母親からの小包はなぜこんなにダサいのか第一話 上京物語(6)
「あ、それ、かーさんケットだよね」
声をかけられて驚いて振り向くと、授業で時々一緒になる、クラスメイトだった。いつも三人で行動している子たちだ。持ち物や服装は特に派手でもなく、でも、大きな声でしゃべる元気そうな人たちばかりで、美羽はどこか気後れしていた。
美羽は、母が入れてくれた、大量の「かーさんケット」を教室の隅で袋からそっと出して食べていた。お金がなくて、昼食代わりに持ってきたのだ。
「う、うん」
びっくりして、思わず、口ごもってしまう。
「え、吉川さんてもしかして、岩手?」
「うん」
「あたしもだよ、花巻」
彼女が気軽に手を出してくる。握手を求めているのだと、気がついて、自分のも差し出した。
「盛岡です」
「めっちゃ、懐かしい」
「花巻にもあるの?」
「私が子供の頃はそんなになかったけど、最近は時々見かける」
「......よかったら、食べる?」
袋ごと差し出した。
佳乃、と彼女を呼ぶ声がした。他の二人が後ろから呼んでいた。
彼女はそれに答えず、美羽が出したかーさんケットをぱくっと食べた。
「ビスケットの天ぷら、知ってる?」
うろたえながら、やっと尋ねた。
「もちろん。あー、最近食べてないわ。あれ、おいしいよね」
「うちで今度作ったら、食べる?」
勇気を出して、言ってみた。
「それ、嬉しい、絶対ちょうだい」
「うん、作ってくるね」
「私たち、皆、東北なんだよ」彼女は他の二人を振り返りながら言った。
「あたし、秋田」
「福島」
二人も口々に自己紹介する。
「そうなんだ! 東北の人、私の他にはいないと思ってた」
「今度、お茶でも飲みに行こうよ」
じゃあね、と手を振った。
そして、三人で一緒に出て行った。
その後ろ姿を見ながら、友達ができるのはまだかもしれないけど、話せる人はできたような気がした。
Synopsisあらすじ
吉川美羽は、進学を機に東京で念願の一人暮らしをはじめる。だがそれは、母親の大反対を振り切ってのものだった。
頼れる知人も、また友人も上手く作れない中で届いた母からの小包。そこに入っていたものとは……?
Profile著者紹介
原田ひ香(はらだ ひか)
1970年神奈川県生まれ。2006年「リトルプリンセス2号」で第34回NHK創作ラジオドラマ大賞受賞。07年「はじまらないティータイム」で第31回すばる文学賞受賞。
著書に『三千円の使いかた』、『口福のレシピ』などがある。
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