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〔11月15日UP!〕
解散戦略をめぐる稚拙なゲーム

時評2012 野中尚人
〜「中央公論」2012年12月号掲載

 野田・安倍・山口の三党首会談は物別れに終わり、解散・総選挙の時期をめぐる押し問答には決着がつかないままだ。ようやく開幕することになった臨時国会も、荒れ模様となるだろう。

 野田首相が谷垣前自民党総裁との会談で「近いうちに」と語ったのは八月上旬である。既に約三ヵ月が経過したのだから、自民党の安倍新総裁と公明党の山口代表が憤慨するのも分からないわけではない。しかし、よく考えてみる必要がある。解散・総選挙とは一体何なのだろうか。

 総選挙とは、第一院である衆議院の全ての議員を選び直すことであり、つまりは、政権の骨格を作り直すことである。四年の任期を満了した場合、あるいは首相が衆議院を解散した時に行われる。解散は、衆議院によって内閣が不信任されて内閣総辞職を避ける場合(憲法六九条)のほか、天皇の国事行為として首相が任意に行う(憲法七条)場合がある。特に後者の場合は首相の大権とされ、他の何人も容喙できず、首相がただ一人で決めうる権能とされている。

 解散の目的にも諸説ある。政府・与党が有利な選挙のタイミングを選んでいるだけというもの、逆に与党内の反対派に対する圧力として実施するという説明もある。二〇〇五年の小泉首相による解散がその典型だ。他方で、話し合い解散と呼ばれるような変則型もある。

 頻繁に世論調査がされるようになった近年は、今総選挙を行えばどの党にとって有利かということがかなりわかる。従って、各党の幹部にとって解散の時期をめぐる駆け引きは極めて重大とも言える。

 こうした全ての過去の考え方や慣行は時代にそぐわなくなっており、日本という国と国民にとって深刻な悪影響をもたらす遺物になってきていると指摘したい。

 実際、〇九年の政権交代後、自公両党からの政治的な駆け引きは全て解散にどうつなげるかという点に集約されていたと言っても過言ではない。むろん、政策面での話し合いも続けられてきた。しかし、政局的な判断、「解散戦略」こそが全ての重要な政治判断の根底にあったことは否定のしようもない。菅前首相が退陣に至る顛末や、今夏の消費税と社会保障の一体改革をめぐる政局がその典型と言える。

 谷垣氏は結局、総裁としての任期中に解散・総選挙に追い込めなかったため続投断念に追い込まれた。そしてまた、特例公債法案を盾に取った解散チキンゲームが戦われている。つまり、解散政局が政治全体を押しつぶすこととなり、政府・与党はむろん、野党にとってさえある種の自縄自縛を強いているのである。

 実は、諸外国では、首相の解散権を大幅に制約し、任期いっぱい、さらには選挙期日を固定するという方向に進んでいる。スウェーデン、ノルウェーなどでは首相の解散権は大きく制約されており、次期選挙期日がはるか以前から決定されている。ドイツの首相は不信任から強く守られている(建設的不信任制度)代わりに解散権に大きな制約がある。伝統的に首相に強い権限を与えてきたイギリスでさえ、二〇一一年九月には固定任期議会法が成立し、(単純過半数で)不信任された場合以外には解散ができないこととなった。

 これらの動きは、全て一つの考え方に基づいている。つまり、総選挙で選ばれた政府・与党に、マニフェストをしっかりと実行させる、ということである。その点、無制限な裁量的解散は、百害あって一利なし、なのである。残念ながら、審議拒否と日程闘争に明け暮れる日本の政治は、解散をめぐる駆け引きや憶測が肝心の政策実行を著しく歪めてしまう典型例となっている。

 ほぼ一年での首相交代は、首相の実質的な権能がいかに弱いかを示している。そして、安定した政策実行の時間のなさには、政権全体の弱さが端的に表れている。野党が執拗に解散を迫るという日本独特の奇妙な政治力学は、衆参のねじれやメディア政治の弊害、ポピュリズムの危険とも重なりあいながら、実に深刻となっている。

 日本の統治機構は、ここ半世紀以上世界の進化から切り離され、「ガラパゴス化」してきた。解散権の問題は、数多くの制度疲労のほんの一例である。安倍自民党総裁は、予算案と特例公債法案の一体処理という野田首相の提案を一蹴し、あくまで解散期日の明示を求めたとされる。責任野党として国民の将来に真摯に思いを致すならば、もう少し異なる対応がありうるのではないだろうか。
(了)

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