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早雲、信玄、謙信。戦国三人の勇将に仕えた軍配者たちの青春と戦いを描いた富樫氏。「軍師」と「軍配者」の関係、創作の秘密から新作『北条早雲』への思い入れまで。
富樫倫太郎=作家
〜「中央公論」2014年1月号掲載

軍配者シリーズ執筆のきっかけ

 以前からあまり人が取り上げたことのない軍配者とその養成機関だった足利学校を小説に出したいと思っていました。それから僕は戦国武将の中で北条早雲が好きなので、このふたつの要素を組み合わせることはできないかなと考えていたんです。最初は北条早雲を足利学校に行かせちゃおうなんてアイデアもあったのですが、さすがにこれは史実と合わないし、時系列的にも難しいので諦めました。

 軍配者と足利学校を書こうと思った時に、誰を物語の主軸に据えるか。これが悩みどころでした。舞台となる一五二〇年前後くらいというのは、一応区分としては戦国時代に入るのですが、まだ信長も秀吉も出てこないし、パッと聞いた時にイメージするような戦国時代より少し前なんですね。室町時代から僕らのよく知る戦国時代へのちょうど移行期のような時期。だからあまり有名人がいなくて困ってしまった。

 もう少し後になると、早雲の子や孫たちの時代に活躍した風魔小太郎が忍者として有名なんです。そこで彼に目をつけて、手裏剣を投げたり、宙を跳ぶような忍者じゃなくて、地に足の着いた存在、ある種の特殊な技術者として成長していく姿を描いてみたら面白いのではないかと思って、軍配者としての風魔小太郎を主人公に書いてみることにしました。

少年を主人公にする理由

 時代小説というと、どうしても主人公も読者もおじさんというイメージがありますが、主人公が少年であれば、もっと広い層の人に読んでもらえるのではないかと思いました。眠狂四郎のような、最初から完成された剣豪が活躍するものは、日本が高度成長でイケイケだった頃の時代小説です。その頃と違って、今はみんな自信を持てない時代ですから。不安定な時代だからこそ、超人が活躍するのではなく、惑い悩みながら成長していく主人公に読者も共感するのではないかと思ったんです。

 ちょうど『早雲の軍配者』が出た頃は、日本がどうしようもなく閉塞していた時期でした。それは僕自身にも当てはまっていた。社会も暗いし、自分も落ち込んでいる。だからこそ、せめて小説の中だけでも希望を持ちたい。人の絆が薄い時代だと言われているのだから、友情を大切にしていく物語を書こうと思ったんです。

軍配者と軍師の違い

  「軍配者」と「軍師」がどう違うのかよくわからないという人も多いかもしれませんが、一部役割が重なる部分はあるものの、まったく別の存在です。軍師は戦争のプロフェッショナル。一方、軍配者というのは、もちろん戦争の作戦立案もやりますが、それはあくまで数ある仕事のひとつです。軍配者にとって一番大事なのが「観天望気」、つまり天気予報。それから吉凶を占うこと。昔の人はどこに行くにも何をするにも方角や日にちをすごく気にします。天気予報と占い、この二つが軍配者の仕事の中心です。陰陽師や修験者をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。戦の日取りを決めるのは、軍配者の大事な役割でした。軍配者がこの方角、日にちは縁起が悪いというと、本当に戦を延期するわけです。今でも大安吉日を気にするでしょう。これが戦国時代になると、もっと切実な感覚だったんです。罰が当たると言われたら、本当に怖がっていたし、もののけや幽霊も存在していると当時の人々は思っていました。そういう背景を知らないと、なぜ戦の場に占いが必要なのかわからないかもしれませんね。

 占いなんかで戦争に勝てるのかと思うかもしれませんが、それは現代人の捉え方です。当時、占いや陰陽道は最先端の科学。彼らは胡散臭い存在ではなく、あくまで“技術者”でした。実際、天気予報はかなり正確なものだったようです。雲の動きなどを見ることで、雨が降るかどうかわかるのは、今でも通用する技術。戦いにおいて、天気はとても重要な要素ですから。

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