。「先ず政治を改めて共に人心を一新するが如き活動あらば格別なれども、もしも然らざるに於ては、今より数年を出でずして亡国と為り、その国土は世界文明諸国の分割に帰すべきこと一点の疑あることなし」。日本はこれから清末を迎えるのです。(間宮)

編集長コラム 09年3月号

★まだ、日本中が敗戦の衝撃の中にあった一九四五年八月末、石橋湛山は自身が社長を務める『東洋経済新報』に「更生日本の針路―前途は実に洋々たり」という論説を発表します。そのときの日本の状態は史上最悪の破滅と荒廃の中、「洋々」など、ほど遠いものでしたが、別に湛山はカラ元気や逆バリでこう主張したわけではありません。二〇年代から彼は、大陸植民地放棄、国際協調と自由貿易の享受、加工貿易立国を訴えており、敗戦は、旧弊を一掃し、もはや他に選択肢のないかたちで政策転換を行う契機となると考えたからです。

★さて今の日本、第二の敗戦とまで言われたバブル崩壊、九〇年代の低迷に続き、今度は世界経済そのものが破滅。これまでに作り出した希望喪失層の問題に目処が立たないうちに、もはや日本自体が希望を失いつつあります。しかし一向に、政策も体制も他国のような転換を見せようとしません。日本の立地条件が変わったわけではないのだから、できることをひたすらやる以外に方策はないはずなのに、未だ弥縫策に終始しています。★湛山はその後、政界に転じ、曲折の後、内閣総理大臣の座をつかみますが病のためわずか二ヵ月で辞任。皮肉なことにその直後から高度経済成長が始まります。政治家としての評価は今ひとつでしたが、でもいまだに多くの信者が存在します。過去をきっぱりあきらめてゼロからやり直せるか否か。政治の価値とは政権の長さにあるわけではないようです。(間宮)

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