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〔2010年12月13日UP!〕
次は私がコンピュータと対局します!

清水女流vs.「あから2010」戦のその後を考える

米長邦雄=日本将棋連盟会長
梅田望夫=ミューズ・アソシエイツ社長

思ったより強くなっていない?

梅田 実は僕、正直に言って、「今回のコンピュータは思ったより強くなかったな」という感想を持っているんです。
米長 ただコンピュータの開発者は、「将棋倶楽部24」(オンライン将棋対戦ができるソフト。プロ棋士も数多く参加している)のレーティングを、三年前より四〇〇ポイントは上げたと言っていますね。
梅田 もちろん今のコンピュータ将棋はすごく強いです。それなりに将棋を指せるという人が全国に五〇〇万人いるとすると、最強レベルのコンピュータに勝てる人は五〇〇人以下でしょう。つまり、何とかルール通りに指すようにプログラムするところから始まったコンピュータ将棋ですが、三五年間に及ぶ開発者たちの不断の努力によって、今や一万人に一人も勝てなくなった。でもある意味で、ボナンザが渡辺竜王とそれなりの勝負ができた三年前には、すでにそうした状況になっていたわけです。それから三年も経ったわけですから、さらにとんでもない強さになっていても不思議ではないと思っていました。
 ただ一方で、コンピュータはまだまだトッププロにはかなわないだろうなという感触もありました。二〇〇九年のことなのですが、ネット上でリアルタイム観戦記を書くために、羽生棋聖に木村一基八段が挑戦した棋聖戦の対局場まで行ってきたんです。今回の「あから2010」を構成したソフトの一つでもある「GPS将棋」に、そのとき「次の一手」をシミュレーションする実験をしてもらいました。最高峰の二人が鎬を削る盤面をコンピュータがどう読むか。その読み手をプロ棋士が分析したのです。すると序盤から「あっ、この一手を指したら、もう勝てないね」という手が、コンピュータの読みにはかなりあったんですね。つまり一手のゆるみも許さないトッププロのレベルからはまだかなりの距離がある、というのも目撃していた。
 羽生名人も二〇一〇年の七月に『毎日新聞』のインタビューで「コンピュータはまだプロ棋士にインパクトを与えるほどのレベルまで来ていない」と言っていましたし、それらのことを総合的に考えて、「トッププロにはまだ全然かなわないけれど、もう少し強いのかな」と勝手に思っていたんです。
 いかがでしたか、会長がご覧になって。今のコンピュータが相手なら、会長がお勝ちになるでしょう?
米長 そこが問題でね(笑)。先日の将棋を見る限り、勝てたのではないかとは思います。清水も時間配分さえ間違えていなければ、結果は違っていたでしょう。もちろん、実際に対局してみないと本当の実力はわかりませんけどね。

人間を超えるのは「新手」を作りだせたとき

梅田 僕が興味を持っているのは、コンピュータははたしてこれ以上強くなるのかどうか。もし強くなるとすれば、どれくらいのスピードで強くなるのか、ということなんです。
 一般の将棋ファンが指すようなヘボ将棋ではお互いに「まったく最善ではない手」を指し続けるわけですが、トッププロが相手の将棋では、九九回正しい手を指せても、一回正しくない手を指してしまえば負けてしまいます。だから、たとえ今のコンピュータが正しい手を九九%指せたとしても、より強くなるには、それを九九・九%にし、さらに九九・九九%にし……と無限に精度を高めていかなければならない。それはやればやるほど難しい作業になっていくはずです。
 だから三年経っても、五年経っても、今とそれほど強さが変わらないという可能性もある。もちろん一気にブレイクスルーが起きる可能性もあるわけですが。会長はどう見ていますか。
米長 コンピュータが人間を超えるとするならば、「○○新手」を作りだして、序盤から人間をリードしていく創造力を持つことが必要だと思いますね。
 現在でも指し手の幅が狭い終盤戦では、コンピュータは人間を圧倒しています。読み手の数で言えば、人間が一時間使うのと、コンピュータが〇・一秒使うのが同じくらいです。ですから、どちらが勝っているのかわからない局面のまま、詰むや詰まざるやの終盤になれば、これはもうコンピュータが勝ちます。
 一方で、もし中盤から終盤に入るまでに若干でもプロ棋士が優勢になっていれば勝てます。将棋というのは、ミスさえなければ、少しでも優勢なほうが必ず勝つんです。
 そういうことから考えると、序盤からプロ棋士が驚くような手をコンピュータが指してきて、十分に時間をかけて検討した結果、それが有効な「新手」である、ということが頻繁に起こるようになれば、「コンピュータは人間を超えた」ということになるでしょうね。
 ただそれをコンピュータができるようになるのかどうか。たとえできるようになったとしても、それがいつ、どのようなカラクリでなのかは、私にはわかりません。

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