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〔3月8日UP!〕
日本型雇用がダメなのか 大学生がダメなのか

海老原嗣生=株式会社ニッチモ代表取締役
城 繁幸= 「Joe's Labo」代表取締役
〜「中央公論」2011年4月号掲載

終身雇用制は諸悪の根源?

海老原 対談を始めるにあたって、まずは城さんにエールを送りたいんです。僕は『「若者はかわいそう」論のウソ』という本のなかで、城さんの主張に、ある面、疑問をなげかけています。お互いの主張の違いについては後ほどゆっくり議論するとして、一つ言っておきたいのは、僕は城さんのことを嫌いではない。むしろ敬愛しているということなんです。
 いま世の中で盛りあがっている雇用に関する議論は、島田晴雄さんの『日本の雇用』(一九九四年)、清家篤さんの『定年破壊』(二〇〇〇年)、さらに玄田有史さんの『仕事のなかの曖昧な不安』(二〇〇一年)の三冊の本でまとめられたロジックが基礎になっています。これらはたしかに優れた本です。しかしあくまで学者の箱庭論争。一九五〇年以来、学者がどれだけ日本型批判を繰り返しても、社会は何も変わりませんでした。そこへ城さんが登場したんですね。そして、この三冊のロジックに、「面白さ」と「リアリティ」を加えて、国民全体を議論に巻き込んだ。そのおかげで、「三年以内既卒者採用拡大奨励金」が創設されるなど国まで動いてしまった。その運動家としての才能と資質には、感服しています。

 ありがとうございます。

海老原 僕も島田さんの本には影響を受けました。ただ、彼が予言したような変化は日本の社会に起きなかった。なぜ起きなかったのか。調べてみると、言われているような「日本と欧米の違い」はないことに気づいたのです。日本は長期雇用、欧米は短期で転職。これなど典型的な間違い。長期雇用者の比率は日本と欧米でそれほど変わりません。五十代の平均勤続年数も、欧州と日本は二〇年超でほぼ同等、アメリカでも一五年です。なのになぜ転職率が高いのかというと、くるくる職を変えるジョブホッパーが多いから。要は、彼らが数字を稼いでいるだけ。また、給与体系を見ても、職務給がうまく運用されているのは、下級職ばかりで、上級ホワイトカラーはほぼ年功給になっている。そこもあまり変わらない。

 なるほど。製造業などいわゆる「ものづくり」系の企業では、長期雇用が理にかなっている場合があるというのは、僕も認めます。海老原さんもご指摘のように、アメリカでも製造業のほとんどは長期雇用です。
 でも日本の問題は、必要な人材を長期雇用しているのではなくて、ホワイトカラー全員を年功序列・終身雇用で雇おうとしているところにあります。今はまだ新卒採用枠を削るなどごまかしながら運用していますが、これでは経営が成り立つはずがありません。おそらく今後は、フランスで言う「カードル階層」のような上位一〜二割のエリートサラリーマンと、普通のサラリーマンにわかれていくと思います。そして上位層は徹底的なエリート路線に乗り、残りは中国の国内企業の賃金水準まで落ちていくのかなと。

日本型雇用からの脱却は難しい?

海老原 そう、そこをちょっと解説させてください。長期勤続者のモチベーションを維持するために昇進させる施策は、企業の拡大期しか通用しません。成熟期に入るとポストは増えませんから。ではどうするか。日本はそこで「課長並みの給与は払うけど、部下はなしよ」という「部下なし課長」を大量に作りました。だけど、それは八〇年代の安定成長期には成功したが、ゼロ成長に入った九〇年代に、完全に破綻しました。
 欧米はどうかというと、少し違っていた。城さんの話に出た「カードル」とか、「LP」なんて呼ばれる一部のエリートのみを幹部候補として、彼らを出世させる。あとは、職務限定の働き方で、出世は係長までにする。そうすると、誰もが管理職にはならないから、「働かない役職者」は生まれない。そこが最大の違い。つまり、「出世できる人」「できない人」を明確にわけた。
 日本は大学を出て就職さえすれば「全員が幹部候補」という恵まれすぎた環境にあります。そう、日本型就職で一番の問題は、この「恵まれすぎ」ということだと思うのです。
 だけど、この「全員同質のエリート」方式だから、社内では差別がなく、協働やかばいあいみたいな風土も生まれ、すり合わせの文化など、日本企業の強さにもつながっている。

 それはわかります。日本人に、アメリカ人のように「サバサバと仕事をしろ」というのも、中国人みたいに「アニマルスピリッツ丸出しでやれ」というのも無理です。そう考えると、日本企業にとって、日本式の「おもてなし」や「気配り」が強みになっているのは、間違いありませんね。

海老原 そうした企業文化は、日本型の雇用制度と表裏一体で作られてきたと思っています。かわって、韓国には、儒教と徴兵制と熾烈な受験競争などで、「上意下達」的な強みが作られた。アメリカは自由と競争。どの国も社会と雇用システムが独自の強さを生んだ。
日本は、そこそこの人間を大量に使い、肌合いと呼吸で調整をしながら大きな仕事を実現していく、というスタイル。確かに、天才的なリーダーが素早く意思決定して、ぐいぐい引っ張る型の経営はできないでしょう。ただ、世に天才はそれほど多くないし、大きな組織は生半可の天才では引っ張りきれない。だから、そこそこ人材大量型の日本スタイルがけっこうどこでもうまくいく。こうして培った日本型経営の強みが一方にあるから、「問題」となりつつある「全員エリート」という雇用制度も、変えられないという気がするのです。

 うーん、僕は、ある程度は「変われる」あるいは「変わらざるを得ない」と感じています。今後、企業は海外に出ていかざるを得ません。先日、東芝のアメリカ法人が「どうして女性の管理職がこんなに少ないんだ」と訴えられていましたが、そういう話が世界中で噴出すると、少なくとも日本型の「属人給」は解体せざるを得ないと思うんです。そして、世界標準である仕事ごとに給料が決まっていく「職務給」に流れていかざるを得ない。その過程で、終身雇用・年功序列も、自然と変わるのではないかと考えています。

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