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橋下チルドレンは優秀か無能か
吉富有治=ジャーナリスト
〜「中央公論」2011年8月号掲載

 村上さんが政治家を目指した動機は、若者の政治離れだったという。大阪維新の会の一次公募に応募したとき、自分と同じ考えを持つ若者が大勢いたことに感銘したと語る。
「学生時代に議員の鞄持ちをやり、そのときに若い人が政治に興味を持っていないことを感じました。議会の傍聴は年配者ばかり。どうやって若い人に興味を持ってもらえばいいのか。統一地方選への出馬は以前から決めていましたし、選挙費用もOL時代から貯めていました。当初、無所属での出馬も考えましたが、そのときに出会ったのが『大阪維新の会』。この党の主張なら若い人にも興味を持ってもらえると思い、二重行政の解消や経費削減など、自分のやりたいことにも近い。そこでここから出馬することを決意したのです」
 その村上さんも、維新の会から選挙戦の具体的なアドバイスは「まったくありませんでした」と語っている。
 以上は一例にすぎないが、総じて橋下チルドレンたちの政治への参加意識は高い。小泉ブームに乗ってまぐれで当選し、その挙げ句、「料亭に行ってみたい」と戯れ言を放った元国会議員とは少々レベルが違う。地方政治家にとって大切なことは何かというアンケートの設問に対しても、「市民にもっとも近い政治家ですので、常に市民目線を忘れないことが大切」(大阪市議)、「税金のムダ使いをチェック」(大阪府議)という時代の流れを読んだ意見がもっとも多かった。

橋下知事のロボットではない
 その一方で、「新人議員たちは橋下知事のロボット、兵隊にすぎないのではないか」と世間から見られているのも事実である。大阪府や大阪市の職員、また多くの有権者の声を聞いてみても同様の意見、危惧が散見された。
 この点については、橋下チルドレンたちも意見が分かれている。特に府議会議員の半数近くは「チルドレン」と呼ばれることに不快感を持ち、同趣旨のアンケートの設問に対しても「違和感を感じる」「議員としての資質、中身を見て言ってほしい」「チルドレンと思ったことは一度もない」といった意見が目立った。逆に大阪市や堺市の市議は「気にしない」「その通り」「光栄」といった意見が大半を占めていた。ただ、呼び方よりも、「これからの政治活動を評価してほしい」「自分たちを小沢チルドレンや小泉チルドレンと同じにしないでくれ」という共通した意識は見え隠れする。橋下ブームの風に乗って当選したのは事実でも、自分たちの理念、理想に有権者が共感したから当選したという自意識が強い。
「橋下知事のロボットではない」という自負もあるようだ。ときに過激な表現や賛否両論の政策が目立つ橋下知事について、その言動をすべて容認するかというアンケートの設問に対しては、府議、大阪・堺の市議とも大半が「NO」であった。少数ながら「是認する」「反対しない」という意見もあったが、大半は「場合によっては反対を唱える」「すべては是認せず」と答えている。
 前出の吉村洋文さんも次のように言う。
「都構想という大きな流れで反対することはないが、個別の政策に関しては、全面的に賛成することはない。異を唱えることもあるでしょう。私を選んでくれたのは市民ですから、市民が社長です。橋下氏はリーダー。最終的には市民がどう判断するかが、大きな基準となる。考え方や思想、発想は知事と基本的に似ていますが、全面賛成はありません」
 府知事の主張には全面的に従うのではなく、ときに一定の距離を置くという橋下チルドレンたち。行政をチェックする議会の役割を考えれば、それが正常な姿であることは言うまでもない。かりに府知事が予期せぬ暴走を始めたときは、新人といえども体を張って止めていただくことを本心から願っている。

橋下知事の“呪縛”
 もう一点、政治の素人だから仕方のない面もあるが、政策や行政への理解については、まだまだ勉強の余地があるだろう。大阪都構想への理解度にしても、チルドレンたちによって濃淡がありすぎる。大部分が維新の会が謳うマニフェストの字面を超えていないのだ。大阪都が完成すれば、なぜ二重行政の解消につながるのか、なぜ大阪都が実現すれば大阪経済を復興させられるのか、これらの根拠を自分の言葉で明確に述べられる者はごく少数しかいなかった。
 同構想についての限界や矛盾は私の近著『橋下徹改革者か壊し屋か〜大阪都構想のゆくえ』(中公新書ラクレ)に詳しいので説明は省くが、要は二重行政の解消にも大阪経済の復興にも程遠いのである。むしろ大阪都下に特別区を設置する限り、特別区の数だけ新たな行政のムダが生まれてしまう。大阪経済の復興も、わざわざ都を作らなくても、経済特区の設置など別の方法でも可能なのである。
 なにかと大阪市や平松邦夫市長を目の敵にする橋下知事にならってか、「平松市長になってから大阪市の改革は遅れている」(大阪市議)という辛口のコメントが返ってきた。改革が遅れているか進んでいるかは、その中身にもよるだろうから、この回答は主観的なものにならざるをえないだろう。ただ、大阪府と大阪市の財政はどちらが厳しいかという質問には主観は入らない。なぜなら、客観的な財政指数が公開されているからである。

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