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〔12月25日UP!〕
天気予報と占いで大名を導いた黒子たち

早雲、信玄、謙信。戦国三人の勇将に仕えた軍配者たちの青春と戦いを描いた富樫氏。「軍師」と「軍配者」の関係、創作の秘密から新作『北条早雲』への思い入れまで。
富樫倫太郎=作家
〜「中央公論」2014年1月号掲載

 たとえば、信長が桶狭間の戦いで今川義元を破ったのは、雨に紛れて接近して討ち取ったというのが定説です。これにはもしかしたら、軍配者が「今日は雨が降るので、それを待ちましょう」とアドバイスしていたのかもしれない。信長はこの戦で奇襲まで腰を上げずにじっとしていたそうなんですが、軍配者の話を聞いて雨が降るのを待っていたとも考えられる。新田次郎先生の「梅雨将軍信長」という短篇があるのですが、信長はいつも雨を利用して節目の戦に勝ってきた。それはきっと天気がわかっていたからだろうという話です。実際、信長には伊束法師という軍配者がいたと文献に書いてあります。別にこれは特別な話ではなくて、当時軍配者を抱えていない戦国大名などいなかったんです。最先端科学の知識と技術を戦に用いないというのはありえません。にもかかわらず、あまり彼らの記録が残っていないのが不思議なんです。

 実は足利学校の卒業名簿が残っているのですが、彼ら卒業生の名前が歴史の舞台に出てくることはあまりありません。今で言うと東大の卒業生みたいなものですから、各地の大名に引く手数多のはずで、これは不自然です。僕は、彼らが意識的に自分の存在を隠していたのではないかと思っています。軍配者が力を持ちすぎると、味方から妬まれる。だから、大きな功績を挙げたとしても、できるだけ目立たないようにしていたのではないか。目立つと自分の命が危ないから、あくまで黒子に徹していたということです。

 一口に軍配者といっても、その役割は多岐にわたりますから、軍配者の中には戦に詳しくない者もいます。有力大名になると、専門ごとにたくさんの軍配者を抱えている。観天望気が得意な者、戦が得意な者、陰陽道に詳しい者。あの武田信玄には、五人くらいの軍配者が仕えていたそうですから。

 その中から戦に特化した軍師が活躍するようになるわけですが、その理由は戦の規模が変わったからです。早雲の頃は戦といっても一〇〇人単位。それが信長や秀吉の時代になると一万人単位ですから、とても他の仕事と掛け持ちでやれるようなことではなくなってくるんです。こうして竹中半兵衛や黒田官兵衛といった、有名軍師たちが活躍するようになります。

人間「黒田官兵衛」の面白さ

 来年から大河ドラマが始まりますが、黒田官兵衛は面白い人物ですよ。どうしても後世の目から見ると、最初から完成された人間のようなイメージがありますが、実物はもっと人間臭い人です。秀吉
のことが大好きで、最初は秀吉の真似ばかりして失敗しているような一面もある。

 彼は頭に瘡蓋があって、髪も三十代で禿げてしまった。これは一人で謀反をやめるよう荒木村重を説得しにいったら、逆に一年間も土牢に閉じ込められてしまったことが原因なんですが。敵陣に一人で乗り込んでいくというのも、秀吉が前田利家に対して行ったことの真似です。彼が閉じ込められていた土牢の大きさは、横一五〇センチ、高さ六〇センチ、奥行き一〇〇センチという、寝返りも打てないような狭さです。そんな場所に一年もいたせいで皮膚病になり、左脚も不自由になってしまった。しかし、このような目にあっても、めげないのが官兵衛の凄いところです。

 秀吉は天下人になった後、自分の死後に誰が天下をとるか家臣たちに尋ねます。家康などの名前が出る中で、秀吉自身は官兵衛の名を挙げます。官兵衛はこの話を聞くと、すぐに九州に引っ込むんです。もし官兵衛がいなければ、秀吉は天下をとることはできなかっただろうというくらい尽くしてきたのに、彼に与えられたのは中津のわずか一二万石の領地。あまりに釣り合いません。しかし、官兵衛は秀吉が自分を警戒しており、下手をすると命を落としかねないことがわかっているから、おとなしくしている。

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