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“国有化”騒動から1年 対談 尖閣危機

香田洋二=元海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将)
山口昇=元陸上自衛隊研究本部長(陸将)

〜「中央公論」2013年10月号掲載

■■政権移行期にあたり、日中両政権が意地になった

山口 本誌九月号に掲載された我々の対談「暴発か、成熟か 軍拡中国の行く末」が大好評だったと編集部にいいくるめられ、再び引っ張り出されることになった。
香田 我々もおだてには弱い。
山口 冗談はさておき、昨年九月十一日に日本政府が尖閣購入を決定してから一年が経過する。今日は、尖閣問題をめぐり改めて浮き彫りになった日本の防衛制度の不備について議論したい。まずは尖閣をめぐるこれまでの動きを簡単に振り返ってみたい。
香田 尖閣をめぐる日中の対立と現場での衝突は、戦後初めて日本が独立国としての主権とは何であるのか、領有権とは何であるのかという問いを真正面から突きつけられた事象である。
 まず、ことの発端は二〇一〇年九月、尖閣諸島沖で違法操業していた中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突した事件だ。中国人船長は公務執行妨害容疑で逮捕されたが、最終的に不起訴となった。
 法治国家は自国の領土・領海・領空で自国の法律を執行できるからこそ主権が保たれるのである。明らかに違法行為のあった船長に日本の法律を適用することで、世界に対して日本は尖閣に主権があるということを発信できる機会でもあったのだ。ところが当時は中国をこれ以上刺激してはいけない──といった本質とはズレた議論がなされ、及び腰の対応になった。このため、日本は尖閣をめぐる自らの主権感覚の弱さを世界に発信した格好になった。
山口 この対応をめぐり、日本国内では民主党政権の弱腰外交を批判する声が高まった。それが二〇一二年四月に石原慎太郎都知事が尖閣購入をいいだすきっかけにもなったのだろう。
 民主党政権にとっての不幸は、政権交代後、普天間をめぐり日米同盟にヒビを入れたことなどを背景として外交・安保政策に対する信用を失ったことだ。そんな中で中国船長の事件に対しても中国を刺激したくないという気持ちから及び腰に見える対応をとったことで、さらに負い目を持つことになった。
 これを受けた野田政権は、これ以上に弱腰外交という批判を受ける訳にいかず、今度は、逆に強硬になり、国有化に乗り出すことになる。国による尖閣購入に際し、胡錦濤国家主席は野田首相に対し、断固反対だと怒りをあらわにしたとされる。ところが、そのわずか二日後、日本政府は国による尖閣諸島の購入を閣議決定した。こうなると中国も振り上げた拳を下ろすことができなくなる。
香田 日本政府は、地方自治体が領有するよりは国の管轄とすることで、日中関係のトゲにならないようにする……というメッセージを送ったつもりだった。ところが、そうした日本政府の意図がまるで中国側に伝わっていなかった。パイプがなかったということか。これほど単純なメッセージすら中国に伝わらなかったのだとすれば、それ自体が日中関係の冷え込みを端的に物語っているように思え、鳥肌が立つ。ともかく結果的には日中関係は悪化した。
山口 また、日中ともに振り上げた拳を下ろせなくなった理由には、双方の国が政権移行期にあたっていたということもあるだろう。日本でいえば野田首相が「近いうちに」解散と宣言したのは昨年八月だ。そう遠くない将来、総選挙になることが分かっていた。このため、尖閣をめぐっては弱腰の外交姿勢を見せるわけにはいかなかった。
香田 安全保障について、また、中国に対して慎重だったはずの民主党が、あの時期には自民党より強硬な姿勢を見せた。主権については一切交渉さえしないといった原理主義者のようになり、凝り固まってしまっていた。

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