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ガンダム40周年に新たな挑戦 アニメ界の「落伍者」安彦良和が今も戦い続ける理由

安彦良和(マンガ家) 聞き手・杉田俊介(批評家)

杉田 今回、合計二〇時間ほど取材させて頂き、それをもとに『安彦良和の戦争と平和』を刊行しました。

安彦 杉田さんとの出会いは『週刊読書人』での対談(二〇一七年四月十四日号)でしたね。宮崎駿や押井守について書いている人だと聞いて、正直、会いたくねえな、と(笑)。彼らはアニメの世界のキラ星のごとき成功者だけど、僕はそっちの世界では落伍者だから。しかしその対談の時に、杉田さんから「安彦は心優しいアジア主義者である」というレッテルを頂いて、この人はいい人だなと思った。(笑)

杉田 とはいえマンガ家、アニメーター、アニメ監督のいずれもという総合的な作家性を持ってきたのは、国内では宮崎さんを除くと、安彦さんしかいないのではないでしょうか。

安彦 宮崎さんは初期の東映動画の時代から、堂々としたエリートです。僕は食いっぱぐれて、手塚治虫さんの虫プロに拾ってもらった。しかもロボットアニメという、当時は同業者からもバカにされていた仕事で食いつないで、最後にはそこからも足を洗わざるをえなかった。そこが僕の原点だから、どうしても卑屈にならざるをえない。下の世代の押井さん、庵野秀明さんたちにはそうしたうらぶれた気持ちはないでしょう。

杉田 安彦さんは『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザインおよび作画監督として世界に名を知られていますが、一九九〇年前後から基本的にはマンガ創作に専念し、SF、日本古代史、日本近代史、西洋政治・宗教史など、多彩な作品を描き続けてきました。『機動戦士ガンダム』をマンガ『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』として一〇年がかりでリライトもされました。
 今回の本は、安彦さんの大きな全体像を読者が知るための入門書にしたかった。満洲建国大学を舞台にした『虹色のトロツキー』は好きだけど古代史シリーズは知らないとか、
『THE ORIGIN』だけは詳しいとか、食わず嫌いの人も案外多いのではないか。しかし全体像を知ると、個々の作品が有機的につながって、安彦作品の世界がぐっと面白くなります。

安彦 下世話な話ですが、僕のマンガは基本的に売れません。売れたのは『THE ORIGIN』と、一番最初の『アリオン』くらいですね。『THE ORIGIN』がずいぶん売れた波及効果で他のマンガも売れるかと思いきや、さっぱり売れない。ガンダムファンはなんで俺のマンガを読まないんだ(笑)。最近電子書籍になった『我が名はネロ』も、杉田さんに褒められたから自分でも読み返してみたら傑作だった。(笑)

杉田 我々の想像力は結構サブカルに影響を受けています。たとえば現代の保守派は、神武天皇の時代に遡って日本史を神話的に再起動しようとしている。安彦さんの『ナムジ』『神武』なども、歴史と神話の虚実皮膜にあえて踏み込んでいます。
 しかし安彦さんが描くのは、単純に右とも左とも、保守とも革新とも言えないような、非常に豊かで複雑な歴史イメージです。移民や漂流民たちが四方八方から流れ込んで混ざりあっていく日本列島のイメージ。あるいは様々な民族や政治的立場の人々が呉越同舟して「小さなアジア主義」を作り出してしまう。そこには、たんなる消費的なエンタメとして読み流せないような、政治や歴史の味わいをふくんだ、じつに深みのある面白さがあります。

安彦 僕は中学生の時、一度だけマンガの投稿をしたら、編集者が親切にも手紙をくれた。勉強しなさい、そうしたら面白いものが描ける、手塚治虫先生もたくさん勉強したんだ、と。当時の僕は生意気だったから、返事を書いたんです。じゃあ「面白いって何ですか」って。
つまり、少年時代からそういう疑問が自分の中にあった。面白いとはinterestingなのか、marvelousなのか。少年時代のその問いへの答えはいまだに出ていません。

(本稿は二月二十八日に芳林堂書店高田馬場店で開催のイベントを再構成したものです)
この記事の続きは、『中央公論』2019年5月号をご覧ください。

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